前提条件
科学英語には一つの正解があるわけではなく、分野にも強く依存します。この記事は宇宙天文分野を前提としています。まずはその点にご注意ください。英語論文は経験値にも強く依存します。この記事では、最近の風潮として、日本語で書いてから、DeepL でえいやと英訳し、 Grammarly や、DeepL Write で文法を整える、という今風(?)な読者を想定しています。
多くの場合は、最初(= DeepL と Grammarly、DeepL Write を駆使するなど)は一本道で、道に迷うことは少ないでしょう。論文投稿までを山登りに例えると、8合目あたりですね。難しいのは、ここから頂上まで迷わずに進むことですが、ここから先は改善と改悪の繰り返しで、頂上が遠く感じることが多いのではないかと思います。
科学英語の基礎については、多くの書籍や素晴らしいweb媒体があります。ここではその一部だけ紹介しますが、このような座学は斜め読みはしていることを前提とします。
など。この記事では、このような一般論を踏まえて、じゃあ自分の論文をどう直しせば良いのだろうか??と考える際に、一つの指標となればと思い、具体的にチェック項目形式で必要なことを列記してみました。
p.s. 生成系AIを使った後については、下記にメモ程度に書いてます。
英語論文の改定に向けた主な流れ
科学論文では、"科学英語化"という作業が必要になります。この作業は、部品レベルから製品レベルまであります。小さい方から順に作業する場合は、
- 単語の科学英語化
- 文章の科学英語化
- パラグラフの科学英語化
- 図表含む構成の科学英語化
- 読者を意識した科学英語化
という流れになるかと思います。(この識別や順番については、正解があるわけではなく、私の主観も含まれます。) この流れに沿って、具体的に紹介していきます。(改善点やコメントは大歓迎です。)
英語論文の作り方の例
英語論文に関する方法論は、人の数だけあるのでしょうが、王道を1つ紹介しておきます。
に11ステップの例が紹介されていて、
- 図と表を準備する。Prepare the figures and tables.
- 手法(Methods)を書く
- 結果(Results)を書く
- 議論(Discussion)書く。結果(Results)と議論(Discussion)は、イントロの前に仕上げる。これは、議論が不十分だとイントロを適切に構成できないためである。
- 結論(Conclusion)を書く。
- 切迫したイントロ(compelling introduction)を書く。
- 概要(Abstract)を書く。
- 簡潔かつ説明力のあるタイトルをつける(concise and descriptive Title)
- キーワードを選ぶ(Keywords for indexing)
- 謝辞を書く(Acknowledgements)
- 参考文献を書く(References)
というものです。経験的にもこれはオススメです。
注意点としては、参考文献は初めから文献管理ソフトなどで、ファイルと基礎情報を収集して、データベース化しておくとよいです。
など参考ください。
小技便利ツール
- acknowledgment-generator : acknowledgement を自動生成してくれる
- latexdiff : tex の変更点を教えてくれる。
letex で変更点を綺麗に表示してくれるので、共著者に更新部分を伝えるときに重宝されます。
使い方は、
など。
ApJでは、レフェリー対応でも latexdiff を使うことが推奨されています。
5.5 Using latexdiff to create revised manuscript with new text in bold
latexdiff -t BOLD old.tex new.tex > diff.tex
- ADS の Export Citation を用いた bibtex 生成
英語とは関係ないですが、参考文献を手書きで書くと修正が大変なので、なるべく楽をしましょう。
ADS の Export Citation で
- BibTex を選ぶ --> bibtex ファイルにコピペする
- AASTeXを選ぶ --> 1行で表示されるので、ベタ書きには向いてる
とすると、参考文献情報が取得できます。bibdesk や paperpile など、高級なソフトウェアを使ってる方は、もっと便利な機能があるかと思います。
単語の科学英語化
単語の科学英語化とは、標準的な科学英語を使っているか、分野に依存する固有名詞(e.g., 宇宙で abundance は太陽組成を意味する場合が多い)を間違えて使ってないか、など単語レベルでの修正作業になります。単語の"頻度"も大切です。例えば、important は"重要"という意味ですが、一つの論文で100回も連呼したら重要度は下がってしまいます。適切な出現頻度も大切です。
power-law と書くか、powerlaw と書くか、など答えのない迷いが生じることも多いです。英辞郎やその他辞書で調べても釈然とせず、単語の使い方に疑問を持った時には、
- Hyper Collocation -- dictionary based on arXiv repository
を用いることをお勧めみます。arXiv の中でどう使われているかをチェックするのも大事です。(ただし、これは使われてるというだけで、正解とは限らないことには注意が必要です。)
例えば、X線天文業界であれば、power-law model でも、powerlaw model でもどちらでも OKですが、べき乗スケーリングは、power-law scaling のように - 有りが多いと思います。これは、powerlaw と1つの名詞と捉えるか、2つの名詞の和 power + law = power-law と捉えるかの感覚の違いではないかと思います。
チェックリスト
we を多用してないか?
