こちらの本の感想になります。
題名の通りTikTokの成功秘話について緻密な分析がなされた本で、「アプリを大きくしたい!」と夢見る方なら参考になるのではないでしょうか。稀代の化け物成長を成し遂げているアプリとその会社の戦略性に圧倒されました。
新規事業やサクセスストーリーが好きな人、クリエイターには堪らなく面白い本だと思いますので、まだ読んでいない方は是非読んでみてください!
目次
- TikTok、ByteDanceの凄さ
- 「タイミングは他のどんな戦略よりも重要である」
- フロントエンドの革命
- アルゴリズム型レコメンド
- 社内体制
- 中国流グロースハック
- クリエイターのエコシステム創出
- 日本攻略
- まとめ
TikTok、ByteDanceの凄さ
本文に入る前に、今更ですが改めてこのモンスターアプリとそれを生み出したByteDance(バイトダンス)社を調べてみました。
- 2022年ダウンロード数1位の6億7200万DL(2位はInstagramで5億4800万DL)※1
- アクティブユーザー数は世界で10億人
- バイトダンスの売り上げは約800億ドル(約10兆700億円)※2022年12月期2
- 世界ユニコーンランキング1位、従業員数11万人(2012年創業)
今もなお急速な成長をし続けているそうです。恐ろしい・・
ここからは本で語られていた内容で自分が印象に残ったものをピックアップしていきます。
「タイミングは他のどんな戦略よりも重要である」
TikTokはショート動画アプリ市場の中でも後発でしたが、安くて高速な4G回線が中国国内に広がった2017年頃にリリースされたため、成功の条件が整っていた事が挙げられています。成功は環境に依存するとはよく言いますが、TikTokにとっても例外ではなかったようです。
フロントエンドの革命
皆さんは「Vine」を覚えているでしょうか?ショート動画アプリといえば最初にブームとなったのはVineでした。その火が消えてから、なぜまたそのパクリのようなアプリが再燃したのでしょうか?その過程には2013年、パリの4人の美大生達が作った「ミンディ」というアプリの発明があります。彼らはVineの持つ課題を発見し、幾つかの改善を行いました。
Vineの2013年のUI3 |
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まず、動画をそれまでの1:1の正方形アスペクトからiPhoneの縦長のサイズに合うように画面いっぱいに表示させました。更に下から上へスワイプして次の動画が表示されるような仕組みに変え、何が表示されるかわからない驚きと期待感をうまく創出したのです。
またそれまでの、「撮影した後でないと音楽を選べない」仕組みを、「音楽を選んで、大音量で流しながらそれに合わせて動画を撮影する」スタイルに変更したそうです。Instagramが写真に特殊フィルターがかけられるから流行したのと同じように、音楽こそが、ユーザーの何でもない日常に特殊なフィルターをかける真の価値だと彼らは理解したのです。
その他にも、いいねを別画面ではなく動画に重ねて表示する、などの幾つかの重要なUI改善が施された結果、音楽主体の縦長ショート動画アプリが世に生まれました。
アルゴリズム型レコメンド
ByteDanceは元々ニュース記事まとめアプリで成功していましたが、その成功の主な理由は、創業者であるジャン・イーミンがいち早くアルゴリズム型レコメンドの力に着目しその技術力を向上させていた事が挙げられます。更に、ショート動画は、NetFlixやYouTubeのようなロング動画よりも選別の機会が多く、アルゴリズム型レコメンドと非常に相性が良かったそうです。
ちなみにYouTubeも2011年に機械学習アルゴリズム型のレコメンドエンジン「シビル」を導入したことで即座にユーザー数が激増したようです。今となっては機械学習によるレコメンドは当たり前ですが、当時は人による選別の方が精密だと信じられていたようで、この常識を中国で覆したのがイーミンでした。
社内体制
前述のように強力なレコメンドエンジンを持っていたByteDanceですが、そのデータベースを共通の資産にして、ByteDanceで作られるすべてのアプリで活用できるようにしていたそうです。アプリAで得られたユーザーのプロファイルがアプリBでもアプリCでも活かされ、更にその情報がアプリAで活かされる...このパーソナライズの精密化サイクルが強力なエンジンになっています。
ところでTikTokはByteDanceの社内ベンチャーとして生まれたアプリですが、10人足らずの素人チームから生まれたそうです。とりあえず売れているものをパクる→数うちゃ当たる→売れそうになったら全力投資する、という中国流の大胆な戦略が、プライドとコンプラを守る西欧諸国を追い抜いたのでしょうか。最近では「lemon8」も話題になってきていますね。
中国流グロースハック
これも中国らしいなあと思ったエピソードの紹介なのですが、「プリインストール」という言葉をご存知でしょうか?
