■はじめに
はじプロで映像作品をメインに作っている“うろしど”と申します。
このほど「地獄からの脱出」という源平討魔伝オマージュの映像作品を公開し、その派生としてタイトルデモ風の映像作品を作りました。
本記事はそのタイトルデモについて、私が何を考えて作っていったのかを書き記したものです。
(はじプロならではの技術的な内容は薄めとなっておりますこと御了承下さい…)
■タイトルデモの目的
・オマージュ
・BGMと連動したバックストーリー描写
・サプライズなネタばらし
■きっかけ
タイトルデモを作るきっかけは2つありました。
1つ目は「地獄からの脱出」のリサイタルシーンにて表示される歌詞です。
この歌詞の内容は「源平」のエンディング文をベースにしていて、原文「ただ君の切々たる胸中深くに残すのみ」を「ただお前の物憂げな眼に深く焼き付けるために」と改変しました。
これが、主人公の彼女持ち設定が生まれた瞬間でした。
2つ目のきっかけは「源平」ゲームスタート時の、正座した婆さまから「滅びし平氏のうらみ、わすれたわけではあるまいな」と圧をかけられるオープニングです。
ある日、この「忘れた」で言葉あそびをしていたところ「夢を忘れられない」というワードに発展しました。
「地獄からの脱出」の“音楽”というテーマと「お前」なる彼女の存在、そして「忘れられない夢」というワードが響き合い、たちまち妄想が拡がりました。
主人公は売れないバンドマンで、その彼を献身的に支える同棲中の彼女。
その彼女から「夢を忘れられないうんぬん」と圧をかけられる場面を思い浮かべました。これはキツイ。
「源平」ではその後「いけ、頼朝を討て」と続きます。となれば、この彼女も何やかんや言っても最後は彼の背中を押してくれる展開になるのでしょう。ええ娘やないか。
面白いものが生まれそうな手応えを感じました。「地獄からの脱出」のリサイタルシーンに深みを出す相乗効果も期待できるし、なにより、思いついたらすぐ形に出来るのがはじプロのいい所です。これはもうやるしか。
■曲選び
タイトルデモならばBGMにある程度連動した演出が好ましい。まず「源平」の曲で良さげなのを探しました。
………全部良い。
特にエンディング曲がドラマチックで泣かせる。脳内でエレキギターアレンジをしたところカッコ良さげだったので、これに決めた!
■曲の演出プラン
連動させる要素として「タイミング」と「心情」の2つが考えられます。
「タイミング」については後で絵の方を音に合わせるとして、ここでは音楽側からもアプローチできる「心情」の連動について考えます。
「心情」は“音色”と“ダイナミズム”で表現します。“音色”はそのシーンの表情、“ダイナミズム”はそのシーンの空気感を表すと仮定し、以下のような曲の演出プランを組みました。
※※※※※※※※※
序盤は「源平」の婆さまの如く女性がポツンと女の子座りしている画を想定し、寂しげで落ち着いた音のイメージ。ネタのお披露目を後半までとっておきたいので序盤は主旋律を隠す。
中盤からは旅立ちの画を見せることを想定し、決意を胸に秘めたようなカッコつけた感じの音を入れていきたい。ここから「源平」の旋律も濁しながら入れていき、視聴者に「おや?…もしやこれは…」と思わせたい。
終盤は「源平」のネタばらしとともに雰囲気をガラリと変えて、ビートにのせた「源平」旋律をノリノリでお届けしたい。ライブハウスで演奏してるイメージで。
※※※※※※※※※
■音色選び
序盤はしっとりとしたオルガンの音色に、味付けとしてベルの音色で“寂しさ”と“可愛らしさ”をプラスしました。
中盤はオクターブを下げたエレキギターを勇ましく鳴らすことで、主人公の決意を表現しました。音程がやや不明瞭だったのでミュートギターの音色を混ぜて補強しています。
中盤〜終盤のメインフレーズにもエレキギターを使用していますが、高音があまりにもショボかったのでファミコンの音色を混ぜて厚みを出しています。
また、ココぞという聴かせ所では効果音の「ギュイィーン!」を音程調整して鳴らしています。
■ラフコンテ
曲の演出プランを念頭に、おおまかな映像の流れを紙の上で検討しました。
終盤のサプライズの構成はこの時点でほぼ固まっていますが、問題は序盤から中盤への繋ぎです。
※※※※※※※※※
彼女を残して部屋を出る主人公…
残されて涙する彼女…
電車に乗る主人公…
都会の人混みの中を突き進む主人公…
※※※※※※※※※
そのまま描くとテンポが重く、想定尺からはみ出しそう。何より、テクスチャ枚数がかさばる!
……。
良い案が思い浮かばないまま次工程に進むことにしました。きっと未来の自分が何とかしてくれる…!
