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チーム「オキザリス」Advent Calendar 2020

Day 20

スクラムガイド2020の「スプリントレトロスペクティブ」に関する変更点

Last updated at Posted at 2020-12-21

この記事について

 この記事は、aslead Agileの開発チーム「オキザリス」にて行っているアウトプット企画である
チーム「オキザリス」Advent Calendar」の20日目の記事です。

 この記事では、2020年版のスクラムガイドの「スプリントレトロスペクティブ」に関する記載について、2017年版と対比させながら違いについて説明していきます。

 なお、スクラムガイドはあくまで「ガイド」であり「教本」ではありません。この記事もあくまで1つの考え方を示しているだけだ、という前提を置いたうえで、お読みください。

スクラムガイドにおける「ふりかえり」に関する記載

スクラムガイド2020

 早速ですが、スクラムガイド2020から記載を抜き出して読んでみましょう。

スプリントレトロスペクティブ
 スプリントレトロスペクティブの目的は、品質と効果を高める方法を計画することである。
 スクラムチームは、個人、相互作用、プロセス、ツール、完成の定義に関して、今回のスプリントがどのように進んだかを検査する。多くの場合、検査する要素は作業領域によって異なる。
 スクラムチームを迷わせた仮説があれば特定し、その真因を探求する。スクラムチームは、スプリント中に何がうまくいったか、どのような問題が発生したか、そしてそれらの問題がどのように解決されたか(または解決されなかったか)について話し合う。
 スクラムチームは、自分たちの効果を改善するために最も役立つ変更を特定する。最も影響の大きな改善は、できるだけ早く対処する。次のスプリントのスプリントバックログに追加することもできる。
 スプリントレトロスペクティブをもってスプリントは終了する。スプリントが 1 か月の場合、スプリントレトロスペクティブは最大 3 時間である。スプリントの期間が短ければ、スプリントレトロスペクティブの時間も短くすることが多い。

スクラムガイド2020では、5段落から構成される説明のみで完結しています。
また、スプリントレトロスペクティブに関連する項目として、スクラムマスターの項に以下のように記載されています。

スクラムマスター
(略)
• すべてのスクラムイベントが開催され、ポジティブで生産的であり、タイムボックスの制限が守られるようにする。

 上記が、スプリントレトロスペクティブに関する記載の全てです。それでは、2017年版の記載も見てみましょう。

スクラムガイド2017

スプリントレトロスペクティブ
 スプリントレトロスペクティブは、スクラムチームの検査と次のスプリントの改善計画を作成する機会
である。
 スプリントレトロスペクティブは、スプリントレビューが終わって、次のスプリントプランニングが始まる前に行う。スプリントが 1 か月の場合、スプリントレトロスペクティブは最大 3 時間である。スプリントの期間が短ければ、スプリントレトロスペクティブの時間も短くすることが多い。スクラムマスターは、このイベントが確実に開催されるようにする。また、参加者に目的を理解してもらうようにする。
 スクラムマスターは、このミーティングがポジティブで生産的になるようにする。スクラムマスターは、全員にタイムボックスを守るように伝える。スクラムマスターは、スクラムのプロセスを説明するために、チームメンバーとして参加する。

スプリントレトロスペクティブには、以下の目的がある。
• 人・関係・プロセス・ツールの観点から今回のスプリントを検査する。
• うまくいった項目や今後の改善が必要な項目を特定・整理する。
• スクラムチームの作業の改善実施計画を作成する。

 スクラムマスターは、次のスプリントが効果的で楽しいものになるように、スクラムチームにスクラムプロセスフレームワークの範囲内で開発プロセスやプラクティスを改善してもらう。スプリントレトロスペクティブにおいてスクラムチームは、作業プロセスの改善や「完成」の定義を調整することにより、プロダクトの品質を向上させる方法を計画する。ただし、プロダクトや組織の基準と衝突しないように適切に行う。
 スプリントレトロスペクティブが終わるまでに、スクラムチームは次のスプリントで実施する改善策を特定しなければいけない。これらの改善策の実施は、スクラムチーム自体の検査に対する適応になる。改善はいつでも実施可能だが、スプリントレトロスペクティブは検査と適応に集中するための公式な機会である。

