[記事の概要]
Arduino, ESP32, Raspberry Pi Pico といったマイコンを使用したシステムの電源電圧は3.3V か 5V、またはその両方と言うのが一般的です。実験的にブレッドボード上で動作するものはUSBコネクタから5Vを供給するのが便利です。携帯機器またはIOT装置のような電池で動作するものは電池の電圧と異なる電圧を作る必要があります。そこで登場するのがDCDCコンバータです。マイコンシステムを電池で動かす場合の電池の選択と、単3電池2本から5Vを作るために市販のDC-DCコンバータ・モジュールを試したことをまとめました。
1. マイコンシステム用電池の選択
■ 世の中には様々な電池がありますが、携帯機器や商用電源のない場所で動作するIOT機器用としての用途では、どんな電池を選べばよいでしょう?
電池の選択基準 |
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・電圧 (V) |
・容量 (mAh) |
・形状(円筒型、コイン型、ボタン型、ピン型、角型、ガム型、パック型、カーバッテリ、シート状) |
・サイズ |
・充電の可否 |
・入手性 |
・価格 |
入手が容易な電池 |
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・乾電池(マンガン、アルカリ、単1/単2/単3/単4型) |
・ニッケル水素電池 (NiMH) |
・コイン型電池 |
・リチウム電池 |
・鉛蓄電池 |
※ リチウム電池、車・バイク用よりも小型の鉛蓄電池は、秋月電子通商やAmazon等で販売されています。 |
■ 色々な電池の特徴などは、電池工業会の「電池について」のページから「種類・分類」と「規格・サイズ・構造 」をご覧ください。
⬛ 乾電池型で充電可能なリチウムイオン電池
電池は100円ショップかホームセンターで買うことが多くネットで電池を買ったことはありません。この記事を書くためにAmazonでリチウムイオン電池を検索したら、単1/単2/単3/単4/単5型のリチウムイオン電池を発見しました。電圧は1.5Vで充電可能、電池自体に充電用USB端子が付いているものもある! へ~、こんなのがあるとは知りませんでした。
リチウムイオン電池の公称電圧3.7V⇒1.5V へのDCDCコンバータと充電回路も電池の中に組み込むというのは良いアイデアだと思います。
充電方法は4つのタイプがあります。
①プラス(+)端子面にUSB端子があるもの
②側面にUSB端子があるもの
③キャップを外し中にあるUSBコネクタを充電器に挿すもの(下の写真)
④USB端子は無く専用の充電器を使用するもの
この電池の長所は色々あるけど、いくつか気になることがあります。
(1) 電圧(放電特性)
商品の説明では下記グラフのように電池を使いきる直前までずっと1.5Vのまま! とても素晴らしい理想的な特性ですが実際はどうなんだろう?
(2) 容量(mAh)
単3型の場合、製品により2000mAh~3400mAhまで様々ですが、そんなにあるの?
(3) 繰返し充電回数
製品により1000回とか1500回とかですが、本当かなぁ?
