性能主義が生むユーザー体験の落とし穴
Googleのプロダクトは、技術的な性能や機能面において非常に優れているのは間違いないが、実際にユーザーが感じる「使いやすさ」や「快適さ」といったユーザビリティにおいては、大きな課題を抱えているように感じられる。
そもそもGoogleの思想は、「高性能なツールを提供するが、それをいかに使いこなすかはユーザー次第だ」というスタンスであり、ユーザー側に高いリテラシーや積極的な学習を求める傾向が強い。言い換えれば、ユーザーがツールに寄せていく必要があり、「真のユーザーファースト」とは乖離がある。このスタンスは、かつてMicrosoftがWindowsを展開した際の思想に近い。つまり、「コンピューターは本来使いにくいもので、ユーザーがそれに合わせるのは当然だ」という開発者ファースト的な思想である。対してAppleは、ユーザーがテクノロジーに合わせるのではなく、テクノロジーがユーザーに寄り添い、学習コストを最小化することを徹底的に追求してきた。この違いが、AppleとMicrosoftのプロダクト体験の差のみならず、Googleとの差をも生み出している。
また、市場の戦略としても、GoogleはAmazonと同じく、市場を完全に独占した上で最低限のユーザビリティ(決して使いやすくないツール)を提供する『殿様商売』的なやり方をしてきた。検索エンジンという分野ではそれが成功したが、AI市場では通用しない。AI分野は競合が非常に多く、性能だけでなくユーザー体験(UX)が極めて重要な競争ポイントになるからだ。性能が高ければ、ユーザーが勝手に使ってくれるというGoogleの従来のスタンスでは、ユーザー体験を重視するライバル企業との競争には勝てない。企業のDNAやカルチャーはすぐに変えることが難しいため、Googleが真にユーザーファーストの思想に転換するには時間がかかりそうだ。
結局、Googleが語る『ユーザーファースト』とは、ユーザー自身が能動的に性能を引き出すためのリテラシーを持つことが前提のものであり、ユーザーが求める学習コストの低い、快適な体験を指しているわけではない。この根本的な思想の差を理解しておかなければ、Googleのプロダクトを評価する際に誤解が生じるだろう。