アリスと記憶の術
アリスの暗号は安全かどうか保障がつけられなかった。
他の誰かにはこの暗号の欠陥がわかるかもしれない。
遠く離れた町ではヒル暗号という別の暗号が安全だといわれているし、ほかにもアフィン暗号が安全だという人もいる。
どれが安全なのかは誰にもわからない。
一番詳しいのがアルルのいる僧院で集会の時間に行われている知恵の秘儀に関する議論や暗号品評会だった。
アリスは1週間ほど悩んだ挙句、アルルに相談することにした。
アルルの僧院には行けない。
いっても門番が通してくれない。
アリスは一か月ほど図書館にアルルが来るのを待っていた。
そしてついにアルルに合うことができた。
やあ、また会ったね。
相談があるの
暗号のこと?
村で使われている暗号が解けたの。
へえ。
みんな安全だって信じてるわ。みんなに話して使うのをやめさせようと思うんだけどどう思う?
ビジュネル氏にも手紙を送ってみようかと思うんだけど。
それはやめた方がいいね。村人くらいならいいけど。
どうして。
あの暗号に解読法があるという事はずっと昔から知られている。知恵の秘儀を知っている人には使ってはならない方法として有名なんだ。そこで考えられるのは、皇帝が情報収集のためにわざと解読できる暗号を使わせているという可能性だ。
それは怖いわね。
君が皇帝に勝てる自信があればやってもいいと思うけど。
ないわ。
君が見つけた解読法は3番目に強い解読法だね。
どうして知ってるの?!
このノートは君のだよね。
私の捨てた計算ノート?プライバシー侵害ね。
僧院でも情報収集を行っているんだよ。
このノートは僧院の販売所で買ったものだね。
思い出したわ、あそこは女からは2倍のお金をとるのよね、二度と行かないわ。それでそのノートにある計算から私が何をしているのかわかったの?
うん。
どうやって?
記憶の術を使った。
記憶の術?
そう。このノートにはモノ直しの技がかけられている。このノートが何の目的で使われたのか記憶がわかるんだ。
そんな書き込みから記憶がわかるの?
君も知っているように、見えないものにモノ直しの技をかけることが一番難しいよね。このノートに書かれたことは人の思考のごく一部から、その人が何を目的に何をしようとしているのかを復元できるんだ。販売所で売られているノートには全部モノ直しの技がかけられている。
そういうことだったのね。私もやってみるわ。ただし別の方法でね。
何をする気なんだ、アリス。
ビジュネル氏を試すのよ。うまくいったら報告するわ。またねアルル。
アリスはそういってその場を去った。
早速ビジュネル氏に解読に成功したことを知らせる方法を考え出した。
その前に、町の郵便局で売られている匿名電報を買わなければならない。
今日は乗合馬車の予約をしておこう。