 また、スプリントバックログの項にもレトロスペクティブに関する記載があります。

スプリントバックログ
(中略)
継続的改善を確実なものとするために、前回のレトロスペクティブで特定した優先順位の高いプロセスの改善策を少なくとも 1 つは含めておく。

 それでは、両者を読み終わったところで、部分部分で比較・解説していきます。

 今回は、以下の6つのポイントに分けて説明します。

  • スプリントレトロスペクティブの目的
  • スプリントレトロスペクティブの検査項目
  • 改善計画の検討
  • アクションの実行
  • スプリントレトロスペクティブのタイミングと時間
  • スクラムマスターの役割

1. スプリントレトロスペクティブの目的

version 記述
2017 スプリントレトロスペクティブは、スクラムチームの検査と次のスプリントの改善計画を作成する機会である。
2020 スプリントレトロスペクティブの目的は、品質と効果を高める方法を計画することである。

 2017年版では、スプリントレトロスペクティブは検査と改善計画のための作成の機会として説明されていました。チームの状態を検査し、チームが次のスプリントをより良いものへとするためのアクションを立てる、という風にも読み取れます。

 2020年版では、一段階抽象度を上げて記載されています。上記の2017年版の内容は効果を高める方法を計画することとして包含され、そして品質を高めることが盛り込まれています。

 効果を高めるとは、スクラムのもたらす効果、チームが活動した結果による効果、どちらにもかかっているものと認識しています。スクラムを実践することによって、チームにどのような効果が起こっているか。そして、チームが活動したことで、プロダクトやチーム自身にどのような価値・効果が生み出されたか、を指します。

 品質を高めるとは、プロダクトの品質のことを指します。2017年版でも「完成の定義」に関する記述はあり、プロダクトの品質を高める旨がそれとなく記載されていましたが、もっと直接的で伝わるよう、スプリントレトロスペクティブの目的として明言したのだと思われます。
 品質を高めるとは、チームの品質のことを指します。スクラムのプロセスを実行できるチームの状態や、コミュニケーションの品質など、チーム自身の品質に関わる様々な事柄を内包します。
(原田騎郎さん@haradakiroから、「プロダクトの品質じゃなくて、チームの品質のことだよ」とご指摘いただきました、Jeffがミスリードを誘ったのではないか?という話も。)

 どちらも、スプリントレトロスペクティブの本質の部分に変化はありません。ただ、2017年版がややHow寄りの記載になっていたのに対し、2020年版のほうがより広いイメージを持ちやすい言葉となっています。

2. スプリントレトロスペクティブの検査項目

version 記述
2017 • 人・関係・プロセス・ツールの観点から今回のスプリントを検査する。
• うまくいった項目や今後の改善が必要な項目を特定・整理する。
(中略)
スプリントレトロスペクティブにおいてスクラムチームは、作業プロセスの改善や「完成」の定義を調整することにより、プロダクトの品質を向上させる方法を計画する。ただし、プロダクトや組織の基準と衝突しないように適切に行う。
2020 スクラムチームは、個人、相互作用、プロセス、ツール、完成の定義に関して、今回のスプリントがどのように進んだかを検査する。多くの場合、検査する要素は作業領域によって異なる。

 ここでは、検査する観点と、「完成の定義」についての記載の2つを説明します。

検査する観点

 2017年版では人・関係・プロセス・ツールとなっていたのに対し、2020年版では個人、相互作用、プロセス、ツール、完成の定義になっています。この変更点は個人的に一番好きな部分です。

 元々の定義でも、人・関係は一番前に記載されていました。これは、多くのスクラムチームで「プロセス」や「ツール」についての議論がなされることが多く、チーム内のコミュニケーション・コラボレーションが蔑ろにされがちであるということへのアンチテーゼだったのではと考えています。ただ、「人・関係」というのはやや抽象的であり、「スプリントレトロスペクティブで人について話し合いましょう」と言われてもなかなかピンときませんよね。私自身も「チームメンバー同士の相互理解」「関係の質を高める意義」「コミュニケーション・コラボレーション」という言葉を使って説明しています。

