はじめに
2018/01/25 14:00~17:00 に、ナビタイムジャパン本社にて、スクラムとふりかえりに関する勉強会を開いていただき、登壇してきました。会のデザイン・講演・ワークショップまで一連の流れをデザインさせていただきましたので、その様子を私目線で記載させていただきます。
イベント概要
NRI社内のスクラム、ふりかえりの実践者を呼び、講演&質問会を行う、というイベントです。参加者はナビタイムの方のみですが、興味をもたれて聞いてらっしゃる方ばかりでした。
講演1 - スクラム はじめの一歩 つぎの一歩
スライド
内容・レポート
NRI塩川さんに、スクラムの概要についてざっくりと説明いただきました。
塩川さんより、「スクラムって何?」というお話 pic.twitter.com/tHbncqFFuf
— びば(森のフレンズ) (@viva_tweet_x) 2018年1月25日
そーなのかー#navitimenri pic.twitter.com/ZqYPM3T5Mo
— びば(森のフレンズ) (@viva_tweet_x) 2018年1月25日
3つのロール、4つの成果物、5つのセレモニーについて、色んなケースを考えながら説明いただきました。なぜスクラムマスターとプロダクトオーナーは兼任するとまずいのか、というのも、ScMとPOの対立構造が説明されていたので非常に分かりやすかったです。皆さんが手元でメモを取りながら真剣に聞いていたのが印象的でした。
講演2 - ふりかえり~守~
スライド
内容・レポート
私からチームにおけるふりかえりの「基本」を説明させていただきました。事前アンケートでは、ほとんどの人がふりかえり(KPT)を「知っている」とのことだったので、ある程度知っている人向けのスライドになっています。
ふりかえりにおいて一番大事なものは「場作り」だと考えています。そのことを講演の中で何度も強調してお話しました。「前向きに、生産的な対話ができる」という条件が揃っていないと、いくらアクティビティなどで有用な手段を採ったとしても、チームにとってよいアイデア、よいアクションが生まれる可能性は低くなります。逆に言えば、よい場が形成されていれば、ふりかえりの目的に沿ってよいアイデアが出て、アクションへと決まっていきます。是非、場作りを大切にしてほしいと思います。
また、ふりかえりの流れについてTimelineという手法を紹介させていただきました。Timelineによって時系列に事実・感情を収集し、そのうえでKPTを行えば、チームにとってより親近感の高く、より効果の高いアクションの決定へ導けると思います。是非試してみて欲しいと思います。
(Timelineについては今度記事を書こうと思います。)
質疑応答タイム
20分の質疑応答タイムを設け、森・塩川の2グループに分かれて、聞きたいことを聞いていただきました。
ふりかえりに関する質問がありましたので、紹介させていただきます。
- 「アクションが全く実行されないけどどうすればいいの?」
色々原因はあるかと思いますが、アクションを出しただけで満足してしまっているのであれば、チーム全員でアクションに取り組むよう、デイリースクラムなどで意識づけをするとよいと思います。今日はこれ意識しよう!といった具合に、皆でやることを決めるのもよいでしょう。すぐにでも改善できるものであれば、スプリントを始める前にみんなで改善してしまいましょう。
- 「できたらやる、のようなふわふわしたアクションが出て、結局誰もやらない。どうすれば?」
できるだけ具体的かつ達成可能なアクションに落とし込むとよいと思います。
SMARTの考え方にしたがってアクションを具体化するとよいでしょう。
Specific(明確な)
Measurable(計測可能な)
Attainable(達成可能な)
Relevant(適切な)
Timely(タイムリーな)
の略で、アイデアを上記に沿って具体化してアクションにする、というものです。
もしアクションがたくさん出ているのであれば、本当に必要なものだけに絞り、少しずつ改善するよう心がけてください。
- 「自動化がアクションとして上がったけど、みんな忙しくて結局出来ない」
CIをプロセスに組み込む、というようなレベルになると、大規模な構造の見直しが必要になることもありますので、カイゼンの内容としてはかなり重めですね。ただ、チームの出すことのできる価値に直結する内容でもあります。そういった課題は、チームの最優先で取り組むべき課題として、PBI化して対応するとよいと思います。PBI化したうえで、チームからPOに対して自動化の必要性と価値を伝え、優先順位をつけて取り組んでください。
または、小さなことから少しずつ始める(例えば、Jenkinsの1ジョブだけつくる)など、少しの時間を使って確実に前に進む、というやりかたもよいと思います。
- 「カイゼンを続けると、チームのルールがどんどん増えていってつらい」
