「古人のあとを求めず 古人の求めたるを求めよ」
松尾芭蕉先生が残したとされるこの言葉1は、歴史から学ぶ真の意味を端的に表しています。歴史とは、単に過去の出来事を辿るものではありません。それは、先人たちが目指した理想や志を受け継ぎ、未来を切り拓くための羅針盤です。羅針盤は火薬や活版印刷と並ぶ世界三大発明の一つです。それは、航海者たちに正しい方向を示し、未知の世界への道を切り拓きました。同じように、歴史の教えもまた、私たちエンジニアに「未来への道筋を示す羅針盤」となり得るのです。羅針盤が航海者に新しい世界への道筋を示したように、私たちエンジニアにとっても、歴史の教えは技術革新の航路を照らす光となります。
私たちエンジニアもまた、偉人たちの足跡を追うのではなく、その精神や挑戦心を現代に活かし、新たな技術の道を切り拓く使命があります。この記事では、技術の世界を革新し続けた伝説的な女性エンジニアたちの姿を辿り、その中に息づく「闘魂」を紐解いていきたいと思います。
アントニオ猪木さんは、1998年4月4日闘強童夢(東京ドーム)において、4分9秒グランド・コブラツイストでドン・フライ選手を下した2引退試合3後のセレモニーで次のように「闘魂」を説明しました。
「闘魂とは己に打ち克つこと。そして闘いを通じて己の魂を磨いていくことだと思います。」
猪木さんが長きにわたる闘いに終止符を打ったあの日、彼の「闘魂」の哲学は、リングを越えてすべての挑戦者に受け継がれるべき遺産となりました。
猪木さんの言葉は、プロレスだけではなくエンジニアリングの世界でも共通する真理です。新たな技術に挑むこと、それはまさに「己に打ち克つこと」であり、闘いを通じて魂を磨くことなのです。彼女たちはこの言葉に象徴されるように、困難に立ち向かい、新しい「道」を切り開きました。エンジニアとして、彼女たちから何を学べるのか。その答えを、この記事で一緒に探っていきましょう。危ぶむことなく、一歩一歩踏み出して行きましょう。女性エンジニアたちもまた、困難を恐れることなく、一歩一歩未来を切り拓いていく力を持っています。この記事を通じて、その闘魂をさらに燃え上がらせていただけたら幸いです。女性エンジニアたちも、猪木さんのように困難に立ち向かい、自らの闘魂を燃やして新たな未来を切り拓いていく存在です。
「歴史に朋友を求める」過去の偉人たちの精神を友とし、その教えを現代に活かす――この考え方は、未来を切り拓くエンジニアたちの道標でもあります。本アドベントカレンダーの初日を飾るにふさわしいこのテーマを通じて、伝説級の女性エンジニアたちの功績を深掘りしていきます。彼女たちは単にコードを書く存在ではなく、未来を切り拓き、社会を変革し、「闘魂」をもって技術の可能性を広げた先駆者たちなのです。
偉人たちの教えを胸に、現代の闘魂を持って挑むことで、技術と社会に新たな未来を切り拓く。それが、私たちエンジニアに課された使命です。
さあ、偉人たちの教えを胸に、あなたの闘魂を燃やし、新たな未来を切り拓いていきましょう。それが、私たちエンジニア一人ひとりの使命なのです。
歴史が私たちに与えてくれる最大の贈り物なのです。
1. エイダ・ラブレス(Ada Lovelace) 1815年12月10日 - 1852年11月27日
「世界初のプログラマー」──想像力と論理の融合
エイダ・ラブレスの日(10月第2火曜日)
エイダ・ラブレス先輩(1815年12月10日 - 1852年11月27日)は、19世紀に活躍しました。詩的な感性と数学的な論理を融合させた彼女は、コンピュータの可能性を世界で初めて論じた「世界初のプログラマー」です。
エイダ・ラブレス先輩は、計算機の可能性を単なる計算の枠を超えて「創造」の域へと引き上げた先駆者です。彼女は、チャールズ・バベッジの「解析機関(Analytical Engine)」が単なる計算機ではなく、汎用的な「計算可能」な機械として機能し得ることを論じました。この業績は、現在のプログラミング言語の基盤を形成するものでした。そして、プログラムの概念を初めて提唱しました。その論文の中で、コンピュータが「音楽を作曲する」「絵を描く」可能性について語った部分は、今日の生成AI技術の原点とも言えます。
19世紀の科学界では、女性が正式に認められることはほとんどなかった。女性科学者は男性科学者と同じように評価されることは稀であり、研究成果も正当に評価されないことが多かった。エイダ・ラブレスもまた、その才能と業績が当時は十分に評価されることはなかった。しかし、彼女は自らの情熱を貫き、バベッジをはじめとする多くの科学者たちと交流を持ち続けた。彼女の業績は、後の時代においてその重要性が再評価され、女性科学者の先駆者としての地位を確立することとなった。
エイダ・ラブレス先輩は、当時の厳しい社会的制約にもかかわらず、自らの才能を信じ、科学界にその存在を刻みました。その挑戦と功績は、後の女性科学者たちが活躍する道を切り拓く礎となりました。
