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国連「統合的地理空間情報フレームワーク」(UN-IGIF)を読む

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本記事について

  • この記事は,地球規模の地理空間情報管理に関する国連専門家委員会(UN-GGIM)発行の「統合的地理空間情報フレームワークー国家における地理空間情報管理を発展・強化するための戦略ガイドー」(Integrated Geospatial Information Framework: IGIF)「パート1:包括的な戦略フレームワーク」 (2018年7月発行)について,執筆者の理解できる範囲で抄訳としてまとめたものです。誤訳等あればご指摘ください。
  • 記事の全文は,ウェブサイトに英文で掲載されているので,詳細を知りたい場合はそちらを参照ください。https://ggim.un.org/IGIF/part1.cshtml
  • IGIFは,3つのパートから成り立っており,パート1:包括的な戦略フレームワーク(本記事で抄訳)、パート2:実施ガイド(9項目)、パート3:国レベルのアクションプラン(16項目)です。それぞれの文書は,同様にウェブサイトで英文で全文公開されています。また、パート2とパート3の一部は2023年3月現在、改定作業中のものがあります。https://ggim.un.org/IGIF/

エグゼクティブ・サマリー

  • 統合的地理空間情報フレームワークは、国連と世界銀行が共同で開発したもので、特に開発途上国が地理空間情報管理および関連インフラを整備・強化する際に参考となるような基盤とガイドを提供することを目的としているが、先進国も大きなメリットが得られる。
  • このフレームワークは、国別のアクションプランの作成と実行を可能にする戦略的ガイダンスを提供する。「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の実施において地理空間デジタルデバイドを埋められるよう支援することを目的としている。
  • 7つの基本原則、8つの目標、9つの戦略的道筋を示し、政府がより効果的な地理空間情報管理の実践と政策を確立するための手段としている。
  • このフレームワークでは、国家における地理空間情報管理の永続的な持続可能性に関連する問題に特に焦点が当てられている。財政的な持続可能性、マルチステークホルダーアプローチ、キャパシティ・ビルディング、イノベーションとコミュニケーションに特に注意が払われ、同時にデータの維持や標準といったより技術的な側面も扱われている。
  • 地理空間情報のデータ提供者と利用者の両コミュニティを考慮しており、両者が協力する必要がある。

はじめに

  • 地理空間情報は、すべての人間、経済、環境活動が行われる物理的世界を反映し、私たちの世界のデジタル版を提供するもので、これなくしてデジタル経済は成り立たない。地理空間情報は、地理的特徴の物理的位置と、他の特徴や関連する統計情報との関係を記述し、地図、衛星画像、航空写真など、さまざまな形態や媒体で提供される。
  • 地理空間情報は、根拠に基づく意思決定を行うための国家の「デジタル通貨」である。国家インフラと知識経済の重要な構成要素であり、どこで何が起きているかという国家の青写真を提供し、経済成長、国家安全保障、持続可能な社会開発、環境維持、国家の繁栄に貢献する多様な行政サービスを統合する手段でもある。
  • この文書で紹介されている統合地理空間情報フレームワークのアプローチの強みは、従来伝統的に理解されてきた持続可能な開発目標で表現されているような項目(土地の管理・運営,環境保護,水資源管理など)だけでなく、以下のようなはるかに広い応用分野や社会的課題もサポートすることである。
    • 観光、健康・教育、経済発展、産業開発、エネルギー転換、社会的包摂、水・エネルギー・食糧、スマートシティ、スマートな交通手段、市民参加、リスクマネジメント、犯罪捜査

変化の事例(Case for Change)

