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はじめに

「新人プログラマが増える時期」というのは新しく教育担当、メンター担当になる方も増えるということです。
覚えることがたくさんある新人よりは心持ちに余裕がある私たちが勉強を行い、少しでも新人プログラマのために楽してもらいたいですよね。
そこで、この記事では教育担当が覚えておくと役に立つかもしれない、教育学や心理学の用語や理論、考え方を列挙していきます。
当然ではありますが、詳細や応用方法まで書くとそれだけで本になってしまう内容ですので、記載内容以上のことは検索したり先輩や書籍から追加で学習を行い実践に進んでいただければ幸いです。

あなたの役割は何か

この記事を読むにあたって明確にしないといけないことがあります。それは教育担当となったあなたの対象者への役割です。

  1. ティーチング
  2. コーチング
  3. メンタリング
  4. マネジメント

あなたがどれに当たるのか考えて、即した考え方で対象者と向き合えば、より大きな効果や周囲からの高い評価を得られるはずです。

ティーチング

今回主題に置く、教育をする役割です。
具体的には対象者に対して「アルゴリズムを教える」、「Javaの文法を教える」等を行います。
教育者の目的は対象者に業務で使う技能を習得してもらうことにあります。

コーチング

対象者が何かの行動を起こすことに対して支援していく役割です。
例えば、「目標を設定する」、「目標に対して課題を整理する」、「整理した課題への対応を検討する」、「具体的にタスク化する」といった手順(GROWモデル)を踏み、目標達成を支援します。
GROWモデルに関しては後述します。
コーチングでは対象者の気づきや自発的な考えを重視し、自分の意見や答えを提示しないようにする必要があります。

メンタリング

対象者が一人で業務に当たれるように自立を促す役割です。
最終的には「メンターが不要になること」が目的になります。
最近では企業制度として新人に対して「メンター」を設けるところが増えていると思いますが、その役割は多岐に渡ります。
研修で学びきれなかった実践的な知識の継承や、企業文化/制度の伝承、人間関係の構築、あるいは精神的な補助まで担うこともあります。

マネジメント

上記を複合した役割にプラスして、リソースの管理や新人の成果物への責任等まで任されることもあります。
そうなるともはや教育担当の枠を超えてマネージャーと言っても過言ではないでしょう。
本記事では対象者に学んでもらう技術や行動してもらう技術を扱います。助けになる知識も多いでしょう。

用語紹介

教育関係の用語や理論、考え方を解説します。

5段階教授法(教授段階)

教授段階は授業を効率的に行うためのフローを段階で示したものです。
中でも日本の学校教育はヴィルヘルム・ラインの5段階教授法がベースとなっています。

  1. 予備
  2. 提示
  3. 比較
  4. 総括
  5. 応用

ヴィルヘルム・ラインの5段階教授法は、もととなったヘルバルトの4段階教授法(明瞭・連合・系統・方法)やツィラーの5段階教授法(分析・総合・連合・系統・方法)と異なり、教育者がどうすれば良いかに力点を置いています。
それに対してヘルバルトの4段階教授法やツィラーの5段階教授法は学習者の考え方に寄り添ったものです。
ヴィルヘルム・ラインの5段階教授法の各段階で実施することを「四角形の内角の和」についての学習の例示を含めて解説します。

予備

現在は「導入」という言葉に置き換わっていることが多いです。
関連する既有の知識を思い出させて、学習への意欲を作ります。
「四角形の内角の和」の学習では、三角形の内角の和が180°であったことを想起させます。

提示

実際に学習対象となる「新教材」を提示します。
例としては「三角形の内角の和が180°だったけれど、四角形の内角の和はどうなるでしょうか?」のような問いかけです。

比較

予備で提示した知識と学習対象を比較し、どこが同じか、どこが違うか考えていきます。
四角形と三角形の比較では、"四角形に1本対角線を引くと、2つの三角形になること"や"四角形に2本対角線を引くと、4つの三角形になること"が導き出せます。
"四角形に1本対角線を引くと、2つの三角形になること"から、内角の和が180×2であることがわかります。
また"四角形に2本対角線を引くと、4つの三角形になること"からも180×4-360であることがわかります。(交点部分が360°となっているので4つの三角形の内角の和から360°を引く)

総括

予備、提示、比較で得た知識を体系化してまとめます。
四角形の内角の和は360°であることや三角形に分割することで内角の和を算出できることがここにあたります。

応用

総括で体系化された知識について、活用していきます。
練習問題を行うことや五角形の内角の和を導き出すことが応用にあたります。

プログラム学習の5原理

スキナーが示した「プログラム学習の5原理」は行動心理学をベースに考えられた学習法です。
スキナーはスキナー箱の実験で有名な心理学者で、オペラント条件づけについて体系的な研究を行っています。
オペラント条件づけとは自発的な行動後の変化によって自発行動の頻度が変化する学習のことです。
オペラント条件づけを例示すると次の表のようになります。