 これに対し、2020年版では個人です。まさに、言いたかったことを言い換えてくれた!というレベルの修正だと感じています。個人から連想されるのは、アジャイルマニフェストの個人と対話をの部分です。個人とは、自分自身やチーム、そしてステークホルダーなど、チームに関わる人達すべての「一人ひとり」に対して使う言葉です。彼らとの関わり方や関係性、そしてコミュニケーションの方法について考えることが、「個人」という言葉一つから連想されます。

 そして、相互作用です。個人と個人によって生まれる作用、チームの活動によって生まれる作用、チーム内外のコラボレーションなど、チームに関わる様々な人たちが生み出す「効果」を連想させます。「関係」について話し合うよりも、「相互作用を高めるため」に、チームとして出来ることをスプリントレトロスペクティブで話し合うことのほうが、自然に感じられ、違和感がありません。

 こちらも、元の定義から大きな意味の変更はないものと感じていますが、より直感的で直接的な表現に切り替わっていることが分かります。

完成の定義

 完成の定義に関しては、更新によってかなり記述が薄くなっています。ただ、元々の記述では、スプリントレトロスペクティブの目的として「完成の定義」が意識されにくい記述でした。2020年版の更新によって、プロダクトの品質に直結する「完成の定義」をより意識しやすくなった記述に書き変わっています。これが、結果として高い価値のプロダクトを生み出すという「チームの品質」に直結していきます。

3. 改善計画の検討

version 記述
2017 • うまくいった項目や今後の改善が必要な項目を特定・整理する。
• スクラムチームの作業の改善実施計画を作成する。
(中略)
スクラムマスターは、次のスプリントが効果的で楽しいものになるように、スクラムチームにスクラムプロセスフレームワークの範囲内で開発プロセスやプラクティスを改善してもらう。
2020 スクラムチームを迷わせた仮説があれば特定し、その真因を探求する。スクラムチームは、スプリント中に何がうまくいったか、どのような問題が発生したか、そしてそれらの問題がどのように解決されたか(または解決されなかったか)について話し合う

 元々はスクラムマスターの役割として記載されていた改善計画へのファシリテーション部分が、スクラムチームの役割として記載が変更されています。スクラムプロセスフレームワークの範囲内という言葉が消えていることから、スクラムだけに囚われず、もっと広い視点で改善を行うことが(暗に)表現されているものだと感じています。

 「効果的で楽しいもの」という記載はなくなり、スプリントレトロスペクティブの目的である「効果を高める」という部分に昇華されました。

 また、どうやって改善計画を立てるかという部分に関しては2020年版でより具体的に記載されています。「何がうまくいったか、どのような問題が発生したか、そしてそれらの問題がどのように解決されたか(または解決されなかったか)について話し合う。」という部分がまさにそれです。これらの質問は、チームの状況・状態を把握するのに役立つでしょう。多くのチームでは、まだまだスプリントレトロスペクティブでは「問題」解決のみにフォーカスしがちです。それが悪いこととまでは言いませんが、自分たちがうまくいったことには目を向けず、心理的に苦しみ続けている現場があるのも事実です。こうした現状に対して、「何がうまくいったか」という問いを明記しているのは、とても嬉しいことです。なお、2017年版・2020年版ともにうまくいった部分へのアプローチの記述はありますが、2020年版のほうが、スプリントレトロスペクティブの中で行う内容(How)として分かりやすく書かれています。

4. アクションの実行

version 記述
2017 スプリントレトロスペクティブが終わるまでに、スクラムチームは次のスプリントで実施する改善策を特定しなければいけない。これらの改善策の実施は、スクラムチーム自体の検査に対する適応になる。改善はいつでも実施可能だが、スプリントレトロスペクティブは検査と適応に集中するための公式な機会である。