  • 持続可能な開発のための2030アジェンダ、災害リスク軽減のための仙台枠組み2015-2030、小島嶼国加速行動計画(SAMOA)は、新しいデータ取得と統合アプローチにおけるグローバルな協調行動を明確に要求している。また、持続可能な開発と災害リスク軽減のために地理空間情報を活用し、地理空間データプラットフォームの可用性とアクセス性を強化する必要がある。
  • 「行動への呼びかけ」に応えるため、加盟国は、地理空間情報に関連する側面(政策や法的文書、ガバナンス、データの統合とインフラ、教育、イノベーション、利用、コラボレーション)を含む、地理空間情報管理へのアプローチを開発、強化、近代化を行う必要がある。
  • これは、制度やインフラ、能力、市民中心でユーザーフレンドリーな提供システムなどにも適用され、あらゆるレベルで望ましい成果と利益をもたらすための投資となる。ほとんどの中低所得国では
    の国々では、これをどのように実施し、地理空間情報をどのように国家開発戦略やアジェンダに統合するかを決定するための政府向けの国際的に受け入れられた枠組みがない。
  • 国連経済社会理事会(ECOSOC)は、2011年にグローバル地理空間情報管理に関する国連専門家委員会(UN-GGIM)を設立し、以下のような具体的な行動をとっている。
    • UN-GGIMは、国家、地域、世界的な政策枠組みの中で、地理空間情報の生産、応用、利用に関する共同決定と方向付けを行い、加盟国が国家の地理空間情報管理およびシステムの能力および能力を開発し強化するためのフォーラムを提供する。
  • 国連と世界銀行は、2017年に地理空間情報能力の創出と開発強化を通じて、成長と繁栄を促進するための共同ビジョンに合意。その目的は、各国が自国の地理空間情報管理を発展・強化するために利用できるフレームワークを開発すること。
    • このフレームワークは、国レベルで実施され、各国が電子経済への移行、市民サービスの向上、地理空間技術の利用能力の構築、情報に基づく政府の意思決定プロセスの強化、デジタル変換を達成するための実践的な行動、国家戦略の優先事項と持続可能な開発のための2030アジェンダの実施における地理空間デジタル格差の解消ができるようになるよう支援するもの。

文書の構成

  • 第1部:包括的戦略フレームワークは、国のニーズと状況に基づいた将来を見据えたフレームワークを提示し、特に政策、視点、地理空間情報の要素に焦点を当てた包括的戦略メッセージとより広範で統合的な国の枠組みを示すもの。
    • なぜ国家の社会的・経済的発展にとって重要な要素であるかを、7つの基本原則、8つの目標、9つの戦略的経路を通じて示し、国家の状況、優先事項、展望を考慮した国家的アプローチへと導くもの
  • 第2部:実施ガイドは、フレームワークの実施において「何を」と「具体的なガイダンスと行動」を提供する詳細文書。
    • 9つの戦略的パスウェイのそれぞれを拡大したこのガイドは、UN-GGIMの各小委員会、専門家、ワーキンググループを通じて生成されたものを含む、戦略的パスウェイそれぞれの参考ガイド、優れた実践、特定の原則で構成。
  • 第3部:国別の行動計画は、国や地域ごとの文脈でフレームワークを運用するためのテンプレートとガイドを提供。
    • 「どのように、いつ、誰が」というアプローチを提供し、各国が国内の状況や優先事項を考慮しながら、独自の国レベルのアクションプランを準備し、実施することを支援するもの。
    • 国別アクションプランには、地理空間情報システムの経済的影響と価値、投資ニーズと優先事項の特定、短期・中期・長期の活動の特定による順序立てた実施、潜在的な資金源などの要素が含まれる。

統合的地理空間情報フレームワーク

  • このフレームワークは、適切なフレームワーク、手法、ガイドライン、標準を使用し、開発途上国や地域が地理空間能力を確立し強化するのを支援するために、アクセス可能で利用可能な技術を活用しながら、どのように関連する地理空間情報を利用できるかを明らかにするもの。国や地域内で試験的に実施、複製、提供できるもの。
  • 各国政府が、政策立案、意思決定、および、情報共有のために、地理空間情報の効率的かつ効果的な使用と共有を調整、開発、強化、促進できる環境を整えるための前向きなアプローチを提示している。
  • 市民やコミュニティが、自分たちの国やコミュニティに関する有意義で正確な情報を、さまざまな方法で発見、閲覧、入手できるようにする仕組みも提供で、従来バラバラだったデータテーマを探し出し、アクセスし、利用するというユーザーの負担を軽減することができる。
  • コミュニティの参加は、フレームワークの不可欠な部分で、地域固有の知識(ローカルナレッジ)は、科学的手法や政府のデータ資源と組み合わせることで、私たちの自然環境と建造環境に対する理解を深めることができる。

