はじめに
はじめまして。森です。
普段、チームファシリテーターとして、ふりかえりやチームビルディングの話を色んなところでさせていただいています。
この記事では、2019/01/31(木)に行われた ふりかえり悩み相談会(1月 in リモート) の内容を共有するものです。
ふりかえり悩み相談会は、ふりかえりに関連する悩みを、ときにはチームや組織の話まで掘り下げて、カイゼンの糸口を参加者と私とで探っていく会です。
今回は初のリモート実施でしたが、深い会話ができたと思っています。
悩みは普遍的なものも含まれますので、内容を共有することで、どなたかにお役に立てればと考えています。
今回はKPT、場作り、Timelineの話が中心でした。
悩み: KPTを実施したあとのTryをどう管理しているか
前提
- 1ヶ月に1度、2チーム共有でのふりかえりを行っている
- それぞれ定常業務を改善するための、「プロジェクトを評価するチーム/3名」と「プロジェクトの工数を管理するチーム/3名」の計6人
- Tryは毎回出てくるものの、実施するかどうかは各自におまかせになっており、1ヵ月後に実施したかどうかを確認している
- 「小さなカイゼンを積み上げる」というふりかえりの目的共有はできている
- 1アクションにつき担当者が決まっており、その担当者ごとに別々のアクションを実施している
対策
チームのためのアクションという意識にする
ふりかえりの中でチームで1つカイゼンするとすれば、それはチームのためのアクションを選んだほうがよいでしょう。部分最適ではなく、全体最適になるようなアクションを選択していくことで、チーム全体の生産性を上げていきます。
部分最適なアクションは、属人化を加速させていきます。属人化・サイロ化が進んでしまうと、コミュニケーションによる伝達ロスが増えるほか、「チームのためのアクションをとりましょう」と方向を変えたときに、心理的にそういったアクションが選ばれにくい環境が整ってしまいます(なんで手伝わないといけないの?という心理が働きやすくなる)。
チーム全体を俯瞰して、「チームにとって今一番必要なものはなんですか?」という問いかけをして、1つのアクションを選ぶことで、チームに一体感が生まれていきます。
ちなみに、チームのためのTry以外はやってはいけないか、というわけではありません。チームとしてコミットするアクションを確実に決め、それ以外のタスクはチームメンバーそれぞれの裁量に任せて実施してもらいます。そうすることで、個々人のカイゼンとチーム全体のカイゼンの両方がバランスよく行われていきます。個々人のカイゼンの結果も、次回のふりかえりで共有すれば、チーム全体へとよい影響を波及させることができます。
アクションをSMARTにする
アクションを決めるときには、SMARTになるようにできるだけ具体的にアクションを行います。
- Specific:具体的な
- Measurable:計測可能な
- Achievable:達成可能な
- Relevant:関連のある
- Timely / Time-bound:即時性のある / 期日の決まった
上記すべてに当てはまるようにキッチリと決める必要はありませんが、できるだけ上記の要素を含むようにアクションを立てることで、アクションが実行しやすいものになります。
もちろん、これに「チームのためのアクション」となることを意識したうえで行います。
(アクションの悪い例)Aさんの設計が、誤字脱字のミスが多く手戻りしてしまったので、誤字脱字を意識してなくしていく
(アクションの良い例)Aさんの設計が、誤字脱字のミスが多く手戻りしてしまったので、チーム全員が相互に設計をレビューしあう仕組みをつくる。まずは、今週に設計書X, Yのレビュータスクが発生することが想定されるので、XはAさん・Bさんが、YはCさん・Dさんが相互にレビューしあい、指摘の数を数える。指摘数や内容を次回のふりかえりでチーム全体で共有し、そのときに再度カイゼン案を検討する。
アクションの実施・検査をしやすくする
アクションを作ったら、タスクリストの一番上にアクションを設定し、アクションによるカイゼンが行われてからほかのタスクを行うようにします。