we を使うと 「私がやった」 という強調効果があります。最近は、受動態よりも能動態の簡潔さを優先することも多いですが、強調効果がある事実は変わってないと思います。これも、出現頻度の問題で、we が多出すれば 「私がやった」 という強調効果が薄まるわけですが、一般的には、 「私がやった」 と強調したい内容には we を積極的に使い、そうでない部分では we を使わないで表現する、というスタイルが読みやすいです。
may, might を多用してないか?
may や might は、基本的には妄想(speculation)で議論する場合に使います。abstract の前半や、intruduction で多用されることはないはずです。
過去形を多用してないか?
過去形は「点」、現在/過去完了形は「線」のイメージです。それゆえ、過去形は、過去の一点で伝える表現であると同時に、今は違う状態かも?と思わせるニュアンスもあります。例えば、"The fitting result was not improved." という文は、過去の一点でフィット結果が改善しなかった、という意味だけではなく、今は違う(この後にフィットが改善する)ということも示唆します。
固定使用すべき用語を除いて、パラフレーズを行なったか?
パラフレーズは、似たような内容でも少し表現を変えることです。これを上手に使えると幼稚な英語から卒業できると言われています。ただし、固定して使用すべき専門用語を言い換えてしまうと、かえって読者に混乱を招いてしまうので、見定めが重要です。
科学論文においては、パラフレーズは、場所に応じて適切に言い方を変えることも大切です。abstractでは抽象度が高く、analysis, result,では具体的な表現を用いて、conclusion では抽象度の高い表現に戻るのが一般的です。
当該分野の固有名詞に近い用語を不必要に多用してないか?
宇宙天文では、abundance (太陽組成 solar abundance)、relative (相対論の relativity と似てる)、optical (光学観測から光学的厚み)、residual (観測では、観測データとモデルの差)など、パッとみただけで読者に情景を連想させてしまう言葉があります。慣例的な意味で使う場合は、パラフレーズ(言い換え)をしない方が誤読させませんし、慣例から外れた用途で多用してしまうと読みにくくなります。業界用語と照らし合わせて見直してみてください。
同じ要素を繋ぐ目的以外で、and を多用してないか?
and は、「同じ要素を繋ぐ」のが基本的な使い方です。and は文の繋ぎ役として便利なので多用されがちですが、科学英語では、口語のように脈略がない内容を and で繋げると違和感が発生します。例えば、"We obtained the best-fit parameters and the systematic errors are estimated." は、「フィット」と、「系統誤差の評価」という文脈的にも意味的に離れた事柄を and で繋げて、主語も時制も違うのでチグハグな印象を与えます。同じ内容でも、"We obtained the best-fit parameters and estimated the systematic errors." といえば、この場合の and は、主語 we という同じ要素を共通に使っているため、時間的な連続性も感じさせて、and の存在価値が出てきます。一度、自分の原稿の and の使用頻度を調べ、and が多用されてる場合は不要な and を削減できないか考えてみましょう。
論文必須の形容詞を使いすぎてないか?
論文の常套句は使うべきですが、使いすぎてしまうと存在価値が薄まってしまいます。例えば、important, succeed, necessary, reveal, などは、自分の結果を宣伝するための大事なパワーワードになるので、多用してしまうと薄まります。頻度の目安は、discussion や summary で数個、abstract は各々一回くらいです。
論文必須の接続詞/副詞(句)を使いすぎてないか?
