この記事は、みらい翻訳 Advent Calendar 2020の記事です。
はじめに
株式会社リンコード代表をしつつ、株式会社みらい翻訳でも開発VPをさせて貰っていますtoycodeです。永遠のエンジニアつもりですが、ライフハック以外のコードを書けていないので、Qiitaには久しぶりに投稿します。
さて、エンジニア限った話ではないのですが、何をするにもモチベーションが成果に大きく影響をしますよね。今回は、モチベーションに関する理論を説明していきます。
日頃の「やる気でねー」や「そういえば今日、何かやる気出ているな」という状態をきちんと理論の助けを借りて理解し、少しでも「やる気の出る」日が増えて、ハッピーなエンジニアライフを送れるようになって貰えればと考えています。
マズローの欲求5段階説
まず、最初は超有名どころから。
アメリカの心理学者マズロー(1908年-1970年)によって提唱された理論です。自己実現理論などとも呼ばれています。ただし、マズローの著書にはピラミッド階層についての言及はされていないらしいです。
科学的な厳密さの欠如を指摘されることもありますが、今日でも、心理学以外でも教育、経営などの様々な分野で用いられています。これは、多くの人の経験的な認知、つまり納得しやすいものであるためではないでしょうか。特に課題の発見や改善に使いやすい理論だと思います。
「生理的欲求」〜「自己実現的欲求」に向かって高次の欲求となります。原則として、より低次の欲求が満たされていない状況では、高次の欲求が満たされていても、モチベーションとしては上がりにくくなります。もちろん例外もあります。消防士や自衛隊など危険な現場に赴くという「安全的欲求」が満たされない場合でも、人の命を守るというとても大きな「自己実現的欲求」があれば、大きなモチベーションになるでしょう。ただし、その状態がずっとつづくと、モチベーション維持が難しいことは想像に難くないでしょう。
「内的に満たされる欲求」「外的に満たされる欲求」という区分をしています。内的な部分は、自分自身の努力や能力、価値観に左右されますので、この欲求でモチベーションを上げようとなると自身の中で、価値観などを言語化しながら、深く考える必要があるかと思います。
外的な部分は、内的に比べると動きやすいですね。転職する、異動願いを出す、高級オフィスチェアーとウルトラワイドモニターを購入、とにかく今日は寝る!など。
ただ、これだけではモチベーションを維持するのは難しいですよね。なぜでしょうか。「ハーズバーグの動機付け・衛生理論」で説明できます。
ハーズバーグの動機付け・衛生理論
アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグが提唱した職務の満足および不満足を引き起こす要因に関する理論があります。
高級オフィスチェアーで「安全欲求」を満たされた場合、ハーズバーグの動機付け・衛生理論では、衛生要因として、モチベーション上昇に直接寄与しないというように考えます。もちろん買ったことによる一時的なモチベーション爆上がり状態はあると思いますが、これは、「買いたかった高級オフィスチェアーを買えた」という「自己実現的欲求」で、慣れてしまうと不満がないという状態になり、直接のモチベーション上昇に寄与しないということになります。
では、やはりモチベーション維持を考えると、「動機付け要因」、マズローで言うところの「内的に満たされる欲求」について深掘りが必要そうですね。
その前に、そもそもモチベーションって何?って話をします。
期待値理論
ビクター・ブルームが最初に体系化したモチベーション理論で、L.W.ポーターとE.E.ローラーによってさらに発展しました。
人は、「努力すれば満足のいく結果を得られる、と期待できる場合にモチベーションが上がる」という理論です。
もう少しわかりやすく書き下すと、
- モチベーション = 期待(努力すると得られると期待できる成果) x 誘意性(報酬の主観的価値)
わかりやすくなってないですかね?ぶっちゃけて書くと、全く手の届かないものでなくて、おそらく頑張れば手の届く成果が、自分にとってすごく価値のあるものであるとき、モチベーションが上がるということです。
夏休みのラジオ体操は辛いけど、カブトムシを捕るためなら朝早いのも苦ではないということです。おっと、エンジニアでなく少年の思い出を書いてしまいましたね。
さて、モチベーションについて、定義できましたので、このあと2つの理論を紹介します。モチベーションを上昇と維持のためには何に気をつけるればいいか理解できると思います。
目標設定理論