(スプリントバックログの項にて)継続的改善を確実なものとするために、前回のレトロスペクティブで特定した優先順位の高いプロセスの改善策を少なくとも 1 つは含めておく。
2020 スクラムチームは、自分たちの効果を改善するために最も役立つ変更を特定する。最も影響の大きな改善は、できるだけ早く対処する。次のスプリントのスプリントバックログに追加することもできる

 この箇所では、「指示」的な内容が大幅に削減されています。元々の記載では、スプリントレトロスペクティブで作成したアクションを、必ず1つ以上スプリントバックログに取り込むような記載がされていました。ただ、2020年版ではその記載は削除され、「次のスプリントのスプリントバックログに追加することもできる。」という柔らかい表現に書き換えられています。

 2020年版での記載であれば、スプリントレトロスペクティブでアクションを必ず出さなければいけない、という強迫観念に追われることも少なくなるでしょう。アクションを出さなくても、スプリントレトロスペクティブでチームのことについて全員で話をするだけでも、チームに変化は起こります。アクションを出すことに縛られすぎると、場当たり的で価値の低いアクションになったり、チーム内部での話し合いが不十分になってしまったりします。そうしたことを防ぐことができる、記載の変更内容だと思います。

 2020年版の自分たちの効果を改善するために最も役立つ変更という部分は、やや抽象的な表現です。「効果を改善する」ので、チームの相互作用やチームの作り出す価値など、様々なものに対して考えを巡らせ、改善することが当てはまります。チームに出来ることなら何でもやる、という考え方でスプリントレトロスペクティブを進めていくと良いでしょう。

5. スプリントレトロスペクティブのタイミングと時間

version 記述
2017 **スプリントレトロスペクティブは、スプリントレビューが終わって、次のスプリントプランニングが始まる前に行う。**スプリントが 1 か月の場合、スプリントレトロスペクティブは最大 3 時間である。スプリントの期間が短ければ、スプリントレトロスペクティブの時間も短くすることが多い。
2020 **スプリントレトロスペクティブをもってスプリントは終了する。**スプリントが 1 か月の場合、スプリントレトロスペクティブは最大 3 時間である。スプリントの期間が短ければ、スプリントレトロスペクティブの時間も短くすることが多い。

 明確に異なるのは、スプリントレトロスペクティブのタイミングが規定されたことです。これまでは「次のスプリントプランニングが始まる前」となっていましたが、「スプリントの最後」へと変更になりました。とはいっても、これまでもスプリントの最後にやっていたチームが多かったと思いますし、そうした方がスプリントレトロスペクティブの効果は高まるでしょう。文章を分かりやすくしただけ、だと思います。

 スプリントレトロスペクティブの時間の記載については、全く変更がありません。

6. スクラムマスターの役割

version 記述
2017 スクラムマスターは、このイベントが確実に開催されるようにする。また、参加者に目的を理解してもらうようにする。
スクラムマスターは、このミーティングがポジティブで生産的になるようにする。スクラムマスターは、全員にタイムボックスを守るように伝える。スクラムマスターは、スクラムのプロセスを説明するために、チームメンバーとして参加する。
2020 (スクラムマスターの項にて)• すべてのスクラムイベントが開催され、ポジティブで生産的であり、タイムボックスの制限が守られるようにする。

 2017年版では、スプリントレトロスペクティブの項にだけ、ポジティブで生産的という単語が記載されていました。2020年版では、これがすべてのイベントへと広げられています。スクラムガイド2020における象徴的な変化の1つだと感じています。

 イベントが確実に開催されるようにするタイムボックスの制限を守られるように伝えるという部分も同様です。全イベントに共通する内容だからこそ、スクラムマスターの役割の1つとして記載が移りました。

 この変更を受けて、是非スプリントレビューやスプリントプランニングなどのイベントも、ポジティブで生産的な活動だと意識するチームが増えてほしいと考えています。

おわりに

 いかがでしたでしょうか。2017年版、2020年版とともに読み比べていくと、スプリントレトロスペクティブへの理解がより深まります。他のイベントに関しても、同様の大きな変更があります。是非、新しいスクラムガイドを読みながら、スクラムへの理解を深め、探求していきましょう。

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