(4) 価格
欠点は高価格。これは、断言できます。結構・かなり・めっちゃ・すっげー高い!です。 電池の中に充電回路が組み込まれているのでコストアップは仕方ないですね。しかし、高性能で繰り返し数100回使えることを考えるとランニングコストやコスパは良いと思います。高いといっても500~600円です。100円ショップで単3アルカリ電池が5本で110円、1本22円、その27倍です。27回充電すれば元が取れることになります。(厳密に言うと、アルカリ電池での動作時間とリチウム電池を満充電した場合の時間を考慮する必要があります)
(1)(2)の疑問に答えるような、単3型/単4型のリチウムイオン電池を詳しく検証・評価した動画のサイトがありました。
このサイトによると放電時の電圧と容量(mAh)は程度の差はありますが、何れの製品もカタログ値を下回ったとのことです。「買っちゃダメ」とはずいぶん過激なサブタイトルですが、買っちゃいました (笑)。
単3型電池2本に100Ω、1/6Wの抵抗を10本並列にしたものを接続。つまり3Vの電源に10Ω, 1.66W の抵抗で300mA流れるという回路で電池の電圧は2.91Vでした。まぁまぁハズレではなかったかな・・
このサイトでは上記(3)の充電サイクルの検証はされてません(膨大な時間と手間がかかります)。宣伝文句の「繰返し充電1500回」というのは嘘くさいですね。ネットで検索すると500回が本当のようです。普通は500回だけど特別な工夫や改良によって1500回を達成した(または発明した)とは思えません。こういう性能を表す数値を実際よりもかなり良く書く(=誇大広告、=だます)というのは中華製品ではよく見かけます。せっかくのアイデア商品なのに、こういうところは残念です。500回でも十分な数字だと思うのですが。
2. モバイルバッテリー、ソーラーバッテリー
■ 前項の電池以外の選択肢として 「モバイルバッテリー」 があります。高容量、小型、USBコネクタで手軽に充電可能など多くの優れた特徴がありとても魅力的です。 しかし・・・
モバイルバッテリーは携帯機器、IOT機器用としては重大な問題があります!
モバイルバッテリーはスマホの充電用に設計されていて、充電が完了して出力電流が小さくなると、オートパワーオフ機能が動作して電力供給を止めます。
Arduino, ESP32, ラズパイPicoなどのワンボードマイコンで数mA~数10mA程度の電流しか流れない機器をモバイルバッテリーに接続すると、オートパワーオフ機能が動作しておよそ15秒程度で切れてしまいます。
対策としては「IoT向けモバイルバッテリー」「IoT機器対応モバイルバッテリー」といった製品があります。
■ 電池は電池なんだけど・・「太陽電池(ソーラーバッテリー)」なんてのもありますね。 これはこれで色々苦労したことがありますが、この記事では触れません。
3. マイコンシステムの電源系統とDCDCコンバータ
■ マイコンシステムの一例として、Raspberry Pi Pico では 3.3VのDC-DCコンバータが内蔵されていて 1.8V~5.5Vの電源を供給すれば動作します。センサや表示器などのI/Oの電源が全て3.3Vで動作する場合は下図の「3.3V系システム」の構成になります。
3.3V系システム
この構成なら単3または単4電池2本、あるいはリチウム電池(公称電圧:3.7V、フル充電時:4.2V、放電終止電圧2.5V)でもOKです。
下記のように3.3VのDCDCコンバータを使用すると単3または単4電池1本でも動作します。
5Vで動作するものがある場合は下記のような「5V系システム」の構成になります。5Vの電池というものは存在しないのでDC-DCコンバータが必要です。(モバイルバッテリーは5Vの電池とみなすこともできますが、前述のような問題があります)
