はじめに
RubyとCrystalの両方で動くコードで、@drken さんの AtCoder に登録したら次にやること ~ これだけ解けば十分闘える!過去問精選 10 問 ~を解いてみました。
問題が難しくないので、奇妙なことをほぼせず、すんなり解けました。
1つだけコード長が変わっていますが末尾の改行の有無などの違いで、内容は同じです。
かなり速度差があるように見えるのもありますが、Rubyの場合はコードの内容にかかわらず最低50msほどかかるみたいです。
RubyとCrystalの両方で動くコードが使えると何が嬉しいか。
それぞれに長所短所があり、切り替えて使えます。
また、今回のように簡単な問題だと、全く同じコードで2回ACできます!!(自己満足)
Ruby:
難しい問題だと実行時間が厳しくなることもありますが、調べやすくシンプルにスマートに書きやすい。
Crystal:
キャッチフレーズは"Fast as C, Slick as Ruby"。
C言語のように速く、Rubyのように滑らかに・柔軟に書くことが出来ます。
オーバーフローの注意を払う必要があったり、情報にアクセスしにくいこと等が欠点ですが、
Rubyと文法等が非常に似ており、Ruby学習者にとって非常に学習コストが低いです。
▼AtCoderの公式ページでのまとめ
問題 - AtCoder Beginners Selection
問題 - Language Test 202001
こちらで問題を解けますし、他の方のコードはこちらから見れます。
▼先行Ruby記事
AtCoder に登録したら解くべき精選過去問 10 問を Ruby で解いてみた - Qiita
AtCoder に登録したら解くべき精選過去問 10 問を Ruby で解いてみた (しえる版) - Qiita
AtCoder に登録したら解くべき精選過去問 10 問を Ruby のメソッドチェーンで解いてみた - Qiita
Atcoder Beginners SelectionをRubyで解いてみた - Kasasagi’s memorandum
AtCoder に登録したら解くべき精選過去問 10 問を Ruby で解いてリファクタリングする | マッスルテック
色々な方が解いています。この他にも解説記事があるかもしれません。
▼先行Crystal記事
AtCoder に登録したら解くべき精選過去問 10 問を Crystal で解いてみた - Qiita
▼同様の他言語のまとめ記事
百花繚乱!なないろ言語で競技プログラミングをする資料まとめ - Qiita
Ruby, Crystalのそれぞれに同じ問題の解説記事をあげてる方がいるので、詳細な解説などはそちらをご覧ください。
練習:A - Welcome to AtCoder
a = gets.to_s.to_i
b,c = gets.to_s.chomp.split.map{|t| t.to_i }
s = gets.to_s.chomp
puts "#{a+b+c} #{s}"
gets
は「get string」の略で、一行を入力として受け取り文字列で返します。ただし、もし入力がなければ、nil
を返します。競技プログラミングの場合、イレギュラーな入力は通常なく、正しく実装して入力を受け取ればgets
は文字列を返すのでnil
を返すことはないです。
しかし、Crystalの場合、もしto_s
がないとundefined method 'to_i' for Nil (compile-time type is (String | Nil))
と怒られてしまいます。どうもgets
はString
かNil
を返す可能性があり、コンパイル時に「nil
だったらto_i
のメソッドを持たない!」と怒られているようです。そのため、to_s
で文字列のみ返すように明示してあげています。
なお、RubyのString#to_sのリファレンスマニュアルにおいて、to_s
は文字列やnil
を返すメソッドに有効である旨が書かれており、想定の技法のようです。
他にも, 変態ですが同様に"#{gets}"
と式展開することで文字列にする方法もあるみたいです。難しい話ですが、式展開された最後に内部でto_sが使われているようです。
また、gets
の挙動もRubyとCrystalで微妙に異なっています。Rubyではgetsが1行を読み込んだときに最後に改行があれば受け取りますが、Crystalでは改行を切り捨てます。そのため、Crystalでは文字列のときにchomp
メソッドをする必要がないといえます。
# それぞれ最後に改行がある"abc"を入力として受け取ったとき
p gets.to_s #=> "abc\n" for Ruby
p gets.to_s #=> "abc" for Crystal
Ruby | Crystal | |
---|---|---|
gets |
