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「他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論」を読んで。

Last updated at Posted at 2019-11-05

はじめに

 最近大変興味をもっている 宇田川元一先生著「他者と働く 「わかりあえなさ」から始める組織論」

を購入し ようやく読み終えたので、今後の自分のためにも、自分の頭の整理がてら Outputしてみます。

内容 概略

 以下、内容を箇条書きですが簡単に記載していきます。 

背景にあるもの 社会構成主義

  • わたしにとっての常識は、常識を共有する人々とのやりとりを通じて作り出され、そのやりとりを通じて常識が再生産されるという考え方
  • 「現実は社会的に構成されている」

 計算機でたとえると、ハードウェア回路の信号(=現実)はソフトウェア(=常識)を通じて構成されると考えると、わかりやすいかも。

組織と成員のとらえ方

  • 組織とは成員の「関係性」そのもの
  • 成員は各々 各々ならではのナラティブをもつ
  • ナラティブとは物語、語りを生み出す「解釈の枠組み」

 ナラティブは「解釈の枠組み」なので、その中には、論理的な正しさの他に、事実や感情、その成員にとっての価値観がいりまじっている。

とりあげている課題

  • 技術的問題(technical problem) 既存の方法で解決できる問題
  • 適応課題(adaptive challenge) 既存の方法で一方的に解決ができない複雑で困難な問題
  • 適応課題は関係性の中で生じる問題
  • 適応課題は、見えない問題、向き合うのが難しい問題、技術で一方的に解消できない

 本書でとりあげているテーマは、もちろん適応課題。

適応課題の種類

 4つある。

  1. 「ギャップ型」 大切にしている「価値観」と実際の「行動」にギャップが生じるケース。
  2. 「対立型」 互いの「コミットメント」が対立するケース。どちらも正義。
  3. 「抑圧型」 「言いにくいことを言わない」ケース。
  4. 「回避型」 痛みや恐れを伴う本質的な問題を回避するために、逃げたり別の行動にすり替えたりするケース。

 いずれも、人と人、組織と組織の「関係性」の中で生じている問題。関係性を俯瞰してみていくと、大事なことに取り組んでいない・できないことが見えてくる。

適応課題にたいし、どうなっていくとよいか

  • 新しい関係性を構築すること
  • 関係は、「私とそれ」から「私とあなた」へ

そのためのアプローチ -対話ー

  • 話の前提 お互いのナラティブは知りえていない、わかりあえていないことを認める。
  • 対話のプロセス わかりあえていないことを「溝」に、対話を「溝に橋を架ける」ことに例える
  1. 準備「溝に気づく」 適応課題があることに気づく
  2. 観察「溝の向こうを眺める」
  3. 解釈「溝を渡り橋を設計する」
  4. 介入「溝に橋を架ける」

 1~4を繰り返す。これにより、新たなナラティブと関係性を築き、新たな「現実」を作り出す。

対話を阻む罠

 5つある。

  1. 気づくと迎合になっている
  2. 相手への押しつけになっている
  3. 相手と馴れ合いになる
  4. 他の集団から孤立する
  5. 結果が出ずに徒労感に支配される

いくつかの実践事例

 これは割愛。本書では上記の事柄を実例をまじえて説明している。

感じたこと・まなんだこと(わかったこと・わからなかったこと)

感じたこと

 まず一読して非常にわかりやすい本だと感じました。今まで言語化できなかったもやもやがすっきりと言語化されており、特に課題設定は秀逸で「これこれ、これなんだよ」と何度も膝をうちました。単に抽象的で論理的な言説だけでなく、事例も豊富で、具体的で説得力のあるものでした。 

 一方で、読めば読むほどわからなくなる本だなとも感じました。
 とくに、「介入」という強い言葉でひっかかりました。

 まず「介入」とは、強い関係性をもちはじめる行動と理解しました。
 そのうえで、「介入」が、新しい関係性を持つために、本当に適切な行動たりうるのか疑問に感じました。たとえば、マネージャやスクラムマスターの場合、あくまでも支援者にしかなりえず、支援がおわったらいつかは離れる存在です。そんな支援者が「介入」することは依存性を強化し、それゆえ離れられない状況に陥りがちになるのではないかと。
 また、単に情報のハブになっている場合は、「介入」という強い関わりをもつよりも、むしろ間にはいらず直接やりとりをうながし、自らハブな状況を解消する、むしろ関係をなくすように進めたほうがよいようにもおもえます。
 なによりも、「介入」する側がなぜか「主役」となり、本来あるべきシステムの成員が「脇役」に追いやられていく結果になりがちです。このあたり、観察と解釈をどう変えるか含め検討を要すると感じました 1

現場が再び主人公になるためのアプローチ

 一方で、現場のリーダが立ち上がって自ら「介入」するのでれば、現場が再び苦労を取り戻せるのではないかとも感じました。
 たとえば、ソフトウェア開発の現場では、1990年代から現在に至るまで、さまざまな専門家の手によって技術的問題を解決してきました。ISO9000やCMMによるマニュアル化、CIやIDE、BTSに代表されるツール群、コンプライアンスに依拠した様々なルール。
 これらはこれで多くの問題を解決してきたとはおもうのですが、一方で複雑で高度な専門性をもち、現場がなにかを変えようとしても逆に「見えない」障害となって立ちはだかる、まさに適応課題のひとつの要因になっています。

 今までは、これらのルールにのっとって、なんとか積み上げ式にシステムを開発してきました。
 これからはビジネス環境の大変化により、それがままならない。その際、現場のリーダが、自らと専門家群の溝に気づき、溝の向こうを眺め、手に手をとりあって開発することができれば、世界中の会社が同じ障害に苦しんでいるだけに、一歩競争優位に立てるかもしれない。
 なによりも、他人のひいたレールを歩む開発よりも自らの開発に勤しむことができ、達成感や まなびの喜びもまたひとしおになるのかもしれません。

おわりに

 本書により、長年重すぎて読もうとおもって読めていなかった「軌道」をやっと読むことができました。

 「軌道」では、まさに本書がとりあげているナラティブアプローチにより、JR西日本が改革の道を歩み始めたところまで、触れています。当事者だけを単に責める日勤教育から、関係性に着目したシステムズアプローチへの変革まで、改革の道は半ばかもしれませんが、本書とあわせて読むと、大いなる苦しみの果てではあるものの、にもかかわらず未来に希望があることを感じさせられます。

 本書は、今そこにある困難な課題、漠然とした「不安」や「心配」、ひいては「わかりあえなさ」を言語化した素晴らしい本です。これにより、今まさに自分がすすめようとしているオープンダイアローグの開発現場への導入に、多くの根拠をもらい、大いなる勇気をいただきました2
 プロダクトマネージャやエンジニアリングマネージャ、スクラムマスターさんには是非一度手にてって読むことをお奨めしたい本です。
 

  1. 本の中でトムアンデルセンの家族療法をとりあげている(p.172-)ので、宇田川先生はわかって書いていらっしゃるのかもしれません。

  2. オープンダイアローグについては、後日まとめる予定でいます。

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