この記事の概要
昨年、デザインに関する社内研修を実施し、その内容をQiitaでも共有してみたところ多くの反響をいただきました。
最近内容をアップデートして研修を実施する機会があったので、こちらも投稿してみます。
具体的な制作テクニックよりは抽象的な考え方がメインですが、デザイナーと一緒に働いている方や、デザインにも興味がある方のお役に立てるのではないか、と思っています。
自己紹介
私はQiitaでデザイナーをしている綿貫佳祐といいます。
2017年に新卒でエイチームに入社して、今年で6年目です。
普段の業務では、企画を考えたりUIを作ったりコードを書いたり。
割と幅広めにデザインに携わっています。
普段の業務以外だと、会社としての発信のデザイン監修する機会が多いです。
例えば、ロゴとかコーポレートカラーのような、会社として大事なグラフィック要素1。
これらが広報物内でどう使われているかのチェックなど。
こういったバックボーンをできるだけ活かすべく、現場での制作
と、会社全体としての資産
の両方の観点からお話します。
研修の目的
この研修の目的は大きく2つ。
- ビジネスパーソンの基礎としてのデザインを学んでもらう
- 会社や事業の資産としてのデザインを学んでもらう
ビジネスパーソンの基礎としてのデザインを学んでもらう
はじめに届けたいのが、ビジネスパーソンの基礎としてのデザインです。
デザイナーであるかどうかに関わらず、すべての職種の人に持っていて欲しいレイヤーまでをお話します。
研修カリキュラムの中にエンジニアリングやマーケティングもありますが、それらと同等に捉えてください。
デザインは「自分にはセンスがないから関係ない」と捉えられがちな領域です。
ですが、実際はそうではありません。
デザインと聞いてすぐに浮かぶのはグラフィック
2やファッション
、インダストリアル
3あたりでしょうか。
色々なジャンルがありますが、すべての中核を成すのは「いかに設計
されているか」です。
設計
をキーワードとして覚えていてください。
今日は何度も登場します。
会社や事業の資産としてのデザインを学んでもらう
もう1つ届けたいのが、会社や事業の資産としてのデザインです。
ただし資産といっても、デザイン
は基本的にB/Sには記載されません。
例えば商標登録されているロゴであれば無形固定資産ですが、今回伝えたいのはそういう話ではありません。
「あの会社が好きだ」「あの製品を何年も使い続けている」
そういう状況を作りたい場合、デザインが担える範囲は広いです。
にも関わらず、強く意識していなければ全く活かせません。
単にそこにあるだけで終わってしまいます。
私はインハウスデザイナー仕事をする以上、資産になるデザインを作りたいです。
そのため、今回の研修ではすぐに役立たないにも関わらず「資産としてのデザイン」について話をします。
取り上げない話題
研修の中で取り上げない話題はこちらです。
- 具体的なグラフィックやWebサイトの制作手順
- お洒落な見た目を作るテクニック
- UXやUIなど、それぞれの用語の意味
短期的に役立つ知識を届けようと思うと、こういった話をした方が効果的です。
それに研修の時間自体も楽しくなりやすいでしょう。
ですが、長い目で見てより意義のある講義にしようと考え、今回はばっさりとカットします。
その分難しい内容になってしまったので、内容の理解に不安を覚えたらすぐに教えてください。
絶対に咎めませんし、むしろ賞賛すると約束します。
よくある誤解を解く
具体的な話題に入りますが、ネガティブな始まり方でごめんなさい。
研修の目的
でも少しだけ記載しましたが、デザインにはどうしても誤解が生じやすいです。
そのため、まずは以下の誤解を解き、認識を揃えた上で続くトピックに進みます。
- デザインは見た目を良くするだけの行為
- デザインは先天的にセンスの良い人だけで作るもの
よくある誤解1 デザイン
は見た目を良くするだけの行為
最初に解きたい誤解はデザインは見た目を良くするだけの行為
です。
感度高く勉強をしている方からしたら「何を今更」と思われるかもしれません。
けど、まだまだこのように認識している人は大勢います。
デザイン
の最終的な出力は、見た目に関わる形式になる場合が多いです。
それらは良い印象で・分かりやすく・使いやすいものであるべきです。
少し話が逸れますが、エイチームのデザイナーの仕事を説明します。
色々な部署や事業があれど、抽象化すればおよそこうなります。
- 情報を構造化し、優先度をつけて整理する
- 整理した情報にグラフィック表現を施す
そして作業時間の配分は、情報整理に8割、グラフィック表現に2割くらいです。
デザイナー以外がこの話を聞くと、少し驚くかもしれません。
デザイン
の終着点が良い見た目
になりがちだとしても、過程には様々な考えがあります。
見た目を良くするのも1つの仕事ですが、それ以外の領域がたくさんあると認識してもらえたら嬉しいです。
よくある誤解2 デザイン
は先天的にセンスの良い人だけで作るもの
次の誤解はデザインは先天的にセンスの良い人だけで作るもの
です。
冒頭でも少し触れましたが「自分はセンスがないからデザインが分からない」といった言葉を聞いたことはありませんか?
さて突然ですが、知り合いに東大生がいたとします。
非常に頭が良く、あなたは「これが東大生か」関心しました。
その人に対して「勉強のセンスが良いんですね」とは言いませんよね?
何故かといえば、勉強
の想像がつくからです。
東大生
と聞けば「たくさん勉強したんだろう」と思い至り、天性のセンスだけで受験勉強をくぐり抜けてきたとは解釈しないはずです。
話を戻しますが、デザイン
はどうでしょうか?
国語算数理科社会英語……と比べれば、デザインを勉強した経験のある人は少ないはずです。
そのため、どれくらいの努力でどれだけのスキルがつくのか……想像しづらいのはよく分かります。
しかしデザイン
も勉強
と同じで、努力の先に高いスキルがあります。
生来のセンスだけが関係ないとは言いませんが、あくまでデザインスキルの構成要素の1つです。
はじめからセンスが高い人もいますが、それに胡座をかけるほどではありません。
ちなみに、今後仕事の中で「自分はセンスがないからデザインは分からない」と言ってしまったとします。
あえて強く言いますが、それはデザイナーが「自分は頭が悪いので事業の数値は分からないです」と言うのと同じです。
事業会社にいる以上、職種に関係なく数値に責任を持つ必要があります。
それと同様、デザイン
のうち頭で考えるフェーズ
は全員で取り組んで行く必要があると考えます。
この考えについては世論が分かれるかもしれません。
「各専門職の領域は相互に不可侵であるべき」の意見も理解できます。
ただ少なくとも、エイチームにおいては領域を問わず取り組む姿勢を賞賛しています。
ここまでのまとめ
-
デザインは見た目を良くするだけの行為
ではない- 最終的には
見た目
に関する出力が多いものの、むしろ過程が大事
- 最終的には
-
デザインは先天的にセンスの良い人だけで作るもの
ではない- 先天的なセンスの有無よりも、後天的な知識や努力の比重が大きい
設計
とは
研修の目的
にて「設計
がキーワードである」と話しました。
しかし、それだけ聞いてもピンと来ないでしょう。
設計
とは何か?何故設計
がビジネスパーソンに必要な考えなのか?を伝えます。
設計
の概念
ここではインターフェースデザインの具体的な設計方法の話などはしません。
もちろん、エンジニアリングとしての設計論も取り上げません。
みなさんが知っている色々なフレームワークの中に、5W1H
もありますよね?
私は小学生の頃に習いましたが、それくらいプリミティブな考えです。
ここでいう設計
も、突き詰めれば5W1H
と同等レベルにシンプルになります。
- 誰に届けるか
- 何が大事で、その優先度は
- どのように実現するか
- などなど
ただし、シンプルですが簡単ではありません。
例えば人をご飯に連れて行くとして、常に正解となる選択肢は無いと思います。
一緒に行く人が変わればお店の候補は変わるはずです。
友達と楽しくお酒を飲むのにはぴったりなお店も、恋人や家族と行くには適切でない。
なんてことはよくあるでしょう。
運動部の打ち上げであれば、雰囲気やサービスは二の次で、とにかく量が大事かもしれません。
会社の懇親会なら、量はそこそこで良い代わりに、オフィスからのアクセス
という選択基準が追加される気がします。
同じメニュー・味であっても、目の前で調理してくれるようなお店だと視覚的な満足度が上がります。
設計
なんて大層な良い方をした割に、簡単な話をし過ぎて拍子抜けさせてしまっていたらすみません。
ですが、突き詰めていくとこういった話になるのは本当です。
違いと言えば、事業運営で考えるべき項目はお店選びの何倍も多く、複雑なことぐらいです。
見た目
と設計
の関係
難しい考えは抜きにして、設計
の概念は伝わったと思います。
しかし「デザインの最終出力が見た目
になりがち」な中で、何故設計
が大事なのでしょうか。
これを説明するため「見た目
の評価には設計
がよく反映される」話をします。
見た目
の評価には設計
がよく反映される
あなたは買い物をしています。
ディスプレイやパッケージを見て「気になる」「欲しい」と思いました。
このとき、見た目
があなたに伝えられたのは、このような情報でしょう。
- 誰に向けた商品か
- 何をウリにしている商品か
- 商品を通じてどんな生活ができそうか
まだあなたは実際のこの商品を使用した経験があるわけではありません。
ですから、見ただけで「気になった」のであれば、見た目
から得られた情報を評価して「気になった」はずです。
そしてここに挙げた情報は、先ほど「設計
の概念」で紹介したのと似ています。
つまり見た目
を設計
通りに作れれば、理論上は「気になる」「欲しい」と感じてもらえます。4
逆にターゲットやウリなどがずれていれば「これは自分のための商品じゃない」と感じてしまうでしょう。5
以上見た目の評価について、比較的ロジカルに説明しました。
ですが、普段買い物をしていてこんな考えは浮かばないと思います。
仮に、購買直後の顧客に対してインタビューをしても「パッと見て良さそうだったので選びました」といった回答もあるでしょう。
しかし実態は、見た目
の向こう側に設計
を透かして感じ取り、言語にならない領域で判断している場合も少なくありません。
以上が「見た目
の評価には設計
がよく反映される」という意味です。
ここまでのまとめ
作っている最中には間違い無く設計
があり、最終出力である見た目
の良し悪しは設計
で決まります。
しかし設計
する側にまわらないと、その存在にも気づけません。
そのため、ビジネスパーソンは皆、意図的に設計
を意識する必要があります。 6
頭で考える
と手を動かす
ここまでデザイン
は設計
であると繰り返し伝えてきましたが、もちろん考えるだけでなく手を動かす時間が必要です。
先ほど情報整理8割、グラフィック表現2割なんて話をしました。
時間配分こそ少なめなものの、頭で考える
と手を動かす
のはセットで必要です。
そしてこれらは片方だけだと上手くいきませんが、1人で両方をまかなうのは無理があります。
頭で考える
と手を動かす
の役割分担の話をした後、全職種共通で持っていて欲しい頭で考える
力のトレーニングに移ります。
頭で考える
考え無しに事業を運営して上手くいくはずがありません。
先ほどの設計
の話の中では「そもそも誰に届けるのか?」のような、抽象度の高いフェーズを指していると思ってください。
手を動かす
がともなっていない場合「理屈はあっているけど要素を詰め込み過ぎ」や「何故かどうにもダサい」などが起きます。
手を動かす
最終的な出力をするためには手を動かす必要があります。
伝えたい人に伝えたいものが過不足なく伝わるよう、色や形、レイアウトなどを考えます。
あくまで設計
の一環であり、闇雲に手を動かすのではいけません。
狙いを再現するために手を動かす、具象度の高いフェーズです。
頭で考える
がともなっていない場合「パッと見お洒落だけど結局何ができるか分からない」や「届けるユーザー像がそもそも間違っている」などが起きます。
ここまでのまとめ+余談
デザイン
は設計
であり、設計
の中には頭で考える
と手を動かす
があります。
言葉の雰囲気でいうと設計
とは考えるだけ
に聞こえるかもしれませんが、形を作ってみてはじめて分かることも多々あります。
ちなみに「デザインはデザイナーだけに任せるには重要過ぎる7」なんて言葉があります。
この言葉は今まで私が説明してきたことを一言で言い表してくれています。
デザインに関わる領域は非常に広く、それでいて重要です。
これをすべてデザイナーだけで完結させるのは無理があります。
「デザイナーとしての誇りや矜持を忘れたのか」といったコメントをもらいかねませんが、そういうものに拘るよりは「全員で、より良いものを作る」方向にシフトしていきたいと考えています。
考える演習
ここからは一旦演習フェーズに移ります。
- 説明
- 演習
- 回答例
の流れで進みます。
階層構造
説明
誰もが実施しそうで、それでいて情報整理の考え方を養うのにぴったりな行為があります。
それがフォルダやデータの整理
です。
次の例を見てください。
あまり細かいことを言わなくても、どちらが階層構造として「ちゃんとしている」か分かると思います。
例1
- 🗂Qiita
- 🗂2021_アドベントカレンダー
- 🏞バナー画像.jpg
- 🗂2021_アドベントカレンダー
- 🗂202203 ブログ
- 📄原稿.txt
- 🗂バナー
- 🗂2021_アドベントカレンダー
- 🏞バナー画像.jpg
- 🗂2022年4月Qiita_Night
- 🏞バナー画像.jpg
- 🗂2021_アドベントカレンダー
例2
- 🗂Qiita
- 🗂20221201-アドベントカレンダー
- 🏞バナー画像.jpg
- 🗂20220407-Qiita-Night
- 🏞キービジュアル.jpg
- 🗂20221201-アドベントカレンダー
- 🗂Qiita-Team
- 🗂20220401-サイト改善
- 🏞キービジュアル.jpg
- 🗂20220401-サイト改善
- 🗂Qiita-Jobs
- 🗂20220405-新機能リリース
- 🏞告知画像.jpg
- 🗂20220405-新機能リリース
例1は何が問題かというと
- ルート要素(一番最初のフォルダ)の粒度がバラバラ
- プロダクト、イベント、バナー
-
バナー
が各所に存在- バナーフォルダの中にもあるし、アドベントカレンダーフォルダの中にもある
- 「2021_アドベントカレンダー」が2箇所あるのでどちらが最新か分からない
- 話は少し逸れるけど、命名規則が無い
- 日付の形式が違う
- 区切り文字にハイフンとアンダースコアとスペースが混在
この状態で「アドベントカレンダーの最新のバナーを探してきてください」と頼まれたらどうでしょう?
すぐに見つけるのは難しいと思います。
細かい話だと思われるかもしれませんが、先ほど話した情報整理
とは簡単に言えばこういう内容です。
もっと量が多いとか、整理すべき概念が複雑とか、条件は違いますが方向性は同じです。
問題
というわけで、問題を用意しました。
こちらのデータを論理的にフォルダ分けしてください。
- 2021年12月売上.xlsx
- 2022年1月売上.xlsx
- 2022年2月売上.xlsx
- 2021年12月入社者名簿.xlsx
- 2022年2月入社者名簿.xlsx
- 月次ミーティング資料20211203.pptx
- 月次ミーティング資料20220107.pptx
- 月次ミーティング資料20220204.pptx
回答例
日付優先の場合、暦としての1年ではなく会計年度で区切るのもありでしょう。
役割優先の場合、例えば月次ミーティング資料
を「実は週次ミーティングもあるのでは?」と予想し、ミーティング資料
の中に月次
と週次
を区切ってもOKです。
回答例1
日付を優先するパターン。
- 2021年
- 12月
- 2021年12月売上.xlsx
- 2021年12月入社者名簿.xlsx
- 月次ミーティング資料20211203.pptx
- 12月
- 2022年
- 1月
- 2022年1月売上.xlsx
- 月次ミーティング資料20220107.pptx
- 2月
- 2022年2月売上.xlsx
- 2022年2月入社者名簿.xlsx
- 月次ミーティング資料20220204.pptx
- 1月
回答例2
役割を優先するパターン
- 月次売上
- 2021年12月売上.xlsx
- 2022年1月売上.xlsx
- 2022年2月売上.xlsx
- 入社者名簿
- 2021年12月入社者名簿.xlsx
- 2022年2月入社者名簿.xlsx
- 月次ミーティング資料
- 月次ミーティング資料20211203.pptx
- 月次ミーティング資料20220107.pptx
- 月次ミーティング資料20220204.pptx
グルーピング
説明
設計の話をしているとき、誰に届けるか?をよく例に挙げていました。
けど、70億人すべての人を考えるのは無理ですから、実際はある程度グルーピングして考えます。
古いマーケティングだと年齢と性別の掛け合わせでF1層やM2層と表現しました。
男性 | 女性 | |
---|---|---|
20~34歳 | M1層 | F1層 |
35~49歳 | M2層 | F2層 |
50歳~ | M3層 | F3層 |
もちろん、グルーピングする対象は人以外にも多岐にわたります。
論理的思考研修でMECEの話などがあったはずですから、グルーピングの例示はこれくらいで次に進みます。
問題
スマートフォンの使用機種アンケート結果、という体裁です。
今後、機種別に訴求を変えた広告を出すつもりで、良いグループ分けを作成してください。
- iPhone 13
- iPhone 13 mini
- Galaxy S21 5G
- iPhone SE
- Google Pixel6
- iPhone 12
- OPPO Find X3 Pro OPG03
- Galaxy Z Flip3 5G
- Xperia 1 III
- Galaxy Z Fold3
回答例
スマホに詳しい人がいれば、発売時期や性能のレベルでのグルーピングも可能でしょう。
回答例1
- iOS
- iPhone 13
- iPhone 13 mini
- iPhone SE
- iPhone 12
- Android
- Galaxy S21 5G
- Google Pixel6
- OPPO Find X3 Pro OPG03
- Galaxy Z Flip3 5G
- Xperia 1 III
- Galaxy Z Fold3
回答例2
- Apple
- iPhone 13
- iPhone 13 mini
- iPhone SE
- iPhone 12
- Google
- Google Pixel6
- Samsung
- Galaxy S21 5G
- Galaxy Z Flip3 5G
- Galaxy Z Fold3
- SONY
- Xperia 1 III
- OPPO
- OPPO Find X3 Pro OPG03
言葉をシンプルにする
説明
同じ内容であれば言葉はシンプルな方が良いです。
回りくどいメッセージは顧客の聞く気も起きませんし、理解度も低くなります。
例えば、会社のステートメントを決めるとします。
私たちの会社は、売上を上げて費用を下げ、利益を出すことで営利企業として存続し、日本から紙の書類をなくすことで国全体の生産性を向上させて、GDPを高くします
対外的な言葉だとして、要らない情報が多すぎます。
「売上を上げる」や「費用を下げる」は当たり前の話しかしていないので削ります。
私たちの会社は、日本から紙の書類をなくすことで国全体の生産性を向上させて、GDPを高くします
会社のステートメントですから「私たちの会社は」は暗黙的に宣言されており、削ります。
日本から紙の書類をなくすことで国全体の生産性を向上させて、GDPを高くします
好みは入りますが、表現自体を変えてみても良いでしょう。
紙の書類をなくして、日本の仕事を前に進める
最後は広告のコピーライティングのような話になってしまいましたが、大事なのは「不要な説明をしない」です。
問題
サイトのトップに出すメッセージだとして、次の文章をシンプルにしてください。
1番安くてお得なプランの詳細が5分〜10分以内、Webサイト上で今すぐ分かって申し込みも可能!
回答例
Webで完結!1番お得なプランが10分以内にわかる!
- 安くてお得
- どちらかで良い
- 5分〜10分以内
-
以内
を使うなら10分
だけで良い - もしかしたら
5分
で提供できる可能性も捨てきれない……なら5〜10分
と記載できる
-
- 今すぐ分かって申し込み
- 分かるのみ申し込みできないサイトなんて無いのでどちらかだけで良い
- Webサイト上で
- 文章にすると冗長になるので、文頭に短く持っていける
関係性
説明
- 小学校
- 学年
- クラス
- 担任
- 生徒
小学校の名簿をWeb上で作るとなった際、グラフィックを作る前段階で以下のような整理ができます。
- 小学校
- 最も上位の概念
- 学年
- 1小学校に1から6年まで
- どれだけ人数が少ない学校でも、6学年の構造は絶対
- 1小学校に1から6年まで
- クラス
- 1学年に0から無限まで
- 人数が少なければ0クラスも有り得る
- 逆に
5組まで
などと決めてしまうと人数の多い学校のサイトで破綻してしまう
- 1学年に0から無限まで
- 担任
- 1クラスに1人
- ただし副担任のような概念が発生するかもしれない
- 元々の想定になくても、整理する中で疑問が出れば明らかにできる
- 1クラスに1人
- 生徒
- 1クラスに1から40人まで
- 法令で40人が限度
- 1クラスに1から40人まで
このように、何かを作る際は予め関係性を明らかにしておくと良いです。
数の下限・上限設定、絶対にあり得ないケースの除外、普通は起きないものの理論上有り得るケースへの対処など、事前に考えられる範囲が増えます。
問題
イベントの告知サイトを作るとします。
要素は以下のようになっています。
- イベント
- 開催する建物
- 部屋
- セッション
- 講師
- 参加者
かなり範囲が広いので、設定も含めて考えてみてください。
回答例
- イベント
- 開催する建物
- 1イベントに1つ
- 部屋
- 1建物に1から無限まで
- イベントを実施する以上、0部屋は許さない
- 1セッションに1部屋
- 1建物に1から無限まで
- セッション
- 1イベントに1から無限まで
- 1部屋に1から無限セッション
- 1日を通して見れば複数のイベントが同じ部屋で開催されるかもしれない
- 1参加者に1から無限のセッション
- 講師
- 1セッションに1講師
- 参加者
- 1セッションに0から無限の参加者
資産
としてのデザイン
再び座学中心のチャプターへ。
現場での制作
と、会社全体としての資産
の観点、両方からお話しますと伝えました。
ここまでは制作
の話だったので、資産
へと移ります。
数年前からデザイン経営宣言や高度デザイン人材育成研究会など、省庁からもデザインに力を入れる宣言が出されています。
色々な観点があるため網羅はしきれませんが、私が思う「今のエイチームで進めたいこと・進めた方が良いこと」について話します。
繰り返しになりますがこのチャプターについては会社の総意ではありません。
個人的に私が思っている内容です。
価値を上げられるかもしれない取り組み
ブランドエクイティの向上
会社や事業全体でデザインを資産にしようと思うと、最初に浮かぶのがブランドエクイティの向上です。
ブランドエクイティとはブランドが持つ資産価値を指します。
無形で、B/Sにはあらわれないブランドですが、良し悪しによって事業の売上・利益に大きな違いをもたらします。
例えば第一想起を獲得できていれば、検討をしてもらえるのは確実で、リピート率も大抵高い、などの事実があります。
逆に悪い噂が広まりすぎているようなブランドであれば、挽回は相当大変なはずです。8
既存事業でもこれから新規に作る事業でも、顧客から想起され「良い」と思ってもらえるブランドになれれば資産としての価値が非常に高まります。
各種プロモーションを強化しフリークエンシーを高めるのも、チャネルを問わず日々一貫したコミュニケーションを徹底するのも、どれも大事で手を抜けません。
デザイン
の考えはここにも活かせるはずで(数字に表れないもの同士で大変そうですが)上手く掛け合わせていきたいです。
イノベーティブな事業の創出
50年周期におこるといわれる景気循環9からいって、次の波が来る(来ている)可能性は高いです。
波の切り替わりではなく、周期の中にあったとしても、直近の産業の流れは速いと思われます。
コンピューターがスマートフォンに移り変わり、IoTやAIが台頭しています。
破壊的イノベーションが起きた場合は一部の勝者の総取りになるかもしれません。
そしてロジックの外にあるイノベーションを起こすにはデザインの力を活かせそうです。
UXデザインやリサーチのような取り組み、ビジョンデザインが先導する経営や執行など、半ばコモディティ化したロジカルシンキングの次のステージへ進める可能性を感じています。
価値を下げる取り組み(食い止めたい取り組み)
一貫性を持たず、行き当たりばったりで事業を進める
ブランドエクイティと逆の話です。
短期的な売上ばかりを追い、A/Bテストの結果だけを頼りに判断していては、事業の価値が上がることはないと思います。
資本主義が成長し続ける前提に立つと、停滞ですら後退です。
一貫性を持たせるためにデザインだけで対処すべきかというと、そうでもないと思います。
ですが、ビジョンを打ち立てて分かりやすく伝えるなど、頭で考える
と手を動かす
をセットで実施するのが効果的な場面はあるはずです。
顧客の視点を持たないまま、運営者の観点だけで進める
「顧客を大切にする」と口にするのは簡単です。
しかし、そんなにやすやすと実践できるものではありません。
例えば私は今Qiitaを開発していますが、記事投稿数は全会員の上位0.X%の位置にいます。
それくらい使ってみてはじめて分かることも多くあります。
自分が実際のユーザーになれないサービスだとしても、デザインの考えを活かして解決できる場面はあるはずです。
ここでもリサーチの手法は役に立つでしょう。
会議室で数字だけを見ていては一生たどり着けないようなインサイトを、数時間で得られる場合だってあります。
全体のまとめ
- ビジネスパーソンの基礎としてのデザイン
- よくある誤解
- デザインは見た目を良くするだけの行為
- デザインは先天的にセンスの良い人だけで作るもの
-
設計
- 突き詰めればシンプル、届ける相手や大事な要素に思いを馳せる
-
見た目
の評価には設計
がよく反映される
-
頭で考える
と手を動かす
-
設計
の中のフェーズ - 考えるだけではなく、一方通行でもない
-
- よくある誤解
- 会社や事業の資産としてのデザイン
- ブランドエクイティ
- イノベーティブな事業
- 一貫性と顧客視点
最後まで読んでくださってありがとうございます!
Twitterでも情報を発信しているので、良かったらフォローお願いします!
-
ビジュアルアイデンティティと呼びます。 ↩
-
ポスターやフライヤー、ロゴなどを指しています。 ↩
-
工業製品全般を指しています。 ↩
-
実際はターゲットに上手く届くように認知の経路を考えたり、時間などの負担と差し引きしても便益が上回る価格設定をしたり、たくさん考える項目があります。 ↩
-
「格好いいものが好きなターゲット」に「あんまり格好良くないもの」を提供した、くらいのレベルでも起き得ます。 ↩
-
なお、不思議なことに概念的な作戦を考えている際は
設計
の観点がある人も、製作フェーズに入った途端に抜け落ちてしまうケースがあります。設計
とはどこかで終わるものではなく、いつまでも続くものだという意識が必要なのかもしれません。 ↩ -
原文は“Design is too important to be left to designers”です。Raymond Loewyさんという方の言葉です。 ↩
-
今でこそお洒落・高品質なイメージなユニクロもかつて「安かろう悪かろう」と言われていて、そのイメージの挽回に(おそらく)10数年かかっています。 ↩
-
コンドラチェフ波動といいます。 ↩