はじめに
発表のスタイルや、中身は分野もよるので、ここでは宇宙天文の分野を前提として、対象は分野の初学者向けになります。
発表資料を作成するときに気をつけて欲しい10個のルール
優先度が高い順に10個を厳選しました。(あくまで個人的な意見です。)
- 高いオリジナル性 なにより、自分の頭のフィルターを通して作成しましたよ、webや人の資料のコピペではないですよ、というメッセージが伝わるかどうかが大事です。
- ストーリー性 自分の心の動線が伝わるかどうか。自分が何に興味やきっかけを持って、何を目的にして、何をやったらどうなって、それをどう捉えて次に何をして、今後は何をしたいか、その心の動きがが伝わるかどうか。
- 聴衆への思いやり 自分の発表したいことや話したい事を押し付けるのではなく、聴衆のニーズや雰囲気を感じ取って、その上で自分の伝えたいこと表現できるかどうか。
- 一貫性 論文の執筆と同じで、スタイルや用語は一貫して使う。間違っても、似て非なる用語や図を出さない、使わない。赤と青で概念AとBと表現するなら最後までそれと貫く。基本は、基礎編総集 – 見やすく美しいパワーポイントを作るための基礎、そのすべてを一つにまとめました が凄くよくまとまってます。
- 芸術性 完璧な内容であっても、全部デフォルトのフォントや醜い図のコピペが並んでいたり、誤字脱字、ヘンテコな改行が多いと過小評価されます。これについては、あなたのパワーポイントのデザインを劇的に美しくするたった4つのコツ【完全保存版】 や、伝わるデザインを一読ください。
- 階層性 宇宙天文分野では、登場する背景、結果、考察の幅が広いので、文脈が違うと全く何のどこの話なのかわかりません。タイトル、見出し、小見出し、の工夫などはもちろんのこと、今はどのレイヤーの話なのか階層性をわかりやすく伝える。
- 文字情報と絵情報の融合 素晴らしい図と、文章があっても、ちぐはぐだと効果が出ません。文字情報とそれを補う絵情報が融合されていて、良さが伝わります。
- 喋る情報との融合 素晴らしいスライドでも、喋る内容がダメなら良さが半減します。聞いている人は、書かれた情報と全く同じ情報が読みあげられると退屈だし、書かれてない事ばかり喋られると視覚情報が入ってこないのでわかりにくい。音情報と絵情報の融合、というのも大事。
- 質問対応への意識 聞いてる人が何を質問するかを想定して設計しているかどうか。特に発表時間が短い場合は、あえて質問してもらう想定も大事です(野球に例えるなら、打たせて取る、というイメージ)。悪例で説明すると、所々に変なデータや情報が残っていると、それが気になって本質ではない部分で質問されてしまいます。そこに本当に本質的な意味があるなら、そこに布石を打っておけばよいですが、大概の場合は、些細な話です。よく見直して、変な質問がこないか?を確認する。
- 読後感への対応 誰しもが発表を聞いたら、何か一つでもプラスになったと思いたいものです。聞いた後に、聴衆に良いものが残せるように意識しましょう。色々あっても、最後はポジティブな括り方を意識しましょう。。苦労はしたけど、特に良い成果は出せなかった、、という場合もあるでしょうが、それを聞いた人が自分も頑張ろう!という希望を持ち帰ってもらうことは可能かもしれません。
やや抽象度が高いですが、共通しているのは、聴衆へのおもてなしの意識かと思います。具体的な例は下記のダメな例で少し細かく紹介します。
発表資料を作成するときに絶対にやめたほうがよい事
何が良いかは人次第ですが、ダメなのは共通していると思います(個人的な感想)。こっちは気がつくと増えるので、10個以上になります。
- 階層性無しの箇条書き ページのタイトルがあって、中身は階層性のない箇条書きだけの場合。箇条書きの中身を掘り下げて考えてみると、例えば、「前提条件」「初期条件」「特筆事項」など、何か見出しや小見出しになるべき項目があるはずなので、そのような階層性の上位概念のキーワードを見出しや小見出しとして出して、その下に箇条書きのコンテンツを入れておく。
- 背景と文字が重なる 背景と文字が被る場合は、文字に2色使えばよいですが、一色だとうまく背景と被らないようにする必要あります。文字の縁取りなどを一読ください。ただし、これをやるとpptが重くなります。なので、文字のある部分の背景は一色にしておくのが無難です。
- 引用無しの図 今時は引用先がない図は著作権の問題になります。読まなくてもよいですし、小さくてもよいですが、必ず情報源は出しましょう。
