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チャップマン-コルモゴロフ方程式と熱伝導方程式の関係について

Last updated at Posted at 2024-07-06

はじめに

チャップマン-コルモゴロフの方程式を用いて熱伝導方程式を導出する過程を考えることで、確率論的な視点から熱伝導方程式を眺めることができます。(あくまでざっくりとした説明で、数学的に厳密な解説ではないです。)

熱伝導方程式を解くだけで良い人は、

など参照ください。

チャップマン-コルモゴロフの方程式

チャップマン-コルモゴロフの方程式は、マルコフ過程において、ある時刻 $t$ における状態分布が、それ以前の時刻における状態分布の重ね合わせとして表現されることを示しています。具体的には、次のように表されます:

P(x, t + \tau | x_0, 0) = \int_{-\infty}^{\infty} P(x, t + \tau | x', t) P(x', t | x_0, 0) \, dx' 

ここで、$ P(x, t | x_0, 0) $ は、初期状態 $ x_0 $ にあった粒子が時刻 $ t $ に位置 $ x $ にいる確率密度関数です。

小さな時間ステップへの展開

時間 $\tau$ が非常に小さい場合、確率密度 $ P(x, t + \tau | x', t) $ は、$ x' $ の近傍でピークを持つ分布になります。このことを利用して、以下のようにテイラー展開できます:

P(x, t + \tau | x', t) \approx \delta(x - x') + \tau \frac{\partial}{\partial t} P(x, t | x', t) 

ここで、$\delta(x - x')$ はディラックのデルタ関数です。

拡散過程の確率密度関数

次に、確率密度 $ P(x, t | x_0, 0) $ が拡散過程に従うことを仮定します。拡散過程では、次の確率微分方程式に従います:

dx = \mu(x,t) \, dt + \sigma(x,t) \, dW(t) 

ここで、$\mu(x,t)$ はドリフト項、$\sigma(x,t)$ は拡散係数、$ W(t) $ はウィーナー過程(ブラウン運動)です。

確率微分方程式は、伊藤清先生という日本の方が活躍され、伊藤積分、伊藤の公式と名前が付けられています。普通の微分は、ランダムに変動する数が変数として加わる点が異なります。

確率密度関数の時間発展

拡散過程の確率密度関数 $ P(x, t | x_0, 0) $ は、次の形で記述されることが知られています(導出は別途...):

\frac{\partial P(x, t)}{\partial t} = - \frac{\partial}{\partial x} [\mu(x, t) P(x, t)] + \frac{1}{2} \frac{\partial^2}{\partial x^2} [\sigma^2(x, t) P(x, t)]

この方程式は、フォッカー-プランク方程式と呼ばれ、拡散過程における確率密度の時間発展を記述します。(熱伝導方程式の場合、ドリフト項がゼロで、拡散係数が一定と仮定する)

熱伝導方程式への変換

熱伝導方程式の場合、ドリフト項 $\mu(x,t)$ はゼロであり、拡散係数 $\sigma(x,t)$ は一定の値($\sigma = \sqrt{2\alpha}$)です。この仮定の下で、上記の確率密度関数の時間発展方程式は次のようになります:

\frac{\partial P(x, t)}{\partial t} = \alpha \frac{\partial^2 P(x, t)}{\partial x^2}

これは、熱伝導方程式と同じ形状です。ここで、$ u(x,t) = P(x, t | x_0, 0) $ と置き換えることで、次の形になります:

\frac{\partial u}{\partial t} = \alpha \frac{\partial^2 u}{\partial x^2}

マルコフ過程との関係について

チャップマン-コルモゴロフの方程式は、マルコフ過程における状態遷移の基本的な関係式です。以下に、チャップマン-コルモゴロフの方程式とマルコフ過程の関連性について詳しく説明します。

マルコフ過程とは?

マルコフ過程は、ある時刻における状態が、その直前の時刻の状態のみに依存し、それ以前の全ての状態には依存しない特性を持つ確率過程です。これをマルコフ性と呼びます。数学的には、次のように表されます:

P(X_{t+\tau} = x_{t+\tau} | X_t = x_t, X_{t-1} = x_{t-1}, \ldots, X_0 = x_0) = P(X_{t+\tau} = x_{t+\tau} | X_t = x_t) 

ここで、$ X_t $ は時刻 $ t $ における状態を表します。

チャップマン-コルモゴロフの方程式

チャップマン-コルモゴロフの方程式は、マルコフ過程における状態遷移の確率についての関係を示す方程式です。具体的には、異なる時刻における遷移確率が、途中の時刻での遷移確率の積分として表されます。これにより、全体の遷移確率を中間状態の遷移確率から計算できます。方程式は次のように表されます:

P(x, t + \tau | x_0, 0) = \int_{-\infty}^{\infty} P(x, t + \tau | x', t) P(x', t | x_0, 0) \, dx' 

ここで、$ P(x, t | x_0, 0) $ は、初期状態 $ x_0 $ から時刻 $ t $ における状態 $ x $ への遷移確率を表します。

マルコフ過程との関連性

チャップマン-コルモゴロフの方程式は、マルコフ過程の本質的な性質であるマルコフ性を反映しています。マルコフ性により、任意の時刻 $ t $ における状態遷移は、それ以前の時刻の状態のみに依存し、さらに詳細な過去の情報に依存しません。これにより、次のような積分形式の方程式が成り立ちます。

