方針
負の二項分布について書く.X~NB(r,p)のとき,Xは「ベルヌーイ試行がr回成功するまでにX回失敗する」という確率変数である.確率密度関数は次の通り.二項係数の左下の添字に-1があるのは,最後は必ず成功なため.
f_X(x)={}_{x+r-1}C_xp^r(1-p)^x
積率母関数は,
\begin{align}
M_X(t)&= \sum_{x=0}^\infty{}_{x+r-1}C_xp^r\{e^t(1-p)\}^x\\
&= p^r\{1-e^t(1-p)\}^{-r}\sum_{x=0}^\infty{}_{x+r-1}C_x\{1-e^t(1-p)\}^r\{e^t(1-p)\}^x\\
&= (\frac{p}{1-e^t(1-p)})^r
\end{align}
問題は,負の二項分布が変数変換によってカイ二乗分布に収束することを示すものである.カイ二乗分布については5.1で詳しく書く予定.自由度mのカイ二乗分布に従う確率密度関数Yの積率母関数は,
\begin{align}
M_Y(t)&= \int_0^\infty \frac{(\frac{1}{2})^{m/2}}{\Gamma(\frac{m}{2})}y^{\frac{m}{2}-1}\exp\{(t-\frac{1}{2})y\}dy\\
&= \frac{(\frac{1}{2})^{m/2}}{\Gamma(\frac{m}{2})}\frac{\Gamma(\frac{m}{2})}{(\frac{1}{2}-t)^{m/2}}\int_0^\infty \frac{(\frac{1}{2}-t)^{m/2}}{\Gamma(\frac{m}{2})}y^{\frac{m}{2}-1}\exp\{-(\frac{1}{2}-t)y\}dy\\
&= (\frac{1}{1-2t})^{m/2}
\end{align}
である.負の二項分布から変数変換したYと,カイ二乗分布の積率母関数が一致することを示せば良い.負の二項分布の積率母関数にはexpが含まれているのにカイ二乗分布のそれには含まれていないことから,expは漸近展開で近似しそう,と見通しを立てる.
ちなみに,この手の「確率変数がある条件のもとある分布に収束する」ことを示す問題は積率母関数をゴリゴリ変形すれば大体なんとかなる.5章で出てくる中心極限定理も,積率母関数の変形で証明する.
答案
\begin{align}
&X\sim NB(r,p)\ \Rightarrow 2pX\\
&Z\sim \chi_{2r}^2
\end{align}
である時,YとZの積率母関数は次のようになる.
\begin{align}
M_Y(t)&= \mathbb{E}_{X\sim NB(r,p)}[e^{tY}]\\
&= \mathbb{E}_{X\sim NB(r,p)}[e^{2ptX}]\\
&= \{\frac{p}{1-e^{2pt}(1-p)}\}^r\\
&= \{\frac{1}{\frac{1}{p}-e^{2pt}(\frac{1}{p}-1)}\}^r\tag{1}\\
M_Z(t)&= \mathbb{E}_{Z\sim\chi_{2r}^2}[e^{tZ}]\\
&= \int_0^\infty \frac{(\frac{1}{2})^r}{\Gamma(r)}z^{r-1}\exp\{-(\frac{1}{2}-t)z\}dz\\
&= (\frac{1}{1-2t})^r\tag{2}
\end{align}
p→0の時,(1)式が(2)式に収束することを示す.指数分布を漸近展開すると,
e^{2pt}=1+2pt+\mathcal{o}(p)
より,
\begin{align}
(1)&= \{\frac{1}{\frac{1}{p}-(1+2pt+\mathcal{o}(p)(\frac{1}{p}-1)}\}^r\\
&= \{\frac{1}{1-2t+\mathcal{o}(p)}\}^r\\
&\approx (\frac{1}{1-2t})^r,\ \ \ as\ \ p\rightarrow 0
\end{align}
参考文献
- 『現代数理統計学の基礎』(久保川達也 著)