はじめに
「ふりかえり」といえばKPT、というくらい有名な手法であるKPT(けぷと)。ただ、ふりかえりに慣れている、またはアジャイルコーチをしている、という方の中には「KPTは使わない」「チームの成長を阻害する」と考えている方もいるのも事実。
私自身も、いろんな現場で行われているふりかえりのやり方を見てきて、やりかたのアドバイス等もしてきましたが、やはりYWTに比べると、KPTは失敗に向かいやすい傾向が高いように思います。
これはKPTやYWTとで、アクティビティによって特性が違うことに起因していると考えています。
これからふりかえりを始めようとしている方、ふりかえりを改善したいと考えている方に、フラットな目線で読んでいただければと思います。
KPTとYWT
そもそもKPT(けぷと)とYWT(わいだぶりゅーてぃー)はどう違うのか。基本をおさらいしましょう。
Keep, Problem, Try
KPTは上記の3つの質問に答える(と思われている※)ことで、つぎのアクションを決めるためのフレームワークです。「よかったこと、つづけること」「問題、課題」「トライ(次に行うこと)」をそれぞれ考えます。
※KPTが失敗しやすい点の1つです。後述します。
やったこと、わかったこと、つぎやること
一方YWTは「やったこと」「わかったこと」「つぎやること」の3つの質問に答えて、アクションを決めるフレームワークです。KPTの「Try」とYWTの「つぎやること」は同じニュアンスで、ほかの二つの質問が違うということはすぐに理解いただけるかと思います。
CodeZinにとてもわかりやすいYWTの記事が先日ポストされましたので、そちらを確認するのもよいでしょう。
KPTの性質〜問題解決フレームワークと思われがちなKPT
多くの現場で、Keepは出すだけで、Problemを解消することに熱心になっているように見受けられます。これは、「Problem」という単語が非常に強いパワーを持っており、「問題があるなら解決しなければ」と考えるエンジニアの傾向をより強めます。その結果、Keepは置き去りにされ、よいところをより高める、という「+をより+へと高めようとする行動」が起こらなくなります。「-を+に転じる行動」は非常に労力がかかるほか、報われないこともよくあります。また、改善した問題がほんとうに解消されたのか、というのは「同じ状況で問題が再現
しなかった」ときにようやく実感が得られることが多く、同じ仕事を何度もするわけではないというエンジニアの仕事の特性上、成長が感じにくい部分でもあります。
成長が感じられないと、モチベーションは下がっていき、ふりかえりによる改善の意義を疑い始めます。これが、KPTが失敗のしやすい、うまくいかないと言われている所以ではないかと推測しています。
よいKPTのループを回すためには
先述のような「Problem駆動」のKPTは失敗しやすい、という特徴があります。そうならないために、次の3点の意識をチーム全員が持ったうえでふりかえるか、ファシリテーターが意識をしながら行うことで、成長を実感できるような、自分たちをより伸ばしていくためのKPTが行えるようになると考えています。
- KPTの前に、何が起こったのかを思い出す
- Keepからみんなで考え始める
- 個人のKeepをチームのKeepにするようなTryを考える
それぞれ説明していきます。
Keepの前に、何が起こったのかを思い出す
天野勝著「これだけ!KPT」ではこの思い出しについて述べられているものの、世に出ているKPT記事の半分以上は、この思い出しについての文脈が(意図的か無意識的かに関わらず)カットされているように思います。
チーム全員で「個人個人やチームがどんな経験をしてきたか」というのを共有する、というのが非常に重要です。これを行うことで、チーム全体でKeep, Problemのタネが共有され、よりチームの成長に沿ったKeep, Problemが出される傾向が強まります。また、経験を共有することにより共感が生まれ、コミュニケーションの活性化にも役立ちます。
また、思い出しと共有を行わずにKPTを行うと、「非常に印象に強い良かった点、問題点」ばかりがKeep, Problemに挙がるようになり、本来であれば伸ばすべき、改善すべききっかけとなる出来事をスルーしてしまうことも起こりやすくなります。