販売業者と契約し、工場から出荷されたスマホに、消費者の元に届く前にアプリをインストールしておくことを指すそうです。確かに最初に買ったiPhoneに勝手にアプリが入っていれば、一度は使ってみますよね。
このグレーな戦法を最初にByteDanceが取り入れたそうで、数千万のユーザーの獲得に至ったとか。その他にも女子大生グループを雇って街中で声をかけて年配の男性にインストールさせる、という戦法もあったそうです。実に泥臭いですが、「勝つための方法なら何でもやる」という精神が垣間見れます。
クリエイターのエコシステム創出
ユーザーがコンテンツを投稿して初めて価値が生まれる型のアプリにおいて、初期ユーザーをどのように増やすか、というのが最大の難関です。「金」の力があることは大前提ですが、その上でも学ぶべきだと思った幾つかの施策がありました。
まず、「クリエイターを王族のように扱う」オペレーションです。
毎日クリエイター達と個別にチャットをしたり食事をご馳走しながら意見を聴いたり、誕生日には個別に動画まで撮影していたそうです。この時代にインフルエンサーの声を大切にする、というのがいかに大事かを思い知らされます。
また、ポジショニングにもかなり気を遣っていたようで、TikTok(今更だが中国では「ドウイン」)は3度のポジショニング変更や改名を経て今に至っています。
始めは10歳前後の女性をターゲットにしていましたが、美大生などのクール層をターゲットとするように変更がありました。その際は運営チームが美大生を直接「成功させてあげるから」という約束でスカウトしていったそうです。
そこから更に、”アイスバケットチャレンジ”のような誰でも参加できるイベント型のコンテンツを増やしたり、マスマーケット向けにコンテンツを多様化して、戦略的かつ体系的に拡大戦略が実行されました。
日本攻略
世界に進出する際にまず目をつけられたのがそう、「日本」でした。
プライバシー意識が高く特殊な市場と見做されている日本でしたが、そこで成功すれば東アジアやアジアを攻略するのも約束されたようなものだ、と考えられたそうです。
対策として、グループで参加できるチャレンジを増やしたり、人目を気にならないように顔をわかりづらくできるフィルターが重視されました。動画の特殊フィルターが日本人にウケるように作られていたとは、非常に驚きましたし恐ろしさすら覚えてしまいました。。
まとめ
まだまだ紹介したいエピソードがあったので、気になる方は本書を手に取ってみてください。
感想ですが、ここまでの成功を掴むには「泥臭さ」と「戦略性」、「投資力」が欠かせなかったのだと感じました。コンプラや法律の足枷をものともせず、勝つために有効と思われる手段を全て迅速に実行する文化。そしてそれを後押しする金の力。日本に足りないものなのかもしれません。もちろん倫理違反を意図的に起こすべきではないと思いますが、成功に影はつきものですよね。(適当)
それとは別に、彼らのデータドリブンの考え方や、ジャン・イーミンのカリスマ性、動画クリエイターの声を真摯に受け止めようとする態度、レコメンドエンジンの技術力、中国独特のハック、などなどはとても面白く、参考になりました。