■ DC-DCコンバータは、入力電圧が出力電圧より高いものは「降圧型」、または「ステップダウン型」、「Buck(ICのカタログで見かけます)」ともいいます。逆に入力電圧が出力電圧より低いものは「昇圧型」「ステップアップ型」「Boost」といいます。Pico 内蔵のDC-DCコンバータは出力:3.3Vに対して入力電圧は1.8V~5.5Vと昇圧と降圧の両方に対応しています。
・出力5Vで降圧型コンバータの場合、5V以上の電池が必要です。電池の個数やサイズをコンパクトにしたい場合は昇圧型にしたほうが良いでしょう。
4. DCDCコンバータのICとモジュール
■ DC-DCコンバータのICは、LINEAR Technology (Analog Devices), TEXAS Instluments, RICHTEK など各社の電源IC一覧のカタログを見ると数多くの製品があります。
秋月電子通商で販売されているJRCの NJM2360ADは降圧・昇圧・インバータの何れにも対応してます。
■ 小型基板のDC-DCコンバータ・モジュールがリーズナブルな価格で販売されてます。
(1)秋月電子通商
「5V出力昇圧DCDCコンバーター」 [AE-XCL102D503CR-G] は、トレックス・セミコンダクター株式会社(日本の会社です)のXCL102というICを使用しています。
入力:0.9V~5V、出力5V(固定)、出力電流:0.21A (入力3V時) の昇圧型DCDCコンバータで、3端子レギュレータのように、IN、GND、OUTの配線をするだけで使用できます。動作に必要な部品(入出力のコンデンサ)が予め実装されているので外付け部品は基本的に不要です。写真は6ピンですがイネーブル制御が不要ならば3ピンだけでも使用できます。出力電流が問題なければ小型で安価で良い選択だと思います。
同形状・同価格で「XCL103使用5V出力昇圧DCDCコンバーターキット」もあります。
XCL102はPWM固定制御により出力リップルを抑えることができ、XCL103はPWM/PFM自動切替制御により軽負荷から重負荷まで全領域にて高効率を実現します、とのことです。
3.3V 出力昇圧DCDCコンバーター もいくつかあります。入力電圧、出力電流に注意して選ぶと良いです。
(2) ストロベリーリナックス (左端の「分類別」> Boost(昇圧)レギュレータ)
昇圧/降圧タイプ、様々な電圧/電流の多くの製品があります。
(3)スイッチサイエンス (ホーム > 全商品 > 電源 > 昇圧モジュール)
昇圧/降圧タイプ、様々な電圧/電流の多くの製品があります。
(4)aitendo (ホーム > ☆電源 > 昇圧)
昇圧/降圧タイプ、様々な電圧/電流の多くの製品があります。
(5)アマゾン
「DCDCコンバータ」で検索すると中国製の安価なモジュールが色々あります。
5. MT3608 DC-DC昇圧電源モジュールの評価
前項の XCL102/XCL103 モジュールより、もう少し電流容量が多く且つ安価なものを探すとAmazonに色々ありました。一例を示します。
出力電流:2A 入力電圧:2V-24V 出力電圧:5V-28V 効率:> 93%
10個でこの価格、1個100円しません(10個も要らないけど・・)
これと外観そっくりでUSBコネクタが無いものもあり、要注意です。
■ USBコネクタを使う予定はないので、どーでもいいんだけどコネクタ付きの製品を購入し試してみました。
このモジュールをブレッドボードで使おうとしたのですが、短辺はピンヘッダーが刺さるけど長辺の穴のピッチが微妙に合いません。仕方ないので片側はジャンパ線にして少し曲げて挿せるようにしました。
■ 実験用の電源装置をVIN+,VIN-に接続して、出力電圧を測定。すると・・・
3V入力すると出力は2.8V、5V入力で4.8V、10V入力で9.8V出力。
あれれ、入力電圧がほぼそのまま出てる???