■台詞
上京させるのであれば、彼女らには地方の方言を喋らせたい!ということで、方言ジェネレーターを使わせていただきました。
https://www.8toch.net/translate/
各地方のを色々試して、一番味のある熊本弁を選びました。
■はじプロでラフ組み
完成した曲に合わせてテクスチャ(仮絵)および台詞の表示タイミングをおおまかに設定します。
タイミングは2Dマーカー上に配置したスポイト位置で調整します。全てのテクスチャを同じ位置に配置しておけば、スポイトからの信号順で絵が切り替わっていく紙芝居スタイルになります。スポイトからの信号は他にも、モノを動かすための動力、効果音の再生などにも使われています。
「源平」オマージュならば文字は縦書きといきたいところですが、ことばつきモノノードンには2行制限があるため断念。また「源平」のビッグモードにちなんで「ビッグ」という文字だけ色を変えたかったのですが、ことばつきモノノードンの1ゲームあたり8体の使用制限により、こちらも断念。
■序盤〜中盤を再構成
いよいよこの問題について取り組まなければなりません。
まずは目的を設定。
・テンポを軽くしたい
・面白味のある画にしたい
・テクスチャ枚数はできるだけ抑えたい
テンポが重いのは、部屋から出る主人公をいちいち描写しようとしているからだと判断。ならば過程を省いて、すぐ旅立ちの場面に繋ぐことにしました。
旅立ちの場面は電車移動シーンのみとしました。画面に動きがあるし、田舎から都会への長距離移動感、離れていく地元の景色、窓に映り込む虚像など、心情を物語る要素を多く含んでいるので、これだけでも見応えはあるだろうと判断しました。
後の景清メイク顔までは主人公の顔をハッキリ見せたくなかったので、窓に影落ちした顔をぼんやり映す形をとれたのも好都合でした。
ここで2つの問題が発生。
1つ目は彼女のシーンから電車のシーンへの繋ぎが唐突に感じられたこと。
2つ目は何も知らない初見の人が電車のシーンを見て、それが「電車の中である」と認識できない可能性があることです。いずれもシーンの過程を省いたことに対する配慮が足りていないことが原因です。
この問題解決のためにとった手が、冒頭の女の子座りシーンの前に駅のシーンを追加して、後に電車を連想しやすくしておくこと。
そして、彼女のシーンを全て「回想」として扱うという発想の転換です。
つまり、主人公の旅立ちのシーンに回想が挟み込まれる構成になったのです。
これにより過程を省いた唐突なシーン切り替えが「演出」として認識され、違和感が軽減されました。暗転台詞やドアワイプなど、テクスチャに頼らない省ノードンな場面転換との相性も良かった。
また、彼女シーンの背景が暗闇なのはあくまで原作オマージュによるものですが、そこへさらに「回想シーンだから」という理由付けができたのも大きかったです。
これにて、すべての構成が決まりました。あとは仮のテクスチャを仕上げて、タイミングを微調整すれば完成となります!
■各シーン秘話あれこれ
①駅
ホームに電車が入ってくる動作も想定してキャラと背景を分けて描いていましたが、後半を引き立てるため、結局このシーンは完全静止画となりました。
ほとんど聞こえませんが、環境音「シティ」を流していて、暗転台詞への移行とともに環境音もブツ切りにすることで、現在と回想シーンを区別しています。
②ノッコ
ノッコの服装は昭和風を意識しています。
当初、彼女の名前を“ゆりっぺ”にしていたのですが、オマージュの方向がブレそうなのでやめました(主人公の名前が“亮”なのはその名残)
脳裏に焼き付いていた脱衣麻雀のポーズに知らず知らずに寄せているものだから、エロガキの頃の思い出は侮れない。
③電車
窓に映る顔は薄暗い色で描き、それより明度の高い街の灯りを前面に流すことで透過表現としました。
「電車の中」感を高めるために『ドア巻込みにご注意下さい』の ステッカーを貼りました。
ほぼ聞こえませんが、このシーンでも環境音は流れています…
④ノッコの表情
複雑な心境で見送るノッコの表情をドットで描くのに苦労しましたが、最終的には“無理に笑おうとするも涙がこぼれちゃう”という重くなりすぎない表現に落ち着きました。
ドア閉じ効果音は、ただの黒いうごかせるモノをドアに変えてくれました。
⑤変身
主人公を同カメラ位置のまま変身顔に切り替える構成は、10月に行われたはじプロユーザーコンテスト「きゃべつ杯feat.ひばりミカン」のPlaceboさんの作品『LAST GOALKEEPER』から影響を受けています。
メイク顔どアップ時に最大のインパクトを与えるため、どアップ前は逆光状態にして画像サイズも小さくしています。
どアップからは勢いを出すため点滅効果線を入れていますが、発作対策で画面が暗くなるを防ぐため画面中央部は抜くようにしています。
⑥ライブシーン
照明の光に包まれているようなライブハウスの雰囲気を上手く描けたと思います(バンドメンバーの描き分けも楽しかった)
臨場感を出すためにランダムフリースライドで絵を揺らして手ブレ表現としました。
⑦ラストカット
タイトルロゴは1文字1テクスチャで作成し、プログラミング画面でレイアウトするという贅沢な使い方をしました。(逆にこうでもしないとはじプロで文字レイアウトなどやってられない…)
■おわりに
はじプロは512ノードンの制限の中でどれだけ妄想を具現化できるかを試行錯誤するパズルゲームのような面白さがあります。
取捨選択の過程で新しい見せ方や演出方法を発見した時、問題解決とノードン節約が一度に解決できた時に得られる新鮮な達成感にすっかりハマってしまった一年でありました。
来年も変わらずこの創作パズルを楽しんで行けたら良いなーと思います(^^)
ここまで読んでいただきありがとうございました!