エイダ・ラブレス先輩は、まさに「闘魂の人」でありました。エイダ・ラブレス先輩は、数々の困難にも屈せず、自身の理想と夢を追い続けました。その姿はまさに「闘魂の人」と呼ぶにふさわしく、現代のエンジニアにとってもインスピレーションとなり続けています。エイダ・ラブレス先輩の挑戦と功績は、女性が科学や技術の世界で自身の声を上げ、貢献する道を切り開く原点となりました。
毎年10月の第2火曜日に制定されている「エイダ・ラブレスの日」は、女性の科学技術への貢献を称える象徴的な日となっています。この記念日は、彼女が未来のエンジニアたちに与えた影響が今も生き続けていることを物語っています。さらに、科学技術の分野で活躍する女性たちに敬意を表すると同時に、次世代のエンジニアたちに、エイダ・ラブレス先輩のように想像力と闘魂を持って挑戦することの大切さを教えてくれます。
教訓: 技術だけでなく、想像力を持つことの大切さ。エンジニアに必要なのは、夢を見る力です。それは、新しい技術を創造し、未来を切り拓く原動力となるからです。
2. グレース・ホッパー(Grace Hopper)(1906年12月9日 - 1992年1月1日)
「COBOLの母」──現代プログラミングの基礎を築く
グレース・ホッパー先輩(1906年12月9日 - 1992年1月1日)は、アメリカ海軍の少将であり、コンピュータ科学の先駆者です。コンピュータ黎明期に活躍した彼女は、現代のソフトウェア開発の基礎を築きました。
「バグ」という言葉の由来となったエピソードも有名です。当時、グレース・ホッパー先輩が使用していたコンピュータで動作不良が発生しました。その原因がコンピュータ内部に入り込んだ蛾(バグ)であることが判明し、これが「プログラムの不具合」を指す「バグ」という言葉の由来となったと言われています。
また、グレース・ホッパー先輩が開発に携わったCOBOLは、ビジネス向けに設計され、金融機関や大企業の基幹システムで現在も使用されています。彼女は「プログラミングを技術者だけのものにせず、誰もが使えるツールにする」というビジョンを掲げ、この汎用性の高い言語を生み出しました。
彼女は、「“It's easier to ask forgiveness than it is to get permission.” 」とメッセージを発信したと伝えられています4。直訳すると、「事前に許可を得るより、あとで許してもらうほうが楽」ということでしょう。
何か新しいことを始めようとするとき、人は危ぶみます。そこで背中を押してもらいたく上司に許可を求めます。しかし上司も危ぶむため許可がおりることはありません。だったら、独断でやってみることも時には必要なのではないかとおっしゃっているわけです。成功を収めれば上司の手柄にしてあげれば良いのです。「自由に動けているので成功できました。いつも温かく見守ってくださる上司のおかげです」と。
失敗したときにはじめて、謝罪をすればよいのです。
これはまさに猪木さんの「道」の詩と通じます。猪木さん流に言うと、「この道を行けば どうなるものか 危ぶむなかれ 危ぶめば道はなし 踏み出せばその一足が道となり その一足が道となる 迷わず行けよ 行けばわかるさ」や「出る前に負けること考える馬鹿いるかよ!」となるわけです。
彼女は「どうなるか分からないからこそ、挑戦する価値がある」という信念を持ち、新たな技術の道を切り拓いていきました。グレース・ホッパー先輩もまさに闘魂の人でした。
教訓: 道を切り開く努力を惜しまない。その挑戦こそが、技術の未来を創る原動力になる。
3. ドロシー・ヴォーン(Dorothy Vaughan)(1910年9月20日 – 2008年11月10日)
「プログラミングの先駆者」──道を切り拓いたスーパーバイザー
NASA初のアフリカ系アメリカ人管理者であるドロシー・ヴォーンは、IBMのコンピュータをいち早く学び、プログラミングの新しい時代を切り開きました。彼女はその知識をチームと共有し、計算チーム全体のスキル向上を支えました。初期のコンピュータを駆使して、手作業だった計算をプログラム化することで効率を大幅に向上させました。
当時のアメリカでは、人種差別が職場にも根強く残っていました。その中で、彼女はアフリカ系アメリカ人女性として初めて管理職に任命され、次世代の科学者やエンジニアたちに道を示しました。彼女の成功は、NASA内の他の女性やアフリカ系アメリカ人従業員に希望を与え、科学や技術の分野で活躍する道を切り開く原動力となりました。まさに闘魂の連鎖です。
教訓: リーダーシップとは、自分だけでなく周囲を輝かせる力。その力は、個々の可能性を引き出し、チーム全体の成功を導く。
4. キャサリン・ジョンソン(Katherine Johnson)(1918年8月26日 - 2020年2月24日)
「宇宙を飛ぶ数学者」──計算で宇宙へ橋を架ける
