GraphQLとは? RESTとの違いやメリット・デメリットを分かりやすく解説
Webサービスやアプリ開発において、サーバーとクライアント(ブラウザやスマホアプリなど)の間でデータをやり取りする方法は非常に重要です。従来は「REST API」という方式が広く使われてきましたが、近年「GraphQL (グラフキューエル)」という新しい技術が注目を集めています。
この記事では、「GraphQLって何?」「RESTと何が違うの?」「使うとどんな良いことがあるの?」といった疑問に、初心者の方にも分かりやすくお答えします。
GraphQLとは何か? - APIのための「問い合わせ言語」
GraphQLは、Facebook(現Meta)が開発し、2015年にオープンソース化された**APIのためのクエリ言語(問い合わせ言語)**であり、その言語を実行するためのサーバーサイドランタイムでもあります。
簡単に言うと、クライアント側が**「どんなデータが欲しいか」を具体的に指定して、サーバーに問い合わせる**ための仕組みです。
例えるなら:
- REST API: レストランで「日替わり定食」を頼むようなもの。何が出てくるかはメニュー(APIの仕様)で決まっており、たとえ苦手な小鉢が付いてきても、基本的にはセットで受け取る必要があります。
- GraphQL: ビュッフェレストランで、自分の好きな料理だけを選んでお皿に盛るようなもの。「このサラダと、あの肉料理を少しだけ、そしてデザートはこれ」というように、欲しいものだけをピンポイントで指定して受け取ることができます。
なぜGraphQLが注目されているのか? REST APIの課題
GraphQLが登場した背景には、従来のREST APIが抱えるいくつかの課題がありました。
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オーバーフェッチ (Over-fetching): 必要以上のデータを取得してしまうこと。
- 例:ユーザーの名前だけが必要なのに、REST APIのエンドポイントがユーザーの全情報(住所、電話番号、過去の注文履歴など)を返す場合、不要なデータまで取得してしまい、通信量が増えたり、クライアント側の処理が重くなったりします。
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アンダーフェッチ (Under-fetching): 一度のリクエストで必要なデータが揃わず、複数回のリクエストが必要になること。
- 例:ブログ記事とその記事についたコメント、さらにコメントしたユーザーの情報を表示したい場合、REST APIでは「記事取得API」「コメント取得API」「ユーザー情報取得API」のように、複数のエンドポイントを順番に叩く必要があり、通信回数が増えて表示が遅くなる可能性があります。
- APIのバージョニング管理: 機能追加や変更に伴い、APIのバージョンが増えて管理が煩雑になることがあります。
- ドキュメントと実装の乖離: APIの仕様書(ドキュメント)と実際の動作が一致していない場合があります。
GraphQLは、これらの課題を解決するために設計されました。
GraphQLの主な特徴とメリット
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必要なデータだけを取得できる (オーバーフェッチ/アンダーフェッチの解消):
- クライアントがクエリで必要なフィールドを明示的に指定するため、サーバーは指定されたデータだけを返します。これにより、不要なデータの取得(オーバーフェッチ)を防ぎ、一度のリクエストで関連するデータをまとめて取得(アンダーフェッチの解消)できます。
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例:
query { user(id: "123") { # IDが123のユーザーの... name # 名前と... email # メールアドレスだけ欲しい } }
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単一のエンドポイント:
- 通常、GraphQL APIは
/graphql
のような単一のエンドポイントを持ちます。リソースごとにエンドポイントが分かれているREST APIとは異なり、クライアントはこの単一のエンドポイントに必要なクエリを送信します。これにより、APIの管理がシンプルになります。
- 通常、GraphQL APIは
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強い型付けシステム (Strongly Typed):
- GraphQLでは、APIで扱えるデータの構造を「スキーマ」として厳密に定義します。これにより、どのようなデータが取得できるか、どのような型のデータなのかが明確になり、開発中のエラーを減らしたり、開発ツールによる補完機能を利用したりできます。
