目次
はじめに
インターネットでWebサイトを閲覧するとき、「ドメイン名」と呼ばれるわかりやすい文字列(例:example.com
)を使います。しかし、実際にはコンピュータ同士がやり取りするには「IPアドレス」が必要になります。 この「ドメイン名」を「IPアドレス」へ変換(名前解決)する役割を担うのが、DNSサーバーです。
本記事では、DNSサーバーの概要や仕組み、種類、セキュリティ、選ぶときのポイントなどを解説していきます。
DNSサーバーの基本概要
DNSとは?
- Domain Name System(DNS) は、ドメイン名をIPアドレスに変換するための仕組み。
- ユーザーが「
www.example.com
」などのドメイン名でアクセスしやすいように、裏では「93.184.216.34
」のような数字の列(IPアドレス)に変換している。 - インターネットの基盤を支える重要な技術であり、Webサイトやメール、その他のネットワークサービスを利用するときに必ず通る「入り口」的存在。
DNSサーバーの役割
1. 名前解決(ドメイン名→IPアドレス)の実行
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ドメイン名の利便性
インターネット上で実際に通信する際は、ホスト(サーバー)の位置を表すIPアドレスが必要になります。しかし、人間にとっては長い数字の列(例:192.0.2.1
など)を覚えるのは大変です。そこで「www.example.com
」のような分かりやすい文字列を使い、それを機械が理解できるIPアドレスへ変換する仕組みを提供するのがDNSサーバーです。 -
問い合わせの流れ
- ユーザーがWebブラウザなどでドメイン名を入力
- DNSリゾルバ(キャッシュDNSサーバー)やOSのキャッシュを参照
- 未キャッシュの場合はルートDNSサーバー、TLD DNSサーバーを経由し、最終的にはそのドメインを管理する権威DNSサーバーに問い合わせ
- 得られたIPアドレスがユーザーに返ってくる
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DNSがなければどうなる?
もしDNSがなければ、ユーザーはIPアドレスを直接入力してサイトへアクセスする必要があります。これは覚えにくいうえ、サーバーのIPアドレス変更に伴う混乱も大きくなるでしょう。DNSがあることで、私たちは直感的な文字列(ドメイン名)でサイトやサービスにアクセスできるのです。
2. キャッシュ機能による高速化
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キャッシュとは?
DNSサーバーは一度取得したドメインとIPアドレスの対応情報を一定時間保存(キャッシュ)します。キャッシュに保存しておくことで、同じドメイン名の再問い合わせが発生したとき、短時間で回答が返せるようになります。 -
TTL(Time To Live)の活用
- キャッシュ情報には有効期限(TTL)が設定されます。
- 期限が切れるまではキャッシュを利用して高速応答が可能ですが、TTLが切れると改めて外部のDNSサーバーに問い合わせて最新の情報を取得します。
- 適切なTTLの設定により、アクセス性能と情報の新鮮さをバランス良く管理できます。
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メリット
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応答速度が速い
- キャッシュがある場合は、わざわざ外部のDNSサーバーをたどらなくてもよい。
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ネットワーク負荷の軽減
- 何度も同じ問い合わせを繰り返す必要がないため、全体としてのDNSサーバー負荷が下がる。
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応答速度が速い
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デメリット
- キャッシュが残っているため、ドメインのIPアドレスを変更した場合に反映が遅れることがある。
- 不要になった情報をキャッシュし続けると、誤った情報を返すリスク(ただしTTLによって緩和される)。
3. ドメイン情報の管理(権威DNSサーバーの場合)
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権威DNSサーバーとは?
