はじめに
本記事では、オンプレミスのサーバをクラウドへ移行する際に利用できる、Amazon Web Services(以下AWSと略す)、Azure、Google Cloud(以下GCPと略す)の標準の無償移行ツールの概要をご紹介します。
最近ますますクラウドの利用が増えてきています。オンプレで稼働しているサーバ群をクラウドへ単純に引っ越しするような「クラウドリフト」と呼ばれている移行方法があります。クラウドリフトの基本的な考え方は、オンプレで稼働しているサーバを出来る限り変更せずに、そのかわりに短期間かつ工数を出来るだけ少なくクラウドへ移行する、こんな移行方法です。クラウドとオンプレのハイブリッド構成とした場合、クラウドとオンプレ間のネットワークを超えたデータ連携となるため、リアルタイムなデータ連携は難しいです。
クラウド活用によるメリットを早期に得るために、次のようにクラウド活用を進めるシナリオもあります。
ステップ1:オンプレからクラウドへ単純移行する(クラウドリフト)
ステップ2:クラウドネイティブなサービスに部分的に置き換える(クラウドシフト)
ステップ3:クラウド上で既存データを活用しクラウドネイティブな新サービスを開発する
このステップ1のクラウドリフトの手間を軽減し、短時間で安く移行できるように、各クラウドベンダーは無償の移行ツールをそれぞれ用意しています。3rd Party製の移行ツールは、1サーバ分のライセンスで数万円する例もあります。100台規模となると数百万円となるため、無償の移行ツールは無視出来ない存在だと思います。
それでは、最初に移行ツールの移行方式について説明します。その次に各ツールの紹介をします。
移行方式
移行ツールは、移行対象へのエージェントの有無により「エージェントレス」と「エージェントベース」の2つの方式に分類できます。
各ツールによって制限事項等があるため、移行先クラウドやオンプレ側の制約等を確認のうえ、移行方式を選択するのが良いと考えています。
各クラウドの移行ツール
各クラウドには、VM単位に手動でVMをインポートする方法があります。しかし、ここでは効率的に複数サーバの移行が管理できるツールの特徴を紹介します。次の表には移行先クラウドが無償で提供している移行ツールをあげています。注意事項としては、移行ツール自体は無償ですが、ツールが利用するVMなどのリソース費用は通常通り発生します。
それでは下表のツールについて紹介していきます。
CloudEndure Migration
これは元々CloudEndure社が持っていた有償のエージェントベースのAWSへの移行ツールです。AWS社が2018年にCloudEndure社を買収し、2019年からAWSより無償提供されています。
特徴は、クラウド上のコンソール、少ない手順でのエージェント導入、数十分程度のダウンタイムによる本番切替が可能な点です。特に短いダウンタイムという点が、多数のサーバを同時移行する際には大きなメリットとなります。
以下にCloudEndureの移行全体の概要図を示しています。
CloudEndureを利用出来るかどうかは最初に次の点を確認することをお勧めします。
- インターネット上のコンソールへの接続が許容できること
- インターネット接続時にプロキシを経由する場合、プロキシ側で認証無しにできること
- 移行元サーバへエージェントのインストールが許容できること
他にもいろいろな制限があります。詳しくは以下をご確認下さい。
Application Migration Service
このApplication Migration Service(AWS MGNと略す)は、2021年5⽉から東京リージョンにて利⽤可能になりました。このサービスはCloudEndure Migration と同様の機能を提供しますが、大きな違いはAWS マネジメントコンソールから利⽤できます。さらに、AWS CloudTrail、Amazon CloudWatch、AWS Identity and Access Management (IAM) などの他の AWS のサービスとのシームレスな統合が可能です。
また、インターネットに接続せずに利用することも出来ます。詳しくは以下をご確認下さい。
https://aws.amazon.com/jp/application-migration-service/
Server Migration Service
このServer Migration Service(以下SMSと略す)は、AWSへエージェントレスで移行するツールです。仮想マシンを VMware vSphere、Windows Hyper-Vから AWS に移行できます。