行動 結果 行動随伴性 刺激 変化
仕事を丁寧にやる 報酬がもらえる 正の強化 報酬(好子) 行動増加
仕事を雑にやる 報酬がもらえない 負の弱化 報酬(好子) 行動減少
仕事を雑にやる 怒られる 正の弱化 怒られ(嫌子) 行動減少
仕事を丁寧にやる 怒られなくなる 負の強化 怒られ(嫌子) 行動増加

本来は条件という概念があり、三項随伴性という概念になるのですが、ここでの紹介は省きます。

そのオペラント条件づけの理論をもとにプログラム学習の5原理はできています。

  • 積極的反応の原理
  • 即時確認の原理
  • スモールステップの原理
  • 自己ペースの原理
  • 学習者検証の原理

それぞれについて解説します。

積極的反応の原理

学習者の積極的な行動を促す必要があるという原理です。
具体的には演習や議論等を通して学習を行い、教科書を読むだけや話を聞くだけの学習にするべきではないという内容です。
学習者が主体的な行動をすることで、次の行動を促しやすくなるとともに、意欲的な学習に繋がります。

即時確認の原理

学習者の行動や回答に対して即座に正誤判定を行います。
素早いフィードバックにより、行動の強化/弱化を行いやすくし、モチベーションを保ちます。

スモールステップの原理

学習内容はゆるやかに難易度が上がるようにします。
学習者にとって、誤答してしまうことや、理解できずに躓くことは「嫌なこと(嫌子)」にあたり、学習へのモチベーションが下がるおそれがあります。
ゆるやかに難易度を上げることで多くの成功体験を積むことができます。

自己ペースの原理

人によって学習スピードは異なるため、個人に合わせたペースで学習を進めることが望ましいです。
スモールステップの原理にも繋がりますが、速すぎるペースでは、理解できないこともでてきてしまうかもしれません。
また、学習ペースが遅すぎれば、退屈に感じてしまうこともあります。
マンツーマンで進められればベストですが、動画やテキストなどを駆使して、学習者に配慮していけると良いかもしれません。

学習者検証の原理

学習の良し悪しは学習者自身が決めるというものです。
当たり前のように思えますが、教育担当者側の自己満足ではない内容にする必要があります。
実際に教える際には同僚相手に事前にリハーサルを実施し、フィードバック(学習者検証)をもらえるようにすると良さそうです。

9教授事象

9教授事象は9つの働きかけにわけて、良い学びにするための教え方を示しています。
9教授事象は大きく4つの段階に分かれており、次の通りです。

  1. 導入
    1. 学習者の注意を喚起する
    2. 目標を知らせる
    3. 前提条件を思い出させる
  2. 情報提示
    1. 新しい事項を提示する
    2. 学習の指針を与える
  3. 学習活動
    1. 練習の機会を作る
    2. フィードバックを与える
  4. まとめ
    1. 学習の成果を評価する
    2. 保持と転移を高める

5段階教授法やプログラム学習の5原則と重複する部分が多くあると思います。
研修等の1コマの授業形式であれば、9教授事象をベースに組み立てていくと内容を作りやすいです。
またこのテクニックはLT会などでも使えます。

GROWモデル

今までは教える(ティーチング)の際の考え方でしたが、GROWモデルはコーチングについての考え方です。
内発的動機づけを促し、支援し、対象者の目的を達成できるように進めることがコーチングの役割です。
GROWモデルはコーチングにおける各ステップの次の頭文字をとっています。

  1. Goal
  2. Reality
  3. Option
  4. Will

それぞれについて説明します。

Goal

このステップでは何を成し遂げたいかを明確にします。
例えば、「一人前のプログラマになりたい」という目標を持ったとします。これに対して、内容が具体的になるように、「一人前のプログラマとは何か」や「なぜ一人前のプログラマになりたいか」といったところを問いかけていきます。
言葉にすることで目標の解像度が高まり、実際には最初に考えた目標から外れるかもしれませんが、その場合は新たに設定した目標から再び問いかけを続けます。

Reality

現状の確認を行います。
先の「一人前のプログラマになりたい」であれば、今は何ができて、何ができないのかということを明確にします。
この際は客観的に分析することが重要で、「できていない」と言われたことでも部分的にできているところがあれば補足したり、別の観点でできているか確認したりします。
また、なぜできていないのかという部分についても問いかけを行っていきますが、注意点としては他責にならないように進めてください。
現状を確認した結果、Goalに戻ることも可能です。