ビジョンとミッション

ビジョン

  • ビジョンは、各国政府がエビデンスに基づく政策や意思決定のために国や地域の地理空間情報、システム、能力を効果的に活用することで、持続可能な社会、経済、環境の発展を実現することができるようになること。ビジョンステートメントは、未来志向で志の高い、目的と存在意義を示す宣言。
  • このビジョンは、将来の世代のために計画し、より良い結果を提供する各国の責任と、誰一人取り残さないという我々の集団的な願望を認識するものであり、SDGsを実施する際には、地理空間情報を国の社会・経済・環境開発計画全体に統合する戦略やフレームワークを用いて最適化される。

ミッション

  • 各国が、国家的な地理空間情報政策、データ、システム、ツール、サービス、能力を開発・強化・統合し、国家政府の開発政策、戦略、取り決めに提供するために、必要な革新、リーダーシップ、調整、標準を促進し支援すること。
  • このミッションは、地理空間デジタルデバイドの解消に向けた行動を刺激し、社会・経済・環境開発のための持続可能な解決策を見出し、国の優先順位や状況に応じて、すべての市民のための包括的かつ変革的な社会変化に影響を与えることを目的。

目標

  • 包括的なビジョンを達成するために、地理空間情報統合フレームワークは8つの目標を掲げている。これらの目標を達成することで、各国は、地理空間情報を整理、管理、保管、活用する能力とスキルを持ち、政府の政策と意思決定能力を向上させ、地理空間デジタルデバイドを解消し、包括的かつ変革的な社会変化に影響を与え、経済繁栄と社会開発を達成し、効果的な環境管理を確保することができるような未来に向かうことが可能になる。
目標1:効果的な地理空間情報管理
効果的な地理空間情報管理を確保し、個々の組織の要件や取り決めに対応し、国や世界の政策枠組みに沿った地理空間情報ガバナンス、政策、制度的取り決めを可能にすること。
目標2:キャパシティ、能力、知識移転の向上
地理空間情報の価値と利用に対する認識を高め、能力と性能を促進し、政府、産業、学術、民間、コミュニティの各部門で創意工夫と機知に富んだ考え方を構築するためのメカニズムを確立すること。
目標3:統合された地理空間情報システムおよびサービス
地域情報を含む地理空間情報を政府部門全体で統合し、根拠に基づく政策や意思決定のために最大限に活用すること。
目標4:経済的な投資収益率
ベストプラクティスの管理、統合された地理空間情報の活用と革新的な利用により、経済的な投資収益が実現されること。
目標5:持続可能な教育・研修プログラム
地理学、データサイエンス、地理空間分野の専門家を増やすために、教育・研修プログラムを確立し、情報技術、地理空間金融システム、政策・法律、プロジェクトマネジメントに関する専門的なスキルを身につけること。
目標6:国際協力とパートナーシップの活用
国家開発の利益を支援する地理空間情報の管理と交換を促進する方法での活用。
目標7:国家的関与とコミュニケーションの強化
すべてのステークホルダーグループ、特にハイレベルの意思決定者が、意思決定と社会経済発展のための統合地理空間情報の価値に完全に関与すること。
目標8:豊かな社会的価値と利益
社会的、経済的発展や環境の持続可能性は、統合された地理空間情報の製品およびサービスの利用レベルの向上により豊かになる。