論文必須の接続詞/副詞(句)とは、therefore, thus, however, as a result, in summary, など、大事な文章のサインとして使われる接続詞/副詞(句)が多すぎると、どこが大事なのかぼやけてしまいます。これも目安としては、discussion や summary で数個、abstract は各々一回くらいです。
自動翻訳特有のレアな英単語は書き換えたか?
自動翻訳では、不定性を uncertainty ではなく、indeterminacy を使う癖がある(2023.1.22時点)。他にも、フィットを実行したという動詞に、devised という考案した、という動詞が当てられることがある。
レアな英単語は重要な部分だけで使っているか?
レアな単語は、それだけ情報の価値が高いので、論文の中で目立ってしまう。使っても良いが、それに見合うだけの大事な部分で使う方がよい。流し読みしてほしいところで、見慣れない英単語を使うと、読者の足枷になってしまう。
コロンとセミコロンを上手に使えているか?
これは有名なテーマなので、英作文・英語論文でのコロン(:)・セミコロン(;)の使用法 など様々な説明がなされてます。セミコロン(;)は、ピリオド(.)とカンマ(,)の中間の分離効果を持ちます。
宇宙天文分野では、コロン(:)は、同格なリストを並べる場合が多いです。例えば、"The data are obtained by several sattelites: chandra, XMM-Newton, and Suzaku. " のように、コロンの前の"衛星"と同格で具体的な名前を列記する場合です。
一方、セミコロン(;)は、意味の繋がりがある場合に使います。例えば、"The data are obtained by several sattelites; e.g., Asan et al. (1999) and Bsan et al. (2019)." のように、セミコロンの前の"衛星"と同格ではなくて、何かそれを用いた先行研究の例を示すような場合です。これを、カンマ(,)を用いて作文すると、接続詞が必要になり文章が長くなる上に、意味が離れてしまいます。こういう場合は、セミコロン(;)がベストチョイスとなるわけです。
論文の中で、一度も コロン(:)・セミコロン(;) を全く使う必要がない場合は少ないはずです。これらを使うともう少し短文化できないか、一度考えてみましょう。
強い限定力を持つ方の関係代名詞 that を多用していないか?
関係代名詞の that, which の違いも有名な問題で、関係代名詞/非制限用法の使い方 など、様々なweb資料があります。一つだけ覚えておくとよいのは、制限用法の関係代名詞の that と which は、that の方が限定力が強く、文の中で無くてはならないパートという意味があります。本当に that で限定すべき事項なのか?再考してみるとよいです。
曖昧な単語や口語を多用してないか?
very, rough, get, do, see, など、口語では便利ですが、多義性が強く、インフォーマルな印象も与えます。科学論文では曖昧な単語はなるべく使わないようにしましょう。
and, but, so, などを一つ文章で多数使ってないか?
例えば、"主語1 + 動詞1, but 主語2 + 動詞2, and 主語3 + 動詞3."、のように一つの文章に2つあると、"主語1 + 動詞1, (but 主語2 + 動詞2, and 主語3 + 動詞3.)" なのか、"(主語1 + 動詞1, but 主語2 + 動詞2), and 主語3 + 動詞3."なのか、切り方や掛かり方に多義性が発生してしまいます。科学英語では、基本的には誰が読んでも同じ訳になるように、切り方や掛かり方がなるべく一意に決まるように、シンプルな構造にしましょう。
abstract, introduction で、自分の結果については現在形/現在完了形を使っているか?
一般的に、時制は文脈やスタイルに依存するので判断が難しいですし、登場する場所にも依存します。ただし、平均的には、astract, introdution で自分がやったことを説明する場合は、なるべく現在形/現在完了形を用います。これは、普遍の事実や今でもそれが正しい、というニュアンスになるからです。
過去の観測結果などを引用する場合は過去形を使っているか?
過去の観測結果などを引用する場合は普通は過去形です。これは、過去の一点であることが多いからです。例外として、普遍の事実を導いた文献を引用する場合は現在形を使うこともあります。
only を多用してないか?
only は、かなり強い強調語です。本当にそれだけ!!という意味を強調したいときだけ only を使いましょう。受験英語で頻出の、not only A but also B の only も同様で、本当に強い主張だけで使います。使うとしても、一つの論文で一回程度です。
ソフトウェア名やジャーゴンはフォントを変更したか?