1ヶ月単位でルールは定期的に棚卸ししましょう。チームのルールで陳腐化しているものはないか、もはやルールに書いておかなくても日常の一部になっているものはないかを見直しするとよいでしょう。ルールは皆が理解してあたりまえのように実践できていれば、「新しい人が入ってきたときにチームの文化を伝えるためのメモ」となるはずです。ルールを「タスク」「TODOリスト」のように重荷に感じてしまっているのであれば、ルールの浸透が出来ていない可能性も高いと思います。そんなときはルール・文化がなぜ浸透していないか、をふりかえってみるとよいと思います。
- 「毎週ふりかえりを続けているが、よいことが出てこない。といってProblemも見当たらない」
最初の場作りはしっかりやったうえで、KPTではなく、YWT(やったこと、わかったこと、つぎやること)にするなど、切り口を変えると意見が出てくるかもしれません。タイムラインで時系列に思い返すのもよいと思います。時系列に事実と感情を収集して、どんなパターンがありそうかグルーピングしてあげると、何が成長に繋がりそうか、成長を阻害してそうか、が見えてくると思います。そうしたらよい方向に伸ばすためにどうすればいいか、ブレストでアイデアを出すといいのではないでしょうか。
もし、毎回のふりかえりで「Keep, Problemを出す意義を感じない」のであれば、そもそもなぜ出てこないのか?ふりかえりの目的は何か?をみんなで話し合うのも必要だと思います。
- 「書きっぷりによってKeepとProblemどちらにも貼れそうな場合はどうすればいいのか?」
「問題が起こった」「でも問題を解決できた」といった同事象の場合はどうすれば、という話だと思います。これは好みですが、KPTであれば、Keepのほうに貼るとよいと思います。どんな風に工夫したのか、だれとコラボレーションしたのかなど、その失敗からの復帰を他にも活かせないかな、と考えると前向きなアイデアが出やすいです。ふりかえりは前向きに考えたほうが、精神衛生的にもチームの成長にもよいと考えています。
- 「他の業界でのふりかえりってどうやってるの?ふりかえりってIT業界だけ?」
政府系でタイムラインをやっている、という記事も見かけました。また、「リフレクション」というやり方をやっている、という他業種の方もいました。医療業界ではKPTも導入されているようです。また、製造業であればFMEAという原因分析手法をやっているところもあります。この手法はふりかえりの中でのチームの課題分析としても有効で、アクティビティとしても活用できます。建築業の方でYWTをやっている、という方もいらっしゃいます。
…と、こんなところで質疑応答時間がいっぱいになってしまいました。
もし他にご質問がございましたら、是非ご気軽に連絡ください。
ふりかえり
「温度計」ベースのふりかえりを個人でおこなってもらい、「みんぐる」で全員で共有、といったアクティビティを行いました。
まずは、以下の内容でふりかえりを行ってもらいました。
- 新しい情報:どんな新しい情報を得ましたか
- パズル:理解不足ですが、興味のあるものはなんでしたか
- 希望と願望:今後やっていきたいものはなんですか
- 提案つき苦情:勉強会のフィードバックを4段階でお願いします
この内容を「みんぐる」でふりかえってもらいました。一人持ち時間約30秒で、ペアを作ってもらいます。ペアでの共有が終わったら、手の空いた人とまたペアになり、共有してもらう、というものです。
約8分間の共有時間を作らせていただきましたが、皆様の笑顔を見ていると、色んな場所で、よい情報の共有が生まれたのでは、と感じています。
クロージング
最後に、HAPPINESS DOORを出口前に設置し、温度計の最後の内容「提案つき苦情」の4段階評価を記載いただきました。皆様にいただいたフィードバックは、次回以降の糧にさせていただきます。ご協力ありがとうございました!
勉強会を通して
Navitime社のパワーを改めて感じました。とても積極的な面々に、前のめりな姿勢など、講演をしている側としても元気を貰うことが出来たと思います。また、勉強会全体のデザインもやらせていただき、私の中でも色々な改善点を見つけることが出来ました。この場を提供いただいたNavitimeの方には感謝してもしきれません。
twitterやfacebookなどで、「ふりかえりを実際にこう変えてみたらよくなった」といった報告もしてくださり、嬉しい限りです。私としてはふりかえりはスクラム関係なく行えるいい活動だと思いますので、今回いただいたフィードバックやパワーを糧に、今後も邁進していきたいと思います。
おわりに
ふりかえりという活動は、毎週の出来事をふりかえり、チームみんなが前に向かうことのできる、プロジェクトの活動のなかでも「喜び」の最も大きい活動だと考えています。スクラムに限らずふりかえりは実践できます。また、一人でもふりかえりをはじめることもできます。是非、この機会に、ふりかえりをやっていない方は始めてみる、やっているかたはふりかえりを楽しみながら、継続的に続けていっていただければ幸いです。
様々なアクティビティと流れを実践形式で学ぶワークショップもございますので、もしご興味がございましたらいつでもお声がけください。
素敵な場を用意していただき、ありがとうございました。
おまけに
@sobarecordさんが素敵なメモを描いてくださいました。ありがとうございます!