- サーバーとクライアント間のデータのやり取りにおける認識齟齬を防ぎます。
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自己文書化 (Introspection):
- GraphQL APIは、自身のスキーマ情報を問い合わせる機能(イントロスペクション)を持っています。これにより、APIがどのようなクエリを受け付け、どのようなデータを返せるのかをAPI自身に問い合わせることができます。
- GraphiQL (グラフィクル) や GraphQL Playground といった開発ツールを使うと、このイントロスペクション機能を利用して、インタラクティブにAPIを試したり、ドキュメントを自動生成したりできます。
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APIの進化が容易:
- 新しいフィールドを追加しても、既存のクエリには影響を与えません。古いフィールドを非推奨 (deprecated) にすることも容易で、APIのバージョニング管理の手間を軽減できます。
GraphQLの主要な概念
- クエリ (Query): データの読み取り操作。REST APIのGETリクエストに相当します。
- ミューテーション (Mutation): データの作成、更新、削除操作。REST APIのPOST, PUT, PATCH, DELETEリクエストに相当します。
- サブスクリプション (Subscription): 特定のイベントが発生した際に、サーバーからクライアントへリアルタイムにデータをプッシュする仕組み。チャットアプリやリアルタイム通知などに利用されます。
- スキーマ (Schema): API全体のデータ構造や操作(クエリ、ミューテーション、サブスクリプション)を定義したもの。GraphQL APIの設計図です。
- 型 (Type): スキーマ内で定義されるデータの型(文字列、数値、真偽値、オブジェクトなど)。
- リゾルバ (Resolver): スキーマで定義された各フィールドに対応するデータを、実際にデータベースや他のサービスから取得・加工して返す関数。サーバーサイドで実装されます。
GraphQLのデメリットと注意点
GraphQLは強力な技術ですが、銀の弾丸ではありません。以下のようなデメリットや注意点も存在します。
- 学習コスト: REST APIに比べて、スキーマ定義、リゾルバの実装、クエリ言語の習得など、学ぶべき概念が多いです。
- キャッシュ: REST APIはURL単位でキャッシュしやすいのに対し、GraphQLは単一エンドポイントへのPOSTリクエストが主体となるため、HTTPレベルでのキャッシュが難しくなる場合があります。クライアント側でのキャッシュ戦略(Apollo Clientなどライブラリの利用)や、サーバー側での工夫が必要です。
- ファイルアップロード: GraphQLの仕様自体にはファイルアップロードの標準的な方法が定義されていないため、別途ライブラリを使うなど実装が少し複雑になることがあります。
- 複雑なクエリの処理: クライアントが非常に複雑なクエリを送信した場合、サーバー側の負荷が高くなる可能性があります。クエリの深さや複雑さを制限する仕組みが必要です。
- N+1問題: リゾルバの実装によっては、意図せず大量のデータベースクエリが発生する「N+1問題」が発生する可能性があります。データローダー (DataLoader) といった仕組みを使って対策する必要があります。
- エラーハンドリング: レスポンスの一部が成功し、一部が失敗した場合など、RESTとは異なるエラーハンドリングの考え方が必要になります。
GraphQLはどんな場面で使われる?
- モバイルアプリ開発: 通信量が少なく、必要なデータだけを取得できるため、通信環境が不安定になりがちなモバイルアプリに適しています。
- マイクロサービスアーキテクチャ: 複数のマイクロサービスからデータを集約してクライアントに返すAPI Gatewayとして利用されることがあります。
- フロントエンド主導の開発: フロントエンドが必要なデータ構造を定義しやすく、バックエンドとの連携がスムーズになります。
- リアルタイム性が求められるアプリケーション: サブスクリプション機能により、リアルタイムなデータ更新が必要な機能(チャット、通知、株価表示など)を実装しやすいです。
まとめ
GraphQLは、クライアントが必要なデータを効率的に取得できる、柔軟で強力なAPI技術です。オーバーフェッチやアンダーフェッチといったREST APIの課題を解決し、型システムによる開発効率の向上やAPIの進化の容易さといったメリットがあります。
一方で、学習コストやキャッシュ戦略、N+1問題への対策など、考慮すべき点もあります。
プロジェクトの要件やチームのスキルセットに合わせて、REST APIとGraphQLのどちらを採用するか、あるいは両者を組み合わせて利用するかを検討することが重要です。