ソフトウェアの名前や、そのソフトウェア固有のツール名などは、普通の英語の文章とは種類が違うので、イタリックやボールドにするなど、フォントを変えて違いがわかるようにしましょう。texのコマンドだと、{\tt xspec} など。
不要な大文字は使ってないか?
大文字を使うと強調になるので、不必要に使わないように。あえて目立たせたい場合は別。
名詞ではなくて、形容詞が使えないか?
例えば、"the spectrum decomposition" も "the spectral decomposition" も、どちらも同じ意味で文法的には正しい。前者も、名詞の形容詞的用法 という使い方で文法的には正しい。違いは、spectrum だと、名詞or形容詞の2択になるが、spectral は形容詞の一択となるので、spectral の方が選択肢が少なくてよい。例外は、慣習として、名詞を二つ並べて複合名詞として捉える方が普通の場合もある。スペアナは、"spectrum analyzer"の方が普通です。
文章の科学英語化
文章も科学英語特有のチューニングが必要です。単語は正しくても、文章レベルで誤読されることもあります。
チェックリスト
やたらと長い文章は短文化を検討したか?
素晴らしい文章であっても、長いと一般的に読みにくいです。短文化できないかな?と考えてみましょう。
形容される言葉や意味関係が一意的か?
文章の中で、距離が離れるほど関係性が遠くなりますし、文章が長くなればなるほど、誤読されやすくなります。近い意味は近い距離で、難しいことほどシンプルな文章になっているか、確認しましょう。
引用は、適切なパラフレーズとその直後に置かれているか?
引用で大事なのは、引用時のパラフレーズと、剽窃(ひょうせつ)を避けることにあります。
論文を書く際、意図せぬ剽窃をさけるには など、これも多々情報があると思います。論文を引用するには、それをどう自分の文章に融合するように要約するのか、どの粒度まで丸め込むのか、を考えます。その上で、引用を置く場所も適切でなければ、誤解を与えてしまいます。例えば、"This result was first pointed by using test data, and its theory was proved (Asan et al. 2009)." と書いてしまうと、Asan et al. 2009 が、この文章全部に掛かるのか、直前だけに掛かるのか、多義性が発生してしまいます。もし、両方であれば、"This result and its theoretical explanation was first obtained by Asan et al. 2009." のように、主語を両方にして短文化するなど、工夫をします。
大事なことを前の方に書いてるか?
例えば、下記の2つの例をみてみると、"Figure A shows the final data, which are our best-fit models." も、"The best-fit models are shown in figure A." も文法的には大差ないが、Figure A が大事なのか、best-fit が大事なのか、優先度が高い方がなるべく文章の前の方に来るように工夫したほうがよい。ただし、時間の流れや、古い情報から新しい情報へ流れる向きに説明された方がわかりやすいのは英語でも同じなので、流れがあるときは流れを優先した方が良い、ことが多い(と思う)。
些細な情報で長文を使ってないか?
文章の長さは、重要度に比例します。重要なことは、多少の長文もやむなしですが、些細なことを長文で説明すると読者を単に混乱させるだけです。
分詞構文を使っているか?
論文は、簡潔さが大事なので、分詞構文を用いた短文化が必要になります。もし、分詞構文を意識して使ってなければ、見直してみましょう。ただし、重要なことを説明するときは無理に短文化せずに、丁寧な接続詞でゆったりと説明した方が良い場合も多いです。
It is XXX that を多用してないか?
例えば、"It is important that the model can predict the observed trend." は文法的には間違ってないが、"Importantly, the model can predict the observed trend." の方が簡潔になる。ニュアンスにも依存するが、"It is XX that" が頻出すると、冗長な感じがする。It is A that の書き方は、必要なものだけに絞ろう。
比較級の比較対象を明記しているか?
比較級は、誰かと比較しているはずなので、比較級を使うときは、than 以下をなるべく明記する。ただし、"A is more significant (than B.)" の than 以下が文脈から自明な場合は省略することはあり得ます。
"in contrast to", "compared to" など、対象を明記する表現を用いているか?
比較級を使うほどの直接的な比較ではないものの、対象に関連性がある場合は、"in contrast to", "compared to" のような、誰と比較した話なのかを明記しましょう。
読者にとって新しい情報は、There is 構文で提示しているか?