アメリカの心理学者ロックが提唱しました。目標という要因に注目し、モチベーションの違いは目標設定の違いによってもたらされる、という考え方で、ドラッカーが提唱した目標管理(MBO:Management by Objective)の理論的背景とされているそうです。
本人が目標について納得し、明確で難易度の高い目標のほうが、高い成果を得ることができるという理論です。当然これらの条件を満たす方がモチベーションは高くなります。
- 目標の難易度: 挑戦的だが高すぎない適度なストレッチレベル
- 目標の具体性: 定量的/曖昧ではなく具体的イメージができる内容
- 目標の受容: 本人の合意を尊重した設定プロセス
- フィードバック: 目標達成の過程でのタイムリーなサポート
個人的には、目標の受容がまずは大事だと考えています。自分が納得しているかどうか、納得するプロセスの中で難易度や具体性について明らかになるでしょう。逆に納得していない目標はモチベーションのみならず、イメージも曖昧でしょうし、難易度についての認識も合っていないこともあるでしょう。納得していなければ、価値のある成果を得られる気がしないですね。
フィードバックは、モチベーション維持に繋がります。例えば、進捗報告の会議が情報共有の場だけだとしたら、良いフィードバックは得られないでしょう。設定した目標に対して、想定通り以上なら賞賛し、課題がありそうならサポートすることで、モチベーションは維持されるでしょう。想定通りでも労りや謝意の言葉があるだけで、嬉しくなります。「社会的欲求」が満たされる会議になるでしょうね。
はい。私も改めて、意識してみます。「あの不具合、直してくれたって?よかった。ありがとう!」
最後に、モチベーションに関して、取り組むタスクやその実施方法などに着目して分析された理論を紹介します。
職務特性理論(ハックマン=オルダム モデル)
アメリカの心理学者J.リチャード・ハックマンと経営学者グレッグ・R・オルダムは、職務の特性がモチベーションに関わるとする理論を提唱しました。
ざっくり言うと、「コア職務特性」が満たされると、「重要な心理状態」になり、高いモチベーションを含む「成果」が現れるというものです。調整要因は、個人的な価値観によって成果の現れ方は異なってきますよと考えるわけです。
ここでは「コア職務特性」について、もう少し説明を付け加えます。
- スキル多様性(Skill Variety)
- 自分が持つ様々なスキルや能力を活かせるかどうか
- タスク識別性(Task Identity)
- タスクの全体像が把握できるかどうか
- タスク重要性(Task Significance)
- 自分や他人、社会などに影響を与える重要なタスクかどうか
- 自律性(Autonomy)
- 自分の納得したやり方で進められるかどうか
- フィードバック(Feedback)
- 成果や進捗の結果について、都度知ることができるかどうか
この「コア職務特性」を用いて、モチベーションのスコア(Motivation Potential Score: MPS)を算出するそうです。
MPS = (スキル多様性 + タスク識別性 + タスク重要性)/3 x 自律性 x フィードバック
全体が見通せる重要なタスクを自分のスキルを活かせて、自分の納得したやり方で行い、都度フィードバックを得られれば、「明日は月曜日かー」と思わなくて済みますね。
最後に
ここまで、モチベーションに関わる理論を4つ紹介しました。もちろん知っただけでは、モチベーションは上がりません。すぐに改善できそうなものから、ゆっくりと自分の中で言語化しながら、モチベーションを高めていくようなものまであったかと思います。
マズローの低次の欲求や衛生要因などは、すぐにでも家族会議を開いて、高級オフィスチェアーやウルトラワイドモニターの購入を申請するとよいでしょう。
目標設定や職務特性理論にあるように、全体を見通しながら納得して仕事を行い、フィードバックを得ることはとても難しいですが、弊社、みらい翻訳の開発チームでは、CTOや開発VPが積極的にフルサイクルエンジニアリングを進めようとしています。
フルサイクルエンジニアリングには、特にスキル多様性、タスク識別性やフィードバック、自律性について優れていますので、自ずと納得感も得られると考えています。
また、まだフルサイクルエンジニアリングのベストプラクティスも定まっていないため、目標としてもストレッチしたもので、フルサイクルエンジニアリングが成し遂げられ、そこに関わったエンジニアであるという価値はきっとあなたのモチベーションを爆上がりさせるようになるのではと期待しています。
それでは、みなさんがハッピーなエンジニアライフを送れますように。