1. はじめに
大規模なクラウド環境では、複数のAWSアカウントを使用することが一般的です。しかし、アカウントが増えるにつれて、管理やセキュリティの維持が複雑になります。そこで役立つのがAWS Organizationsです。
本記事では、AWS Organizationsとその関連概念について、実際の使用例を交えながら解説します。
2. AWS Organizationsの基本概念
2.1 AWS Organizations: マルチアカウント管理の要
AWS Organizationsは、複数のAWSアカウントを一元管理するためのサービスです。
主な機能:
- 複数アカウントの中央管理
- 一括請求とコスト最適化
- セキュリティポリシーの統一管理
- 新規アカウントの自動作成
使用例:
- 部門やプロジェクトごとに別々のAWSアカウントを作成し、一元管理する
- 全社的なセキュリティポリシーを一括で適用する
- 組織全体のAWS利用料を一括で管理し、コスト最適化を図る
2.2 AWSアカウント: リソース管理の基本単位
AWSアカウントは、AWSリソースを使用するための基本的な単位です。
特徴:
- 独立したリソース環境
- 個別の請求とコスト管理
- カスタマイズ可能なセキュリティ設定
使用例:
- 開発環境、テスト環境、本番環境をそれぞれ別アカウントで管理
- クライアントごとに専用のAWSアカウントを用意し、リソースを完全に分離
2.3 OU(Organizational Unit): アカウントのグループ化
OUは、AWS Organizations内でアカウントを論理的にグループ化する仕組みです。
メリット:
- アカウントの階層的な管理
- グループ単位でのポリシー適用
- 部門やプロジェクトに応じた柔軟な構造
使用例:
- 「開発」「テスト」「本番」などの環境別にOUを作成
- 「マーケティング部門」「技術部門」など、組織構造に合わせてOUを構成
2.4 IAMユーザー: 個別のアクセス管理
IAMユーザーは、個別のAWSリソースにアクセスするためのアカウントです。
特徴:
- 細かなアクセス権限の設定
- 多要素認証(MFA)によるセキュリティ強化
- 監査ログによる行動追跡
使用例:
- 開発者ごとにIAMユーザーを作成し、必要最小限の権限を付与
- 外部委託先に一時的なIAMユーザーを発行し、アクセスを制限
2.5 IAMグループ: ユーザー管理の効率化
IAMグループを使用すると、複数のIAMユーザーに一括して権限を適用できます。
メリット:
- 役割ベースのアクセス管理
- 権限の一括更新
- ユーザー管理の簡素化
使用例:
- 「開発者」「運用担当者」「管理者」などの役割ごとにグループを作成
- プロジェクトチームごとにグループを作成し、必要な権限を一括付与
3. AWS Organizations階層構造の例
以下は、AWS Organizationsの階層構造を示す簡単な図です:
TechnoGlobe (Root)
├── 事業部門OU
│ ├── Eコマース部門OU
│ │ ├── AWSアカウント: ECサイト本番
│ │ │ ├── IAMグループ: EC運用チーム
│ │ │ │ ├── IAMユーザー: ec_ops1
│ │ │ │ └── IAMユーザー: ec_ops2
│ │ │ └── IAMグループ: ECカスタマーサポート
│ │ │ ├── IAMユーザー: ec_support1
│ │ │ └── IAMユーザー: ec_support2
│ │ └── AWSアカウント: EC開発環境
│ │ └── IAMグループ: EC開発チーム
│ │ ├── IAMユーザー: ec_dev1
│ │ └── IAMユーザー: ec_dev2
│ │
│ └── モバイルアプリ部門OU
│ ├── AWSアカウント: モバイルアプリバックエンド本番
│ │ └── IAMグループ: モバイル運用チーム
│ │ ├── IAMユーザー: mobile_ops1
│ │ └── IAMユーザー: mobile_ops2
│ └── AWSアカウント: モバイルアプリ開発環境
│ └── IAMグループ: モバイル開発チーム
│ ├── IAMユーザー: mobile_dev1
│ └── IAMユーザー: mobile_dev2
│
├── 共通基盤OU
│ ├── AWSアカウント: 社内システム
│ │ └── IAMグループ: IT管理チーム
│ │ ├── IAMユーザー: it_admin1
│ │ └── IAMユーザー: it_admin2
│ ├── AWSアカウント: データ分析基盤
│ │ └── IAMグループ: データアナリストチーム
│ │ ├── IAMユーザー: data_analyst1
│ │ └── IAMユーザー: data_analyst2
│ └── AWSアカウント: CI/CD環境
│ └── IAMグループ: DevOpsチーム
│ ├── IAMユーザー: devops1
│ └── IAMユーザー: devops2
│
└── セキュリティ・コンプライアンスOU
├── AWSアカウント: ログ管理
│ └── IAMグループ: セキュリティ監査チーム
│ ├── IAMユーザー: security_auditor1
│ └── IAMユーザー: security_auditor2
└── AWSアカウント: コンプライアンス管理
└── IAMグループ: コンプライアンスチーム
├── IAMユーザー: compliance_officer1
└── IAMユーザー: compliance_officer2
4. AWS Organizationsにおける論理的分離の重要性
4.1 事業部門OUの分離
理由:
- ビジネス機能の分離
- リソースの独立性
- コスト管理の明確化
利点:
- 部門ごとに最適化されたポリシーの適用が可能
- 部門間のリソース競合やセキュリティリスクの低減
- 部門別の予算管理と費用対効果の分析が容易
4.2 本番環境と開発環境の分離
なぜAWSアカウントを分ける必要があるのか:
- セキュリティの強化
- コンプライアンス要件の遵守
- リソース管理の最適化
- 権限管理の簡素化
- 障害の影響範囲の限定
- コスト管理の明確化
- 開発ライフサイクルの管理
実践例:
TechnoGlobe株式会社の例では、Eコマース部門で以下のようにアカウントを分離しています:
├── Eコマース部門OU
│ ├── AWSアカウント: ECサイト本番
│ │ ├── IAMグループ: EC運用チーム
│ │ └── IAMグループ: ECカスタマーサポート
│ └── AWSアカウント: EC開発環境
│ └── IAMグループ: EC開発チーム
この構造により:
- EC運用チームは本番環境の管理に専念できます。
- 開発チームは自由に実験や開発を行えますが、本番環境に直接影響を与えることはありません。
- カスタマーサポートチームは必要最小限の本番環境アクセスを持ちます。
4.3 共通基盤OUの設置
理由:
- リソースの共有と標準化
- 効率的な運用
- コスト最適化
利点:
- 横断的に使用するサービスの一元管理
- 共通基盤の更新やセキュリティパッチの適用が容易
- 重複投資の回避によるコスト削減
4.4 セキュリティ・コンプライアンスOUの独立
理由:
- セキュリティの一元管理
- コンプライアンス要件の遵守
- 監査の容易性
利点:
- 全社的なセキュリティポリシーの一貫した適用
- ログ管理とコンプライアンス管理の統合による効率的な監査プロセス
- セキュリティインシデントへの迅速な対応
5. まとめ
AWS Organizationsを活用することで、複雑な組織構造や多様なプロジェクト要件にも柔軟に対応し、効率的でセキュアなクラウド環境の管理が可能になります。適切に設計されたOrganizations構造は、ビジネスの成長とともにスケールし、長期的な運用効率の向上に貢献します。