特徴はやはりエージェントレスという点です。移行用アプライアンスサーバをたてることで、移行元の仮想マシンを変更せずにクラウドへ移行できます。増分のスナップショットをベースとしたレプリケーションによる移行となります。
以下にSMSの移行全体の概要図を示しています。
詳しくは以下をご確認下さい。
https://aws.amazon.com/jp/server-migration-service/
Azure Migrate(エージェントレス)
Azure Migrateは、他のツールと違って、アセスメントツールと仮想マシンの移行ツールの2種類のツールが含まれています。また、移行ツールもエージェントレスとエージェントベースの2種類あります。
エージェントレスの移行ツールの特徴は、移行用アプライアンスサーバをたてることで、移行元の仮想マシンを変更せずにクラウドへ移行できます。VMwareの場合、スナップショットと変更ブロック追跡(CBT)テクノロジを利用した増分レプリケーションによる移行となります。移行用アプライアンスサーバは、アセスメントツールも兼ねているためアセスメントを事前に実施することも可能です。Azureのサービスと連携するためインターネット接続が必須です。
以下にエージェントレスの場合の移行全体の概要図を示しています。
詳しくは以下をご確認下さい。
https://azure.microsoft.com/ja-jp/services/azure-migrate/
Azure Migrate(エージェントベース)
Azure Migrate(エージェントベース)の移行ツールの特徴は、移行用エージェントを移行元の仮想マシンへインストールすることが必要なことです。また、レプリケーションアプライアンスと呼ぶ、データを中継し、変換するサーバが別途必要です。このレプリケーションアプライアンスを経由しクラウドへ移行できます。Azure側ではAzure Site Recoveryサービスのバックエンド機能が利用されます。Azureのサービスと連携するためインターネット接続が必須です。
以下にエージェントベースの場合の移行全体の概要図を示しています。
詳しくは以下をご確認下さい。
https://azure.microsoft.com/ja-jp/services/azure-migrate/
Migrate for Compute Engine
Migrate for Compute Engine(M4CEと略す)は、VMware上の仮想マシンを GCP上へエージェントレスで移行するツールです。元々はイスラエルのVelostrata社のソリューションです。Google社が2018年にVelostrata社を買収し、現在はGCPへの移行ツールとして無償提供されています。
特徴は、オンプレ側とGCP側の両方にアプライアンスサーバを構築する必要がある点です。下図のようにオンプレ側に2種類、GCP側に2種類のアプライアンスを構築する必要があります。また、VPNもしくはInterconnectと呼ばれる専用線による接続が必須な点、Waveと呼ばれる複数の仮想マシンを一括移行が前提である点が特徴です。
以下にM4CEの移行全体の概要図を示しています。
詳しくは以下をご確認下さい。
https://cloud.google.com/migrate/compute-engine
おわりに
今回6種類の各クラウド標準の無償移行ツールを紹介しました。これらの移行ツールは大きく2種類の移行方式がありました。また、ツール毎にサポートしている移行元OSの種類やバージョンが異なります。同様にサポートしているESXやHyper-Vのバージョンが異なります。事前にサポートOSや制限事項を確認しておくことをお勧めします。特にオンプレ側のインターネット接続要件は、重要な検討ポイントだと認識しております。オンプレ側ファイアウォールの設定変更に伴い、ネットワーク管理者との調整に時間がかかったり、セキュリティポリシー上の理由で穴を開けることが出来ない場合も実際にありました。
クラウドのメリットを早く得るためのクラウドリフトを、移行ツールを使うことにより効率的、短期間に終わらせてはどうでしょうか。また、今回ご紹介した機能は随時変更される可能性があります。最新情報は公式ドキュメントを参照するか、または各クラウドベンダーへお問い合わせ下さい。
最後まで読んで頂きありがとうございました。皆様の移行検討が少しでも楽になれば幸いです。
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