2016 CESのタイミングでWi-Fi AllianceからWi-Fi HaLowなるものが発表されました。
ハロー?いえ、ヘイローのようです。どっちでもいいですけど。
元はIEEE 802.11ahで、2010年からUHF帯対応ということで活動していたTaskGroupです。
まだ正確にはDraft段階であり、2016/1月中に正式に決まる予定のようです。
802.11ahのTimeLineをみても、Draft5.0で98%の合意を得ているようですので、ほぼ決まりなのでしょう。
Wi-Fi AllianceとしてはWPAに続き、先走っての発表ということになります。
WPAの時はセキュリティ上の大きな懸念からでしたが、今回はWi-Fi Allianceの戦略的な行動に見えます。
以下、802.11ah自体がまだDraftであること、私自身ここにある"R15 in May 2013"Draftの斜め読みしかしていないことをご理解の上、ご覧ください。
特徴
- サブGHz帯
- 1kmまでの長距離通信
- 物理層はacの1/10クロックダウン
- 通信速度はMIMOなしで4Mbps/1MHz, 7.8Mbps/2MHz
Use Case
UseCaseを見ると、大まかに
- センサーネットワーク
- 802.15.4gからのGateway
- Wi-Fiの通信距離拡張(Cellularのオフロード化)
とあります。
どれも、いまいちな感じ。
(Wi-Fiでなくてもよくね?の意味で)
使用周波数帯とチャネル数
Specification Frameworkによれば、下記のようです。
地域 | 使用帯域 | チャネル数 | 可能バンド幅(MHz) |
---|---|---|---|
日本 | 916.5MHz - 927.5MHz | 11ch | 11 |
アメリカ | 902MHz - 928MHz | 26ch | 1,2,4,8,16 |
ヨーロッパ | 863MHz - 868MHz | 5ch | 1,2 |
韓国 | 917.5MHz - 923.5MHz | 6ch | 1,2,4 |
シンガポール | 866MHz - 869MHz, 920MHz - 925MHz | 8ch | 1,2,4 |
中国 | 755MHz - 787MHz | 32ch | 1,2,4,8 |
通信速度
サブGHz帯では、これまで802.15.4系の数百kbpsで低消費電力が最優先という選択肢しかなかったものが、Wi-FiのOFDM + おばけQAM + MIMOをサブGHz帯にもってくることで、当然速度はでますし非常に興味深いです。
前々からそんな選択肢があればいいのに、と個人的には思っていたので歓迎です。
Specification Frameworkをざっと見る感じ、内容的にはほぼ802.11acと同様のようで、
256-QAM(符号化率5/6)を始め、MU-MIMOまで含めて定義されているようです。
基本的な単位での速度計算を比較してみます。
802.11acの場合
1 symbol = 8 bit (256QAM)
1 symbol送信時間(usec) = 3.2 + 0.4(Guard Interval) = 3.6 usec
→ symbol rate = 1/3.6 usec = 277.77k symbol/sec
→ 1サブキャリアあたりの送信可能bit数
8 bit/symbol x 277.77k symbol/sec = 2.222M bit/sec
データ伝送可能なサブキャリア数 : 52 (バンド幅20MHzの時)
→ 全サブキャリアで伝送可能なbit数
2.222M bit/sec x 52 = 115M bit/sec
符号化効率 : 5/6
→ 115M bit/sec x 5/6 = 96.3M bit/sec
802.11ahの場合
symbol rateで802.11acから1/10のクロックダウンですね。
1 symbol = 8 bit (256QAM)
1 symbol送信時間(usec) = 32 + 4(Guard Interval) = 36 usec
→ symbol rate = 1/36 usec = 27.77k symbol/sec
→ 1サブキャリアあたりの送信可能bit数
8 bit/symbol x 27.77k symbol/sec = 0.2222M bit/sec
データ伝送可能なサブキャリア数 : 24 (バンド幅1MHzの時)
→ 全サブキャリアで伝送可能なbit数
0.222M bit/sec x 24 = 5.3M bit/sec
符号化効率 : 5/6
→ 5.3M bit/sec x 5/6 = 4.44M bit/sec
実効効率は、802.11acと同様であれば最大でも84%程度なので、3.7Mbps程度でしょうか。
実質2Mbpsくらいかしら。
消費電力
とはいえ、Wi-Fiの高速化技術をもってきたということは、搬送波をクロックダウンしただけでは、Wi-Fiの中では低消費電力と言えても、他の802.15.4などと比べられるような省電力化は難しいのでは??と思ってしまいます。
規格の中身を把握していないので、なんとも言えないのですが、
DTIM以外に、画期的な省電力対策があることを期待しています。
印象
まずは、Wi-Fi Allianceが飛ばしてるなというのが第一印象。
高速化側に特化してればいいのに、IoTの末端通信路に加わりたいために半ば強引に規格制定している感じがします。
これは、今に始まったことではなく戦略的に行われているもの(と思っている)で、これまでのすでに発表された
により、AP不要で通信することができ、
により、周りにいる端末を探せるようになり、そして今回、
により、(これまでのWi-Fiに比べれば)低消費電力かつ、通信距離を広げた上で、そこそこの速度で通信できるようになる
と。
汎用化すればするほど、本来のWi-Fiの特徴が薄れてきてなんだかわからなくなってくる可能性はあるのかな、と思ってしまいます。
一方、USB3.0がすでに中身はこれまでのUSBとはまったく別物なのに同じUSBを名乗っているのと同様に、Wi-Fiの中できっちり棲み分けることで、もしかしたら高速側も省電力側も主流となれるかもしれません。
普及するか?
一言で疑問ですね。
基本、802.11acのクロックダウンということなのでチップメーカーにとっては実装しやすいのだろうと思います。なので、対応チップはでてくるかもしれませんが、何に使うんでしょうね?
- Wi-Fiほど電力は食いませんよ(でも食いますよ)
- 速度はそれなりですよ(数Mbps)
IoTのセンサーはそもそもそんなに送りたいものがないでしょうし(今後、そういう用途はでてくるかもしれませんが)、やはり低消費電力が最優先でしょう。
となるとGW用途かしらとも思いますが、そうすると、競合はSORACOMなどのMVNOになりそうです。
800MHzあたりの3Gでいいじゃん、という気がしないでもないですね。
んー。
スマホの省電力運用としてWi-Fiをクロックダウンするイメージなら、ありかもしれませんが、それは目指すところではないでしょうし。
まとめ
いまいち。
参考
-
新規格802.11ah製品の名称はWi-Fi HaLow (ヘイロー)に決定。900MHz帯で長距離&低消費電力のIoT向け無線規格
-
(本家)Wi-Fi Alliance® introduces low power, long range Wi-Fi HaLow™
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日本の場合だけ、送信電力の欄があり使用可能な電力に制約があるのかもしれません。ARIB待ちというところでしょうか。 ↩