はじめに
本稿は、日本ブリーフセラピー協会の認定資格であるブリーフセラピスト・ベーシックの受験体験記です。
ここに至った主なきっかけは、今いる会社で導入された 1on1 でした。
よく 1on1する側のスキルに、コーチングスキルの他にカウンセリングスキルが必要 1 といいます。が、実際、どう学んでいくとよいものか、どうにもよくわからないなぁと強く感じたのがきっかけです。
一見、筆者が長年馴染んできたソフトウェアエンジニリングと、カウンセリングとは相当のギャップがあります。実際、カウンセリングといえば精神分析が有名ですが、いくら心理的安全性を確保しても、その人の生い立ち・発達成長過程や深い内面まで踏み込むことは、プライバシー一つとっても現実的ではないですよね。また、今後の成長のために、過去の状況に深く入り込むことがどの程度必要なものなのか。
その点、下記の理由からブリーフセラピーはエンジニアからみてとっつきやすいと思っています。
- サイバネティックスを応用したベイトソンのシステム論をベースにしている
- システム、すなわち集団の関係性と行動の変化に着目する
- 問題を個人に求めるのでなく、解決を図るべくシステムに働きかける
そう、何よりも「バグを憎んで人を憎まず」が彷彿されるアプローチなのです。
また、比較的少ない学習時間で、一定の学習水準に達したことを示す客観的なフィードバック(つまり資格)が得られます。
マネジャーになると、メンバーの心理・心象の理解やコミュニケーションスキルの向上が必要と、よくいいます。
本稿により、メンバーの心理・心象にどう向き合っていったら良いかわからない、コミュニケーションスキルを学ぶにしても、まずはとっかかりのヒントが欲しい。そんな方にごブリーフセラピーはどうでしょうか?
以下、ご参考になれば幸いです。
ブリーフセラピーとは 2
はじめにでも触れましたが、ブリーフセラピーとは、問題の原因を個人に求めるのではなく、コミュニケーション(相互作用)循環の変化を促し、問題を解決・解消していこうとする心理的アプローチです。「原因が何か」ではなく、「今ここで何が起きているのか」(相互作用)を重要視し、相互作用の循環に着目します。
解消するためのアプローチとしては、以下の2種類があります。
- 悪循環を断ち切るアプローチ(Mental Research Institute(MRI)アプローチ)
- 良循環を拡張するアプローチ(ソリューション・フォーカスト・アプローチ; SFA)
結果、従来の心理分析的なアプローチよりも短期な問題の解消を目指します。なお、ブリーフとは「短期の」「簡潔な」という意味であり、決しておパンツなことでありません。
なぜブリーフセラピーに興味をもったか
きっかけは、公認心理師で臨床心理士の妻の勧めがありました。
別ルートでオープンダイアローグという心理的なアプローチを知り、この7原則がアジャイルマニフェスト・スクラムフレームワークと親和性が高そうと感じました。オープンダイアローグの基礎が家族療法がベースになっており、オープンダイアローグのミーティングに複数のセラピストの参加が推奨されていること 3、セラピストの応答を学ぶには、日本だと家族療法の一つであるブリーフセラピーが近道になりそうだと判断したためです。
まず何をしたか
1年に2回開催される養成講座を受けました。
講座の様子は、講師は2人1組でワークショップ形式、勉強会のノリに近いのでとっつきやすいと思います。
地方在住のかたは、日本ブリーフセラピー協会各支部で同等の内容をもった講座を開催しているので、そちらを受けても構いません。
資格試験をとるために準備したこと
養成講座のレジメを何度も読みました。つまづきやすいところは自分で想定問題を作っては答えをOutputしました。年末に日本ブリーフセラピー協会からテキスト「Interactional Mind Ⅻ」が送られてきたので、それも一通り読みました。テキストはわかりやすく事例も豊富でとっつきやすかったです。特に産業領域の事例は「将来のビジョンが1mmも見えない」相談など これって1on1の事例かと思えるほどでした。
その他、試験の1週間前(2/09)岐阜県支部で実践演習(ロールプレイ・コンサルテーション)に参加して、応答技法・スキルを磨きました。
資格試験の様子
2/16(日)に横浜は上大岡というところでうけてました。
試験概要
午前の部と午後の部とわかれ、午前は筆記、午後は実技・面接といった形式でした。
午前の部
5択記号入力方式三十問ほど、および論述2問でした。
論述は、一つは事例で、MRIかSFAのどちらかを選択し、論述するものでした。比較的得意なMRIアプローチで悪循環をきる方向を選択し、書きました。
もう一つは、森田療法やナラティブセラピー、認知行動療法ほか9つの中から、一つを選択、ブリーフセラピーとのおなじ点、違う点、ブリーフセラピーのよさを書くという問題でした。ナラティブセラピーはシステム論および語用論をベースとした いわば親戚だし、あとからでてきて欠点を解消した方式なので Disちゃうし、森田療法って単語はしっているけど勉強不足で正直なに?状態なので、かろうじて本を読んだことがある認知行動療法を選択、ブリーフセラピーを褒める(コンプリメントする)方向でかきました。
