はじめに
デスクワークを中心とするビジネスパーソンにとって、googleスプレッドシート(google sheets、google spreadsheet)またはExcelは「少なくとも1度は触ったことがあるツール」に該当する可能性が極めて高いのではないだろうか。
しかしながら、googleスプレッドシート(google sheets、google spreadsheet)とExcelについて、両者を正確に比較するのは意外と難しいのではないだろうか。
数年前と比べて、両者ともに新機能を次々とリリースするため、両方をキャッチアップするのが非常に困難だからである。
そこで、本記事では、比較する際に起こりがちな誤解と、それに対する見解をまとめてみた。
本記事を書いたきっかけと目的
2010年代後半において、Excelの課題とそれを克服するGoogleスプレッドシートの利便性が注目された。
一方で、その後のExcelの進化については、世間一般からの注目度が相対的に低いかもしれないと感じたことがある。
実際に、両者を比較する記事を探すためのWeb検索を試したところ、2010年代後半におけるExcelの仕様を前提とした比較記事がいまだに多く残っているような感覚を得た。
そこで、本記事では、そうした2010年代後半時点の情報に基づく記事を読むことで生まれてしまう誤解の解消を主目的とする。
前提
通常の表計算ソフトとしての利用場面を想定して比較する
表計算ソフトはなんでもできてしまうが故に、用途によって比較結果が大きく異なる可能性がある。
そこで、本記事では通常の表計算ソフトとしての利用場面に限定した比較結果を述べる。
なお、「通常の表計算ソフトとしての利用場面」について、以下に記載された手法が適合する場面をイメージしている。
Google Workspace・Microsoft365のサブスクリプション最上位プランの利用を想定して比較する
Excelには買い切り型もあり、買い切り型を含めて比較するとバージョンによって機能差が出てしまい比較結果が肥大化してしまう。
そこで、サブスク型かつ最上位プランで最新機能が制限なく使えることを前提とする。
上記の前提を踏まえ、本記事の対象は正確には「Googleスプレッドシート単体とExcel単体の比較」ではなく、「Google Driveの中で使うGoogleスプレッドシートと、SharePointの中で使うExcelの比較」となる。
調査が容易な項目は検討対象外とする
価格や基本的な表計算機能など、各自での調査が容易と判断した観点は除外した。
よくある誤解とそれに対する見解
Googleスプレッドシートでは共同編集が可能だが、Excelではできない
Excelも、Microsoft365のクラウドストレージ(SharePoint・OneDrive)にファイルを保存することで、共同編集が可能である。
したがって、「Excelで共同編集できない」は誤った認識である。
一方で、以下のような主張には一定の合理性があると思われる。
Googleスプレッドシートのほうが共有機能が直感的に使いやすい
SharePointの共有機能はGoogle Driveに比べて難易度が高いと感じる方は多いのではないだろうか。
- SharePointサイト、ドキュメントライブラリ、ファイル単位のそれぞれの権限を正しく設定することが求められる
- 「共有リンク」という機能理解が求められる
以上2点から、フォルダ・ファイル単位で直感的に権限設定できるGoogle Driveと比べて、SharePointは学習コストが高いと判断して差し支えないのではないだろうか。
Google Apps ScriptによってWebベースで幅広い業務自動化が可能である
ExcelにもOffice Scriptsというプラットフォームがあり、typescriptによる自動操作を可能にできる。
また、Microsoft365を利用していると、Power AutomateでOffice Scriptsを実行することもできる。
ただし、Google Apps Scriptのほうが歴史が長く、その点における優位性は一定程度あると思われる。
Googleスプレッドシートにしかない便利な関数がある
確かに数年前時点では、以下のような関数はGoogleスプレッドシートにしか存在しなかった。
- arrayformula
- filter
- sort
- importrange
- query
今では、その多くがExcel上でも使えるようになっている。
また、Power Queryを使用すれば、googleスプレッドシートでは実現不可能なことも実現できるようになる。
Excelの優れているポイント
最新のExcelにはどんな利便性があるのだろうか。
Power QueryとPower Pivotの活用による、大量データの高速加工・高度な分析
Power Queryではいわゆる「104万行の限界」を超えることが可能である。
また、Power Pivotを組み合わせることで、複数テーブルにリレーションシップを構築し、高度な分析が可能になる。