あるドメイン(例:example.com
)の正しいDNSレコードを保持し、「そのドメイン名はどのIPアドレスか」を最終的に答える責任を持つサーバーを「権威DNSサーバー(Authoritative DNS Server)」と呼びます。 -
ゾーン情報(ゾーンファイル)の保持
- 権威DNSサーバーは自分の管理下にあるドメインのゾーンファイルを保持しており、そこには以下のような情報が含まれます。
- Aレコード(IPv4アドレスの指定)
- AAAAレコード(IPv6アドレスの指定)
- MXレコード(メールサーバー情報)
- CNAMEレコード(エイリアス設定)
- TXTレコード(任意のテキスト情報、SPFなど)
- NSレコード(Name Server情報)
- こうしたレコードを正確に管理・更新することで、ドメインに関するさまざまなアクセスが適切に処理されます。
- 権威DNSサーバーは自分の管理下にあるドメインのゾーンファイルを保持しており、そこには以下のような情報が含まれます。
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プライマリDNSとセカンダリDNS
- 一般的に、権威DNSサーバーは冗長構成をとり、メインのプライマリDNS(Primary DNS)と複数のセカンダリDNS(Secondary DNS)を運用します。
- ゾーン転送機能を使い、プライマリDNSの最新情報をセカンダリDNSへ複製することで、障害やトラフィック集中への耐性を高めています。
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管理上の注意点
- ゾーン転送の制限: 意図しない相手にゾーンファイルを渡さないように、アクセスを制限する。
- TTL設定の調整: 変更が必要な時期にはTTLを短めに設定しておくと、切り替えがスムーズになる。
- セキュリティアップデート: DNSソフトウェアのアップデートを怠ると、DNSキャッシュポイズニングなどの攻撃リスクが高まる。
DNSの仕組みと役割
DNS問い合わせの流れ
下記の解説は、GeeksforGeeksが提示している図をもとに、DNS問い合わせの流れを番号順に細かく説明したものです。
ユーザーが「https://geeksforgeeks.org
」にアクセスする際、クライアント・DNSリゾルバ・ルートサーバー・TLDサーバー・権威DNSサーバー・実サーバーがどのようにやり取りをしているかを理解しやすくなります。
1. クライアントからのアクセス要求
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ユーザーの操作:
PCやスマートフォンなどの端末のブラウザから「https://geeksforgeeks.org
」にアクセスしようとする。 -
最初の確認:
端末(OS)やブラウザはまず、ローカルキャッシュ(OSのDNSキャッシュやブラウザキャッシュ)を確認して、すでにgeeksforgeeks.org
のIPアドレスを知っているかどうかをチェックする。 -
ポイント:
キャッシュがある場合は後続の問い合わせが不要となるが、今回はキャッシュがヒットしない想定で次のステップに進む。
2. ローカルキャッシュ(OSキャッシュ、ルーターキャッシュ)の確認
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ローカルキャッシュの仕組み:
端末(OS)がDNS解決結果を一時的に保存している場合がある。さらに自宅やオフィスのルーターがDNS情報をキャッシュしていることもある。
ここでヒットすれば即座にIPアドレスを返して通信を完了できる。 -
キャッシュミス時:
ローカルキャッシュにgeeksforgeeks.org
の情報がない場合、次のステップへ進む。
3. ホストファイルの確認
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ホストファイルとは:
OSの設定ファイルの一種(WindowsならC:\Windows\System32\drivers\etc\hosts
、Linux/macOSなら/etc/hosts
など)で、特定のドメイン名とIPアドレスの対応を強制的に記述できる仕組み。 -
ホストファイルにない場合:
大半の一般ユーザーではホストファイルに独自設定をしていないため、この段階で何も見つからないケースが多い。
見つからなかった場合はリゾルバ(DNSサーバー)へ問い合わせが移る。
4. DNSリゾルバがルートサーバーに問い合わせ
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DNSリゾルバ(キャッシュDNSサーバー):
クライアントの設定によって指定されたDNSリゾルバ(ISPやGoogle Public DNS、Cloudflare DNSなど)が外部問い合わせを行う。