Option

目標に対する進め方について、できるだけ多くの選択肢を出します。
「一人前のプログラマになりたい」という例であれば、自己学習やプログラミングスクール、Realityで「認められたい」という願望が明らかになっていれば勉強会での登壇やステップアップとしてのLT会への参加が考えられます。
コーチングを行う際は多角的なアイディアが出るように深掘りする、視野を広げるといった問いかけを工夫して実施します。

Will

Optionの選択肢を具体的な行動に落とし込みます。
「なぜ」「いつ」「誰が」「どこで」「どうやって」といった要素をOptionの中で見つけた案を明確化します。
また各行動について、何をもって達成とするか決めておき、定期的に確認します。

ヤーキーズ・ドットソンの法則

ヤーキーズ・ドットソンの法則は学習者のパフォーマンスを最大限に発揮するための理論です。
大まかに言うと緊張度合い(≒動機づけ)によってパフォーマンス(≒効果)は変化するというものです。
緊張度合いが低い状態ではパフォーマンスが低くなり、緊張度合いが高すぎてもパフォーマンスは上がらないため、適切な度合いを保つことで最適なパフォーマンスを発揮できるという法則です。

認知バイアス

教育を行う上で誤った判断を行ってしまうことは避けたいものです。
誤った判断は認知バイアスと呼ばれる、心理現象により引き起こされることがあります。
認知バイアスを事前に知っておくことで客観的な判断を心がけるようにしましょう。

ハロー効果

認知バイアスの一種で一部の特徴的な印象に引きずられて全体の評価をしてしまうというものです。後光効果とも呼ばれます。悪い評価に引っ張られることは逆ハロー効果とも言います。
例えば有名大学卒業の経歴を見ただけで社交的で活力のある人物だと評価してしまう事象や字がきれいだとプログラムの能力を高く評価してしまう事象が挙げられます。

確証バイアス

確証バイアスは自分が持っている考えに肯定的な情報ばかりを集めてしまうという傾向のことを言います。
結果として物事を過大評価してしまうことがあります。
教育の現場では学習者検証のタイミングで良い評価ばかりを集めて、悪い評価を避けてしまい、改善が実施されないなどの害を起こす危険性があります。

ダニング=クルーガー効果

例の「完全に理解した」や「チョットワカル」のグラフの元ネタです。
とは言ってもダニング=クルーガーの論文にあのグラフは登場しない謎が多い状態ですが。
バイアスの内容としては、経験や知識が少ない人は自分の能力を過大評価する、また、経験や知識が多い人は過小評価するといったものです。

心理的行動

心と体は密接に連動しているため、教育時には相手の心理を理解することも重要です。
いくつかの心理的行動を理解することで、対象者の学習効果を高めることができます。

アンダーマイニング効果

アンダーマイニング効果は過正当化効果とも呼ばれ、報酬等を与えることが逆にやる気を削ぐ結果になってしまう心理現象を言います。
オペラント条件づけでは報酬を与えることで良い行動を強化できると書きましたが、例外があります。
それはモチベーションの源が「目標を達成したい」や「誰かの役に立ちたい」などの"内発的動機づけ"によるときです。
ちなみに報酬等がモチベーションのときは"外発的動機づけ"と言われます。
内発的動機づけをもとに学習を行っているときは不要な報酬を与えず、動機を達成するためのサポートをするように立ち回る必要があります。
一度報酬を与えてしまうと、最初は純粋な考えから自発的に行動していたものが、対価を得られないと行動しないように変わってしまうことがあります。

ピグマリオン効果

ピグマリオン効果は教師の期待によって学習者の成績が向上することを指します。対義語として、ゴーレム効果があり、教師が期待しないことによって成績が下がってしまうという事象です。
この効果については教師側のモチベーションやえこひいきが原因である可能性も否定できないということで批判も多いですが、覚えておいて損はないと思います。

インポスター症候群

インポスター症候群が成功した際に自分の能力ではないと感じ、自分は詐欺師であると感じる傾向のことです。
自己評価と外部評価のギャップによりストレスや不安を感じることになります。
この状態になっている場合、失敗や間違いを恐れやすくなり、新しい体験を拒むことに繋がります。

おわりに

新人プログラマを応援するにあたって一番効率が良いのは教育担当者の質が上がることだと思います。
そして、多くの教育担当者は教育の専門家ではないはずです。
インターネットに存在する有象無象の成功体験より、教育担当者が「教育」を学び、対話形式で疑問を解決していくことに大きな価値があると信じています。
この記事を目にした「教育担当者」のより良い活動が、新人プログラマの今後につながると幸いです。

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