"There is 構文" は読者にとって新しい情報ですよ、ということを明示するサインになります。結果を示した後に、"There are two reasons." といえば、新しい2つの理由がこれから提示されるのだな、と予想ができます。これを間違えて、"We will explain the two reasons." と言ってしまうと、the という既知だよね?というサインも出してるので、読者は「2つの理由はどこに書いてあったっけ?」と迷いが生じます。
既知でない情報に対して、the を使いすぎてないか?
"the" は読者に、「この情報は既知ですよ」というサインを送ることになります。もし、既知でないならば、"the"の使用を回避することを検討しましょう。無冠詞で書く、複数形で書く、a/an を用いる、など。
自分の論文では説明していない新規事項であっても、文脈や業界の慣例で既知情報と想定される場合は、the を使うこともよくあります。
in this paper を多用してないか?
"in this paper" は、ほぼ自明なので、"in this paper" を連呼する必要性は少ないはずです。
ただし、例外パターンはあります。先行研究と少し違うことをやって、「この論文ではXXしました。」などのこの論文を強調したい場合は使います。一番多いのは、「この論文では誤差を90%で表示しました」、という部分ですね。
()の連続、2重()を回避しているか?
"(e.g., Cyg X-1) (Asan et al. 1986)" などは、"(e.g., Cyg X-1; Asan et al. 1986)" のように、セミコロンを使うことで回避できる。基本は、なるべく同時にカッコを使う状況を作らないこと。
名詞を用いた表現が多くないか??
「名詞を用いた表現が日本語的で,動詞を用いた表現が英語らしい英語」 となる。
がわかりやすいので、一読をおすすめします。日本人は、意味のない、「こと」「もの」をつける習慣がついているので、ついつい名詞を基本として作文しがちですが、英語は動詞が豊かなので、積極的に動詞を使いましょう。
パラグラフの科学英語化
パラグラフも科学英語特有のチューニングが必要です。
チェックリスト
最初の一文(提示)、次の文(展開)、最後の文(締める)、の構成か?
パラグラフは、文章の一つの塊ですが、3つの文章をまずはチェックします。まず、最初の文章は、話題の提示です。これは自明かもしれませんが、話題の提示が大切なので、具体的で細かい話が最初の文章にくることはないです。その次は、2文目です。最初の文を受けて、話を展開する大事な役目が2つめの文章にあります。ここでも、話の方向性を決めるのが大事なので、細かい話は登場する頻度は低いはずです。それ以後、中身は詰めることができると思います。最後に大事なのが、パラグラフの最後の文章です。英語は大事なことは最初、というのが定石ですが、最後に一番どーでもよい文章がくるわけではないです。最後の文は、そのパラグラフを上手にまとめて、次に繋げる大事な役目があります。
closing sentence, concluding sentence が section ごとに入っているか?
パラグラフの最後の文章は大事です。closing sentence や concluding sentence と呼ばれ、パラグラフのまとめと、次への繋ぎの役割があります。ただし、すべてのパラグラフに必要かは文脈に依存します。例えば、section の最後には、その section を締めるために普通は必要になります。
一つのパラグラフの中で、接続詞が多用されてないか?
一つのパラグラフの中で、however, therefore, but, など、大事な接続詞が何個も使われていると、論理がバタバタしているはずです。なるべく、ロジックの舵取りをする言い回しは、一つのパラグラフで一回程度にしましょう。
やたらと短い or 長いパラグラフはないか?
言いたい内容が一つで一つのパラグラフが基本的な考え方なので、極端に長い or 短い状況は、なんらかバランスを欠いている可能性が高いので、検討しましょう。
パラグラフの冒頭に、難解な文章がきてないか?
パラグラフの一番最初の文章は大事、というのは定石ですが、かといって、パラグラフの最初の一文が極めて難解だと入り口で転んでしまいます。難解な事象を伝える場合は、ソフトランディングで入ること柔軟に考えましょう。例えば、The rules of the methods are highly complicated. It is because ..." のように、簡単な短文から入って、少し落ち着かせるなど。
数字がほどよく入っているか??
