はじめに
最近、「レボリューション・イン・ザ・バレー ―開発者が語るMacintosh誕生の舞台裏」という本を購入しました。これは、Macintoshの開発当初からいた Andy Hertzfeld さんが当時を振り返ってまとめたものです。
元記事の一部は英語で読むことができます。
「OK」ボタンの誕生
この記事の中で、Lisa のユーザーテストをしていた時に「Do It(実行)」と「Cancel(取り消し)」のラベルが付いているダイアログボックスが表示された時点で、数人のユーザーが「Do it(実行)」をクリックするべきところを、「Cancel(取り消し)」をクリックしてしまうことに設計者が気づきました。何が問題なのかなかなか分からなかったのです。
そのうち一人のユーザーがとりわけダイアログボックスに困惑して、少し腹を立てている様子だったため、そのユーザーに何が問題なのか聞いたところ、彼は「俺は間抜けじゃない、なぜこのソフトウェアは人を間抜け扱いするんだ?」と答えました。
彼は「Do It」がフォントのせいで間のスペースがあることに気が付かず、かつ「I」が小文字の「l」に見えたため、「Dolt(間抜け)」と読み、気分を害していたのです。
少し検討してから、肯定の確認のラベルを「OK」に変更しました。「OK」は口語的すぎるという理由で、当初は敬遠されていたものだったのです。
しかし、ラベル変更後に問題は起こらなくなりました。
Lisa 以前
Lisa 以前はどうだったのか気になり調べてみました。
Xerox Alto(1973年開発)
世界初のパーソナルコンピュータの一つであり、マウス、ビットマップディスプレイ、GUI の原型(ウィンドウ、アイコン、マウスポインタ)など、多くの革新的な機能を備えていました。しかし、当時の GUI はまだ発展途上で、モーダルなポップアップウィンドウ(=現代のダイアログボックスのようなもの) のようなインタラクションは、一般的ではありませんでした。
Xerox Star(1981年)
世界初の商用GUIパソコン「Xerox Star」では、ユーザーの操作を確認・修正させるために、モーダルウィンドウ(後のダイアログボックス)が導入されました。
たとえば、ファイルを削除する際には「Are you sure?」といったメッセージが表示され、「Confirm」「Cancel」といった選択肢が提示されていました。
また、Xerox Starのプロパティシートでは「Do It」というラベルが使われていたとも言われています。
「OK」はなぜ選ばれたのか?
1. 英語としての「OK」の特性
「OK」は、英語圏で非常に口語的でありながらも、肯定・同意を示す言葉としてきわめて広く使われています。
- Yes より柔らかく
- Accept より自然で
- Proceed より簡潔
つまり、「とりあえず先に進めたい」という心理にマッチしていたのです。
2. UI上の制約とデザイン的利点
- 短い(2文字)
- あらゆる文脈に応用可能(保存、送信、確認……)
- 国際化しやすい(多くの言語で「OK」は通じる)
3. 他の案も存在した
実は初期のGUIでは、「Do It」「Confirm」「Accept」などのラベルも試されていました。
しかし、「Do It」は命令口調に聞こえる上、やや曖昧。「OK」のような柔らかさと汎用性には勝てなかったようです。
「OK」は本当にベストなのか?
現代のUXガイドライン(Apple Human Interface GuidelinesやGoogle Material Designなど)では、できる限り具体的な動詞をボタンラベルにすることが推奨されています。
たとえば:
- "Save"(保存)
- "Delete"(削除)
- "Send"(送信)
これは、「ユーザーがその操作の意味を即座に理解できるようにする」ためです。
つまり、「OK」は意味が曖昧であるという批判も、近年では無視できなくなってきています。
最後に
「OK」は短く、使いやすく、世界中の人に受け入れられてきたボタンラベルです。
しかし、だからこそ、その背後にある「何をOKしたのか?」という意味がぼやけがちになります。
アプリやWebサービスをデザインするとき、「本当にこのボタンは「OK」でよいのか?」を今一度問い直してみるのもいいかもしれませんね。