末尾に改行があれば含んで返す | 末尾の改行は切捨てて返す |
nil.to_i |
0 を返す |
nil に定義なく、コンパイル時にエラー |
あと、Crystalでよく使われる入力方法にread_line
がありますが、Rubyではreadline
と微妙に名称が異なっています。他のメソッド名と同じように単語の区切りにアンダースコア_
を持たせたいと考えたのかもしれません。なお、gets
と違いread_line
は入力がなかったときにエラーを返す仕様のため、nilを返すことはないです。
また、ここで注目したいのはmap{|t| t.to_i }
です。RubyでもCrystalでも引数を持たないメソッドの場合の略記がありますが、何故か微妙に異なっています。
Rubyならmap(&:to_i)
、Crystalならmap(&.to_i)
です。
さらに、Rubyにはmapの別名の同機能でcollectが存在しますが、Crystalはmapのみです。map/collectと同じ関係性のものとして 下記のようなものが挙げられます。
Crystalにある | Crystalにない | 備考 |
---|---|---|
map | collect | |
size | length | |
reduce | inject | |
select | find_all, filter | Enumerable |
find | detect | |
index | find_index | |
push | append | appendは Ruby v2.5- |
unshift | prepend | prependは Ruby v2.5- |
first | take | Array#first, Enumerable#take |
reject! | delete_if | |
each | each_pair | Hash |
select! | keep_if, filter! | |
has_key? | key?, include? member? | |
has_value? | value? | |
merge! | update |
Crystalではエイリアス(別名)を持たせない方針・慣習のため、後者のメソッドが定義されていないです。
例外はあるものの、結果的にはその多くが短い名称のものが採用されいる印象です。
第 1 問: ABC 086 A - Product (100 点)
a, b = gets.to_s.chomp.split.map{|t| t.to_i }
puts ( a * b ).odd? ? "Odd" : "Even"
C言語などを知っている人であればわかりやすいですが、Crystalには文字と文字列があります。
Rubyの場合、\n
などの特殊文字や式展開#{``}
を使用したいときはダブルクォート、したくないときはシングルクォートで文字列を囲み、関係ない場合はどちらを使っても問題なかったと思います。
しかし、Crystalは、ダブルクォートは文字列、シングルクォートは(1文字の)文字と決まっています。もし、"Odd"
を'Odd'
と書くとunterminated char literal, use double quotes for strings
(文字列にはダブルクォートを使え!)と怒られてしまいます。
2文字以上のものにダブルクォートを使うようにし、文字か文字列か意識するようにすると良いです。
Ruby | Crystal | |
---|---|---|
シングルクォート'~' | 文字列。特殊文字や式展開が使えない。 | 1文字の文字。文字列とは異なる |
ダブルクォート "~" | 文字列。特殊文字や式展開が使える。 | 文字列 |
第 2 問: ABC 081 A - Placing Marbles (100 点)
s = gets.to_s.chomp
puts s.count("1")
色々方法がありますが、与えられた文字列の1を数えるだけです。
Crystalには文字と文字列の区別がありますが、今回は1文字なので'1'
でも"1"
でもどちらでも大丈夫です。
ちなみに、Rubyでは1文字の文字列は?1
と変わった書き方ができますが、Crystalにはありません。
ところで、数えるのではなく、含むかどうか、を返してもらいたいときは以下です。
"101".include?("1") # Ruby
"101".includes?("1") # Crystal
Crystalでは、メソッド名が三人称単数形に変わっています。
きっと欧米圏の人から見て三人称単数形の方が自然ということでしょう。
他にもRubyのstart_with?
/end_with?
などのメソッドが、Crystalでは三人称単数形のstarts_with?
/ends_with?
になっています。
また、RubyのHashにhas_key?
, has_value?
