イントロ
実数$x, y$が$0 < x < y$を満たすとする。このとき、次の不等式が成立する。
\frac{x}{1+x} + \frac{y}{1+y} > \frac{x+y}{1+x+y} \tag{1}
大学受験によく出てきそうな不等式だ。ゴリ押しで証明するには、左辺から右辺を引いて通分すればよい。
\frac{xy(x+y+2)}{(x+1)(y+1)(x+y+1)} > 0
分母分子に正の数しか出てこないから、全体は正という理屈である。証明としてはこれでいいのだが、結局この不等式$(1)$が何だったのかはよく分からない。そこで、式変形により何かイメージしやすい表現が出てこないか、もう少し追いかけてみよう。幸い、元の式は対称性も高いし、いかにも意味のありそうな形をしている。
一般化
関数$\phi(x)$を次で定める。
\phi(x) = \frac{x}{1+x}
このとき、元の不等式$(1)$は、次のように書ける。
\phi(x) + \phi(y) > \phi(x + y) \tag{2}
つまり$\phi(x)$は線形性に似た性質を持っていることが分かる。
- 線形な関数$f$: $f(x) + f(y) = f(x + y)$
- 今回の関数$\phi$: $\phi(x) + \phi(y) > \phi(x + y)$
どういう関数がこの性質を持っているのだろうか? $\phi$を微分してみるとなんとなく予想がつく。
\frac{\rm d^2}{{\rm d}x^2}\phi(x) = -\frac{2}{(x+1)^3}
これは$x>0$で負だから、$\phi(x)$は$x>0$で上に凸な関数である。凸関数といえば、すぐに思いつくのは凸不等式である。
\frac{\phi(x) + \phi(y)}{2} < \phi(\frac{x + y}{2})
しかしこれは分母を払っても式$(2)$とは不等号の向きが逆だし、変数変換しても式$(2)$には帰着できそうにない。諦めて、凸関数の定義に戻ってみる。$z = x + y$とする。$x < y < z = x + y$だから、平均値の定理より、ある実数$p, q$が存在して次を満たす。
\frac{\phi(y) - \phi(x)}{y - x} = \phi^\prime(p), \frac{\phi(z) - \phi(y)}{z - y} = \phi^\prime(q), x<p<y<q<z
$\phi$は上に凸だから$\phi^\prime$は単調減少である。従って、
\frac{\phi(y) - \phi(x)}{y - x} > \frac{\phi(z) - \phi(y)}{z - y}
が得られる。これを整理すると、
\frac{y\phi(y) - x\phi(x)}{y - x} > \phi(x + y)
となる。従って、
\phi(x) + \phi(y) > \frac{y\phi(y) - x\phi(x)}{y - x}
が言えれば、不等式$(2)$を示すことができる。左辺から右辺を引くと、
\frac{y\phi(x) - x\phi(y)}{y - x} \tag{3}
となって、分母は正だから、分子$y\phi(x) - x\phi(y)$の符号が式$(3)$の符号と一致する。この分子の絶対値は、ベクトル$(x, \phi(x))$と$(y, \phi(y))$の張る平行四辺形の面積であり、符号はベクトル$(x, \phi(x))$の方向を$(y, \phi(y))$に重ねる回転行列が時計回りのとき正、反時計回りのとき負となる。上に凸な関数$\phi(x)$について、$x>0$の範囲で$x$が増大するときに$(x, \phi(x))$が時計回りに動くには、$\phi(+0)>0$であればよい。以上をまとめると、次のようになる。
得られた不等式
$x>0$で定義された関数$\phi(x)$が、$\phi(+0)>0, \phi^{\prime\prime}(x)<0$を満たすとき、次が成立する。
\phi(x) + \phi(y) > \frac{y\phi(y) - x\phi(x)}{y - x} > \phi(x + y)
なんか公式っぽいものが導出されたように見えるのだが、この式が有名なのか、名前が付いているのかどうかもよく分からない。数学アドベントカレンダーに投稿すると数学ガチ勢の方がマサカリを投げてくれそうなので、今回の記事を投稿してみた次第である。そもそも間違ってるというツッコミを含め、この式がどういう背景を持っているのかというクリスマスプレゼントを待ちつつ筆を置き、次の人にバトンタッチしたい。