孫子の兵法とアジャイル・スクラム
孫子の戦略的思考とアジャイル・スクラムの価値観や原則には多くの共通点があります。これらの共通点を意識することで、チームのパフォーマンスを向上させることができます。この記事を通じて、皆さんにもその共通点を理解し、実践に役立てていただければと思います。
1. 孫子とは
孫氏とは紀元前500年ごろの中国春秋時代の軍事思想家孫武の作とされる兵法書です。孫氏の兵法を愛読書としている著名な方もたくさんおります。
この記事では以下のまんがも参考にしています
2. スクラムとアジャイルの概要
アジャイルの価値観と原則についてはこちらをご参照ください:
スクラムについてはこちらをご参照ください:
3. 孫子の兵法とアジャイル・スクラムの共通点
孫氏の兵法とアジャイル・スクラムの共通点を孫氏の兵法のエピソードを交えて紹介します。
1. 事前の計画と準備
- スクラム/アジャイルの要素:スプリントプランニング、リファインメント
- 孫子の兵法のエピソード:「勝兵先勝而後求戰,敗兵先戰而後求勝」(勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む)
スクラムでは、スプリント計画によって短期間で達成可能な目標を設定し、チーム全員がその達成に向けて協力します。孫子も同様に、勝つための準備が整ってから戦うことの重要性を説いています。
2. 柔軟性と適応力
- スクラム/アジャイルの要素計画に従うことよりも変化への対応を
- 孫子の兵法のエピソード:「兵無常勢,水無常形」(戦いには一定の形がなく、水のように状況に応じて変化する)
アジャイルは変化に対応する柔軟性を重視します。孫子の兵法も、戦局の変化に迅速に対応することが勝利の鍵であるとしています。
3. チームワークと協調
- スクラム/アジャイルの要素:スクラムチーム
- 孫子の兵法のエピソード:「上下同欲者勝」(上下欲を同じくする者は勝つ)
スクラムチームは共通の目標に向かって協力します。孫子も、リーダーと部下が共通の目標を持ち、一致団結することの重要性を強調しています。
4. 迅速な行動
- スクラム/アジャイルの要素:動くソフトウェアを、2-3週間から2-3ヶ月というできるだけ短い時間間隔でリリースします
- 孫子の兵法のエピソード:「兵貴拙速,未見巧遅」(兵は拙速を聞くも、未だ巧遅を見ざるなり)
スクラムは短期間で価値を提供することを重視します。孫子も、迅速な行動が勝利に繋がると説いており、完璧を目指して遅くなるよりも、迅速に行動することの重要性を強調しています。
5. 自律的な判断と行動
- スクラム/アジャイルの要素:アジャイル原則 -「自己組織化したチーム」
- 孫子の兵法のエピソード:「主、戦うことなかれというも、必ず戦うべし」(主君が戦うなと言っても、戦うべき時は戦わなければならない)
スクラムでは、自己組織化したチームが自律的に判断し、行動することを重視します。孫子も、現場での自主的な判断と行動の重要性を説いており、状況に応じて適切な行動を取ることが勝利に繋がるとしています。スクラムチームが現場の状況に応じて柔軟に対応し、共通の目標に向けて協力することも、孫子の教えに通じる部分です。
6. リーダーシップの重要性
- スクラム/アジャイルの要素:プロダクトオーナー、スクラムマスター、開発チームの役割
- 孫子の兵法のエピソード:「將能而君不御者勝」(将、能ありて、君の御せざる者は勝つ)
スクラムでは、プロダクトオーナー、スクラムマスター、開発チームのそれぞれがリーダーシップを発揮することが重要です。
- プロダクトオーナー(PO):プロダクトの視点でリーダーシップを発揮し、バックログの優先順位を決定し、ビジョンを提供します
- スクラムマスター(SM):スクラムのプロセスのリーダーシップを担い、チームが効果的にスクラムを実践できるよう支援します
- 開発者:技術的な実装におけるリーダーシップを発揮し、自己組織化して「どうやって」作るかの責任を持ちます