意義

  • 相互運用可能で高品質かつタイムリーな地理空間情報と分析が、優れた政策立案の前提条件であるというコンセンサスが広がりつつあり、認識されてきている。データの量と多様性が増加し、デジタル技術と通信技術の進歩も相まって、地理空間情報は、市民、地域社会、国が直面している現在の社会、経済、環境問題の多くに対してより良い政策立案と対応に大きく貢献するものとして出現してきた。
  • 特に、複数のプラットフォームや産業部門にまたがる定量的・定性的情報を統合し、革新的で有益なフォーマットで意思決定者に情報を提供することが可能。
    • 逆に、信頼できる高品質でタイムリーな地理空間情報が十分にない場合、意思決定の遅延や不良、場合によっては意思決定がなされないという事態を招く。これは、財やサービスの効果的かつ効率的な流通を阻害し、経済成長を制限し、進歩の機会を制限する。
  • 日常生活において地理空間情報を利用する最も一般的な場面は、モバイル端末で現在地を確認・把握することや、ある場所から別の場所へ移動するナビゲーションなど。
  • 電力網は一国のインフラの重要な構成要素
    • 地理空間情報は、送電網の位置、送電網の拡張や延長の必要性、停電位置の特定など電力顧客へのサービスを管理する上で非常に重要。
    • ブロードバンドインターネットサービスやその他の通信手段のカバー範囲を示し、これらのサービスを提供するための改善計画を立てる際にも、地理空間情報は欠かせず、国や地域、地方自治体にとって重要なインフラを支えている。

利益

社会的メリット
政府活動の改善のほとんどは、市民の生活向上に直接影響する。例えば、医療施設や教育、清潔な水や衛生設備へのアクセスを提供することは、市民の社会的福利を向上させる。計画、国勢調査、健康データなどを統合した優れた地理空間情報は、資源の効率的な配分を可能にする。同じアプローチで、教育、雇用、健康、レジリエンスを組み込んだ統合的な都市計画も可能です。同じことが男女平等にも当てはまり、健康や教育の向上、土地所有権の保障、交通や雇用へのアクセスなど、地理空間情報によってよりよく実現できるさまざまな手段から導き出されるものである。市民のコネクティビティが向上し、スマートフォンのアプリケーションで地理空間情報がより重要な役割を果たすようになっている。このことは、質の高い地理空間情報に対する産業界の需要の高まりにつながり、同様に、デジタル政府サービスに対する市民の期待の高まりにもつながっている。
経済的メリット
経済は、規模の大小にかかわらず、ビジネスの成功に依存する。地理空間情報は、マーケティングから物流、保険、公共事業、電気通信まで、あらゆる分野で利用される。地理空間サービスの世界的な経済価値は、世界の国内総生産の0.2%程度と推定されている。しかし、分野ごとの重点的な取り組みやビジネスニーズが異なるため、得られる利益は大きくも小さくもなる。
環境的メリット
環境、特に水源や湖、林業、沿岸地帯、国立公園、作物収量予測などの持続可能な管理は、地理空間情報に依存している。気候変動の影響や希少資源の管理は、地理空間情報の推進力であり、しばしば衛星リモートセンシングを前面に押し出している。地理空間情報は、現状の測定、変化の監視、緩和策の計画、根拠に基づく意思決定、そして緩和策の実施に有効である。これは特に、気候変動や自然災害の影響を受けやすい小島嶼開発途上国やその他の国々にとって重要である。

