WebAssemblyとは?
ブラウザからアセンブリ(機械語)を実行できるようにする技術
高速化手段、あるいはJavaScriptの処理系にできないことをするといった目的で提案された
2015年6月、Mozilla、Google、Microsoft、Appleが標準フォーマットとして開発することに合意した
WebAssemblyが生まれた経緯
JavaScriptに実行速度が求められる時代になった
1. なぜJavaScriptは遅いか?
- インタプリタ言語で
- 動的型付けをしている
→ 解析に時間がかかってしまう
よって、コンパイラ言語と比べると遅い😭
当初、JavascriptはHTMLに飾り付けをする程度だった
さっと書いて、すぐに動く、それが売りだった
しかし最近では・・・
- 複雑なアニメーション
- WebGLなどのグラフィック処理
- 計算速度の遅いモバイル端末
などにも用途が広がり、実行速度が求められるようになってきた
2. JavaScriptを高速化するため、asm.jsが生まれた
2013年頃、asm.js(読み:アスム) が生まれた
asm.jsとは、JavaScriptを高速実行するために開発されたサブセット
=サブセットとは、全体に対する一部分のこと。本来の規格に関する限定部分、あるいはソフトウエアの機能を限定して使えるようにしたもの
asm.jsとは、JavaScriptをある制約に従って書くことで、
型を明確にして、ブラウザが事前コンパイルできるようにする技術です
▼ asm.jsの例
function asm(stdin, foreign, heap){ //引数は最大3つ
// use asm宣言により,JavaScriptインタプリタはこのfunctionをasm.jsコードと解釈し, 事前コンパイルを試みます
"use asm";
// インポート宣言
var imul = stdin.Math.imul;
var callOuter = foreign.callOuter;
// 共有変数宣言
var a = 0;
// 関数定義
function hoge(){
callOuter();
}
// 外部への公開
return stdin.hoge;
}
👍 asm.jsの良いところ
- 数値演算系の実行速度が速くなる(通常のJavascriptの6〜7割の時間で処理が終わる)
- asm.jsをサポートしない環境では通常のJavaScriptコードとして振舞う
- 他言語(C/C++)からasm.jsコードを出力可(コンパイラを使う)
- ゲームエンジンによるサポート(Unreal Engine, Unity)
→ UnityのコードをWebGLで動作させるときにasm.jsが使われている
👎 asm.jsの悪いところ
- ファイルサイズが増大&通信量増加
→ それによるパージング(構文解析)の時間増加 - データ構造の概念が存在しない
→ 数値計算しかできない。オブジェクト指向的なアプローチが通用しない - Web API 呼び出しが得意ではない(外部からfunctionを渡す必要がある)
3. asm.jsの代替案として、Web Assemblyが生まれた
バイナリコードをブラウザが扱えるようになることで、
JavaScriptに比べてファイルサイズを大幅に小さくすることができ、これらの問題を解決しようというもの
※バイナリコード・・・コンピューターに処理を依頼する命令を、CPUが理解できるように2進数で表したコードのこと
どれくらい軽くなるのか?
ゲームプログラム | コードのサイズ(asm.js) | コードのサイズ(WebAssembly) |
---|---|---|
Hello World | 301KiB | 204KiB |
AngryBots | 19MiB | 6MiB |
StandardAssets | 25.7MiB | 13.4MiB |
UnityChan-CRS | 21.3MiB | 11.4MiB |
WebAssemblyのすごいところ✨
- asm.jsに比べてファイルサイズが小さくなり、ロード時間が短くなる
※実行時間がはやくなるわけでない - 将来的には、JavaScriptを書かずにGC, DOM, Web API操作を目標としている
- 対応言語は現時点でC/C++, Rust(Mozillaによって開発されている言語)など
WebAssemblyの悪いところ👼
-
どの言語で書こうが事前コンパイルが必須
(下記で書きましたが、現時点でコンパイルがめちゃめちゃめんどくさい) -
現時点ではDOMを操作する必要があり、DOMからは解放されない
→ 2019年4月、DOM操作とAPI利用が可能になったらしい
https://blog.htmlhifive.com/2019/04/05/webassembly-dom-api/
Can I use WebAssembly?