- 文章や文字が多すぎる スライドが全部文字くらいに文字だらけだと、スライドを使ってる意味は何ですか?と思われます。文字と絵をバランスよく使って、説明をわかりやすくしましょう。
- 図の読み方がわからない 図の説明は、図の近くにおきましょう。図の説明がどこか別の場所にあると、その情報と図を結びつけるのがパッとわからずに誤読されます。
- 初出なのに説明無しの専門用語 いきなり専門用語の略記が出てくるパターン。専門用語は論文と一緒で、最初はスペルアウトして説明しましょう。文脈や聴衆にも依存しますが。
- アンバランスな図 同じような情報なのに、範囲が微妙に違ったり、置き方がアンバランス出会ったりする場合。同じものは同じスケールで表示。逆に、違うのは、違うのがわかるように、明記する。
- バラバラのスタイル 下線有無、フォントのサイズ、強調フォント、矢印、箇条書き、スタイルの役割分担がバラバラな場合はかなり読みにくい。それぞれの役割を決めて、一貫してつかおう。
- 文脈無し やったことが次々に登場してくるだけのパターン。研究の流れや文脈を意識すること。
- 無駄な改行 ちょっと文字数が多くて、2行になる場合など。1行で入るなら1行で入れる。2行以上になるなら、改行の場所に注意して、文意がきれないようにする。
- ネガティブなまとめで終わり 「うまくいかなかった。」で終わってしまう場合。研究はうまくいかなかった、では終わりません。なぜどうしてうまくいかなかったのか、次どうすれば良いかを議論して、必ずポジティブな言い回しで括りましょう。
- 最後の「まとめ」でまとまってない 発表の最後の「まとめ」というページは、そのページをみれば発表の全体がわかるようにしてきましょう。時間なければそのページが映し出されつつけるので、読まれる時間はたくさんありますし、途中からしか聞けなかった人も助かります。
- タイトルなし タイトルなしのページは避けましょう。聴衆に道しるべを提示した方がよいです。タイトルの頭が同じで中身が擦り変わるページが連続するのは避けましょう。ただし、全画面で画像や動画を見せる、というページはタイトルがなくてもよい場合があります。「見せるページ」と「読ませるページ」の使い分けになります。
どれも細かいことですが、正しい情報を出せているかももちろん大事です。特に、昨今は情報の量は膨大ですが、その中から正しい情報を選別するのが難しくなっています。多角的に真偽を検証して、間違えた情報が入らないように気をつけましょう。
ポスター発表の場合
発表と違って、ポスターは固定客がいない点が大きな違いです。まずは立ち止まってもらえるかどうかが重要で、中身が素晴らしいだけではなく、パッとみた時の印象で人をグッと惹きつける力も大切になります。
が素晴らしくまとまってますが、読む人の動線を意識して作成する、のが一番の基本になります。N型の動線が一番典型パターンなので、無難なのはこれです。学会だと結論は最後に書くことが多いとは思います。
ポスター会場にポスターが並ぶと、背景が白だと弱い印象になります。街に溢れる企業さんのポスターは上手ですので、背景色はスライドの場合よりも、意識して考えるとよいです。
考え方については、
が素晴らしくまとまっていると思います。まさにその通りで、
- 文字を少なく、絵・図を多く (一目で内容が飛び込んでくると一番良い)
- 文字を大きく (あるいは、フォントは小さくても行間を開けるだけでも印象が違います)
- 色に統一感を出す (統一感あっても、弱い色はポスター会場では目立たないことにも注意)
- 3分以内で概要を説明する練習 + それに即したデザイン
が重要です。
【重要】発表資料の前に必要な「研究者の基礎姿勢」
上記のテクニックは実はそこまで重要ではなく、発表資料というのは、自分の理解の総まとめであり、研究に対する姿勢そのものの鏡であって、研究に対する姿勢の方が重要です。
ところが近年、
- 「理由はわからないけど、AI にこう書いてあったので……」
- 「XX に書かれていました」
- 「ネットでそう言ってました」
という“主体性ゼロの回答”が急増しています。これは科学の世界では通用しませんし、自分の成長も止まってしまいます。
ここでは、資料を作る以前に、研究者だけでなく学生さんにも必ず身につけてほしい姿勢を整理します。
1. 主体的にテーマを徹底的に調べること
●「誰かが言っていた」ではなく「なぜそうなのか?」を自分で掘る
