#前回
ゼロから始めるWeb Accessibility入門:概要
アクセシビリティのさまざまな誤解
アクセシビリティという言葉が指す範囲は広く、抽象的です。人によって、言葉からイメージする内容にもかなり差があり、誤解によるすれ違いが起きる場合もあります。すれ違いによって取り組みが後退しないようにするためにも、誤解されやすい点をまとめました。
ビジュアルデザインを劣化させる?
アクセシビリティに配慮すると、ビジュアルデザインが強い規約を受け、見た目が劣ったものになると思われることもあります。アクセシビリティ向上の施策には、文字と背景に一定のコントラストをつける、スタイルの一貫性を保つ、といったルールが含まれます。これはコンテンツを見せるためのものでありサイトの見た目を劣化させるようなものではない。
Webのビジュアルデザインが求める「美しさ」は、ユーザが見たときに、きちんと伝わり、整って見えるという意味での美しさです。自己主張のためのアートとしての美しさではない。
文字サイズ変更ボタンをつけなければならない?
アクセシビリティの誤解でもっとも典型的なものは、コンテンツには文字サイズ変更ボタンが必要だというものです。
実際には、文字サイズ変更ボタンがなくてもユーザは文字サイズを変えられます。
アクセシビリティは高齢者、障害者のためだけの施策?
アクセシビリティは障害者や高齢者のための施策であり、他の大多数のユーザには関係ない、と思われていることもあるようです。
しかし、実際にはアクセシビリティ向上の恩恵を受けるのは障害者や高齢者だけではありません。一時的な怪我や病気、デバイスの故障、周囲の状況など、さまざまな理由でアクセスがしづらくなることがあります。
アクセシビリティとは縁のないサイトがある?
「うちの商品は障害者には使えないので、アクセシビリティは関係ない」という人もいます。が、意外な使われ方をしていることがあります。
視覚障害者はカメラを使えないはず、、、と思ったら大間違いで撮影した映像を他人に見てもらったりと、積極的に使っていることがあります。仮に本人が使わなくても、知人に製品を勧めたり、会社情報にアクセスしたりと、さまざまなニーズがあります。
「このコンテンツには凝った映像表現があるから、見えない人が来ても無意味だろう」というのも同じです。サイトの運営者の「どうせ使えないだろう」という思い込みを、ユーザは簡単に克服し、以外な方法で利用してしまうことがあります。
Webにはそれだけのパワーが秘められています。
常に大きなコストがかかる?
アクセシビリティ向上の取り組みには大きなコストがかかる、と思われていることがあります。
答えは、NOともいえるしYESともいえます。
多数のサイトはHTMLで構築されますが、HTMLは本質的にアクセシブルなもので、適切に作れば、それだけで最低限のアクセシビリティは確保されます。テキストの書き方やコンテンツ自体のわかりやすさなど、技術によらない部分での配慮も必要になりますが、追加の費用がかかるような特別なものではありません。
最初からアクセシビリティを考慮して構築すれば、特別な対応は必要ないのです。しかし、以下のような状況では追加のコストが発生する場合があります。
後から修正する場合
アクセシビリティを考慮していないサイトを、後からアクセシブルにすることは困難です。アクセシビリティの問題は戦略や設計に起因することも多く、表層的な部分の修正では対応できないこともあります。
特に、アクセシビリティの要件があいまいなままでプロジェクトが進み、終盤になって問題が浮上した場合、大きな追加コストが発生することもあります。
動画や音声コンテンツに字幕をつける場合
動画や音声のコンテンツは、マシンリーダビリティの低いメディアでありそのままではアクセシブルになりません。
字幕をつける、キャプションや代替テキストを容易する、といった対応が必要になります。
Javascriptをアクセシブルにする場合
近年では、ユーザの操作に反応してナビゲーションを行うなど、複雑なものが増えてきました。このようなリッチなインターフェイスでは、既存のフォームコントロールを使わないこともあり、環境によって操作が困難だったり、動的に変化した部分を認識できないようなケースがあります。
このようなリッチなインターフェイスをアクセシブルにする場合は、相応なコストがかかります。
アクセシビリティへの取り組みは難しい?
たしかに、アクセシビリティへの取り組みの中には、難しいものも存在しています。たとえば、動画に字幕を付ける対応などは、運用コストを考えると難しいことも多いです。
しかし、アクセシビリティはゼロか1かではありません。ガイドラインに存在するすべての施策を完璧に実施しても、全ての人のアクセスが完全に保証されるわけではないです。施策を行えば、より多くの人が、より快適にアクセスできるようになります。わずかでもアクセシビリティが向上すれば、それでアクセスできるようになる人が現れるはずです。それを少しずつ積み上げていけば、将来的には大きくアクセシビリティが向上するかもしれません。
高すぎる目標を設定する必要はありません。
ガイドラインで設定された基準を達成できなかったとしても、取り組みが無意味だということではありません。