塩川さんのスクラムのお話のメモ。
— 渡部そば (@sobarecord) 2018年1月25日
開発チームがシングルタスクになるようにするという部分にハッとさせられた。
ここちゃんとできてなかったな🤔 pic.twitter.com/504YmSe8N4
@viva_tweet_x さんのふりかえりのお話。
— 渡部そば (@sobarecord) 2018年1月25日
場づくりも徹底できていなかったなーと反省。まずは付箋をあらかじめ置くことから始めよう! pic.twitter.com/7Tlorpl54o
2018/01/31 追記 事後アンケートでの質問への回答
事後アンケートでも質問がいくつかございましたので、こちらで回答したいと思います。
- 「仮にチーム内に振り返りの場を明るい雰囲気にすることに抵抗を持っている方がいて、そのような事前準備(環境作り)を拒絶される場合は、どのように懐柔すべきか」
状況によって対応が異なります。
もし、マネジメント層がチームのふりかえりの場で、そのような空気を出すのであれば、ふりかえりの場に来ないようにリーダー/スクラムマスターが動くべきです。強制力・決定権の強いマネージャーがいると意見を言いづらくなります。チームの心理的安全性を確保するためにも、強い意思を持ってスクラムマスターが動く必要があります。
もし、チームメンバーの中にそのような人がいるのであれば、環境づくり(主に空間作り)はリーダー/スクラムマスターが一人でやってしまうとよいでしょう。一人を除いて他の人が空間作りに参加していると、残った一人が疎外感を感じ、より溝を深くしてしまいます。よい空間で不満足を覚える人はあまりいないと思いますので、まずは空間からデザインしてみるのも一手です(もしいたらどうしようか私も一緒に悩みますので、是非お声がけください)。
場作り、と言う側面であれば、熱心にふりかえりの目的について諭すほか、ふりかえりにおいて望ましいコミュニケーションの仕方はどんなものか、を皆で話し合うとよいでしょう。「対話」と「議論」、「質問」と「主張」、「会話」と「口論」、どちらが生産的なコミュニケーションとなるかをチーム皆で話し合うとよいと思います。
ともあれ、このような場面に遭遇する場合はチームビルディング自体が不十分な可能性が高いので、協調的に働けるような取り組みをチーム一丸となって行っていくのが先決かもしれません。
- 「現行の振り返りでも困っている点はそこまでなく 共感しにくい部分はあった。目的の為に手段に力を入れすぎている気がした。」
ふりかえりに関して困っているところがなく、チーム皆で意見が出るような場が作れているのであれば、よいチームが形成できているのだと思います。
今回は、ふりかえりの3つの目的を達成するための手段として、場作り、流れ、複数のアクティビティ、をそれぞれ説明させていただきました。仰るとおり、やや手段に寄った話をさせていただきましたが、本来は目的さえ達成されれば手段は何でも問題ありません。型にはめることでやりやすくなることも多くなりますので、ふりかえりに何かしらの不安・不満・停滞感を感じている方には、今回お話した型に一度はめるとふりかえりが進めやすくなる(意見が出やすくなる)利点もありますので、参考にしていただければと思います。また、自律的なチームを目指し、固定のスクラムマスター/ファシリテーターを抜け出し、チームだけでのふりかえりの自走を行うためには、チームがある程度型を知っておくと共通認識が取りやすい、という側面もあります。
ちなみに、私が現在いるチームが普段、どのようにふりかえりをしているかというと、あまり型にはめず、「どのようにふりかえりを進めたいか」というのをチームに聞いて、チームみんなでふりかえりを創るようにしています。ある程度の流れは汲んでおりますが、目的に沿ってどうアイデアを出していくか、もチームの意見によって変動しますので、自分達にとって一番やりやすい形を毎週模索しています。一つのチームの形としてご参考になれば幸いです。
- 「ふりかえりのやり方を変更するときのポイントはあるか。」
まずはチーム全員がふりかえりの目的を理解したうえで、どんなことをふりかえりたいか、みんなで話し合うとよいと思います。まずは場作りだけでも確実にやっていただき、慣れているやり方があるのであれば、そのやり方をベースに少しずつ改善していってみてください。本当に大事なのは「目的」です。「新しいアクティビティ」を一度にたくさん取り込んでしまうと、先述の質問でもありましたとおり、アクティビティを完遂することが目的になってしまいがちです。新しいやり方を取り込むときは、少しずつ変えていくのがよいでしょう。
今回の講演でお話したのはあくまで「守」の部分ですので、慣れてきましたら自分達なりの工夫を取り入れて、よりやりやすい方向に変えていくとよいと思います。
