この記事の対象者
- 脳波解析をする人
- 波形解析で相関とか見る人
- 相関と因果を混同している人
TLDR;
相関と因果は違います。
脳波解析はその辺りが曖昧にされていることの多い領域の一つです。
脳波解析屋さんは一つの脳内のコネクティビティ解析の時に相関の指標であるPhase locking value(PLV)を使うのを特殊な場合1を除いて辞めましょう。
代わりにまずは…例えば下記のいずれかを検討しましょう。
- Imaginary coherence
- Weighted imaginary coherence
- Phase lag index
- Phase slope index
PLVとは何か
波形解析によってある地点とある地点に
コネクティビティ(繋がり)があるかどうかを調べる指標で、
脳波解析の文脈で広く使われるものです。
...いや、広く使われていたものです。
この指標は理由がない限り因果関係の考察に使わないで下さい。
というのがこの記事の内容です。
PLVの計算方法
フーリエ変換とかWavelet変換では位相の情報が出てきます。その為、波形同士の相関を計算することが可能になります。素敵ですね!
Wavelet変換で計算した二つの波の複素数のノルムを1に補正したものを掛け合わせて、互いに足し合わせて平均をとれば、特定の周波数に関してどの程度似ているか分かります。ここで、波xとyの相関関数をSxyとすると下記の式になります。
$$E{\frac{Sxy}{|Sxy|}}$$
二つの波が同時に高くなったり低くなるなら、波同士は相関があります。
もし、相関具合が高ければ、因果関係がある…君はそう思ったかい?
それは間違いだ!
相関と因果を間違ってはいけない
相関関係と因果関係は違います。
例えば…地震や味噌汁に例えます。
(僕は地震についてはよく知らないのであくまで例えです)
問1・震源地の話
今京都で地震が起こったとします。東京と福岡にその地震が波及してきました。さて、京都と東京と福岡、どの場所に因果関係があるでしょうか?
- 京都→東京
- 京都→福岡
ってなるだろ…常識的に考えて。
だけど、PLVだと東京と福岡が最も強く相関する、と出ます。
何故でしょうか?
回答例
京都から東京に波が波及するときに時間がかかります。つまり、京都と東京は位相がずれています。一方、東京と福岡は同じくらいずれています。
PLV「京都だけ位相が遅れていない。京都は仲間はずれだ!東京と福岡は同じくらい遅れている。だから東京と福岡には関係がある。京都の地震は東京や福岡の地震とは無関係だ!!!」
PLVでは東京と福岡に相関が高いため、東京と福岡を関連づけて考えるのです。
問2・交絡因子の話
味噌汁を食べる人は寿命が長いそうです。ここに、寿命と味噌汁に因果関係が見つかった!寿命を伸ばしたければ味噌汁をがぶ飲みしよう!
しかし、冷静に考えると塩分のとりすぎは身体に悪いはずだ。
因果関係に対して反論して下さい。
回答例2
味噌汁を食べる人は全体的にきちんとした食生活を送っているから、寿命が長いのです。塩分を取り過ぎになるのを差し引いても、味噌汁を食べるだけの余裕がある人はいつもインスタントラーメンしか食べる余裕のない人より全体的に健康的な暮らしをしているはずです。
先程の「京都」にあたるのが「健康的な暮らし」、「東京と福岡」が「寿命と味噌汁」ですね。
位相の差分を考慮しよう
波の相関関数等を用いた場合は震源地からの波及によって値がおかしくなります。
脳波解析であれば、例えば目をキョロ動かした時におかしなことが起こります。人間の眼球は帯電しています。眼球運動による脳波のノイズは脳波を遥かに超える大きさなのです。
キョロキョロした場合、脳全体に同じ様な電位が生じます。つまり、PLVだと脳全体に波及した眼球ノイズが出現すると「脳全体に互いに関連のある波形が出現した!」となります。
脳波解析屋さんはそういう風に「脳機能が向上した!」なんて言ってしまえるのです。ここは知識と倫理が求められますね。
位相の差分を考慮に入れた指標が求められますし、実際複数開発されています。
(ここにも落とし穴はあるのですが今回は語りません)
まとめ
PLVはコネクティビティの考察に使う場合には大きな落とし穴がある。
代替案の例としては下記がある。
- Imaginary coherence
- Weighted imaginary coherence
- Phase lag index
- Phase slope index
使うなら震源地に関して考察して、大丈夫と判断できる時だけにしようね、僕と君との約束だ!
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例えば、AさんとBさんが同時に実験を受けて、それにたいしてどのくらい同じように反応するかを見る…とかする実験系なら良いとは思います。結構ニッチな実験ですよね? ↩