宇宙天文では数字も大事なのですが、数字が文章に入りすぎてると読みにくいので表にした方が良いですし、全く含まれてないと具体性が伝わりません。数字の粒度も場所に依存します。abstractであれば、選りすぐられた数字を出す必要ありますし、result であれば具体的に出した方が良いです。
図表含む構成の科学英語化
構成も科学英語特有のチューニングが必要です。内容や文法が正しくても、全体の量や濃さのバランス調整がなされてないと、完成度が低い印象を与えてしまいます。ここではそれを修正します。
チェックリスト
単純な論理構成になっているか?
一番わかりやすいのは、一筆書きでかけるような論理でストーリーが展開されることです。実際には、枝葉の話や、発展事項など含まれることが多いので、その場合は、「これは side story ですよ」、というのがわかるサインを出しましょう。あるいは、枝葉の話は appendix に移動してしまうなど。
subsection名の情報量のバランス調整をしたか?
subsection の名前の具体性のレベルや情報密度のバランスをチェックしましょう。たとえば、"section 3.2 Data reduction on the photon list" のように、具体的に書くスタイルは許容範囲ですが、subsection名を具体的に書くスタイルなら、そのスタイルをなるべく一貫して使いましょう。subsection名で提示される情報量が凸凹だとチグハグな構成に感じられます。
易しい内容ほど、前の方に出現するか?
普通の読者は普通の人間なので、難解な話を早い段階で展開されると論文を読む気力が失われやすいです。可能な限り、易しい内容から、高度で難しい話に展開するように心がけましょう。
やたらと短い or 長いセクションはないか?
バランスを欠いていると読みにくいです。 sectionごとに眺めた時に、量に極端な違いがないか、確認しましょう。
図表の重要度に比例した文章量か?
重要な図や表は、その文、丁寧にゆったりと説明した方がよいので、重要度に比例して文章量も増えるはずです。重要度に応じてバランスを調整しましょう。
図の基礎情報を説明しているか?
図について書くべきことは、
- 図の基礎情報および作成方法
- 図の読み方 (captionに任せることが多い)
- 図から読み取れること
の3点です。図から読み取れる結果や解釈だけでは読者はついていけないので、図の基礎的な読み方や説明をしましょう。
情報量の多い図の説明を、一つずつ説明したか?
発表であれば、情報量の多い図を出されても、この図はXXで、それを拡大したのがXX、など説明を詰め込まれても、身振りやポインタから視点がわかるので、聴衆がついてこれます。ですが、論文では違います。論文では、どの図のどこの話をしようとしているのかが、原理的に伝わりにくいことを意識しましょう。
身近な例に例えると、料理が一気にテーブルに出されるよりも、一品ずつテーブルの上において説明された方がわかりやすいですよね。論文でも、一つの文章に、一つの図の説明を出して、一つずつ説明する方がわかりやすいです。
図の読み方を2回以上説明してないか?
図の読み方は、caption と文章で書き分ける必要があります。詳細情報は図のcaptionで、大きな情報は本文という書き分けになりますが、全く同じような説明が重複してはいけません。
図のフォントが小さすぎたり、スタイルが奇異なことはないか?
図のフォントサイズは、小さくても caption の文字サイズは維持するのが基本です。図のフォントスタイルは、テキストのフォントスタイル(times系)に揃える、というのが一番の定番です。(例外は、例えば、フォントスタイルをあえて bold 系にして、強調する、ということもあります。)
見出しは、独特な文法のルールであることを確認したか?
英語の見出し (Headlines) には、独特な文法のルールがあります。
など参考に。このうち、とくに、a, the, などの冠詞を省略するのは、タイトル、図表のcaptionでよく使われます。限られたスペースの中で最大限の情報を詰め込むための工夫として、冠詞の省略が可能ですので、確認してみてください。
イントロで結果について書きすぎてないか?
イントロ、result, summary で同じ英語で同じ内容の記述が重複して登場していないかをチェックしましょう。特に、イントロで、結果について書きすぎてしまうと、論文全体のバランスが悪くなることがあります。結果は result や summary で必ず記述されるはずですので、イントロで同じ言い方や内容が重複しないように気をつけましょう。
読者を意識した科学英語化
抽象的な内容になりますが、読者向けの調整にも、科学英語特有のチューニングが必要です。科学論文は、新しいことを伝える必要があるので、自分以外の方にどういう前提で何をやったのかをわかりやすく伝え、新しい事項ほど丁寧に伝えるなど、論文の内容や読み手の層をイメージして、強弱をつけて書く内容の濃淡を調整する必要があります。
チェックリスト
専門用語を適切に説明しているか?