Amazonから送られてきたのは製品のみで説明書は添付されてません。サイトの製品説明を見なおすと
注)レギュレーターのポテンショメーターは胸側を向いており、時計と逆に昇圧を回します! 一部のお客様は、モジュール出力電圧は、常に入力電圧に等しく、調整することはできません。この問題が発生した場合 まず、ポテンショメータを反時計回りに10回転以上回し、その後、モジュールを使用すると正常に電圧を調整することができます。電圧は正常に調整することができます。
と若干変な日本語の説明がありました。胸側を向いて、って何の誤訳かなぁ? 私は不幸にも「一部のお客様」だったのかな? などと思いつつ反時計回りに10回転以上回してみたけど電圧は変わらず。回転数不足かなと思い、さらに回す。終端まで行くとカチッと音がして回らなくなる・・と思っていたけど、そんなことはなく音も電圧変化も無いまま永遠に回り続きそうな感じなので50回転ほどで中断。
もしかして不良品? つかまされた?? やっぱりチャイナ製品は・・などと悪い考えが頭をよぎる。が、もう一度説明を見直し、試しに説明とは逆の時計回りに回してみる・・・かなり回す・・・すると、おおっ電圧が上がっていくではないか! あ~よかった。(ヨメサンには言えないけど1個100円もするものを10個捨てるところだったぞ、やれやれ。説明が間違っていたんだ、やっぱチャイナあるあるだな、うん、この程度のことでは驚かないぞ・・)
■ 私の使用目的は、単3電池2本で5Vを作ることです。そこで単3電池2本相当の3.00Vを入力したときに、出力が5.00Vになるよう設定しました。そして、入力電圧を0.1Vずつ変化させたときに出力電圧がどのように変わるか記録しました。
こーゆー実験では負荷として数Ω程度で10W位のセメント抵抗を使って大きな電流を流すようにすべきですが、手持ちに無かったので10KΩ 1/8Wというしょぼい抵抗を接続しました。
※この写真は入力2.00Vで5.00Vを出力するよう調整した時のものです。電流は2mA。
入力(V) | 出力(V) | 入力(V) | 出力(V) | 入力(V) | 出力(V) | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
0.1 | 0.03 | 2.1 | 5.14 | 4.1 | 4.99 | ||
0.2 | 0.10 | 2.2 | 5.02 | 4.2 | 4.99 | ||
0.3 | 0.19 | 2.3 | 5.01 | 4.3 | 4.99 | ||
0.4 | 0.28 | 2.4 | 5.01 | 4.4 | 4.99 | ||
0.5 | 0.37 | 2.5 | 5.01 | 4.5 | 4.99 | ||
0.6 | 0.47 | 2.6 | 5.01 | 4.6 | 5.00 | ||
0.7 | 0.56 | 2.7 | 5.01 | 4.7 | 5.00 | ||
0.8 | 0.66 | 2.8 | 5.00 | 4.8 | 5.00 | ||
0.9 | 0.76 | 2.9 | 5.00 | 4.9 | 5.00 | ||
1.0 | 0.85 | 3.0 | 5.00 | 5.0 | 5.00 | ||
1.1 | 0.95 | 3.1 | 5.00 | 5.1 | 5.01 | ||
1.2 | 1.05 | 3.2 | 5.00 | 5.2 | 5.00 | ||
1.3 | 1.14 | 3.3 | 5.00 | 5.3 | 5.10 | ||
1.4 | 1.24 | 3.4 | 5.00 | 5.4 | 5.20 | ||
1.5 | 1.34 | 3.5 | 5.00 | 5.5 | 5.30 | ||
1.6 | 1.44 | 3.6 | 5.00 | ||||
1.7 | 1.54 | 3.7 | 5.00 | ||||
1.8 | 1.64 | 3.8 | 5.00 | ||||
1.9 | 1.73 | 3.9 | 5.00 | ||||
2.0 | 5.23 | 4.0 | 5.00 |
※このグラフを見て気が付いたこと: グラフをクリックすると大きく表示されます。0.1Vから1.9Vまでリニアに変化しています。この斜線を真っすぐ伸ばすと5.3V~5.5Vの傾きと重なります。画面に定規あてるとよく分かります。だからどーしたと言われても困るのですが・・
■ この結果をどう評価するか?
・一般に電子機器は電源電圧が±5%の範囲内で変化しても正常に動作するように設計されます。5V機器の場合は 4.75V~5.25V です。
・単3電池の電圧は公称1.5Vですが新品は1.65Vぐらいあり、使用に伴い減少して1.1Vぐらいになると動作しなくなる製品もあります。電池2本の場合、電圧の範囲は2.2V~3.3Vです。
・上記のテスト結果は、入力電圧2.0V~5.4Vで出力電圧が±5%の範囲に収まっているので問題無しと判断します。電池1本当たり1.0Vになっても5.0V出るということが分かりました。
・製品仕様では電流は2A流せるとうたってますが実際はどうなのか? 今回のテストでは電流は測定してないので不明です。1Aとか2Aの電流が必要な場合は事前にテストすべきです。
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