研究は「わからないことを、わかるようにする」営みです。つまり、主体的に調べる姿勢そのものが研究の核心です。
- 主要論文を読む
- レビュー論文で歴史と全体像を押さえる
- コアとなる理論をテキストで再確認する
- 実験・観測の原理まで遡る
この“徹底調査”がなければ、発表内容は見せかけだけの薄いものになります。
「なぜこの現象が起こるのか?」を、自分の言葉で語れるか? これが準備段階での最重要ポイントです。
2. 多様な意見を踏まえて協力的に調査すること
●「自分の考え」+「他者の視点」を両方持つ
研究は孤独な営みであると同時に、共同作業でもあります。一人で考えると理解の盲点が必ず残ります。
- 同期・先輩との議論
- 研究室ミーティングでのフィードバック
- 違う分野の人がどう捉えるか
- 観測屋・理論屋で視点がどう変わるか
これらは、自分が気づけない誤解・誤読を炙り出す“外部検証” になります。
「一人で調べて終わり」は研究ではありません。複数の視点を統合して、初めて理解が立体化します。
3. 批判的に自分の研究を分析・内省すること
●自分の研究を“他人として”見直す
研究には必ず弱点があります。それを直視できるかどうかが成長の分岐点です。
- 本当にその仮定で良いのか?
- 観測データの質は?
- 系統誤差は?
- 別の理論で説明できてしまわないか?
- 自分が見たい結論に寄せてしまっていないか?
「自分の穴を自分で見つける」姿勢を持つ人は伸びます。
逆に、弱点を隠そうとする人、弱点の存在に気づいていない人は注意が必要です。
4. 「理解したつもり」になっていないか批判的に点検する
●“理解したつもりゾーン”を必ず潰す
学生に非常に多いのが、
A. 用語は知っている
B. なんとなく理解した気がする
C. 説明はできない
という状態です。
これは研究では「理解とは呼ばない」ので、必ず次を確認してください:
- 1枚の紙に要点を書いて、自分の言葉で説明できるか
- 数式のどこが本質か、どこが技術的操作か説明できるか
- 説明した内容に「反例」を挙げられたとき答えられるか
理解とは、“説明可能であること”です。 できないなら、まだ理解していません。
5. 理解していない数式・文献を放置しない
●「読めた気がする」が最も危険
最近多いのが、“論文を読んだ気になっているだけ” のケースです。
- 証明の途中を飛ばして理解したつもり
- 物理量の意味を追わずに式だけ追っている
- 重要な仮定を見落としている
- 論文間の前提の違いに気づいていない
数式というのは、物理現象を厳密に言語化したものなので、理解していない数式をそのまま発表に使うと必ず破綻します。
式の意味・仮定・限界を、自分で解釈し直すことが必須。
6. 「XXに書いてあります」は答えではない
●場所ではなく「理由」を答える
質問に対して、
- 「この論文に書いてあります」
- 「教科書の 3 章にあります」
という返事は “答えになっていない” ということを理解してください。
研究の世界では、
“なぜそうなのか”を説明することが回答。“どこに書いてあるか”は参考情報にすぎない。
場所を示すだけでは「理解していない」とみなされます。
7. 「ChatGPTが言ってました」も回答ではない
●AIは“情報源”であって“理由を与えるもの”ではない
AIは便利ですが、次のように使う人が急増しています:
「理由はわかりませんが、AIがこう言ってました」
これは危険で、研究として成立しません。
AIは、
- 文献の前提を区別しない
- 近似の条件を説明しない
- 間違うこともある
- “あなたが理解したかどうか”を判断してくれない
つまり、答えではなく“きっかけ”にしかならないのです。
学生に求められるのは、
AIの出力を「咀嚼し、自分の言葉で説明できるレベルまで持っていくこと」。
これができるならAIは強力な味方。できないならAIは“誤解を加速させる装置”になります。
まとめ:発表前に問うべき唯一の質問
最後に、準備段階で自分に問い続けてほしい質問があります。
「この内容を、自分の言葉で、根拠を示しながら説明できるか?」
できるなら、あなたは発表の準備ができています。できないなら、スライド作り以前の段階に戻る必要があります。
発表とは、自分がどこまで理解し、どこまで掘り下げているかを示す“研究者としての作品”です。主体性と批判的思考こそが、研究を研究たらしめる唯一の基盤です。
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