- 「NRIでどう振り返りしているのか見てみたい」
私がスクラムマスターをやっているチームのふりかえりの内容について記載いたします。チームメンバー全員がふりかえりに慣れている、という前提のもと、参照いただければと思います。チームの状況によって、皆でどんな風にふりかえりをしたいか話し合いながら進めています。
『』はアクティビティ名です。概要は後述します。
〇1週間前
「課題・問題の解決」にフォーカス。『Good & New』 により場作りをし、『FMEA』により問題分析と対策すべき問題の絞込み、『Circle of Questions』により全員で「チームですべきこと」を合意、『プラス/デルタ』でふりかえりの改善案を出し合う
〇2週間前
「定期的なチームの文化見直し」にフォーカス。『Moving Motivators』によりチームメンバーの価値観を共有、『DPA』によりふりかえりの進め方について合意、『Working Agreements』によりチームルールの見直し・更新、『Following up on Action Items』により過去のアクションの見直しを実施。『感謝』によりチームメンバー同士の感謝を言い合って終了。
〇3週間前
「成功体験の継続・失敗体験の改善」の2つにフォーカス。『One Word』により今週どうだったかを共有し、『Story of Story』により時系列で成功体験、失敗体験の事実・感情の引き出し、『ドットによる優先順位付け』で取り組むべき課題や継続したい成功の絞込み、『SMART Goals』により全員でアクションの具体化、『Feedback』によりお互いのフィードバック。
- 質疑応答の中で紹介したアクティビティについて
詳細まで語ることはできませんが、概要をお伝えします。場面に合わせて使っていただければ幸いです。気になるものがございましたら、いつでもお問い合わせください。出典は書籍「アジャイルレトロスペクティブズ」、webサイト、オリジナルなど様々です。
・Good & New:場の設定。よかったこと/新しい気付きを言い合い、前向きな気持ちを形成する
・Moving Motivators:場の設定。Management 3.0より。10個の価値観から、自分の大事だと思うものを共有し、価値観の違いを認め合う。
・One Word:場の設定。テーマに対して「一言」で表してもらう。上記の場合では「今週どうだったか3行で」というテーマで行った。
・Focus On / Focus Off:場の設定。「対話」と「議論」、「質問」と「主張」、「会話」と「口論」など、ふりかえりにおける生産的なコミュニケーションの方法について話し合う。
・DPA:場の設定。チームの決め事を合意する。
・Working Agreements:場の設定。チームのルール(ワーキングアグリーメント)を見直す。
・FMEA:データの収集。Failure, Evaluation, Analysis, Action, Validationの順に問題を分解していき、最も重症度・再発率が高い問題にフォーカスしてアクションを考える。
・Timeline:データの収集。時系列で「事実」「感情」を収集する。
・Story of Story:データの収集。大まかな時系列で「イベント」「感情」「コミュニケーション」「コラボレーション」を挙げ、傾向を見る。
・Patterns & Shifts:データの収集。時系列データの中から、どんなパターンやシフトがあるかをグルーピングし、傾向を見る。
・Following up on Action Items:データの収集。過去のアクションをふりかえり、出来ていないものは対策する。
・KPT:アイデア出し。Keep, Problem, Tryの三段階でアイデアを出す。
・YWT:アイデア出し。やったこと、わかったこと、つぎやることの三段階でアイデアを出す。
・ドットによる優先順位付け:アイデア出し。ドット投票でアイデアを絞り込む。
・Circle of Questions:アクション決め。輪になり、「私達が次のイテレーションで取り組むべきものはなんですか」という質問をしあい、全員が合意した「すべきこと」をアクションとして決定する。
・SMART Goals:アクション決め。SMARTの考え方(先述)に沿ってアクションを具体化する。
・プラス/デルタ:ふりかえりの終了。ふりかえりの中でよかったこと/改善点を出してもらい、フィードバックをもらえたことに感謝して終了する。
・Feedback:ふりかえりの終了。チームメンバー同士でフィードバックをしあい、終了する。
・感謝:ふりかえりの終了。チームメンバー同士で感謝を言いあい、感謝の言葉が一定時間出なくなったら終了する。