具体的に言うと、次のような手順でチャップマン-コルモゴロフの方程式がマルコフ性を反映しています。

  1. 状態遷移の分解:時刻 $ 0 $ から時刻 $ t + \tau $ への遷移確率は、途中の時刻 $ t $ での中間状態 $ x' $ を経由して分解されます。
P(x, t + \tau | x_0, 0) = \int_{-\infty}^{\infty} P(x, t + \tau | x', t) P(x', t | x_0, 0) \, dx' 
  1. マルコフ性の利用:この分解は、マルコフ性に基づいており、状態 $ x $ への遷移確率は中間状態 $ x' $ における状態にのみ依存し、それ以前の状態に依存しません。

  2. 確率の合成:全体の遷移確率は、中間状態を考慮した遷移確率の積分として合成されます。

チャップマン-コルモゴロフ方程式の物理的意味

この方程式は、確率密度関数の時間発展において、マルコフ性を持つ過程の連続性を反映しています。特に、次のような物理現象や確率過程に関連しています。

  • ブラウン運動:微粒子のランダムな動きのモデル。拡散過程としても知られ、熱伝導方程式の確率論的な基礎として扱われます。
  • 拡散過程:物質の濃度分布が時間とともに広がる現象。確率論的には、粒子の移動がランダムウォークに従い、チャップマン-コルモゴロフの方程式で記述されます。

フォッカー-プランク方程式の時間反転対称性について

確率論における二次微分項(特にフォッカー-プランク方程式の拡散項)が残ることと、熱力学の第2法則によるエントロピー増大の法則(時間の矢が一方向であること)には、深い関係があります。
フォッカー-プランク方程式の時間反転対称性について考えるためには、数学的な性質を簡単にみてみましょう。

フォッカー-プランク方程式の形式

フォッカー-プランク方程式は、次の形をしています:

\frac{\partial P(x, t)}{\partial t} = - \frac{\partial}{\partial x} [\mu(x, t) P(x, t)] + \frac{1}{2} \frac{\partial^2}{\partial x^2} [\sigma^2(x, t) P(x, t)]

ここで、$ P(x, t) $ は確率密度関数、$ \mu(x, t) $ はドリフト項、$ \sigma(x, t) $ は拡散項です。

時間反転対称性の検討

時間反転対称性とは、時間 $ t $ を反転させたときに(つまり、 $ t \rightarrow -t $ )、方程式が同じ形式を保つことを指します。これをフォッカー-プランク方程式に適用してみます。

時間反転の適用

時間反転を適用すると、次のように置き換えます:

t \rightarrow -t 
P(x, t) \rightarrow P(x, -t) 

フォッカー-プランク方程式にこれを代入すると、

\frac{\partial P(x, -t)}{\partial (-t)} = - \frac{\partial}{\partial x} [\mu(x, -t) P(x, -t)] + \frac{1}{2} \frac{\partial^2}{\partial x^2} [\sigma^2(x, -t) P(x, -t)] 

左辺の時間微分は次のようになります:

\frac{\partial P(x, -t)}{\partial (-t)} = -\frac{\partial P(x, -t)}{\partial t} 

これをフォッカー-プランク方程式に代入すると、

-\frac{\partial P(x, -t)}{\partial t} = - \frac{\partial}{\partial x} [\mu(x, -t) P(x, -t)] + \frac{1}{2} \frac{\partial^2}{\partial x^2} [\sigma^2(x, -t) P(x, -t)] 

両辺にマイナスを掛けると、

\frac{\partial P(x, -t)}{\partial t} = \frac{\partial}{\partial x} [\mu(x, -t) P(x, -t)] - \frac{1}{2} \frac{\partial^2}{\partial x^2} [\sigma^2(x, -t) P(x, -t)] 

これを見ると、時間 $ -t $ でのフォッカー-プランク方程式の形式は、時間 $ t $ の場合とは異なることがわかります。特に、ドリフト項と拡散項の符号が反転しているため、時間反転対称性は成り立たないことが示されています。

フォッカー-プランク方程式の時間反転対称性について

フォッカー-プランク方程式は、時間についての一回微分を含む線形な微分方程式ですが、その形式は時間反転に対して対称ではありません。ドリフト項と拡散項の影響により、時間を反転させると方程式の符号が反転するため、時間反転対称性が破れていることがわかります。

したがって、フォッカー-プランク方程式は数学的には時間反転対称性を持たず、これは物理的に見ると、不可逆性(エントロピーの増大、熱力学の第2法則) を反映しているためです。

まとめ

チャップマン-コルモゴロフの方程式から熱伝導方程式を導出する過程は、確率論的な拡散過程の確率密度関数を用いて行われます。

  1. チャップマン-コルモゴロフの方程式:確率密度関数の時間発展を表す基本的な方程式。
  2. 小さな時間ステップへの展開:時間 $\tau$ が非常に小さい場合の展開。
  3. 拡散過程の仮定:確率密度関数が拡散過程に従うと仮定する。
  4. 確率密度関数の時間発展方程式:拡散過程に基づく確率密度関数の時間発展方程式を記述する。
  5. 熱伝導方程式への変換:フォッカー-プランク方程式で、ドリフト項をゼロ、拡散係数を一定と仮定して、熱伝導方程式を導出する。

この過程により、確率論的な視点から熱伝導方程式を眺めることができます。

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