まだキャッシュされていないため、まずはルートDNSサーバーに「.org
ドメインを管理するTLDサーバーはどこか?」と問い合わせる。 -
ルートDNSサーバーの役割:
ルートサーバーは「最上位の案内役」であり、.org
などのTLDを管理するDNSサーバーを紹介するだけ。
ここでは実際のIPアドレスは返さず、TLDサーバーのアドレスを返答する。
5. ルートサーバーからの応答
-
TLDサーバーへの道案内:
ルートサーバーは「.org
を管理しているのは、このTLDサーバーだよ」という情報をDNSリゾルバに渡す。 -
次のステップへの橋渡し:
実際にgeeksforgeeks.org
の情報を持っているわけではなく、あくまで「次にどこを尋ねるべきか」を教える。
6. 「権威DNSサーバーを教えてほしい」というリクエスト
-
TLDサーバーへ問い合わせ:
リゾルバはルートサーバーから得たTLDサーバー(.org
を管理するサーバー)に問い合わせを行う。
「geeksforgeeks.org
の権威DNSサーバー(=最終的に正解を知っているサーバー)はどこか?」と質問するイメージ。 -
TLDサーバーの役割:
.org
配下の各ドメインを管理する権威DNSサーバーがどこにあるのかを知っており、リゾルバにそれを提示する。
7. TLDサーバーから権威DNSサーバーの情報取得
-
権威DNSサーバーを紹介:
TLDサーバーは「geeksforgeeks.org
のゾーンを管理しているのは、この権威DNSサーバーだよ」という情報を返す。 -
実際のIPアドレスはまだ得られない:
ここまでは「階層的に次に問い合わせるDNSサーバー」を教えてもらうステップであり、まだgeeksforgeeks.org
自体のIPアドレスはわからない。
8. DNSリゾルバが権威DNSサーバーに問い合わせ
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最終的な正解を持つサーバーへの問い合わせ:
リゾルバがTLDサーバーから教えられた「geeksforgeeks.org
の権威DNSサーバー」に対し、「www.geeksforgeeks.org
のIPアドレスを教えてほしい」という問い合わせを送る。 -
ゾーンファイルの参照:
権威DNSサーバーは、該当ドメインのゾーン情報(Aレコード、AAAAレコードなど)を正確に保持しているため、ここで初めて最終的なIPアドレスが取得できる。
9. 権威DNSサーバーからの応答
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Aレコード(IPv4)などの情報:
権威DNSサーバーは「www.geeksforgeeks.org
→x.x.x.x
(IPアドレス)」という対応関係をリゾルバに返す。 -
リゾルバのキャッシュ更新:
リゾルバは、この回答を自分のキャッシュに一定時間(TTL)保存しておくことで、後続の問い合わせを高速化する。
10. DNSリゾルバがクライアントへ応答
-
クライアントへの最終回答:
リゾルバは、権威DNSサーバーから得たIPアドレスをクライアント(ブラウザ)に返答する。 -
クライアントから見ると:
「一度DNSリゾルバに問い合わせると、あとはまとめて最終的なIPアドレスが返ってくる」形になるため、これを再帰問い合わせと呼ぶ(クライアントの視点)。
11. クライアントが実サーバーにリクエスト送信
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IPアドレスを使った通信:
クライアント(ブラウザ)がgeeksforgeeks.org
に紐づく実際のIPアドレス(たとえば93.184.216.34
など)に対して、HTTP/HTTPSリクエストを送る。 -
Webサーバーとのやり取り開始:
DNS解決が完了したことで、具体的なWebページ取得やAPIコールなどが行われ、ユーザーは目的のサイトを閲覧できるようになる。
12. 実サーバーからの応答(Webページ取得)
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Webページのデータ送信:
実サーバーはクライアントからのリクエストを受け取り、WebページのHTMLやCSS、JavaScript、画像などのデータを返却する。 -
ユーザーのブラウザで表示:
受け取ったデータをもとにブラウザは画面を描画し、ユーザーは「https://geeksforgeeks.org
」のページを閲覧できるようになる。
DNSの種類
DNSサーバーは、その役割によっていくつかに分類されます。
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ルートDNSサーバー