NASAで活躍したキャサリン・ジョンソン先輩は、宇宙飛行士ジョン・グレンが地球を周回するミッションで、コンピュータの計算を手計算で検証しました。その正確さは宇宙飛行の安全性を左右するものでした。彼女は、当時の人種差別や性別の壁を越え、数学の才能と努力でアメリカ初の有人宇宙飛行を支えました。その姿勢は、まさに「闘魂」を感じさせます。
ドロシー・ヴォーン先輩とキャサリン・ジョンソン先輩は、ともにNASAで活躍した女性科学者ですが、それぞれの専門分野や貢献が異なります。ジョンソン先輩が正確な軌道計算で宇宙飛行を支えたのに対し、ヴォーン先輩はコンピュータ技術を駆使してチーム全体のスキルアップを図り、NASAの計算チームが時代の最先端で活躍する基盤を築きました。
教訓: 技術力が差別や偏見を打ち砕く武器になる。それを信じ、そして使う勇気を持つことが重要です。
5. メアリー・ジャクソン(Mary Jackson)(1921年4月9日 – 2005年2月11日)
「NASA初のアフリカ系アメリカ人女性エンジニア」──不屈の精神で道を拓く
メアリー・ジャクソン先輩は、NASAで初めてのアフリカ系アメリカ人女性エンジニアとして活躍した人物です。彼女は、当時の人種隔離政策により制限された環境の中で、技術者としてのスキルを磨き、数々の困難を乗り越えてエンジニアへの道を切り開きました。特に、航空工学の分野で計算と分析を行い、NASAの航空技術の発展に大きく貢献しました。
メアリー・ジャクソン先輩は、他のアフリカ系アメリカ人女性や若い世代のために積極的に教育支援にも力を注ぎ、次世代の科学者やエンジニアを育てる役割も担いました。その姿勢は、自身の成功を他者の成長につなげる「真のリーダー」としての姿を示しています。まさに闘魂の人です。
ドロシー・ヴォーン先輩、キャサリン・ジョンソン先輩、メアリー・ジャクソン先輩といった「Hidden Figures」と呼ばれる女性たちは、NASAの成功に不可欠な役割を果たしました。彼女たちの貢献は、STEM5分野における多様性の重要性を示す象徴的な存在として、現代においても注目されています。ちなみに「Hidden Figures: The American Dream and the Untold Story of the Black Women Who Helped Win the Space Race」は映画化されており、邦題は「ドリーム」です。まさに闘魂三銃士です。
教訓: 困難に立ち向かい、自分の成功を未来の可能性に変える。それが真のエンジニアの使命です。
5. 番外編: 溝江スヱコ
昭和50年代ころ福岡でこんなCMが流れていました。
住宅建設会社の女社長が出演して、「そりゃー、女やけん細かい所に気が付きますと」というフレーズは誰しもが覚えています。
昨今では、「男性だ」「女性だ」といった表現がコンプライアンスの観点から慎重に扱われることが求められています。もちろん、男性でも細やかな気配りができる人がいるのは事実です。しかし、一般的には女性のほうが細かいところに気が付く傾向があると言えるでしょう。
プログラミングという名の「芸術活動」において、細部を大切にすることは非常に重要です。そして、この「細かい所に気が付く力」は、プログラミングやエンジニアリングの世界でも不可欠なスキルです。たとえば、溝江スヱコ先輩のように、細やかな視点を持つ方がいることで、より良い成果が生まれる場面が多くあるのではないでしょうか。
Qiitaが定義するエンジニアという枠を飛び越えたレジェンドとしてエピソードを紹介しました。
(1分44秒 付近から始まります)
6. 次はあなたの番です
6番目は空けておきます。ここに記載されるのは私の死後、この記事を引き継いだ誰かがあなたの功績を書き加えてくれることでしょう。
小さな一歩でも、挑戦を恐れず踏み出してください。その先には、あなた自身が歴史の一部となる未来が待っています。
憧れから脱却したときさらに人類は進化する
大谷翔平選手は言いました。
「憧れるのをやめましょう」憧れるだけでは先人を超えることはできません。
来て見れば聞くより低し富士の山
釈迦も孔子もかくやあるらん (村田清風)
未来のエンジニアへ──闘魂を胸に、進め!
この記事を読んで、あなたが奮起し、エンジニアとしてやりがいを感じていただければ幸いです。「女性エンジニア応援!エンジニアとしてやりがいを感じた経験談をシェアしよう! by パナソニック コネクト Advent Calendar 2024」が盛り上がることをお祈りいたします。
これらの伝説級の女性エンジニアたちの生き様には、共通して「闘魂」が宿っています。困難に挑み続ける姿は、現代のエンジニア、そしてこれからの未来を築く人々にとって最大の励みです。技術の進化の先にあるのは、人類が共有する希望と夢です。その道を歩む者として、私たちもまた「歴史に朋友を求め」、闘魂を持って未来を切り拓きましょう!
あなたも、この「伝説の系譜」に連なる一歩を踏み出してみませんか?
-
STEM = Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学) ↩