はじめに
エンジニア歴1年の私が、toB(法人向け)開発からtoC(一般消費者向け)サービス開発へキャリアチェンジした際に感じた「ギャップ」と「学び」をまとめます。
経験が浅いため、当たり前のことや偏った内容もあるかもしれませんが、これから同じようにtoBとtoCの間でキャリアを考えるSES・フリーランスのエンジニアの方々にとって、少しでも道しるべになれば幸いです。
※本記事では、社内向けツール開発の経験も「toB」の文脈に含めてお話しします。
この記事で伝えたいこと
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toBとtoCにおける開発の「考え方」の違い
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障害発生時やUI/UX設計で意識すべき観点の違い
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これからキャリアチェンジする方が身につけるべきスキルセットのヒント
私のキャリア背景
準委任契約で以下の3つの案件を経験しました。
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toB(社内): 顧客・契約情報管理システム(CRM)開発
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toB: 倉庫管理システム開発
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toC: 一般ユーザー向けコンテンツ配信サービス開発
約10ヶ月間のtoB向け開発を経て、初めてtoCサービスの設計・開発に携わったことで、多くの違いに気づきました。
【比較】toB vs toC 開発で感じた5つのギャップ
ここからは、私が特に大きな違いを感じた5つのポイントについて、比較しながら解説します。
観点 | toB向けサービス (管理者ツール) | toC向けサービス (一般ユーザー向け) |
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① 障害の影響 | 業務の停止 (契約違反、人件費損失) | 事業の機会損失 (売上減、ブランド毀損) |
② ユーザー | 特定 (PCリテラシーが高い) | 不特定多数 (リテラシーが多様) |
③ UI/UX | 機能性・正確性 (業務効率) | 直感性・体験 (利用継続率) |
④ パフォーマンス | 予測可能な負荷 | 予測困難なスパイク (スケーラビリティが重要) |
⑤ ログの目的 | 監査・セキュリティ (誰が何をしたか) | 分析・マーケティング (ユーザー行動の可視化) |
1. 障害発生時の影響範囲と求められる対応
障害がビジネスに与えるインパクトの「質」が大きく異なります。
toB: 業務停止による「コスト増」と「契約問題」
障害が発生すると、それを利用して業務を行う企業の活動がストップします。
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影響: CRMが停止すればコールセンターが機能せず、倉庫システムが止まれば出荷ができません。これは直接的な売上には見えなくても、業務遅延による人件費や残業代という形でコスト(原価)に跳ね返ってきます。
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SLAの存在: 企業間契約では SLA(Service Level Agreement) が定められていることが多く、障害時間が契約違反となり、損害賠償に発展するリスクも孕んでいます。
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対応: 運用でのカバー(例: 一時的に手作業で対応)も可能ですが、根本解決までの間、顧客の業務を止めないための暫定対応と正確な情報連携が強く求められます。
toC: 機会損失とブランドイメージの低下
ユーザーがサービスを利用できなくなることは、直接的な売上減に繋がります。
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影響: 特に有料会員向けのサービスでは、「お金を払っているのに使えない」という状況は致命的です。無料ユーザーであっても、サービスへの信頼を失い、二度と戻ってこないかもしれません(チャーン)。
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拡散のリスク : 現代では、障害はすぐにSNSで拡散され、ブランドイメージを大きく毀損する(炎上) リスクがあります。
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対応: 運用でのカバーはほぼ不可能です。即時復旧が最優先されるため、カナリアリリースやフィーチャーフラグといった、障害の影響範囲を限定し、問題を迅速に切り戻すための技術が非常に重要になります。
2. ユーザー数・層の違いとスケーラビリティ
ユーザーが「誰」で「どれくらいいるのか」という前提が、設計思想を大きく左右します。
toB: 「特定多数」のユーザーと複雑な権限管理
ユーザーは企業の従業員など、ある程度特定された集団です。
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ユーザー像: PCでの業務利用が前提で、ITリテラシーも一定レベルにあることが多いです。
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設計の勘所: ユーザー数は比較的予測しやすいです。しかし、「管理者」「一般社員」「代理店」など、複雑な役割(Role)に応じた権限設計が求められます。これは有料/無料の区分とはまた違った複雑さがあります。
toC: 「不特定多数」のユーザーと急激な負荷変動
