「IT」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるでしょうか?多くの人が、パソコンやスマートフォン、インターネットといったコンピュータ関連の技術を想像するかもしれません。実際、世の中では「ITイコールコンピュータ技術」という認識が広く浸透しています。しかし、本来の意味をたどると、ITとコンピュータ技術は似て非なるものです。この違いを理解することは、これからの情報社会を生き抜く上で非常に重要になります。
IT(ICT)はコンピュータ技術ではない
まず、ITという言葉の成り立ちから見ていきましょう。ITは「Information Technology」の略です。さらに、「ICT」という言葉もよく耳にしますが、これは「Information and Communication Technology」の略です。どちらの言葉にも「Computer」という単語は含まれていません。
「Information Technology」を日本語に訳すと「情報技術」となります。つまり、ITとは情報を扱うための技術全般を指すのです。情報を扱うのに、確かにコンピュータは非常に効率的なツールですが、必須の存在ではありません。極端な話をすれば、紙と鉛筆を使って情報を整理したり、人から人へ言葉で情報を伝えたりすることも、広義の「情報技術」と言えるでしょう。
四則演算と電卓の関係に似ている
私たちは日常生活で足し算、引き算、掛け算、割り算といった四則演算を頻繁に利用します。これらの計算を効率的に行うために、そろばんや電卓、さらにはコンピュータの計算機能を使います。しかし、そろばんや電卓はあくまで計算を「助ける道具」であって、四則演算そのものではありません。四則演算の本質、つまり「数と数の関係性や操作方法」を理解していなければ、どんなに高性能な電卓を目の前にしても、正確な計算はできません。ボタンの押し方を覚えただけでは、応用もききませんし、複雑な問題は解けませんよね。
これと同じことが、情報技術とコンピュータにも言えます。コンピュータは情報を「処理するための道具」であり、情報そのものでも、情報を扱う本質的な技術でもありません。しかし、現代社会では、情報を扱う本質的な技術を理解しないまま、コンピュータの操作方法だけを覚えようとする傾向が強いように感じられます。これは、四則演算を知らないのに、電卓のボタンの押し方だけを一生懸命覚えるようなものです。
情報を扱う本質的な技術とは何か
これは、情報をどのように収集し、整理し、分析し、活用し、そして伝達するかといった一連の思考プロセスとスキルを指します。
- 情報の収集: どのような情報が必要なのかを見極め、信頼できる情報源から効率的に情報を見つけ出す能力
- 情報の整理: 収集した情報を分類し、体系化し、必要な時にすぐに取り出せるようにする能力
- 情報の分析: 整理した情報から意味を見出し、傾向やパターンを読み取り、問題点や解決策を発見する能力
- 情報の活用: 分析した情報を基に、具体的な行動計画を立てたり、意思決定を行ったりする能力
- 情報の伝達: 自分の考えや分析結果を、相手に分かりやすく正確に伝える能力
これらのスキルは、コンピュータの有無にかかわらず、あらゆる場面で求められる普遍的なものです。コンピュータは、これらの情報処理プロセスを驚くほど高速に、そして大量に行うことを可能にする強力なツールではありますが、本質的な情報処理能力を身につけていなければ、その真価を引き出すことはできません。
「読み書きそろばん」に学ぶべきこと
江戸時代には、庶民が身につけるべき基礎的な教養として「読み書きそろばん」が挙げられました。「読み書き」は文字を読み書きする能力、「そろばん」は計算能力を指します。この「そろばん」は、単にそろばんの玉を動かす技術だけでなく、実質的には四則演算や金銭感覚といった、数を扱うための本質的な理解を含んでいたはずです。
現代にこれを当てはめるならば、「読み書きコンピュータ」ではなく、「読み書き情報技術」とでも言うべきでしょう。私たちがまず学ぶべきは、コンピュータの操作方法ではなく、情報をどのように扱い、活用していくかという情報技術の本質です。
まずは「情報技術」を、その後に「コンピュータ」を
これからの社会では、情報の量も種類も増え続け、その重要性はますます高まります。このような時代において、単にコンピュータの操作ができるだけでは不十分です。
本当に必要なのは、情報を扱う本質的な能力を身につけること。そして、その能力を最大限に引き出すために、コンピュータを効果的に使いこなすことです。
コンピュータはあくまで道具です。どんなに優れた道具も、それを使いこなす人間の能力がなければ宝の持ち腐れです。まずは「情報をどう扱うか」という根幹を理解し、その上で「コンピュータをどう活用するか」を学ぶ。この順序こそが、これからの情報社会を賢く生きるための鍵となるのではないでしょうか。