一方で、googleスプレッドシートを利用する組織においては、大量データを管理・分析するにはBigQueryやLookerが別途必要になる。
Connected Sheet機能を利用することで、同じような体験を実装できるが、BigQuery(SQLを含む)やLooker(LookMLを含む)の学習コストはPower Query・Power Pivotよりも高いと考えられる。
テーブル機能とスピルの活用による、可読性の高い数式表現
Excelには「テーブル」機能があり、これとスピルを組み合わせることで数式を大幅に見やすくできる。
xlookup関数を使った場合の例
2024年6月より、Google Sheetsにもテーブル機能が搭載され、本観点でのExcelとの差分は小さくなった。詳細は以下参照
豊富なショートカットキー・VBA個人マクロによる個人作業の高速化
Googleスプレッドシートと比べて、Excelはショートカットキーが非常に充実している。
また、個人マクロをあらかじめ用意しておくことで、頻出する操作をワンボタンで実行できる。
このような背景から、Excelではキーボード操作を中心とした個人作業の高速化がしやすい。
Googleスプレッドシートの優れているポイント
本記事ではExcelの優れているポイントを中心に記述したものの、Googleスプレッドシートのメリットがなくなっているわけではない。例えば以下が挙げられる。
直感的なUIによる適切な権限管理の促進
繰り返しになるが、Google DriveのほうがSharePointよりも権限管理機能の難易度が低い。
したがって、適切な権限管理が行われやすいように感じる。
ローカル版が存在しないことによる、バージョン管理のトラブル防止
Excelと違ってGoogleスプレッドシートには「ローカルにダウンロードして編集する」概念が存在しない。
したがって、クラウド上での共同編集文化を組織に浸透させるのが比較的容易である。
機能が最小限に絞られていることによる、アウトプットの属人性低下
Excelは機能が多いが故に、アウトプットに「個人的な好み」が介入しやすく、属人的な成果物が比較的生成されやすい。
Googleスプレッドシートでは、Excelに比べるとこのようなリスクが少し軽減できる。
デバイスに依存しない操作感
Googleスプレッドシートは、ブラウザでの操作を前提とするため、デバイスによって操作感が大きく異なることはない。
一方で、Excelの場合は、WindowsとMacで大きく操作感が異なる。
Macのデスクトップ版Excelでは、「アクセスキーが使えない」「クイックアクセスツールバーが使えない」等、Windowsのデスクトップ版Excelと比べて操作がしづらいと感じるのではないだろうか。
※Web版のExcelが年々使いやすくなっているので、近いうちに解消されるペインかもしれない。
どう使い分けるべきか?
上述のとおり、それぞれにメリット・デメリットがあるので、両者を場面に応じて適切に使い分けることが求められる。
例えば、以下のような判断が望ましいのではないだろうか。
同時編集頻度の高低
例:同時編集頻度が高い表計算には、Googleスプレッドシートを採用する。
データ量の多寡
例:大量データを扱う場合、Excelを採用し、Power Queryを使う。
※そもそも大量データを分析するニーズには、TableauやPower BI等のBIツールなど、別の手段が適合することが多いと考えられるが、本記事では言及しない。
データ加工過程における複雑性の高低
例:データの加工が単純な場合、Googleスプレッドシートを使う。
共有頻度の高い社外関係者の方針
例:週次でファイルを共有する社外関係者がExcelを採用している場合、それに合わせてExcelを使う。
どちらか一方に統一したい場合はどうするか?
組織全体の情報管理をシンプルにする目的で、表計算ソフトをどちらか1つに統一したいニーズがある場合はどうすべきだろうか。
以下に判断基準を例示してみた。
他のデータベースサービスの利用度によって判断する
例えば、Notionのデータベース機能で共同編集ニーズを一定満たせているのであれば、共同編集頻度の少ない表計算をExcelで一元管理すると良いかもしれない。
組織全体に求めるITリテラシーによって判断する
Power QueryやPower Pivotの学習コストは高く、使いこなせるようになるまでには一定の学習時間が必要である。
これを許容するのが難しい場合には、Excel利用のメリットが少ないと判断し、Googleスプレッドシートで一元管理すると良いかもしれない。
組織で使われているデバイスによって判断する
WindowsPCユーザーが多い会社では、Excelのメリットを享受しやすいので、Excelで一元管理すると良いかもしれない。
最後に
本記事はあくまでも2023年7月時点のものである。
今後、昨今の生成AIのトレンド等の影響も受けて、両者ともにさらに進化していくと思われるので、継続的にキャッチアップを続け鮮度の高い情報を発信したい。