#私が疑問だったこと
社会人になって初めて制御工学を知り、研修中に制御の基礎を教えてもらったのですが
「ラプラス変換して、$s = j\omega$とおいて・・・」
「ボード線図がこうで・・・」
「帯域が・・・」
「安定にするには・・・」
みたいなよくある話があったわけですが、正直、$s = j\omega$の意味が謎すぎて、その場で思考停止してしまいました。
大学でやってた人に聞いて、「フーリエ変換になってるやろ?」とか言われても、「今は制御の話をしているんだぞ?」となって疑問が増えるだけでした。入力と出力の話をしているのにフーリエ変換を急に持ち出されてもね・・・きっとフーリエ変換をちゃんと理解している人には疑問ではないのでしょうが。
ここでは、制御屋さんらしく、入力と出力を見て$s=j\omega$として$G(j\omega)$を使う理由を求めたいと思います。
#本記事の目標
$s = j\omega$で何を求めているのか理解することを目標にします。
結論から言うと、$s = j\omega$とすることで、正弦波を入力したときの定常応答を求めることができています。実際に確かめていきましょう。
#導出
入力
$$u(t)=A\sin\omega t$$
正弦波のラプラス変換を思い出して
\begin{align}
U(s)&=L[u(t)] \\
&=L[A\sin(\omega t)] \\
&=\frac{A\omega}{s^2+\omega^2}
\end{align}
伝達関数$G(s)$として出力のラプラス変換を求めてみよう
\begin{eqnarray}
Y(s)&=&G(s)U(s)\\
&=& G(s) \frac{A\omega}{s^2+\omega^2}
\end{eqnarray}
$G(s)$が安定なシステムだと、安定極$p_i$を持っているはずなので
\begin{eqnarray}
Y(s)&=&\frac{c_1}{s-p_1}
+\frac{c_2}{s-p_2}+\cdots+\frac{c_n}{s-p_n}
+\frac{d_1}{s+j\omega}+\frac{d_2}{s-j\omega}
\end{eqnarray}
出力信号の時間応答は
\begin{eqnarray}
y(t)&=&L^{-1}[Y(s)] \\
&=&c_1e^{p_1t}+c_2e^{p_2t}+\cdots+d_1e^{j\omega t}+d_2e^{-j\omega t}
\end{eqnarray}
十分時間がたった時の定常応答は
\begin{eqnarray}
y(t)&=&d_1e^{j\omega t}+d_2e^{-j\omega t}
\end{eqnarray}
$d_1$と$d_2$はヘビサイドの展開定理で
\begin{align}
d_1 &=\left. \frac{G(s)A\omega}{s+j\omega} \right|_{s = j\omega} \\
d_2 &=\left. \frac{G(s)A\omega}{s-j\omega} \right|_{s = -j\omega}
\end{align}
となるので
\begin{eqnarray}
y(t)&=&A
\left\{
\frac{G(j\omega)}{2j}e^{j\omega t}
- \frac{G(-j\omega)}{2j}e^{-j\omega t}
\right\}
\end{eqnarray}
極座標で書くと
\begin{align}
G(j\omega ) &=|G(j\omega )|e^{j\theta} \\
G(j\omega ) &=|G(-j\omega)|e^{-j\theta}
\end{align}
$\theta = \angle G(j\omega)$
\begin{align}
y(t) = |G(j\omega)|A
\left\{
\frac{e^{j(\omega t+\theta)}}{2j}
-\frac{e^{j(-\omega t+\theta)}}{2j}
\right\}
\end{align}
オイラーの公式を思い足して
\begin{align}
y(t) = |G(j\omega)|A \sin(\omega t+\theta)
\end{align}
となります。どんな入力をしていたか$$u(t)=A\sin\omega t$$と比べると出力$y(t)$の振幅が
$$|G(j\omega)|$$
だけ大きくなっていて、位相が
$$\theta = \angle G(j\omega)$$
だけずれた出力が出てきている。よって、$G(s)$がわかっているときには正弦波を入力したときの定常応答が$s=j\omega$とした周波数伝達関数$G(j\omega)$でわかる。
#最後に
これで今度からはこの計算をしなくても、$s=j\omega$とした周波数伝達関数$G(j\omega)$で正弦波を入力したときの定常応答を求めることができるわけだ。ボード線図に書いてあるのはこれだったんだなー