変化のための原動力

利益は変化のための鍵となる原動力
社会経済的・環境的な利益として投資に対するプラスのリターンを示すことで、行動を起こすための説得力のあるビジネスケースを作るのに役立つ。他方政府機関が考慮すべき別の要因も以下の通り。
地球規模の計画への戦略的整合性
持続可能な開発のための2030アジェンダ、災害リスク軽減のための仙台フレームワーク、パリ協定、新都市アジェンダ(NUA)などが世界的な推進力となっており、地理空間情報は評価や進捗の測定・監視、目標達成の支援に役立っている。アフリカの「アジェンダ2063」は地域の推進力であり、法律に裏付けられたINSPIREはヨーロッパ諸国の推進力である。
コミュニティへの期待
技術の進歩やコンピュータリテラシーの向上に伴い、地域社会の期待は進化し、政府は社会的なニーズとの関連性を維持する必要性を認識している。いつでも、どこでも、どんな電子機器でも視覚化・統合できる方法で、最新の地理空間情報を提供する必要がある。コミュニティの期待に応え、最高の公共的価値がどこにあるのかを見極めることは、政府の重要な責任である
政府機関の転換
地理空間情報管理は、政府の変革アジェンダの中核をなす要素。共有データの統合を可能にし、透明性と根拠に基づく意思決定を向上させ、政府のコストを削減することもできる。多くの政府において、地理空間情報は政府のオープンデータ課題の重要な要素であり、効果的かつ効率的な市民中心の政府提供システムの機会を提供。
デジタルデバイドの解消
衛星センサーから地理空間クラウドサービス、スマートフォンアプリケーションに至るまで、地理空間情報管理技術とプロセスは、政府、企業、コミュニティに効率改善とイノベーションの機会を与えることができる。今後の方向性として、(a) 政府機関が「取り残され」、非政府組織の推進力に反応するようになるか、(b) 国が最先端のコスト効率の良い方法を用いて他の現代の機関を「飛び越え」、遅滞なくデジタルデバイドを埋め、早期に利益をもたらす。という2種類の方向性がある。

成功への障壁

  • 利益は、初期投資後長い時間を経てから発生することが多い。その結果、地理空間情報の役割と価値を確認することは、無形であるか、少なくとも困難であることが多い。地理空間情報への投資への消極性、リソースの優先順位付け、変化への抵抗、地理空間情報の利用や政策文化の不在などは、進展や成功を妨げる大きな障壁の一例である。そこで、地理空間情報とは何か、なぜ重要なのか、そして政府や組織の任務、ビジョン、目標、目的にどのように貢献するのかを説明することは、前進する道を示す第一歩となる。
  • 機能的な地理空間機能を計画し、実施するためには、コストとリソースの確保が必要。政府が提供する投資、または寄付者などの他のソースを通じて、資金を利用できることが必要で。どの程度の投資が必要かは、スコープとアプローチによって決定される。
  • 国家的優先事項のひとつに取り組んで小さく始めるのもひとつの方法であり、完全な実施を計画するのも別の方法である。いずれの場合も、必要な資金のレベルは、提案されたアプローチと予想される成果に基づいて見積もられる。
  • 少し前までは、大量の地理空間データを処理するためには、大規模なサーバーを調達し、設置し、維持することが唯一の選択肢であり、これにはハードウェア、技術的専門知識、スペースにかかる費用が含まれていた。しかし、クラウドの導入により、外部サービスに転嫁するような新しい機能が可能になった。
  • 人的資源も潜在的な障害となる。地理、地理空間情報技術、およびデータ管理に関する知識は、成功のために望ましい主要なスキルである。これらのスキルがまだ開発されていない、または利用できない状況では、他の選択肢として、必要な専門家を雇う、中核となる能力についてスタッフを訓練する、または寄付者やコンサルタントによる外部の支援を得ることなど。特に高度なスキルが必要とされる機能をアウトソーシングすることも選択肢の一つ。
  • データ共有は、政府や組織の文化や方針を反映した障壁となる。地理空間情報の各インスタンスには価値があり、そのデータが結合、共有、比較、または統合されたときに、より大きな価値が生まれる。他の地理空間データ、または地理空間的に参照される統計データなどの他のデータタイプとのいずれでもよい。
  • 例えば、都市の境界線のような行政区域を、ジオコードを使って住民の貧困レベル(統計データ)とリンクさせることができる。結果として得られる情報は、地図上で視覚的に情報を提供するだけでなく、地域や国中の他の都市と比較することも可能。その結果、計画、意思決定、モニタリングのための知識指標となる。組織の実務が地理空間データの使用を許可しない場合、データが十分に活用されないだけでなく、異なる目的のために様々な種類のデータを使用することができなくなる。データを利用可能にすること、データの共有とデータ利用を促進する組織間の協力は、この障壁を緩和する例となる。

