はじめに
こんにちは、梅雨です。
今回は、SIGGRAPH Asia 2024に参加してきたので、そこで得られた情報などをメモとして残したいと思います。
CineSim
嶺南大学という香港の大学で開発が行われている、メディア制作を行える没入型3D環境のシミュレータ。
モデルやライトを配置し空間を設計することができる。
人間のモデルには豊富なアニメーションも用意されており、動きをつけることも可能。
シーンの配置の体験自体はUnityのようなゲームエンジンと似ていた。
またテンプレートもあり、レストランやカフェといったシーンをカスタマイズして使用することもできる。
自身で作成したシーンにはHMDを用いて入り込むことができ、直感的に視点の移動が可能。
カメラは現実同様に焦点距離などが選択でき、コントローラを用いて向きなどを操作できる。
Steamで配信予定で、誰でも簡単に動画制作が行える。
歩ける足裏触覚デバイス
豊橋技術科学大学の北崎研究室において研究が行われている、足裏触覚デバイス。
椅子に座った状態でデバイスの上に足を乗せ、HMDを装着して歩行を体験できる。
このデバイスにはセンサとアクチュエータが内蔵されており、センサでは足裏の前と後のどちらにより力がかかっているか判別、アクチュエータではユーザの仮想空間内の歩いている場所に応じてバイブロトランスデューサから振動のフィードバックが行われる。
歩行体験自体はあまり直感的には感じられず、特にその場での旋回が行えなかったのがもどかしく感じた。
一方で、デモでは伝統的な日本家屋の中を歩く体験を行ったが、木の板や玉砂利の上を歩いている感覚は確かにあり、使い方によってはVR空間内での没入感を増強できそうだと思った。
体験者の姿勢によらず歩行体験を提示できるというアイデアは非常に面白く、また足裏に触覚フィードバックを行うデバイスはあまり多くないと思うので新鮮だった。
こちらは同研究室において研究が行われている触覚提示デバイスであり、実際に足を動かすことなく歩行体験が得られる。
ユーザが両手に把持したコントローラの動きをトラッキングし、機械学習された歩行データから足の動作を推定。トランスデューサーで足裏に振動を提示し、体感覚のフィードバックを行う。
VR空間における、ユーザの姿勢によらない歩行体験が再現できる。
Real-time CFD を用いた嗅覚デバイス
東京科学大学の中本研究室で研究が行われている、real-time CFDを用いたVR空間における匂いの提示デバイス。
GPU上でreal-time CFD(実時間数値流体計算)を行い、仮想空間内の匂いの濃度変化を計算する。
HMD下部に取り付けられた嗅覚ディスプレイから濃度に応じた強さの匂いを出力することで、匂い源の方向をユーザに提示することができる。
今回のデモでは通常の距離に応じた匂い提示との比較がなかったため、どのぐらいreal-time CFDが嗅覚の体験の質に影響を与えるかはあまり分からなかった。
Transformed Skin
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の南澤研究室で研究が行われている、皮膚質感の交換錯覚。
ラバーハンド錯覚を応用し、鏡面越しにさまざまな素材で手に触れることで手が素材そのものになってしまっているような感覚を体験できる。
デモでは綿・木の枝・風船を素材として用い、これらの素材で腕を触ることで逆に腕自体がそれらの素材であるような錯覚が生じた。
HMDを用いたデモは時間がなくて行えなかったが、こちらも鏡での体験と同様に視覚と触覚のクロスモーダル効果により身体とアバターの融合が生じる。
Ninja Codes
Sony CSLによって研究が行われているARマーカ。
位置認識用の二次元コードを任意の画像の中に隠し、環境に自然に溶け込ませることができる。
36bitの 二次元のARマーカを環境に同化させるニューラルネットワークを開発し、人間の意識が及ばないようなマーカー出力を行う。
認識精度と可視性を学習させることでアーティファクトを極限まで人に認識させないマーカーの実現を目指している。
Necomimi illusion
慶應義塾大学理工学部情報工学科杉本研究室で研究が行われている、身体拡張における触覚フィードバックデバイス。
VR空間内において猫耳を有するアバタを自己表現として用い、HMDに装着された触覚フィードバックデバイスが頭を撫でられる映像とリンクして髪に刺激を与えることで、クロスモーダル効果により存在しない器官の触覚を生み出す。
触覚フィードバックデバイスはシリコンチューブ内の位置のずれた2本のBMF(バイオメタルファイバー)に通電した際の抵抗加熱によって制御されている。
本当に自分の頭に猫耳が生えたような感覚になり、他にも色々応用が効きそうな研究だと感じた。
高解像度HMD
Sonyによって開発が行われている、高解像度HMD。
片目につき複数のレンズを用いることで220度の水平視野角と中心35度は110DDPの高解像度を実現している。
加えて、ヘッドデバイスの性能に併せて32Kの超高解像度ビデオプレイヤーも開発されている。
中心部の解像度は非常に高く、現実と見紛うほどのリアリティだった。一方で、周辺部はぼやけたような感覚があり、少しリアリティを損なっていた印象がある。このデバイスは使用者の視力にも影響されるらしいので、今後の開発によって周辺部の高解像度化にも期待が持てる。
おわりに
今回のSIGGRAPH Asia 2024では興味深いたくさんの技術に触れることができました。
個人的には最後に紹介したSonyのHMDが商品化するのがとても楽しみです。
来年のSIGGRAPH Asia 2025は香港で開催されるようなので、興味のある方はぜひ情報をチェックしてみてください。