という要素を持つか調べて返す三人称単数形のメソッドがあり原形に統一しきれておらず、Crystal側ではメソッド名の統一感がでていると思います。
ただ、変数名がelements
のような複数形だとelements.includes?(x)
はやはり誤りとなってしまうようです。
第 3 問: ABC 081 B - Shift Only (200 点)
n = gets.to_s.to_i
a = gets.to_s.chomp.split.map{|t| t.to_i }
ans = 0
while a.all?{|t| t.even? }
a = a.map{|t| (t/2).to_i }
ans += 1
end
puts ans
問題文通りにシミュレーションしています。
ここで注目しておきたいのはwhile文です。
Rubyではwhile
文の条件のあとにdo
があってもなくても動きますが、Crystalにはあってはいけません。もしdo
を書くと、unexpected token: do
(予期せぬdoだ!)と怒られます。
反対のuntil
文のdo
も同様です。メソッド名のエイリアスもそうですが、良くも悪くも多様な書き方が認められていない感じは、Pythonみたいですね(?)
話が逸れますが、while
/until
は予約語であるのに対し、loop
はメソッドでありRubyでもCrystalでもブロックを作るためにdo
を書く必要があります。
次に、割り算について。
Crystalのバージョンが0.24の頃は整数同士の割り算n/m
は、小数部分が切り捨てられた整数が返ってきていました。しかし、v0.33の今は、n/m
だと小数付きで返り、n//m
で整数が返ります。Python2からPython3で変更になったのと全く同じ流れですね。他に、Nim, Haskell, Perlなどもこの仕様らしいです。
Rubyと異なるところなので、気をつけましょう。割り算をしたあとにto_i
メソッドを用いることで、Crystalででた小数部分を切り捨て整数値を返しています。Rubyは整数値にto_i
を使っても同じ整数値が返るだけで、問題はありません。
p 1 / 3 # => 0 # Ruby, Crystal v0.24
p 1 / 3 # => 0.3333333333333333 # Crystal v0.31
第 4 問: ABC 087 B - Coins (200 点)
a = gets.to_s.to_i
b = gets.to_s.to_i
c = gets.to_s.to_i
x = gets.to_s.to_i
ans = 0
(a+1).times do |i|
(b+1).times do |j|
(c+1).times do |k|
ans += 1 if x == 500 * i + 100 * j + 50 * k
end
end
end
puts ans
素朴なコードですね。
三重ループで全探索をして答えを見つけています。
他の言語でループといえば、for文がよく使われます。
しかし、Rubyでは好まれて書かれない印象です。
また、Crystalには、そもそもfor文はなさそうです。
回したりループさせたいときは、while文/until文や、times, upto, downto, each, each_with_index, step, loopなどのメソッドを駆使しましょう。ただ、stepは、Crystalだとキーワード引数にしないといけなかったような気がします。
第 5 問: ABC 083 B - Some Sums (200 点)
n, a, b = gets.to_s.chomp.split.map{|t| t.to_i }
ans = 0
(1..n).each do |i|
s = i.to_s.chars.map{|t| t.to_i }.sum
ans += i if a <= s && s <= b
end
puts ans
以前のAtCoderのRubyのバージョンは2.3と古かったため配列のsum
メソッドが使えなかったのですが、今はv2.7でsum
メソッドが使え簡単に合計を取ることが出来ます。
ちなみに、Rubyでsum
メソッドが使えなかった頃はinject(:+)
かreduce(:+)
と書くのが普通でしたが、Crystalにはinject
という名称がなくreduce
のみです。さらにreduce(:+)
という記法がないため、両者で動くコードを書くにはreduce(0){|s,t|s+t}
などの書き方が必要でした。ちなみに、Rubyではdo~endではなく{~}を使ったときは引数をいれる()を省略するとエラーになるのですが、Crystalだと動くみたいです。つまり、reduce 0 {|s,t|s+t}
はRubyでは動かないけれど、Crystalでは動きます。
そして、Rubyには優先順位が最も低いand
/or
がありますが、Crystalにはないみたいです。
&&
/||
を使いましょう。
なお、Rubyはs.between?(a,b)
、Crystalはa <= s <= b
という別の書き方が出来ます。Crystalの方は嬉しいですね。一方、Rubyのbetween?
