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微分先行型PID制御(PI-D制御)について

Last updated at Posted at 2024-05-25

はじめに

制御工学において、PID制御は最も基本的で広く使用されるフィードバック制御の一つです。しかし、従来のPID制御には、目標値が急変した際に操作量が急激に変化するという問題があります。これを「キック」と呼びます。微分先行型PID制御(PI-D制御)は、このキックを抑制するために開発された制御方式です。

微分先行型PID制御の原理

微分先行型PID制御は、従来のPID制御の応用形であり、目標値に対する実値の微分を微分項として加えることが特徴です。通常のPID制御では、目標値と実値の偏差に応じてゲインをかけますが、微分先行型PID制御では、実値を微分項への入力とします。これにより、目標値が急変した時に微分項の影響による操作量の急変を抑えることができます。

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Q. 目標値がステップで上昇した場合、どういった流れになるのか?

目標値がステップ状に上昇した場合の微分先行型PID制御(PI-D制御)の応答について、順を追って説明します。

目標値のステップ変化: 目標値が突然上昇すると、制御システムはこの変化に応じて出力を調整しようとします。
比例応答 (P項): 目標値と実測値の差(偏差)に比例して、制御出力が増加します。この応答は即時的で、目標値の変化に迅速に反応します。
積分応答 (I項): 時間とともに偏差が続くと、積分項が累積され、制御出力をさらに調整して偏差をゼロにしようとします。
微分応答 (D項): 微分先行型PID制御では、実測値の変化率(微分)に基づいて制御出力を調整します。目標値のステップ変化による影響は、実測値を通じて間接的に微分項に影響を与えるため、通常のPID制御に見られるような急激な出力変化(微分キック)は発生しません。
制御出力の調整: 微分先行型PID制御は、目標値の急激な変化に対しても、制御対象の遅れを考慮しながら、より滑らかな制御出力の変化を実現します。これにより、システムに衝撃を与えることなく、目標値に対する追従性を向上させます。
安定化: 制御出力が調整された後、システムは新しい目標値に対して安定した状態を維持しようとします。積分項が偏差をゼロにするように作用し続け、比例項と微分項は新しい状態に適応します。

以上のステップにより、微分先行型PID制御は目標値のステップ変化に対して、過剰な応答を抑えつつ、効果的にシステムを制御します。この制御方式は、特に目標値の変化が頻繁に行われるシステムや、急激な変化に対して滑らかな応答が求められる場合に有効です。

微分先行型PID制御の利点

微分先行型PID制御の最大の利点は、目標値の急激な変化に対しても、操作量の急変を抑制できることです。これにより、システムへの負担を減らし、より安定した制御を実現することが可能になります。また、ディジタル制御においては、追加のコストなしで従来のPID制御と切り替えて使用することができます。

まとめ

微分先行型PID制御は、従来のPID制御の問題点を解決するための有効な手法です。目標値の急変に対しても安定した制御を実現し、制御システムの性能向上に寄与します。今後も、この制御方式の応用範囲は広がっていくことが期待されます。

参考文献

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