または、すぐに行えないアクションであれば、忘れないように全員の見える場所(カンバンや、チームの情報共有サイトのTOPページなど)に貼り出します。毎日目に勝手に入る場所においておくことにより、サブリミナル効果により行動に移しやすくなります。
また、毎日の定例会で「今日はこれをやります」というように一人ずつ宣言していくのも効果的です(宣言効果が得られます)。
達成したかどうかの検査も、定例会の中で行うことで、次のふりかえりを待たずに高速なフィードバックループでカイゼンを進めていくことができます。
別の話題
Tryは多くとも2-3個にする
1ヶ月と期間が長いふりかえりをしようとすると、アクションを10個くらい、たくさん選んでしまいがちです。ただ、Tryはすべてがうまくいくわけではありません。Tryのうち、半分程度は予想していた結果とは違う結果になる可能性があります。多くのアクションを選んで実施してしまうと、うまくいかなかったアクションを「元に戻す」というのが難しくなります。特に、プロセスに関するカイゼンや、成果物に対してのカイゼンなどは、複数の変更を加えると、元に戻すのが困難になります。
少しのカイゼンを、できるだけ具体的に実行し、その結果から得られた学びをフィードバックとして受け取り、さらによくしていく/元に戻してほかのことにチャレンジする、という意識を持つとよいと思います。
短くふりかえりをすることによる利点
1ヶ月以上の長いスパンでふりかえりを行うと、ふりかえりで出されたアクションに対して失敗が許されにくい環境が生まれてしまいます。たとえば、1年に1度のふりかえりで大きなカイゼンをしようと試みて、その結果失敗して成果がなかった場合、管理職や経営層から見ると「意味のないことに何を時間を費やしているんだ」という反応が返ってくることが想像できます。
短く区切ってカイゼンを繰り返すからこそ、失敗してもいいようなチャレンジングなことができるようになりますし、成長のスピードも大幅に向上します。
地道なカイゼンを繰り返していくと、いつしか生産性は頭打ちになります。その状態をブレイクスルーするためには、チャレンジが必要です。いままでのプロセスや既成概念を打ち崩すような、あえて反対のことをやってみるなどのチャレンジをすることで、新しい気づきが得られ、現時点の限界を突破するようなカイゼンの種が生まれます。そうしたチャレンジは、失敗のリスクもつきものです。ただ、カイゼンのサイクルを短くすればするほど、失敗したとしてもその痛手は0に近づきます。
ブレイクスルーを起こし、成長を続けるためにも、短いサイクルでふりかえりをし、カイゼンを加えていくことが大事となります。
ふりかえりをチームのものにするために
チームがなかなかふりかえりにおいて主体的でなかったり、意見を出せなかったり、ということの原因のひとつに、「ふりかえりが自分ごとになっていない」「やらされ感」があります。
これはリーダーがふりかえりをリードしつづけているとありがちで、「リーダーに毎回やらされている」という感覚を持ってしまいます。
これを覆し、「自分たちでふりかえりを作り上げている」という意識を持たせ、より積極的に全員がふりかえりに向き合えるようになるために、いくつかのTIPSがあります。
場作りのなかで、全員でルールを決める
DPA(Design the Partnership Alliance)といったアクティビティでふりかえりのグランドルールを全員で決め、合意することで、「自分たちのふりかえり」という感覚が芽生えやすくなります。
みんなで準備する
道具をみんなで準備したり、ふりかえりの構成をみんなで考えることによっても同様の効果が得られます。
ファシリテーターを毎回交換する
ファシリテーターを交換することで、タイムボックスの意識が出やすくなったり、ほかの人の意見を出そうと働きかける意識が向上します。チーム全体でふりかえりを作っていく意識が醸成されやすくなります。
椅子を人数の1/2にする
全員が椅子に座っていると、意見を共有しましょう、というタイミングで「え?めんどくさいなぁ…」という空気感が出てしまうチームもいます(今回の相談者がそうでした)。椅子の数を最初から全員が座れないようにして、「疲れたら座ってください」というアナウンスをしておくことで、自然とホワイトボードや付箋に近い位置に足を運びやすくなります。