メソッドは、あまり使われているところを見たことがないですね。境界に引数を含むことを知っておく必要があり少し煩わしそうです。
Ruby | Crystal | |
---|---|---|
論理 |
and , or , not がある |
&& , || , ! のみ |
条件式 |
between? メソッドあり |
a <= s <= b と書ける |
第 6 問: ABC 088 B - Card Game for Two (200 点)
n = gets.to_s.to_i
a = gets.to_s.chomp.split.map{|t| t.to_i }.sort.reverse
ans = 0
a.each_with_index{|t,i| ans += i.even? ? t : -t }
puts ans
特筆すべきことはないですね。
ふつうRubyで競プロする場合、gets
がnil
を返すことは想定されないため、gets
の後にto_s
を挟みはしないですが。
sort
で昇順に並び替えて、reverse
でひっくり返し逆順にして、大きい順に並び替えています。
2人の得点の差異をだしたいため、Aliceのは加算して、Bobのは減算しています。
第 7 問: ABC 085 B - Kagami Mochi(200 点)
n = gets.to_s.to_i
a = Array.new(n){ gets.to_s.to_i }
puts a.uniq.size
縦にn行の入力について、Rubyではn.times.map{ gets.to_s.to_i }
という書き方をよく目にしますが、Crystalでは動きません。両方で動く書き方はArray.new(n){ gets.to_s.to_i }
とします。
最後の配列の長さを返しているsize
について。Rubyではlength
という同機能の別名が定義されていますが、Crystalにはありません。
他に、Rubyの配列の長さは引数なしのcount
メソッドでも一応返りますが、Crystalにはありません。
第 8 問: ABC 085 C - Otoshidama (300 点)
n,y = gets.to_s.split.map{|t| t.to_i }
y = ( y / 1000 ).to_i
(0..(y/5).to_i).each do |j|
(0..(y/10).to_i).each do |i|
c = y - (10 * i + 5 * j )
break if c < 0
if i + j + c == n
puts "#{i} #{j} #{c}"
exit
end
end
end
puts "-1 -1 -1"
整数どうしの割り算はn/mは、Rubyでは整数が返り、いまのCrystalでは浮動小数点数で返ります。
(Crystalがv0.24の頃の同じ挙動でしたが、v0.31になったあたりで変わって異なったようです)
そのため、両方で動くコードを書くときは、割った後にto_iを忘れないようにしましょう。
Ruby 317ms、Crystal 18ms
10倍以上差がでています。Rubyは二重ループや二次元配列周りが遅い印象を受けます。
それから、後置でない普通のif文について、Rubyでは条件式のあとにthenを書いても書かなくても動きますが、Crystalでは書いてしまうと動かないです。while文/until文のdoと同じですね。
第 9 問: ABC 049 C - Daydream (300 点)
s = gets.to_s.chomp
%w(eraser erase dreamer dream).each{ |w| s = s.gsub(w," ") }
s = s.gsub(" ","")
puts s == "" ? "YES" : "NO"
Crystalの文字列は1度代入すると変更できません。そのため、Rubyの破壊的メソッドであるgsub!がないようで、gsubで返り値をだして代入し直しています。なお、同じように、参照するString#[]はありますが、変更するためのString#[]=はCrystalにありません。
Ruby | Crystal | |
---|---|---|
文字列 | 変更できる | 変更できない |
第 10 問: ABC 086 C - Traveling (300 点)
n = gets.to_s.to_i
flag = true
ot = ox = oy = 0
n.times do |i|
t,x,y = gets.to_s.split.map{|t| t.to_i}
dt = t - ot
dx = (x-ox).abs
dy = (y-oy).abs
r = dt - dx - dy
if r < 0 || r.odd?
flag = false
break
end
ot, ox, oy = t, x, y
end
puts flag ? "Yes" : "No"
特筆すべきところはないですね。
余談ですが、大文字始まりはどちらも定数ですが、Crystalの場合に定数に多重代入しようとするとエラーがでます。
さいごに
今回の問題は簡単だったので、入力周りを変更するだけでRubyでもCrystalでも動くような問題も多かったです。
しかし、Crystalでは標準的なInt32という32bit整数で収まらない問題の場合、Int64bitの整数型を指定する必要があり、0
ではなく、0_i64
や0i64
などのように書きまくる必要があるケースもあります。もし、どうしてもRubyでもCrystalでも動かせるコードを作りたければ、32bitで収まらない整数値を与えてあげると、Crystal側で64bit整数だろうと判断してくれるので、それを用いると良いと思います。
p z64 = 9876543210 - 9876543210 # 0_i64
p e64 = z64 + 1 # 1_i64
あくまで遊びの範囲でこんな方法がありますよ、ってことで。