午後の部
午後は、事例をとりあげてロールプレイと面接。
45人受験者がいて、6つのグループにわかれます(つまり、7-8人で一つのグループ)。
事例は、暴力的な中3男子を抱えた父親の相談。離婚して2年 仕事が忙しい父親と、悪い仲間とつるんで遊ぶ息子。父と息子の間にはだまって食事する以外に接点がなく、最近息子が警察に厄介になり、父親が心配し民間のカウンセリングルームに相談にしにきた設定です。
7-8人で五分ごとに交代で順繰りに質問していきました。最後の2番目だったのですが外的リソース・内的リソースともに不足気味で、そろそろまとめて介入するか、もう少しリソースを探すか迷ってしまいました。いくつか提案しながらさらにリソースを探った上で、最終的には美味しく食べて落ち着く時があるということなので、そのときに声をかけるで提案してみました。
面接は、見立て(=事例に対する診断)と介入をどう考えたかを説明を求められたうえで、相談者役の面接官→観察していた面接官二名(男性・女性)の順にフィードバックがありました。
合格発表
3月から4月ごろというお話でしたが、2月の終わりには合格発表が郵送でありました。
1on1 でセラピーの訓練の必要性を感じて以来、コツコツと勉強してきましたが、本日、日本ブリーフセラピー協会の資格試験、合格しました!
— 福々亭ひろにゃんこ@5_18EM_NAGOYA (@warumonogakari) February 29, 2020
これで、晴れてブリーフセラピストと名乗れます。
面接時のフィードバックの感触で、てっきり落ちたと思っていたので、喜びもひとしおです。
素直にうれしい😃 pic.twitter.com/VaMUQeffiA
今ふりかえってみても、よく受かったなと (^^;;
勉強してよかったこと
視座の方向性が広がる 〜メタ認知も複数ある〜
自分を客観視するメタ認知という考え方があります。一つ例をあげると「緊張している自分を眺めている自分がまたいる」になるでしょうか。このメタ認知、少なくとも複数あることが、あらためてわかりました。
- 今何が起こっているか上から俯瞰してみるMRIアプローチ
- 相手の側に渡って、寄り添ってみて好循環を促すSFA
自分の考えでは、マネジャースキルとしてはどちらも必要です。上から俯瞰してみないと組織設計はできないですし、一方、各メンバに寄り添ってみていかないと適切なコーチはできないからです。
今まで自分は上から俯瞰してみる MRIアプローチに偏っていたことに気づきました。これは自分にとって大きな気づきでした。
システム思考のトレーニング
悪循環を断ち切るにしろ、良循環を伸ばすにしろ、相手の話を聞いて循環図が描けないとはじまりません。循環図を描くにはシステム思考のスキルが必要です。
ブリーフセラピーの事例演習を通して、要点をとらえ、循環図を描く機会が増えました。これは、システム思考のトレーニングに大きく役立つと思っています。
コミュニケーションとは その性質・理解が深まる
コミュニケーションには、「すべての行動はコミュニケーションである」をはじめとした5つの公理があります。4
特に、第2公理「コミュニケーションには内容(情報の伝達)と関係(行動を規定する命令)がある」は、計算機のプログラムにはデータと命令セットがあることを彷彿され興味深く感じました。
その他、ベースとなるシステム論と社会構成主義には深く考えさせられます。システム論はどのように自己組織化チームを設計するか、社会構成主義はなぜ対話が必要となるのか深い理解が得られると思います。
おわりに 〜これからやること〜
コミュニケーション理論は勉強途中だし、コミュニケーション技法スキルもまだまだくちばしの黄色いヒヨコさんです。これからも数多くの研鑽を積んで精進し、特に「聴いてもらえたー。」と心から感じてもらえる応答を重ねていきたい。
今、コロナ禍により、多くの人が人知れず不安を抱えている状況だと感じています。
一方で、オンライン形式のセラピーはまさに横一線、誰もが初心者な状況です。幸いにしてエンジニアである自分は zoom などビデオ会議の運用がチョットワカル状況、これを活用・研究していかない手はないです。
今後、チョットだけでも世のため人のためお役に立てればと、そう思って活動している次第です。
参考文献
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日本ブリーフセラピー協会の ブリーフセラピーとはより引用 ↩
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Olson, M, Seikkula, J. & Ziedonis, D. (2014). The key elements of dialogic practice in Open Dialogue. The University of Massachusetts Medical School. Worcester, MA.日本語訳 ↩
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ポール・ワツラヴィック、人間コミュニケーションの語用論、二瓶社 ↩