Chrome、Firefox, Operaを中心にこれから開発が進んでいく模様
どれくらい速くなるの?
最大で3倍近く速くなる
計算内容の詳細: http://qiita.com/akira_/items/846a457ea110c172f2a5
C言語をWebAssembly対応ブラウザで動かしてみる
以下のようなC言語の関数ををブラウザから呼び出し、実行してみます
// sample.c
int c=0;
int count(){return c++;}
⬇︎これをWebAssemblyに変換するとこうなる (バイナリファイルは通常のエディタでは開けません)
// sample.wasm
0000000 060400 066563 000001 000000 002401 060001 000400 001577
0000020 000402 002000 000404 000160 002400 000403 000400 011007
0000040 003002 062555 067555 074562 000002 061405 072557 072156
0000060 000000 013412 012401 000401 040577 040400 024000 006002
0000100 000042 000501 033152 006002 000040 005413 000412 040400
0000120 005414 000004 000000 000000
0000127
1. Google Chrome を最新版へアップデートする(v57以降)
2. https://umamichi.github.io/wasm/ にアクセスし、デペロッパーツールを開き、画面上のボタンをクリックする
クリックする度にインクリメントされた数値がコンソールに出力されたら成功です
<html>
<head>
<meta charset="utf-8" />
<meta http-equiv="Content-Type" content="text/html; charset=utf-8" />
<title>WebAssembly</title>
</head>
<body>
<input type="button" id="countup" value="CountUp?" />
<script>
fetch('sample.wasm')
.then(response => response.arrayBuffer())
.then(buffer => WebAssembly.compile(buffer))
.then(module => WebAssembly.instantiate(module))
.then(instance => {
document.getElementById('countup').addEventListener('click', () => {
// C言語で定義されたcountを呼び出すことが可能
this.value = instance.exports.count();
console.log(this.value);
}, false);
});
</script>
</body>
</html>
現段階では、このようにwasmファイルをJavaScriptで読み込むための処理を書く必要があります
3.(おまけ) UnityでつくられたゲームをWebAssemblyで動かす
http://webassembly.org/demo/Tanks/
WebAssemblyをいつ使うか
- 部分的な処理の高速化
→ ブラウザ上で高速な画像処理/動画処理が必要な場合 - C, C++等の他言語で書かれた既存アプリを移植
- WASMでほとんどを実装し、UIなどをWeb技術で実装する
まとめ&今後
-
WebAssemblyを使えば、何でも速くなるわけではない
→ asm.jsと比べて早くなるのはロード時間とパース時間のみ。必ずしも実行時間が速くなるわけではない -
現時点でコンパイル環境をつくるのがかなり面倒
-
これまでWebでできなかった種類のアプリケーションが実現できる(特にグラフィック処理の多いゲーム系)
-
将来的にはC, C++以外の言語でもWebAssemblyにコンパイルできるようになるらしい
C言語をWebAssembly用バイナリコードにコンパイルしてみる
⚠️ 注意 3〜4時間かかります
環境 ・・・ MacOS Yosemite 10.10.5
必要な空き容量 ・・・ 18GB
必要な時間 ・・・ 3〜4時間ほど
WebAssemblyバイナリへコンパイルする流れ
オープンソースのコンパイラ基盤 LLVM を使います
LLVMは、フロントエンドとバックエンドにコンパイラが分かれており、
内部で中間表現(LLVM IR)に変換することで、指定の形式にコンパイルすることができます
1.LLVM+clang のインストール
① LLVM をダウンロードする
$ mkdir web-assembly // 任意の場所に作業ディレクトリを作る
$ cd web-assembly
$ git clone --depth=1 http://llvm.org/git/llvm.git
② clang(クラン)をダウンロードする
clangとは、プログラミング言語 C、C++、Objective-C、Objective-C++ 向けのコンパイラフロントエンドである
バックエンドとして LLVM を使用している。
$ cd llvm/tools
$ git clone --depth=1 http://llvm.org/git/clang.git
③ cmakeを使えるようにしておく