業界用語、解析ツール固有の名前、など専門家しか分からない表現が残ってないか確認しましょう。
論文が長すぎることはないか?
長い論文がダメではないですが、読者へ伝わる情報の密度は長いほど下がります。あまりに長すぎる場合は、appendix や、supplemental meterial を使うなども考えましょう。
summary が result のコピペになってないか?
summary は result をより高い立場で抽象的な言葉でまとめる場所です。専門家以外でもわかるような言葉を使って、result を説明しましょう。
最新の文献も引用しているか?
新しい論文をほとんど引用してないと、この論文はちゃんと最近の論文を確認しているのか、読者が不安になります。本当に何も関連する先行研究がないケースは少ないと思うので、なるべく最近の論文も引用しておきましょう。
やたらと上手な英語と、下手な英語が混在してないか?
全体としてバランスがとれていると安心しますが、急にnative級の英語が登場し、他は日本人英語だったりすると、盗作や剽窃(ひょうせつ)を疑われます。全体のバランス調整も心がけましょう。
文体のポリシーが一貫しているか?
学問の自由は大切ですから、論文にも個性があってよいです。We を多用するスタイル、客観的記述のみを淡々と述べるスタイル、など様々あるかと思います。ですが、このようなポリシーが一貫してないと、共著者間での調整不足や、盗作や剽窃(ひょうせつ)への疑念が生じてしまうので、ポリシーが一貫しているか、確認しましょう。
類似のアプローチの論文を引用しているか?
自分の解析手法やアプローチとは、少し異なる論文があることが多いです。自分にとっては、自分の手法がベストだと思っても、読者はもう少し引いた立場から、そのことを理解したい事が多いです。自分と似た研究との類似性についても言及しておくと親切でフェアな印象を与える論文になります。
狭い専門分野だけでなく、他分野の関連する論文を引用しているか?
新しい発見は科学の境界領域から生じやすい、と言われています。蛸壺のように自分の専門分野の狭い世界だけではなく、他の分野での関連する研究なども踏まえてぜひ議論しましょう。論文を書く時に、他の分野との繋がりが何かないだろうか?と調べる習慣をつけるのも大切です。
読後感のよい終わり方をしているか?
論文の最後は、読者がこの論文を読んで良かったと思えるような文章が添えられるとよいです。素晴らしい論文でも、難しい話(系統誤差を考えると色々と難しいんだよね〜みたいな)が最後に展開されておしまい、、だとちょっと消化不良な感じがしてしまいます。(とはいえ、過大広告は避けましょう。)
音読しやすい英語か?
声に出して読んだ時に、読みにくい場所がないか確認しましょう。読みにくい場合は、そこで時間がゆっくりと流れるので、情報をゆっくりと吸収できることになります。それが意図通りであればよいですが、どーでもよいところで足踏みさせるのは避けましょう。
ただし、日本人英語で読みやすい、読みにくいを判断すると、改悪になる場合があるので注意が必要です。英語には、リエゾン という言葉が連結して音が変わる効果があるので、その効果も含めて判断する必要があります。
投稿する雑誌のスタイルを確認したか?
一貫性を持たせるためのオススメのスタイルが公表されています。例えば、PASJさんの場合は、
にあります。投稿する雑誌ごとに決められたルールがありますので、スタイルを確認してから投稿しましょう。
まとめ
チェックリスト風に書いてみました。個別事例を深掘りした情報は、web上でいろんな方が解説されてますので、適宜、補完してもらえればと思います。(誤解のないように補足しますと、修論や博論の場合は、もっと柔軟な発想と、冗長性があってよいと思います。特に、試行錯誤も含めて書いた方が生き生きとした内容になる場合もあります。)
最後に、一番大事なのはnative級の英語の質ではなくて、高いオリジナリティ、であることは強調しておきたいです。ただし、人間は言葉でコミュニケーションを取る生き物なので、オリジナリティがあっても、伝え方が良くなければインパクトが下がってしまいます。オリジナリティに対する検出効率を高めるために、バランス調整、一貫性の見直し、完成度の向上、自分の言葉を増やす、などの地味な作業が大切になります。