ユーザーは文字通り「誰でも」あり、その数は時に爆発的に増加します。
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ユーザー像: 老若男女、様々なITリテラシーのユーザーが、多種多様なデバイス(スマホ, PC, タブレット)からアクセスします。
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設計の勘所:
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有料/無料会員: 課金によって利用できる機能を分けるペイウォールの実装や、サブスクリプション管理の仕組みが重要になります。
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スケーラビリティ: メディアで紹介されたり、SNSで話題になったりすると、アクセスが数倍〜数十倍に急増(スパイク)することがあります。この負荷に耐えられるよう、オートスケーリングや負荷分散、キャッシュ戦略といったインフラ設計が極めて重要です。
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3. UI/UX設計で優先されること
どちらも「使いやすさ」は重要ですが、その「質」が異なります。
toB: 「効率性」と「正確性」を追求するUX
日々の業務で繰り返し使われるため、派手さよりも「いかにミスなく、速く操作できるか」が重視されます。
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考慮点:
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情報一覧性: 大量のデータを一覧で表示し、強力な検索・ソート機能を提供する。
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入力の簡略化: 複雑なフォームでも、入力ミスが起こらないようなバリデーションや、キーボードショートカットを充実させる。
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ドメイン知識の塊: 「親子テーブルで整合性が取れない値が登録されてしまう」といった問題は、表面的なバリデーションだけでなく、その業務(ドメイン)を深く理解した上でのUX設計で防ぐ必要があります。利用者が何も考えずに操作しても、正しいデータが登録される状態が理想です。
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toC: 「直感性」と「心地よさ」を追求するUI/UX
ユーザーはマニュアルを読みません。初めて触ったときに「楽しそう」「使いやすそう」と感じてもらうことが、利用継続の鍵です。
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考慮点:
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クロスブラウザ/デバイス対応: あらゆる環境で見え方や動作が崩れないように対応が必要です。(MDN Web DocsやCan I use...での確認は必須)
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A/Bテスト: ボタンの色や文言を少し変えるだけで、コンバージョン率が大きく変わることがあります。データに基づいてUIを改善していくA/Bテストの文化が根付いています。
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アクセシビリティ(a11y): 高齢者や障がいを持つ方など、多様なユーザーが快適に使えるような配慮が、より一層求められます。
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4. ログの利用目的の違い:監査から分析へ
同じ「ログ」でも、その活用目的が全く異なります。
toB: 「監査証跡(Audit Trail)」としてのログ
セキュリティとコンプライアンスの観点が非常に重要です。
- 目的: 「いつ、誰が、どのデータに、何をしたか」を正確に記録し、不正操作の防止や、問題発生時の原因追跡に利用します。内部統制やセキュリティ基準を満たすための**「守り」のログ**です。
toC: 「プロダクト改善」のための行動ログ
ユーザーの行動は、サービスを成長させるための宝の山です。
- 目的: 「どの機能がよく使われているか」「ユーザーはどこで離脱しているか」といった行動データを収集・分析し、次の施策や機能改善に繋げます。Google AnalyticsやBigQueryといった分析基盤と連携させ、データドリブンで仮説検証を繰り返す「攻め」のログです。マーケティング視点が色濃く出ます。
最後に:これから挑戦するエンジニアへ
toBとtoC、どちらが良い・悪いという話ではありません。それぞれに面白さと難しさがあります。
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toBの魅力: 複雑な業務ロジックを理解し、堅牢なシステムを設計する力。顧客の業務効率をダイレクトに改善できる達成感。
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toCの魅力: 最新技術に触れる機会が多く、自分の仕事が世の中の多くの人に影響を与えるダイナミズム。データを見ながら高速でPDCAを回すスピード感。
それぞれの面白さがあります、どこかで関わるプロダクトに活かせる方がいらっしゃる事を願っています。
文字だらけの記事となってしまいましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
この記事が、キャリアの一助となれば幸いです。