人と人との物理的な距離感を近づける手法でもあります。
脱線が多い人にどう対応するか
多少の雑談であれば、私は許容してもいいと思います。雑談をして、コミュニケーションをとることにより、チームの関係の質が向上していくためです。ただ、雑談ばかりでなかなか先に進まない、というときには、以下のようなことを行うと軽減しやすくなります。
ふりかえりのゴールを毎回確認する
全員で今回のふりかえりの目的を確認します。ゴールを設定することで、不要な脱線を防ぎます。
グランドルールを決める
「雑談禁止!」とまでの厳しいルールにしてはいけませんが、脱線しすぎたときに元に戻すような意識付けを、ルールを作ることによって形成することができます。
雑談の内容を見える化する
ホワイトボードに雑談の内容もすべて見える化します。
本筋と関係ない話題がどんどん見える化されていくことで、「あ、脱線している」というのを気づきやすくします。
雑談を受け入れてから戻す
「なるほど、その話も面白いですよね。でも、今はこの話題について話したほうがいいと思うので、ちょっと戻しましょう。あとでその話聞かせてください!」というように、一度話を受容してから元に戻します。
バッサリ切る
関係性ができている場合は、バッサリ切ってしまうのもありでしょう。
付箋に書いてからしゃべってもらう
ラウンドロビンのように、ターン制を取り入れます。「自分の順番が回ってきたら聞かせてください!」というように言うことで牽制ができます。
共有する時間をあらかじめ宣言する
「3分間で意見を共有しましょう」というように時間を宣言しておくことで、脱線による時間のロスをしにくくなります。
**「簡潔に話しましょう」
簡潔に話してもらうことを最初に全員に宣言します。
自発的な発言の促し
「ボードの左から共有するので、付箋が指差されたら自分から発言してください。『この付箋は誰の?』『私のです、えーと…』というのをなくし、自分から発言しましょう。」
「大体左から順に共有するので、自分の付箋の内容を指出しながら自発的にどんどん勝手に喋ってってください」
上記のように促すことで、自発的に発言をするようになり、スムーズに会が進行しやすくなりmす。
90分のふりかえりの例
- 場作り(5分)
- Timeline(作成)(20分)
- Timeline(共有)(20分)
- Keep(洗い出し)(10分)
- Keep(共有)(7分)
- Keepの絞込み(3分)
- Try(洗い出し)(5分)
- Tryの絞込み(3分)
- Try→Action(具体化)(10分)
- +/⊿(3分)
計86分。入れ替え含め90分
Timeline作成(20分)の実施内容
- 事実・やったこと・起こったことを記載する
- 感情を記載する
- +/-の感情で2色
- 慣れている場合は4~6色でも
- 「こういうことがあって、こう思った」という風に記載する
Timeline作成(20分)で意見を引き出すファシリテーション
- 意見の量の薄いところを補填する
- 「ここ何かなかったっけ?」
- 「これなんでしたっけ?」
- 「ほかの人の付箋を見て思い出してみてください」
- 「会話してもいいので、会話で思い出しを図りましょう」
Timeline共有(20分)で意見を引き出すファシリテーション
- 付箋の枚数が少ない場合は、左から全部説明してもらう
- 付箋の枚数が多い場合は、全体を眺めて、「これなんだっけ?」という疑問があれば質問しあって深めてもらう
- しゃべっていない人にペンを持たせて、補足をどんどん書いてもらう。付箋に書いている情報量よりも多くのことを人は話します。そのため、その情報はすべてホワイトボードに記載するように促します。
- ファシリテーターが対話を促す
長期間が対象の場合のTimelineの進め方
人によってイベントの粒度がバラバラで、事実と感情をいっぺんに書くと、人によってはその付箋からの思い出し、深堀りがしにくくなります。まずは事実だけを書き連ねて、そのあとに感情を記載する流れにすると、人によって異なる感情を引き出すことがしやすくなります。