はじめに
音速は媒質の性質によって異なり、その計算には弾性率や密度が重要です。本記事では、空気中と完全電離プラズマ中の音速を計算し、その結果をプロットして比較します。
音速の基本式
音速は、媒質の密度と弾性率に依存します。一般的な波動方程式の解から、音速 $ c $ は以下で表されます:
c = \sqrt{\frac{K}{\rho}}
ここで、
- $ K $: 媒質の弾性率(体積弾性率)
- $ \rho $: 媒質の密度
さらに、具体的な媒質に対する音速の式は以下のように定義されます。
空気中の音速
理想気体の空気において、弾性率 $ K $ は $ \gamma P $ で与えられます。また、状態方程式 $ P = \frac{\rho R T}{M} $ を用いると、空気中の音速は次式で表されます:
c_{\text{air}} = \sqrt{\frac{\gamma R T}{M}}
ここで、
- $ \gamma $: 比熱比(空気では約 1.4)
- $ R $: 気体定数(8.31 J/(mol$\cdot$ K))
- $ M $: モル質量(空気では約 28.97 g/mol)
- $ T $: 温度(K)
プラズマ中の音速
プラズマの場合、粒子ごとの質量 $ m $ を考慮する必要があります。この場合、弾性率は $ \gamma k_B T $ で表され、音速は次式で計算されます:
c_{\text{plasma}} = \sqrt{\frac{\gamma k_B T}{m}}
ここで、
- $ \gamma $: 比熱比(完全電離プラズマでは約 5/3)
- $ k_B $: ボルツマン定数($1.38 \times 10^{-23}$ J/K)
- $ m $: 粒子質量(kg)
- $ T $: 温度(K)
空気とプラズマの音速式の等価性
さきほどの空気中の音速式とプラズマ中の音速式は一見異なりますが、実際には等価です。
証明
空気中の音速式 $ c_{\text{air}} $ の $ R/M $ を分解します。
R = N_A k_B,
M = N_A m,
\frac{R}{M} = \frac{N_A k_B}{N_A m} = \frac{k_B}{m}.
これにより、空気中の音速式はプラズマ中の音速式と同等であることがわかります。
Pythonコードで音速を計算
以下のコードを使って、空気中とプラズマ中(陽子と鉄イオン)の音速を計算し、温度との関係をプロットします。
import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
def sound_speed_air(T):
gamma = 1.4 # 比熱比
R = 8.31 # 気体定数 (J/(mol·K))
M_air = 28.97e-3 # 空気のモル質量 (kg/mol)
return np.sqrt(gamma * R * T / M_air)
def sound_speed_plasma(T, m):
gamma = 5/3 # 比熱比
k_B = 1.38e-23 # ボルツマン定数 (J/K)
return np.sqrt(gamma * k_B * T / m)
# 温度範囲の設定
T_values = np.logspace(1, 8, 100) # 温度を 10K から 10^8K まで
# 定数の設定
mp = 1.67e-27 # 陽子の質量[kg]
me = 9.11e-31 # 電子の質量[kg]
Z = 26 # 原子番号 for Fe
# 音速の計算
v_air = sound_speed_air(T_values) # 空気中の音速
v_proton = sound_speed_plasma(T_values, mp) # 陽子の音速
v_iron = sound_speed_plasma(T_values, Z * mp) # 鉄イオンの音速
v_electron = sound_speed_plasma(T_values, me) # 電子の音速
# プロット
plt.figure(figsize=(10, 6))
# 空気中の音速
plt.plot(T_values, v_air, label="Air", linestyle="--", linewidth=2)
# 陽子の音速
plt.plot(T_values, v_proton, label="Proton", linestyle="-", linewidth=2)
# 鉄イオンの音速
plt.plot(T_values, v_iron, label="Iron Ion", linestyle="-.", linewidth=2)
# 電子の音速
plt.plot(T_values, v_electron, label="Electron", linestyle=":", linewidth=2)
# グラフの設定
plt.xscale("log")
plt.yscale("log")
plt.xlabel("Temperature (K)")
plt.ylabel("Sound Speed (m/s)")
plt.title("Sound Speed vs Temperature")
plt.legend()
plt.grid(which="both", linestyle="--", linewidth=0.5)
plt.tight_layout()
plt.savefig("soundspeed_with_electron.png")
plt.show()
結果のプロット
-
空気中の音速
- 常温(約 300 K)では約 340 m/s。
-
プラズマ中の音速
- 陽子(軽い粒子)の音速は、鉄イオン(重い粒子)よりも、sqrt(26)倍なので約5倍ほど高い。電子はもっと軽いのでもっと早い。
熱的広がりの公式についての解説
1. 熱的広がりとは?
