はじめに
本記事はS.E.シュリーヴ著「ファイナンスのための確率解析II」を読んでいてわからなかった部分に関する備忘録である。
理解が進んできたのでもっと整理された記事を再度作成する予定
今回はp.150~152にある4.5.3「方程式の導出」において、BSM方程式を導出する部分についてである。やや煩雑な計算をしており、それ自体にも意味があるのかもしれないが、自分には理解しきれない内容であったため、"BSM方程式を導出する"ことのみを目的として式変形を行う。
参考:AIcia
読んでいてそもそも理解できなかったので、こちらの動画を参考にした。数理系に関する解説動画をわかりやすく作成している、バ美肉 AIciaちゃんである。この動画では次の事項が付加的に説明されていた。
- 一物一価の法則
: 金融商品としての挙動が同一なら、中身が異なっていても価格は同一 - 複製ポートフォリオ
: 上の法則に従い、元の金融商品と同一視できるように作成された代替的な金融商品
以上の2つの概念に従うと
$$
(ヨーロピアン・コール・オプションの価値) = (複製ポートフォリオの価値)
$$
になるように左辺の価値を定めることで、ヨーロピアン・コール・オプションの価格決定を行う、というのがBSM方程式の気持ちである。
導出
それでは実際に導出していく。
まず、時刻$t$における株価が単位量あたり$S(t)$で表されるような株を考える。その確率微分方程式は
$$
dS(t) = \alpha S(t)dt + \sigma S(t)dW(t)\ \ \ \ (W(t): ブラウン運動)
$$
と書き表される。
この株についてヨーロピアン・コール・オプションを作成する。時刻$t$、株価$x$におけるヨーロピアン・コール・オプションの価値を$c(t, x)$と置く。
一方、この複製ポートフォリオとして、
- 株を$\Delta(t)$だけ保有する
- 残りを利率$r$で運用する
という金融商品を考える。このポートフォリオの価値を$X(t)$とおくと、その微分値は本書に示される通りの理屈から
$$
dX(t) = \left[rX(t) + \Delta(t)(\alpha - r) S(t)\right]dt + \sigma S(t)\Delta(t)dW(t)
$$
と書ける。
さて、ヨーロピアン・コール・オプション$c(t, S(t))$とその複製ポートフォリオ$X(t)$は一物一価の法則よりその価値は同一であった。そのため、$c(t, S(t)) = X(t)$が全ての時刻で成立している必要がある。$X(t)$についてはその微分として情報があるため、$c(t, S(t))$についてもその微分を計算し、二つを比較することでこの条件を書き表したい。$c(t, S(t))$の微分は伊藤・デブリンの公式より計算出来て、
$$
dc(t, S(t)) = \left[c_t(t, S(t)) + \alpha S(t)c_x(t, S(t)) + \frac{1}{2}\sigma^2 S^2(t)c_{xx}(t, S(t))\right]dt + \sigma S(t)c_x(t, S(t))dW(t)
$$
となる。この二つが一致することから、$dt, dW(t)$の係数比較を行って
$$
c(t, S(t)) = X(t)
$$
$$
c_t(t, S(t)) + \alpha S(t)c_x(t, S(t)) + \frac{1}{2}\sigma^2 S^2(t)c_{xx}(t, S(t)) = rX(t) + \Delta(t)(\alpha - r) S(t)
$$
$$
\sigma S(t)c_x(t, S(t)) = \sigma S(t)\Delta(t)
$$
が導かれる。三番目の式より
$$
\Delta(t) = c_x(t, S(t))
$$
が導かれ、これと一番目の式を二番目に代入することで
$$
c_t(t, S(t)) + \sigma S(t)c_x(t, S(t)) + \frac{1}{2}\sigma^2 S^2(t)c_{xx}(t, S(t)) = rc(t, S(t))
$$
が導かれる。この$S(t)$は確率過程であり、各試行で得られる任意の軌道である。これが成り立つためには、$S(t)→x$とした式が成り立っているべきであり、
$$
c_t(t, x) + \sigma xc_x(t, x) + \frac{1}{2}\sigma^2 x^2c_{xx}(t, x) = rc(t, x)
$$
となる。これが求めるべきBSM方程式である。
後はこれが$t=T$において、ヨーロピアン・コール・オプションの時刻$T$でのペイオフ(=収入)$(S(T)-K)^+$に一致するという境界条件を課して解けばよい。
理解が怪しいところ
1. 複製ポートフォリオの他の可能性
今回の導出における論理は
- ヨーロピアン・コール・オプション自体の価格(*)を算出することは困難
- 株+金利の金融商品の価値は微分方程式で詳しくわかっている
- これに(*)が一致するとして、(*)が満たすべき方程式が求まる
という流れだった。しかし2.において、他のタイプの金融商品を持ち出して来たら当然3.で求まる方程式も変わるはずである。
おそらく本書を読んでいる限りだと、先立って株+金利の金融商品が存在していて、そのリスクヘッジをするための(=失われたお金が補填されるような)商品としてヨーロピアン・コール・オプションを提案し、リスクヘッジできるようなオプションの値段を計算する手立てとしてBSM方程式を導出した、という流れなのだと思う。であれば
- 他のポートフォリオにはそれ専用の方程式が立つのか?
- であればなぜBSM方程式だけがこんなにも取り上げられているのか?
という部分がよくわかっていない。
2. リスクヘッジの"意義"
これはBSM方程式に限ったことではないが、金融工学の説明を聞いてよく出てくる「ヘッジする」ことの意義がよくわかっていない。よく出てくる例だと、円安になると損する商品を持っている時、それと同じだけ得する商品を保持しておくと大きく為替が変動した時にリスクを回避して投資することが出来る、という話がある。しかしこれでは差し引きゼロになってしまい、円高になった時にも儲けられないことになってしまう。今回の例でも$c(t, S(t)) = X(t)$としていることから差し引きゼロだろう。このようなことをして儲けられなくなってしまっては投資の意味が失われてしまうのではないか?と思っている。何かしら大きな勘違いをしていそうだ。
【追記】上の疑問への回答
1. そもそも"ポートフォリオ"の定義がそういうもの
この資料を読んだ。ありがとう京大.....
株は危険証券、一定の利率で運用するものは安全証券と呼ばれ、この組み合わせにより資産運用を行うのが"ポートフォリオ"というものであり、複製ポートフォリオの時刻tにおける値がオプションの価値になる、ということらしい。
2. (未勉強)
最後に
今回はBSM方程式の導出で詰まった部分を、他の資料を参考にしながら自分なりに飲み込んだ。金融的な意義がイマイチ掴めていないので、読み進めていくうちにわかっていったらいいなぁと思う。