2011年にMediatekに買収されてしまったRalinkですが、その歴史をひもといてみました。Ralinkは台湾の会社でした。と思ったのですが、最初はシリコンバレーにオフィスを置いていたようです。
Ralinkは2001年創業となっていて、最初のWiFi製品は2003年に802.11bのRT2460を開発しました。このような技術の商品は2年くらいで突然できるわけはなく、おそらくどこかの会社にいたエンジニアがスピンアウトして作られた会社だったのではないでしょうか。
WIFIモジュールはこういう構成になっています。
この後にすぐに11gの製品がでるのですが、11gの製品はRT2460の後継のRT2560と、その後に開発されたRT2561があります。RT2561では内部に8051を使い、ファームウエアをダウンロードして使うようになりました。
大昔の話になりますが、OMRONが88年から販売していたLUNAもIOに8ビットのマイコンを使っていました。当時はシンプルじゃなくなり、嫌いだったのですが、時代の先どりしていたことになるのかもしれません。
11gを始めて11aのRFも作るようになったようです。
ここまではそれほど大きな成功とはなかったと言えるかもしれませんが、2006年暮れに11nドラフトのチップのRT2860をいち早く発表したのが同社の転換点になったのではないでしょうか。RT2860も8051が入ったチップです。
想像ですが、IEEEの11nの策定の際にRalinkに優秀なエンジニアがいて参加していたので、それが可能だったのではないでしょうか。11nの正式リリースは2009年になります。
Linuxのドライバは当初Ralinkは11nのコードをオープンソースにしていなかったので、おそらくデータシートを入手して有志により作成されていたようです。後になってRalinkは11nのドライバコード(rt2860v2)というコードをオープンソースにしてます。
8051のファームウエアはRalinkからLinuxや*BSDに提供されています。
当時のRalinkはWiFiのチップは作れるが、アクセスポイントにするためのSOCの技術がなかったので、5V Technologies(5VT)から5VT1310(ARM)というチップをOEMしてRT1310というSOCをアクセスポイント用のソリューションとして11nの商品を販売しました。RT1310とRT2860はPCIでの接続になっていました。
5VTは大きな会社ではないので、ひょっとすると買収という考えもあったかもしれません。そうならなかったのはRalinkや5VTにとって良かったような気もします。
5VT1310はRalinkが選んだだけあり、シンブルなチップです。推測ですが5VT1310のPCIサポートはRalinkからの要求だった可能性も考えられます。
その後自社でもMIPSベースのSOCを開発して、RT2880というMIPS 4Kの製品をリリースしました。RT2880は4KなのですがMIPS16のサポートが入っていました。このSOCはWiFiのMACは内蔵していますがRFは外付けになっていてRT2820とRT2850が使えるようになっていました。
いろいろ調べていて気がついたのですが、RT2880に入っているRT2860のレビジョンは102なのですが、RT1310にPCI接続されているRT2860は103となっていました。社内でMIPS SOCを開発中だったが、市場への提供を急ぐためにRT1310のOEMを経営判断したのではないかと推測されます。RT1310から9ヶ月ほどしてRT2880は出たのですが、11nの主導権を得るために懸命な判断だと思います。
SOCに入ったWiFiのMACもRT2860ベースなのですが、フェームウエアのダウンロードは必要なくなっています。
AtherosはnのWIFIのSOCをほぼ同時期に出していますが、Broadcomはか2年くらい遅れています。Ralinkの経営陣はBroadcomの持っていたマーケットを奪い取れると分かっていたような気もします。
そして同社の最も成功したSOCといえるRT3050/52が世の中に出たのが2008年でした。このSOCは非常に多くのルーターなどで使わ、Atheros/Brodcomの2強だったMIPS SOC市場に変化をもたらしました。RT3050はMIPS 24KでRT2880では外付けだったRFチップを内蔵しました。RT3050が広く使われたのは11nに対応していてFlashメモリがCFI/SPIの両方に対応していたことやUSBのサポートがあったことが理由だったと考えられます。
RT3050はAtherosの24Kには入っていないDSP(r1)の機能が入っています。
Ralinkは何故かパッケージの表示と中身が一致してない事がたまにあります。チップにはRT3050FとあるのにCHIPIDレジスタはRT3350なものがありました。
WiFiチップもRT2xxxはRFが外付けで、RT3xxxはRF内蔵となっていたようです。またMACアドレスなどはRT2xxxはEEPROMでRT3xxxはEFUSEに入っているようです。
RT3050はEtherSwitch入りですが、Switchを作っていた、会社を買収して実装したようです。またRT2880はSwichi無しでRGMIIが出てるのですがRT3883も同じなので、同系のプロダクトと考えられます。
BrodcomはSIBAというAtherosはAPBというバスインターフェースをつかっていたのですがRalinkはRBUSと言っていますが、なんのことはなくアドレス空間に直接IOが乗っかったシンプルな構成です。
Ralinkはチップの規模が大きくならないようにしていたと思われるし、それに伴い消費電力も小さかったのも良かったのかもしれない。
SOCの場合はEEPROMやEFUSEは存在せず、Flashにその情報が格納されています。(RT1310ではPCI接続なのでEEPROMがあります)
Ralinkは11nで5GをサポートしたSOCチップは少ないです。最初のRT2880が外付けのRFによっては使えたのと、最後の頃にだしたRT3662, RT3883が5GのRFを内蔵していたようです。RT3662, RT3883はMIPS 74Kとアーキテクチャも違っていようです。
SDKのバージョンが細かく上がっていて、チップをいじるよりも、ソフトを調整した方が製品としていいものができるという考えがあったよのではないかと思います。
RT5350が2011年にリリースされ、その後にMediatekに買収されました。MediatekになってからもRT5350などはRalinkとして販売されていたようです。
今から思えば11nドラフトに社運をかけていたのかもしれません。Ralinkの製品はアーキテクチャがシンプルで、あまり製品の種類も多くなく、センスがよかったと思います。
将来どうなるかはわからないですが、11nは11bからの互換もあり、WiFiの一つの形になったのではないかと思います。有線のGigaも思ったほど普及してないし11nはWiFiの100BaseTXなのかもしれません。
こうしてみてみると、技術開発もまとまりがあり計画的だったと思います。
経営者としては10年で、しっかりしたWiFi製品を作れる会社を作り、勝ち抜けしたと言えるのではないでしょうか。半導体ビジネスは大きさ比べになっているところもあり、賢明な判断だと思います。
Ralinkはロゴのデザインもよかったと思います。
一つ問題があり、実際使ってみると異常に故障率が高いことがあります。なんでなんでしょうね。
参考資料: