はじめに
初投稿です。
Neuralinkの発表を見て感激しました。
ただ、感激するとともに、何年か前にスウェーデンでは手にICチップを埋め込んで電車も乗れちゃう!すごい!最先端!!みたいな記事を見たような覚えがあり、そのニュースはどうなったのだろう、と思って調べてみましたが日本で興味のある人があまり居ないのか情報が薄かったのでまとめます。
英語は超意訳です。
治療目的外で人体に機械を埋め込むことについて
人体にRFIDチップを埋め込んだ事例
スウェーデン
2017年4月6日Independentの記事。
スウェーデンのスタートアップ企業Epicenterは、創業者や従業員に米粒大のマイクロチップを手に埋め込み、入館カード等の機能を持たせている。
同社は2015年1月から埋め込みを開始し、150人が応じた。
Epicenter社以外にも、ベルギーの会社も従業員に同様のチップ埋め込みを行っており、このような事例は世界中に散発的にある。
埋め込みチップはNFCを用いており、読み取り機にかざした時だけわずかなデータが通信される受動的なチップである。
チップは親指と人差し指の間に埋め込むのだが、埋め込む処置は数秒で終わり、痛みに苦しむことはなく、血もほとんど出ない。
倫理的問題として、埋め込みチップはスマートフォンとは比べ物にならないほど大量のデータ、例えば自身の健康状態、位置情報、労働日数・時間、トイレ休憩をとっているかというような情報を得ることができる可能性があるため、そのようなデータを収集した場合、そのデータを誰が、何のために使うのか、という問題が生じるとしている。
これに対する反論としてEpicenterの従業員は、新しいものを試すのが好きでそれが未来にもたらすものを見たいだけだとしている。
チップ埋め込みが有名になったため、Epicenterの従業員はチップを埋め込む無料のイベントを開催している。
Swedish workers implanted with microchips to replace cash cards and ID passes | The Independent
2016年8月3日Independentの記事。
カリフォルニア大学バークレイのMichel Maharbiz教授は、砂粒大の埋め込みデバイス"neural dust"を開発した。
用途としては、心臓等の臓器をリアルタイムに監視したり、小さくなれば脳に埋め込んで義手義足等のロボット制御にも利用可能であると考えられている。
他にも電気刺激によっててんかんの治療や膀胱収縮の制御、食欲の抑制にも応用可能であると信じられており、免疫系の活動促進や炎症抑制もできる可能性がある。
このデバイスは超音波振動によって、人体のほぼすべての部位を通過して、特殊な水晶で振動を電気に変えてトランジスタの電源を取る。
センサーにスパイクが走ると、水晶の振動が変化し、反射する音が変わるので受信側にスパイクが伝わるという仕組みである。
Tiny implant could connect humans and machines like never before | The Independent
日本
2019年6月朝日新聞の記事。
お多福ラボ(大阪)社長の浜道崇が、スウェーデンの事例と同様のマイクロチップを埋め込んだこと明らかにした。
マイクロチップ、「魔法の手」実現? 埋め込み→かざす→鍵開閉・改札・電子決済:朝日新聞デジタル
マイクロチップを身体に入れる為にかかる時間っていったいどのくらいなんですか
だいたい1分くらいですかね
ちなみに費用はどのくらいなんでしょう
入れるチップや場所にもよると思いますが、だいたい2万円くらいあれば入れられます
AI(人工知能)の会社なので社長にマイクロチップを入れてみた(実話) | AIZINE(エーアイジン)
売り物
ペット用のタグがヒットする中、
The chip is intended for use in animals only, however, it is particularly popular with the biohacking community.
このチップは動物用途のみを想定しているが、バイオハッキングコミュニティではとりわけ人気がある。
NFC Implant Tag NTAG216 Kit Microchip Biohack xNT Chip Dangerous Things RFID | eBay
考察
チップの埋め込みは医業に当たるか
売り物の章で見た通り、このチップは動物用として、シリンジにセットされた状態で販売されている。
チップを埋め込みたい場合は、これを自分に注射することになるのだが、ここで医師免許は必要だろうか。
糖尿病患者が治療目的で行うインスリンの自己注射に代表されるように、自己注射は医療行為を「業として」行っていないので、合法である。
したがって、埋め込み処置を自分で自分に行う場合は合法である。
しかし、他人に行う場合は業として医療行為を行っているとみなされるのではないかと考えられる。
2015年、大阪にてタトゥーショップを営む彫り師が医師法違反で起訴された事件では、第一審で入れ墨を入れる処置を医療行為と認め有罪としていたが、控訴審では医療行為であることを否定した。(大阪高判平30.11.14。なお、この事件は上告されている。)
この事件では、入れ墨は文化的・社会的な背景から明治以来規制されてこなかったうえ、安全性の問題がほとんど発生していないことから医療行為には当たらないと判断している。
反対解釈から、チップの埋め込みはこのような背景はなく、安全性の問題をクリアしているとは言えないため、医療行為に当たると判断される可能性がある。
消毒
埋め込みのビデオの中で、施術者の手指や注射部位の皮膚を消毒する過程が映されていないことが気になった。
侵襲的な手技であるから、いずれも必要なはずである。
まず、施術者の手指には必ず常在菌が居り、一般に無害とされる皮膚常在菌でも体内組織等に入った場合には感染を引き起こすことがあるため、常在菌を可能な限り減少させることを目的として消毒を行う必要がある。
そして、埋め込みは注射に準ずると考えれば、衛生的手洗いを行う必要がある。
病院でやるようなアルコール消毒がこれに当たるが、流水と石鹸でも同様の効果があるとされており、小学校の水道に貼ってあるポスターのように指の間や爪の下、手首も含めて30秒以上洗う、ということを守れば問題ない。
注射部位の皮膚消毒に関しては、実際には注射部位から感染を起こすことは稀とされているが、高度に汚染されている場合や易感染者には注意が必要である。
Y's Square:病院感染、院内感染対策学術情報 | 1)患者
最後に
件の記事は、日本で言えば交通系ICカードのIDを登録して入退館カードやロック解除に使うという役割を、手に埋め込んだRFIDチップでやろうとしていたということでしょうか。
これを突き詰めるとSuicaを埋め込むことはできるのかもしれませんね。
ただ、埋め込まれたチップを対応端末無しに操作するインターフェースがないというのはやはりユースケースが限られてきます。また本人の認証に用いるとしても、emulateするツールのがあったりcloneする複製器がebayに売ってたりしますし、埋め込み部だけ切り取られたら本人でなくとも認証できますから、本人であることを保証できるかには問題が残ります。
それがこの技術の限界ということでしょうか。
それはそれとしてNeuralinkで早く電脳化したいです。