基本原則

  • これら7つの原則は、フレームワークを実施する際にガイドとして使用される主要な特性および価値を表している。これらの原則をどのように適用するかは、各国が採用する実施方法によって異なる。これらの原則を遵守することにより、一貫した地理空間情報管理が実現し、よりオープンで、説明責任を果たし、応答性の高い、効率的な政府を実現することができる。
原則1:戦略的イネーブルメント
フレームワークの実施には政治的・財政的支援が必要であるため、経済成長、社会福祉、雇用創出、天然資源モニタリング、環境管理・保全といった課題に関する政府の戦略的方向性と整合し、支援する必要がある
原則2:透明性と説明責任
政府機関の地理空間情報は、すべての国民、政府機関、学術機関、民間企業がこの貴重で基礎となる国家資源を利用できるように、重要な説明責任と透明性のガイドラインに従って開発・共有される。
原則3:信頼でき、アクセスが容易で、使いやすいこと
地理空間情報は信頼性が高く、研究開発に活用され、イノベーションを刺激し、社会、経済、環境の発展を促進する持続可能なサービスや製品の創造をサポートできるように、アクセス可能で使用できるようにすること。
原則4:協働と協力
コラボレーションと協力(政府、企業、学界、市民社会、寄付者間)は、提供者とユーザー間の情報共有を強化し、政府部門間の重複を減らし、堅牢なシステムを作り、役割と責任を明確にするために、フレームワークの実施に織り込まれている
原則5:統合的な解決策
地理空間情報とその利用を管理するための効果的なシステムを形成するために、人、組織、システム、法的・政策的構造がどのように連携しているかを検討すること
原則6:持続可能で価値あるもの
フレームワークの実施は、国としての効率性と生産性を高め、長期的に持続可能であり、国民に改善された行政サービスを提供する方法で展開されるように実施されること。
原則7:リーダーシップとコミットメント
地理空間情報への投資の長期的価値を高めるために、フレームワークの実施には、しばしば最高レベルの強力なリーダーシップとコミットメントが必要。短期、中期、長期の介入策を注意深く適用し、政府による高いレベルの承認と支援を受けることができるアクションプランを開発するための慎重な分析、優先順位付け、順序付けによって達成される。