cmakeはコンパイラに依存しないビルド自動化のためのフリーソフトウェアである
$ brew update
$ brew install cmake
④ LLVMとclangをインストールする
$ cd ../../ // ルートに戻る
$ mkdir llvm_build
$ cd llvm_build
$ cmake -G "Unix Makefiles" -DCMAKE_INSTALL_PREFIX=/usr/local -DCMAKE_BUILD_TYPE=Release -DLLVM_TARGETS_TO_BUILD= -DLLVM_EXPERIMENTAL_TARGETS_TO_BUILD=WebAssembly ../llvm
$ make -j 8
// 60分ほどかかります...🍺🍺🍺🍺🍺🍺
$ sudo make install
インストールに成功すると、今回利用するclangやllcが使えるようになります。
2. binaryenのインストール
binaryenとは、WebAssemblyのツールチェインのためのプロジェクト。
WebAssemblyモジュールをロードできる「Binaryen shell」や「asm.js」を使って実装されたコードをWebAssemblyにコンパイルする「asm2wasm」、その逆の処理を行う「wasm2asm」、LLVMで開発されているWebAssemblyバックエンドが出力する「.s」形式コードをWebAssemblyにコンパイルする「s2wasm」などを含んでいる
$ cd .. // ルートに戻る
$ git clone --depth=1 https://github.com/WebAssembly/binaryen.git
$ cd binaryen
$ cmake . && make
$ sudo make install
インストールに成功すると、binaryen-shell、wasm-as、wasm-dis、asm2wasm、wasm2asm、s2wasm、wasm.jsなどのコマンドが使えるようになります。
3. wabtのインストール
WebAssembly Binary Toolkit.
wastファイルをwasmファイルにコンパイルするために必要です
$ cd ..
$ git clone --recursive https://github.com/WebAssembly/wabt
$ cd wabt
$ make clang-debug-no-tests
※ READMEには $ make
と書いてありますが、vector not found
というエラーが出たので、make clang-debug-no-tests
とするとうまくいきました
参考)https://github.com/WebAssembly/wabt/issues/333
※ もし下記のようなエラーがでたらbisonのバージョンをあげる必要があります
-- Could NOT find BISON: Found unsuitable version "2.3", but required is at least "3.0" (found /usr/bin/bison)
CMake Error at CMakeLists.txt:308 (message):
Can't find third_party/gtest. Run git submodule update --init, or disable
with CMake -DBUILD_TESTS=OFF.
-- Configuring incomplete, errors occurred!
brewなどをつかってbisonのバージョンを上げ、PATHを通してください
参考)http://stackoverflow.com/questions/24835116/bison-latest-version-installed-but-not-in-use
4. コンパイルする
$ cd .. // ルートにもどり
$ mkdir build && cd build // buildディレクトリをつくって移動
$ touch sample.c
$ vi sample.c // またはエディタで開く
▼sample.c
int c=0;
int count(){return c++;}
このあと、以下を1行ずつ順番に実行してください
$ clang -emit-llvm --target=wasm32 -S sample.c
$ llc sample.ll -march=wasm32
$ s2wasm sample.s > sample.wast
$ ../wabt/out/clang/Debug/no-tests/wast2wasm -o sample.wasm sample.wast
sample.wast ファイルが生成されたらコンパイル成功!
適用なサーバーを立て、先ほどのhtmlファイルとwasmファイルを配置すると動きます
Emscripten
今回は試していませんが、
Rustをwasmにコンパイルする時は、Emscriptenを使う方が良いようです
コマンド1つでwasmファイルに変換してくれます
参考) 「RustからWebAssemblyにコンパイルしてみる」
http://suzumi.hatenablog.com/entry/2017/01/05/180405
参考・引用
http://gigazine.net/news/20161101-webassembly-browser-preview/
https://www.slideshare.net/likr/asmjswebassembly