プラズマや高温ガスにおいて、粒子の速度分布は温度に依存します。特に、熱的運動によって粒子が持つ速度の広がりを熱的広がりと呼びます。これは、天体物理や高エネルギー物理において、ガスのスペクトル線の幅や運動エネルギーを推定する際に重要な概念です。
2. 熱的広がりの公式
熱的広がりの速度 $v$ は以下の式で表されます:
$$
\frac{v}{c} = \sqrt{\frac{2kT}{A m_p c^2}} = \sqrt{\frac{2}{A}} \times \sqrt{\frac{kT}{m_p c^2}}
$$
ここで、
- $v$ :熱的運動による速度
- $c$ :光速
- $k$ :ボルツマン定数
- $T$ :温度(K)
- $A$ :質量数(元素ごとの陽子と中性子の合計)
- $m_p$ :陽子質量
この式は、粒子の持つ熱エネルギーとその質量の関係を示しています。
3. 鉄(Fe)の例
鉄(Fe)の質量数は約 $A = 56$ なので、鉄イオンの熱的広がりの速度は以下のように計算できます。
たとえば、プラズマ温度が $T = 10^7$ K の場合:
$$
\frac{v}{c} = \sqrt{\frac{2}{56}} \times \sqrt{\frac{k \times 10^7}{m_p c^2}}
$$
ここで、
- $k = 1.38 \times 10^{-23}$ [J/K] = $8.625 \times 10^{-5}$ [eV/K]
- $m_p c^2 = 938$ [MeV]
を代入すると、
$$
\frac{v}{c} = \sqrt{\frac{2}{56}} \times 0.000958910 ...
$$
$$
\frac{v}{c} \approx 1.81 \times 10^{-4}
$$
つまり、鉄イオンの熱的速度は光速の約 0.018% (=54km/s)になります。
さらに、He-like Fe の Ka 線(6.7 keV)の場合、ドップラー効果によるスペクトル線の熱的広がり $\Delta E$ は以下の式で求められます。
$$
\Delta E = E_0 \times \frac{v}{c}
$$
ここで、$E_0 = 6.7$ keV なので、
$$
\Delta E = 6.7 \times 10^3 \times 1.81 \times 10^{-4} = 1.2 \text{ eV}
$$
したがって、He-like Fe の Ka 線の熱的広がりは約 1.2 eV になります。
4. 熱的広がりと音速の関係
熱的速度と音速の関係を考える際には、音速 $c_s$ を次のように定義します:
$$
c_s = \sqrt{\frac{\gamma kT}{A m_p}}
$$
ここで、$\gamma$ は比熱比であり、単原子気体では $\gamma = 5/3$ です。
熱的速度 $v$ との関係を考えると、
$$
\frac{v}{c_s} = \sqrt{\frac{2}{\gamma}}
$$
したがって、
- 熱的速度は音速と同程度のオーダーになるが、厳密には音速の $\sqrt{2/\gamma}$ 倍である。
- つまり、音速と熱的速度は密接に関連しており、プラズマのダイナミクスを理解する上で重要な役割を果たす。
5. まとめ
- 熱的広がりの速度は、温度と質量数に依存し、$v/c$ の形で表される。
- 鉄のような重元素では、軽元素に比べて熱的速度が小さくなる。
- 熱的広がりと音速は関係しており、音速の $\sqrt{2/\gamma}$ 倍が熱的速度に対応する。
- He-like Fe の Ka 線(6.7 keV)の熱的広がりは 約 1.2 eV となる。
この関係は、X線スペクトルの幅や衝撃波の伝播速度を評価する際に重要になります。
まとめ
温度と音速の関係を忘れたときにメモとして書いてみました。