戦略的な道筋

  • このフレームワークは、「ガバナンス」「技術」「人材」という3つの影響力のある領域における9つの戦略的な道筋を軸として目的は、持続可能な社会、経済、環境の発展のためのビジョンを実現する方法で、統合された地理空間情報システムの導入に向けて政府を導くこと。
  • 各戦略的な道筋は、各国が要求される結果を達成するのを支援するための具体的な目標によって補強される。個々の道筋には多くの側面と次元があり、それらをつなぎ合わせるとフレームワークがつながり、統合され、実施されるという認識の下、ジグソーパズルの個別のピースとして提示されている。9つの戦略的な道筋はそれぞれ以下に要約され、第2部「実施ガイド」で具体的な行動とともにより詳細に説明されている。
1:ガバナンスと制度
リーダーシップ、ガバナンスモデル、制度的取り決め、および明確な価値提案を確立するもの。目的は、統合された地理空間情報フレームワークの価値と、ビジョン達成のための役割と責任についての理解を共有することによって、政治的な支持を獲得し、制度的な権限を強化し、協力的なデータ共有環境を構築するこであること。
2:法律と政策
地理空間情報の利用可能性、アクセス性、交換、適用、管理を可能にする適切な国の地理空間情報の法律と政策を制定するために不可欠な、強固な法律と政策の枠組みを確立するもの。目的は、地理空間情報管理に関連し、影響を与える法律や政策を改善することによって、現在の法律や政策の問題に対処し、特にデータ作成の公的責任の指定に関して、また新しい技術や進化する革新的で創造的な地理空間情報の使用によって生じる問題に関して、法律や政策環境を積極的に監督すること。
3:財政
実現するためのビジネスモデルの確立、財政的パートナーシップの構築、投資ニーズと資金源の特定、さらに勢いを維持するためのマイルストーンを示すもの。目的は、長期的に持続・維持できる統合的な地理空間情報管理を実現するために必要な導入コストと継続的な財政負担の理解を得ること。
4:データ
分野横断的かつ学際的な協力に適した統合された地理空間情報の収集と管理のためのベストプラクティスの地理空間データのフレームワークと管理者ガイドラインを確立するもの。目的は、地理空間情報の整理、計画、取得、統合、管理、維持、キュレーション、公表、アーカイブのための明確に定義されたデータサプライチェーンの実行を通じて、データ管理者が政府およびユーザーコミュニティに対するデータ管理、共有、再利用の義務を果たすことができるようにすること。
5:イノベーション
技術と過程が継続的に進化していることを認識し、政府がデジタル・デバイドを迅速に解消できるよう、イノベーションと創造性のための機会を拡大するもの。目的は、最新の費用対効果の高い技術、プロセスの改善、イノベーションの利用を促進することで、政府が最先端の地理空間情報管理システムや実務に飛躍することができるようにすること。
6:規格
法的、データ的、意味的、技術的相互運用性を可能にするベストプラクティス標準とコンプライアンスの仕組みを確立し、その採用を保証するもの。目的は、異なる情報システムの通信とデータ交換を可能にし、曖昧さがなくシステム間で知識の発見と推論を可能にし、利用者に地理空間情報への合法的なアクセスと再利用を提供すること。
7:パートナーシップ
前提条件として、効果的な分野横断的・学際的協力、産業・民間部門のパートナーシップ、および国際協力を確立すること。目的は、共通のニーズや願望、国家の優先事項を認識し、信頼できるパートナーシップと戦略的提携を通じて、地理空間情報の価値を創造し、維持すること。
8:キャパシティと教育
地理空間情報の管理と起業家精神が長期的に維持できるよう、永続的な能力開発プログラムと教育システムを確立するもの。目的は、地理情報科学に対する認識と理解度を高めること。これには、組織やコミュニティが地理空間情報を意思決定に活用するために必要なスキル、直感、能力、プロセス、リソースを開発・強化することが含まれる。
9:コミュニケーションとエンゲージメント
利害関係者(一般社会を含む)が不可欠であり、その賛同と関与が成功に不可欠であることを認識するもの。目的は、透明性のある意思決定プロセスを実現するために、利害関係者からのより多くの意見を促す効果的かつ効率的なコミュニケーションと関与のプロセスを提供すること。

結論

  • 統合的な地理空間情報フレームワークは、国家における地理空間情報管理における取り決めを開発・強化するための参照ガイドとして作られ、特に開発途上国向けに設計されている。
  • パート1:包括的な戦略的枠組みは、統合的な地理空間情報管理の実践と国家的な計画や戦略への取り込みを目指す政府を支援するための9つの戦略的な道筋を定めたもの。これは、国家地理空間情報管理の強化に向けて取り組む際に、政府間の調整、協力、一貫性をもたらすための関与ツールとして使用される。
  • 地理空間情報を効果的に活用し、持続可能な社会・経済・環境の発展(誰も取り残さないこと)を測定・管理・達成するというビジョンを達成するためのプログラムや活動に着手する際に、指導者が統合された地理空間情報の意義と利点を明確にし、指導力と能力を高めるためのメカニズムである。
  • パート2:実施ガイドは、国レベル、およびサブナショナル・レベルでの地理空間情報を含む指標を通じて、国レベルのアクションプラン(パート3)を策定し、フォローアップするためのガイダンスと管理を提供するために使用されるもの。このガイドには、一貫した地理空間情報管理の実施を支援するための詳細な行動、事例、参考資料へのリンクが含まれる。
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