孫子も、過干渉しないことが勝利に繋がると説いています。これは、スクラムの各リーダーシップ役割においても同様です。各役割が信頼され、尊敬されることで、チーム全体がそのリーダーシップに従い、一体となって目標を達成します。
各々のリーダーシップはチームの成功に不可欠です。孫子も、リーダーの資質が戦いの結果を左右すると説いています。
7. 検査と適応の重要性
- スクラム/アジャイルの要素:検査と適応
- 孫子の兵法のエピソード:「知彼知己,百戰不殆」(敵を知り、自分を知れば、百戦しても危うくない)
スクラムでは、検査と適応のプロセスを通じて、プロダクトやチームの状況を把握し、リスクを評価し、次のステップを計画します。スプリントレビューやデイリースクラム、レトロスペクティブを通じて、チームは外部の状況(市場の変化や顧客の要求)と内部の状況(チームの能力やリソース)を正確に理解し、適応するための情報を収集します。これにより、チームは迅速に対応し、リスクを管理しながらプロジェクトを進めることができます。
孫子も、「敵を知り、自分を知れば、百戦しても危うくない」と説いており、外部環境と内部状況の両方を正確に把握することが勝利に繋がるとしています。この考え方は、スクラムの検査と適応の重要性と一致しています。
8. 継続的改善
- スクラム/アジャイルの要素:スプリントレトロスペクティブ
- 孫子の兵法のエピソード:「兵に形するの極みは無形に至る」(兵を形成する極意は、形のない状態に達することにある)
スクラムでは、スプリントごとにレトロスペクティブを行い、プロセスの振り返りと改善を図ります。孫子も、戦いにおいて極限の形は「無形」にあると述べ、状況に応じて柔軟に対応し続けることの重要性を説いています。この考え方は、スクラムのレトロスペクティブを通じた継続的改善に通じており、チームが常に自己評価を行い、プロセスを改善し続けることで最適な状態を維持することの重要性を示しています。
9. チームと個人の健康
- スクラム/アジャイルの要素:持続可能
- 孫子の兵法のエピソード:「生を養いて実に処すれば軍に百疾なし」(兵士たちがしっかりと養われ、適切に配置されていることで、軍隊に病気や問題が起きない)
アジャイルでは、持続可能なペースでの作業を強調し、チームメンバーが長期間にわたって高いパフォーマンスを発揮できるようにします。孫子も、兵士たちが適切に養われることで軍隊が強く健康であり続けることの重要性を説いています。この考え方は、アジャイルとスクラムの価値観と一致しており、チームと個人の健康の明確化がプロジェクトの成功に繋がることを示しています。
10. 多様な意見を考慮した計画
- スクラム/アジャイルの要素:スクラムチーム、スプリントレビュー
- 孫子の兵法のエピソード:「智者の慮は必ず利害を雑う」(賢明な者の計画には、必ず利益と損失の両方が考慮される)
スクラムチームは、多様なメンバーで構成され、各メンバーが異なる視点や意見を持っています。これにより、チームはさまざまな角度から物事を考え、最適な解決策に近づくことができます。
スプリントレビューでは、ステークホルダーや関係者からのフィードバックを受け入れ、プロダクトの価値を最大化するために意見を取り入れます。孫子も、「賢明な者の計画には、必ず利益と損失の両方が考慮される」と述べており、批判や異なる意見を取り入れることの重要性を説いています。この考え方は、スクラムの多様な意見を考慮した計画と一致しており、チームがリスクを管理し、価値を最大化するためにさまざまな意見を取り入れることの重要性を示しています。
4. まとめ
孫子の戦略的思考は、現代のアジャイル・スクラムにおいても非常に役立つ洞察を提供してくれます。スクラムの透明性、リーダーシップの重要性など、多くの点で共通する教訓が見られます。
これらの共通点を理解し、実践に取り入れることで、スクラムチームはより効果的に目標を達成し、価値を提供することができると思います。ぜひ、この記事の内容が、日々のスクラム実践に役立てば幸いです。