こういった、「思い出しをしないことによるデメリット」が非常に大きいため、Keepをみんなで出す前に、思い出しをしたほうがよいと考えます。
Keepからみんなで考え始める
チームによってはKeep, Problemを同じターンで考えるようにしています。そのチームの傾向として、Keepが非常に少なく、Problemが大多数になりがちです。
問題が多く出てくるとチームの士気も下がりやすくなりますし、先述の「成長感」にもつながりにくくなります。
KPTではまず最初に「Keep」を考える時間をしっかりとり、前回から改善された点や、よくなった点、続けるべき点を共有します。
個人のKeepをチームのKeepにするようなTryを考える
「KeepをTryにしづらい」という声もよく聞きます。また、「xxxをつづける」というKeepの単なる継続であるTryもよく見られます。これらは、結局誰にも意識されず、行われず、次回には出来ていないとなる場合が多いです。
誰か1人が出来たことであれば、それをチーム全体に波及させるための具体的なTryを考えます。そして、全員ができるようになったら、それをより改善するためにはどうすればいいかを考えていきます。
チーム1人が出来て満足するのではなく、それをチームの「あたりまえ」「文化」となってはじめて、チームの成長につながります。
KPTの利点とYWTの特性
ここまでのKPTのやり方ができて、はじめてYWTと同様以上の効果が発揮しやすくなる、と考えています。YWTでは、Y「やったこと」を思い出し、W「わかったこと」からチームの学びや気づきにフォーカスし、T「つぎやること」でアクションを決めていきます。このYが、KPTの前にするべき「思い出し」と同等なのです。
Wは、「わかったこと」という単語から、プラス面での気づきに思考を向かせやすいはずです。そのため、Keepから考えるのと同様の効果が得られます。
そして、T。
このように、KPTを「よいKPTのループを回すためには」で説明した手法を交えたうえで行った場合と近い効果を、何も意識しないYWTでも得やすいのです。
こういった理由からも、KPTではなくYWTを推している方もいるのかな、と考えています。
とはいっても、KPTにも利点はあります。「わかったこと」に比べると、Keep, Problemはより具体的な質問でイメージがしやすく、ふりかえりやワークショップに慣れていない人にとっては意見が出しやすいのです。
KPTにせよYWTにせよ、初回に関してはファシリテーターの技量次第になってしまう部分もありますが、ふりかえりによるカイゼンの効果の説明や、手法の説明しやすさにおいてKPTのほうが資料も多く、楽な点も多いかと思います。
一方YWTの利点は「学習志向」であるということです。学びを次に活かす、という考え方ですので、前向きにとらえやすく、個人の成長感を得やすいという点があります。無意識的に「+をより伸ばす」という意味ではYWTのほうが適している場面も多く存在します。
結局どっちがいいの
こちらがいい、という結論はありません。
特性を理解したうえで、チームの状況にあわせて使いわけるのが一番です。
ただ、ライトにふりかえりを導入したいと考えた場合、説明のしやすさはKPT、効果の実感のしやすさはYWTにあります。チームの閉塞感や組織の状況にあわせて、どちらをやってみるか、選択してとりあえずやってみるのがよいでしょう。もしKPTを始めるのであれば、先述の意識するポイントはやったうえで始めましょう。
とはいえ、どちらかにこだわる必要はありませんので、2週連続でKPT, YWTをそれぞれやってみて、しっくりくる方を選択してみるのもありだとは思います。
私の場合は、KPTで3-4回ほど慣れてもらい、YWTに切り替えてみて、そのあと他のアクティビティで手を替え品を替え、チームみんなで楽しみながらやる、というやり方が多いです。
そもそも、KPTやYWTですら、多種多様なふりかえりのアクティビティの手法の1つです。正解などないのです。
**どの手法をやるにしても、「楽しむ」というマインドがとても大事です。楽しみ、前向きに、対話する。**皆さんも、ぜひいろんなふりかえりを楽しみながらやってみてください。
それでは、よいふりかえりライフを。
参考となる記事
KPTやYWTで基本がきっちり書いてあり、ためになる記事一覧。