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ADALM2000によるPSRRの測定

Last updated at Posted at 2020-05-16

ADALM2000

ADALM2000というUSB測定器を手に入れた。
この記事ではADALM2000の弱点であるコネクタ周りを強化する拡張ボードの製作、
そして拡張ボードを用いたリニアレギュレータのPSRR測定方法を解説する。
*ADALM2000によるTHDの計測はこちら

使用感

S__176717833.jpg

まずADALM2000そのままの使用感を述べる。
購入時秋月電子通商にて13000円程という驚異の低価格。差動入力オシロスコープ2ch, ファンクションジェネレータ2ch, スペクトルアナライザ, そしてなんといってもこの価格でボード線図が取得できるFRAが搭載されている。(詳細はアナログデバイセズ公式サイトを参照されたい。)
また余談だが、スペクトルアナライザ機能でTHDが%表示されることは無い。CSVファイル等で書きだし、計算する必要がありそうだ。

私が購入に至ったのもFAR機能を使いスイッチング電源のボード線図を取得したかったためだ。
しかし通常のオシロ機能を使うにしても画像の様にブレッドボード用のコネクタを使うことになっておりインターフェースが悪い。
実際にボード線図を取得したいと考えるとこの回路のように接続ポイントが多く、パルストランスを使用する事もあり既存のコネクタでは非常に測定しづらそうだ。
そこでオシロスコープのプローブを使い、かつボード線図を取得できるようにパルストランスを搭載した拡張ボードを製作することにした。

専用拡張ボードの製作

S__176717830.jpg
製作した拡張ボード。
ADALM2000EXB.png
拡張ボードの回路図

この拡張ボードは以下の機能を備えている。
・オシロスコープ用BNC:2機
・AC結合用スイッチ:2機
・FG(W2)用ターミナル:1機
・FRA用パスストランス(W1)用ターミナル:1機
・V+用ターミナル:1機

中でも気に入っているのがAC結合用のスイッチだ。ソフトウェア的にAC結合をすることももちろん可能だが、カップリングコンデンサを直列に接続するだけで直流高電圧のノイズ測定を可能にし、AC結合してトリガされるまでの時間も短縮できる。
S__176717831.jpg
プローブを使うことができるようになり使い勝手が良くなった。

では、ADALM2000専用のソフトウェア"Scopy"を用いて、拡張ボードに搭載するパルストランスの伝達特性を測定する。
ADALM2000TRbode.png
パルストランス周波数特性測定回路
上の回路図の様にADALM2000により直接測定した。
4C059646-5F83-4324-8F53-8D9B53725A7D.png
パルストランスの周波数特性
オレンジ色と紫色で示したのが実際に拡張ボードに使用したパルストランスのボード線図だ。
約100kHzまではほとんどフラットな特性であるのでスイッチング電源やオーディオアンプのボード線図取得に使えそうだ。
ちなみに、FARによって取得できるのは電圧ゲイン、位相特性ばかりではない。回路を工夫すればインピーダンスアナライザとしての使用やPSRR測定も可能である。
そこで今回は製作した拡張ボードを使用したPSRRの簡易測定方法を紹介する。

PSRRの測定

この章ではLM350というリニアレギュレータのPSRR(リップルリジェクション、電源電圧変動除去比)を測定する。LM350は皆さんご存知LM317の親戚で、3Aまで電流を流すことが出来る。
S__176717829.jpg
製作したLM350のリニア電源
PSRRmeasure.png
測定回路
入力電源電圧(BT2)に対し、拡張ボードの"Terminal1"から小信号正弦波(リプル信号)を重畳し、それをスイープすることによってPSRRの周波数特性を測定することができる。正確な測定にはリプル信号を電流ブースタに通して広帯域、重〜軽負荷でゲインを確保しておく必要があるが、今回は軽負荷での簡易測定という事で眼を瞑る。
実際、PSRR測定回路から分かる通り入力リプルと出力リプルの差分を測定するためリプルが広帯域に渡りゲイン一定で無くても測定が可能だ。

測定
正弦波重畳.PNG
直流重畳したリプル
まずはオシロスコープ機能とシグナルジェネレータ機能で直流電圧にリプルが載せられているかを確認する。
トランスのインピーダンスや抵抗分圧によって実際に重畳されるリプルはオシレータの設定値より低くなる事が考えられる為、実際に重畳されるリプルのみを拡張ボードのAC結合機能にて測定する。
2kHz_osci3V_LM350_PSRR.PNG
AC結合でリプのみを取り出したオシログラム
-測定条件-
OSC:2kHz 3V 正弦波
CH1:LM350入力電圧(AC結合)
CH2:LM350出力電圧(AC結合)
LM350出力電圧設定値:10V, 無負荷
この結果からCH2(出力)はCH1(入力)と比較してノイズがほとんど除去されていることが分かる。
また、注入するリプル電圧は3Vから70mVにまで落ちているが、正弦波の波形を維持しているためPSRR測定に使用できそうだ。

測定回路の通りに接続し、FRAのリプル電圧信号を3Vに設定して1kHzから5MHzまでスイープすることによりPSRRを計測する。
LM350_PSRR.PNG
LM350, PSRRの周波数特性

LM350_PSRR_datasheetVSmeasurement.PNG
データシート値VS実測値

LM350のデータシートの値と比較すると性能が悪く出ているが傾向は大体同じで安心した。
データシートとそもそも測定条件が等しくないので比べるのも野暮だが、リニアレギュレータは入力がSMPSであってもノイズ除去をしてくれることがわかった。
測定誤差が起こりうる原因として、先に述べた電流ブースタの不使用や、使用している入力電源(BT2)のノイズ重畳等が考えられる。

まとめ

ADALM2000の拡張ボードの作成、リニアレギュレータのPSRR簡易測定を行った。
この計測器は安価ながら非常に優秀で、今まで出来なかった周波数解析が容易に行えるため今後のエンジニアリングがますます楽しくなりそうだ。

参考
SMPSのボード線図取得方法
https://www.analog.com/jp/analog-dialogue/studentzone/studentzone-july-2019.html
LM350データシート
https://www.tij.co.jp/jp/lit/ds/symlink/lm350-n.pdf?&ts=1589620557859
LDOのPSRR測定
https://training.ti.com/node/856545
パルストランスの周波数特性取得
https://www.denshi.club/parts/2018/06/adalm20006--4.html

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