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X+Yのモーメント母関数がX, Yのモーメント母関数の積ならX, Yは独立か?

Last updated at Posted at 2020-02-03

Introduction : モーメント母関数

確率変数$X$のモーメント母関数(moment generating function)とは、$M_{X}(t) := \mathbb{E}\left[\exp tX\right]$と定義されます。モーメント母関数を考えるモチベーションの1つは以下の定理でしょう。

定理 : 確率変数$X,Y$のモーメント母関数が等しいならば、確率変数$X,Y$が従う確率分布は等しい。

要するに、モーメント母関数と確率分布との間には1:1対応があります。この定理は、再生性の証明を行う際など、とてもよく使うものです。

Remark : 確率分布によってはモーメント母関数が存在しないような例もあります。代表例はCauchy分布(自由度1のt分布など)や対数正規分布です。

1. 問題

ところで、再生性をモーメント母関数を用いて証明する際、以下の命題をよく用います。証明も難しくないので、付せて紹介しましょう。

命題 : $X,Y$が独立ならば、$M_{X+Y}(t)=M_{X}(t)M_{Y}(t)$が成り立つ。

証明 :
$X,Y$が独立であれば$\exp(tX),\exp(tY)$も独立であるため、

\begin{eqnarray*}
M_{X+Y}(t)&=&\mathbb{E}\left[\exp t(X+Y)\right]\\
&=&\mathbb{E}\left[\exp tX\exp tY\right]\\
&=&\mathbb{E}\left[\exp tX\right]\mathbb{E}\left[\exp tY\right]\\
&=&M_{X}(t)M_{Y}(t)
\end{eqnarray*}

が従います。■

今回のテーマは、この命題の逆は成り立つか?というものです。

問題 : $M_{X+Y}(t)=M_{X}(t)M_{Y}(t)$が成り立つならば、$X,Y$は独立か?

2. 解答

結論から言うと成り立ちません。例えば、Flury(1986)による次のような反例が知られています。

反例 : 確率変数$X,Y$の同時確率質量関数が以下のように定義されているものとします。

X\Y 1 2 3
1 1/9 1/18 1/6
2 1/6 1/9 1/18
3 1/18 1/6 1/9

確率変数$X,Y$のモーメント母関数をそれぞれ計算しましょう。確率変数$X,Y$はともに任意の$x,y=1,2,3$に対して$\mathbb{P}[X=x]=1/3$, $\mathbb{P}[Y=y]=1/3$を満たします。これから

\begin{eqnarray*}
M_{X}(t) &=& \mathbb{E}[\exp tX]\\
&=& \frac{1}{3}\exp t + \frac{1}{3}\exp 2t + \frac{1}{3}\exp 3t 
\end{eqnarray*}

が成り立ちます。同様に$M_{Y}(t)=\frac{1}{3}\exp t + \frac{1}{3}\exp 2t + \frac{1}{3}\exp 3t$です。

確率変数$X+Y$の確率質量関数は、以下の表のようになります。

X+Y 2 3 4 5 6
確率 1/9 2/9 3/9 2/9 1/9

これから

\begin{eqnarray*}
M_{X+Y}(t) &=& \mathbb{E}[\exp t(X+Y)]\\
&=& \frac{1}{9}\exp 2t + \frac{2}{9}\exp 3t + \frac{3}{9}\exp 4t + \frac{2}{9}\exp 5t + \frac{1}{9}\exp 6t
\end{eqnarray*}

が成り立ちます。以上から、$M_{X+Y}(t)=M_{X}(t)M_{Y}(t)$が成り立つことがわかりますが、同時確率質量関数の定義から$X,Y$は独立ではないので反例が構成できたことになります。

3. 考察

Fluryの例は、$X,Y$が同じ定義域上の一様分布に従っているとき、$M_{X+Y}(t)=M_{X}(t)M_{Y}(t)$を満たすならば、$X+Y$は三角分布に従っているという事実をヒントに作られています。(この事実は2の計算, モーメント母関数と確率分布の1:1対応から難しくなく示すことが出来ます。)反例を作るためには、

問題 : $X,Y$が$x,y=1,2,3$を実現値に取るような離散一様分布に従うとき、$X+Y$が三角分布になるような$(X,Y)$の同時分布をすべて求めよ。

を解いて、そこから$X,Y$が独立でないケースを選べばよいわけです。結論だけを述べると、この問題の解となる$(X,Y)$の同時分布は1つのパラメータ$0\leq t\leq\frac{2}{9}$を用いて、以下の形で尽くされます。

X\Y 1 2 3
1 $\frac{1}{9}$ $t$ $\frac{2}{9}-t$
2 $\frac{2}{9}-t$ $\frac{1}{9}$ $t$
3 $t$ $\frac{2}{9}-t$ $\frac{1}{9}$

ここで$t=1/9$の場合は$X,Y$が独立なので、それ以外の$t$の値を選べば独立でない例を作ることが出来ます。例えば、$t=1/18$の場合はFluryの例になっているわけです。

Remark : 要するに、$X,Y$が$x,y=1,2,3$上の離散一様分布になるような同時分布のパラメータ空間は4次元、そのうち無相関(⇔ $\mathbb{E}[XY]=\mathbb{E}[X]\mathbb{E}[Y]$)をみたすような部分空間は3次元、さらに$M_{X+Y}(t)=M_{X}(t)M_{Y}(t)$をみたすような部分空間は1次元、最後に$X,Y$が独立になるのは1点(0次元)という包含関係になっています。

Acknowledgement

すうがくぶんかの伊集院先生とモーメント母関数の話をしていたときに教えてもらった話が、この記事を書くきっかけになりました。いつも面白い話を教えてくれてありがとうございます。

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