- インターネット全体のドメイン空間の根本を担うサーバー。
- 全世界に13系統存在し、運用者も分散している。
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TLD(トップレベルドメイン)DNSサーバー
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.com
,.org
,.net
などのgTLDや、.jp
,.us
など国別ccTLDを管理するDNSサーバー。 - ルートDNSサーバーからの問い合わせに対して、各ドメインを管理している権威DNSサーバーを教える役割。
-
-
権威DNSサーバー(Authoritative DNS Server)
- 特定のドメイン(例:
example.com
)の正しいDNS情報(ゾーン情報)を持つサーバー。 - レコードの最終的な答えを返す。
- 特定のドメイン(例:
-
リゾルバ(キャッシュDNSサーバー)
- クライアントから問い合わせを受け、必要に応じて外部のDNSサーバーへ問い合わせを行う。
- 得た情報をキャッシュして高速化する。
DNSレコードの主な種類
DNSで管理される情報を「DNSレコード」と呼びます。代表的なものは以下の通りです。
-
Aレコード(Address record)
ドメイン名をIPv4アドレスに紐付ける。 -
AAAAレコード
ドメイン名をIPv6アドレスに紐付ける。 -
CNAMEレコード(Canonical Name record)
別名(エイリアス)を正規のドメイン名に紐付ける。 -
MXレコード(Mail Exchange record)
ドメイン名のメールサーバーのホスト名を指定する。 -
TXTレコード
任意のテキスト情報を格納。SPF設定やドメイン所有証明などに利用される。 -
NSレコード(Name Server record)
そのドメインを管理するDNSサーバーを指定する。
これらのレコードを適切に設定することで、Webサイトのアクセスやメールの送受信などが円滑に機能します。
DNSのセキュリティ上の注意点
DNSはインターネットの根幹を支える重要な仕組みであるがゆえに、攻撃の標的にもなりやすいです。以下のようなセキュリティ上の注意点があります。
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DNSキャッシュポイズニング
- 攻撃者が偽のDNS応答をキャッシュDNSサーバーに送り込み、正規のドメイン名を不正なIPアドレスに誘導する攻撃。
- 対策として、DNSSEC(DNS Security Extensions)の導入や、ソフトウェアを常に最新に保つことが重要。
-
DDoS攻撃(DNS Amplification Attack)
- DNSの仕組みを悪用して、大量のトラフィックを特定のサーバーへ送り付ける攻撃。
- オープンリゾルバ化しないように設定し、レートリミットを導入する。
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ゾーン転送の制限
- 権威DNSサーバーのゾーン転送がオープンな状態だと、外部にDNSレコードの詳細情報を渡してしまう危険がある。
- アクセス制御を行い、転送先DNSサーバーを限定する。
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DNS over HTTPS (DoH), DNS over TLS (DoT)
- 通信を暗号化することでプライバシー保護や改ざん防止を図る技術。
- 一部のDNSプロバイダやWebブラウザが対応しており、今後も注目されている。
DNSサーバーを選ぶときのポイント
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可用性と冗長構成
- DNS障害を防ぐために、冗長化されたインフラを提供しているDNSプロバイダを選ぶ。
- 複数のリージョンにサーバーを設置しているかも重要。
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速度とパフォーマンス
- レイテンシを下げ、クライアントに近いエッジサーバーを用意しているか確認。
- CloudflareやAWS Route53など、大規模CDNやクラウドが提供するDNSは、世界中に分散されたサーバーネットワークを持つ。
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セキュリティ機能
- DNSSEC対応、DDoS緩和策などを提供しているプロバイダが望ましい。
- ゾーン転送や権限管理もチェックする。
-
管理のしやすさ・運用コスト
- DNSレコードの編集画面やAPIなど、運用管理のしやすさも考慮。
- 無料プランと有料プランの違い、サポート体制などを比較。