この記事はLinux Advent Calendar 2018の11日目の記事として書かれました。
はじめに
組込みLinuxの醍醐味の1つは、ペリフェラルデバイスのカスタマイズ対応だと考えています。
新しく取り付けられたデバイスを、ユーザーランドから利用可能にするエンジニアリングは、困難を伴う場合が多くあります。
様々な困難をくぐり抜け、デバイスが動作した瞬間の喜びだけが、組込みLinux屋さんの救いです (なお、組込みLinux屋さんを代表する意見ではありません)。
世の中にはたくさんの組込みLinuxプラットフォームがあります。
それらのプラットフォームは、多くの場合、SoCベンダーなどがリファレンスボードを作ります。TIが作っていたりNXPが作っていたりIntelが作っていたりするわけです。
それらの、リファレンスボードを、家電メーカーや車載機器メーカーが自社製品向けにカスタマイズして、独自の組込みLinuxプラットフォームを構築します。
まず、SoCベンダーが違えば、どのようなペリフェラルデバイスが何個搭載されているか、や、同種ペリフェラルデバイスでもメーカーや型番が違ってきます。
同じベンダーでも、デバイスの世代や、性能および消費電力のターゲットが異なれば、異なるデバイスが搭載されます。
ここで問題になるのが、それらの異なるプラットフォームをどのようにLinux kernelで扱うか、です。例えば、あるボードでは0x10000000番地にUART16550が接続されていますが、別のボードにおいては、別アドレスに別のUARTデバイスが搭載されているでしょう。
また、SoCベンダーは、メーカーがボードをカスタマイズできるように、GPIOやSPIといったIOを用意しています。GPIOやSPIはいろいろなデバイスの入出力に使えるので、メーカーは自社製品の要件に適合するように、いい感じにデバイスを追加したりして、カスタマイズするわけです。
ここでGPIOを例にすると、GPIOはLEDに使われたり、割り込みに使われたり、何らかのデバイスの入出力に使われたりします。
しかし、Linux kernelとしては、あるGPIOがLEDなのか割り込み線なのか何らかのデバイスの入出力なのか、は知りようがないわけです。それどころか、どこにGPIOがあるのかすら、知りようがありません。
つまり、
Linux kernel「あなたは、そこにいますか?」
に答えて祝福(driverのbind)を受ける必要があるわけです。実際は、kernelが聞いてくるわけではないですが。
そこで、例えばGPIOは(memory mappedの場合)、ここのアドレスにあって、こういうデバイスだから、このdriverで動かしてね、ということをLinux kernelに伝える仕組みが必要になります。
つまり、
GPIO「俺はここにいるぞ!」
ということです。
このような目的で利用されている仕組みには、次の3つがあります。
- board file
- device tree
- ACPI (DSDT)
正直、組込みLinuxを始めた当初は、全く意味がわかりませんでした。
そこで、本記事では、それぞれの方法について、簡単に紹介します。
包括的もしくは体系的な説明ではなく、簡単なデバイス(GPIOで制御するLED)を例に、各方法でどのようにハードウェアを定義するか、見ていきます。
組込みLinux屋さんがどういうエンジニアリングをしているか、少しでも身近に感じていただけると良いなぁ、と思っています。
特にACPIについては、情報がなくて苦労しているので、本記事をきっかけに少しでもACPIでplatform deviceを記述するための情報が出回れば、と願っています。
つまり、**みんなでやろう!組込みLinux!**です。
用語定義
本記事内で使用する用語について定義します。
用語 | 定義 |
---|---|
non-discoverable device | kernelが自動で検出できないデバイスです。 |
platform device | non-discoverableなデバイスで、本記事内で対象とするデバイスです。 |
platform driver | platform device用のdevice driverです。 |
GPIO | 汎用入出力ピンです。wikipedia GPIO。ソフトウェアで入出力を切り替え可能で、入力ピンとしても出力ピンとしても利用できます。 |
共通事項
3つの方法で共通となることについてまとめます。
いずれの方法にしても、platform deviceを何らかの方法で
記述する必要があります。
そのplatform device記述が存在した上で、次のようにデバイスの初期化が実行されます。
- platform driverをkernelに登録する
- platform deviceに対し、対応するdriverがbindされる
- bindされたdriverのprobe関数が呼ばれ、デバイスの初期化を行う
3つの方法では、それぞれ、platform deviceを記述する方法が異なります。
また、Linux kernelとの関係性も違ってきます。
board file
board fileと呼ばれるboard-specific platform device driverを用意し、そのdriverにplatform deviceの情報を埋め込みます。driverとしてLinux kernelに組み込まれます。
正式にはなんと呼べば良いのか、よくわかりません。
過去のやり方(主に2.6くらいまで)で、現在は非推奨の方法です。
device tree
デバイスの構成をツリー状に記述します。firmware
という扱いで、Linux kernelとは独立したblob (dtb: device tree blob) を形成します。bootloader (u-boot) からkernelに渡す方法を使うことが多いと思います。
組込みLinuxで用いられる多くのdriverが対応しています。
ACPI DSDT
ACPI (Advanced Configuration and Power Interface)とは、電源やデバイス構成などを統一的なインタフェースで扱えるようにする仕組みです。
もう少し詳しく知りたい方は、@akachochin さんの下記資料を参照下さい。
初心者のためのACPI
DSDT (Differentiated System Description Table)は、ACPI規格の一部で、platform deviceを記述するためのです。
ACPI Source Language (ASL)でデバイスの構成を記述します。ACPIテーブルの一部(DSDT)として、Linux kernelの外部に置かれます。
組込みLinuxで用いられるdriverで対応しているものは一部(という印象)です。私もあまり馴染みがないため、間違っている部分があれば、編集リクエスト下さい。
それでは、3つの方法について、個別に見ていきましょう。
board file
現在は非推奨の方法です。
やむを得ず使わざるをえない場合もあります。intel組込みプラットフォームでACPI DSDTの書き方が分からないときとか
一言で言うと、platform deviceを、board-specific platform device driver
と呼ばれるkernel driverとして記述します。
これにより、Linux kernelはプラットフォーム上にどのようなデバイスが搭載されているのかを認識することができます。
(kernel内に情報が取り込まれているので、ある意味当然ですが)
下はMinnowBoardというIntelの組込みプラットフォームのboard-specific platform device driverです。
偶然見つけたのですが、内容がシンプルなため、こちらを例に解説していきます。platform deviceとして、GPIOで制御できるLEDを登録しています。
MinnowBoard platform driver
platform deviceを利用するために、次の手順を踏んでいます。
- board-specific platform device driverをロードする
- deviceを登録する
なお、Linux driverの初期化の流れは、去年のアドベントカレンダーの下記記事に解説があります。必要に応じて参照下さい。
Linuxのドライバの初期化が呼ばれる流れ
board-specific platform device driverをロードする
Minnowboard用のdriverを実装して、driverをロードします。
お決まりのmodule_init
を使うパターンです。
長いので説明に必要な箇所以外は省略しています。
driverロード時に、minnow_gpio_leds
というplatform deviceを登録しています。
static int __init minnow_module_init(void)
{
...
err = platform_device_register(&minnow_gpio_leds);
...
}
module_init(minnow_module_init);
deviceを登録する
それでは、platform deviceであるminnow_gpio_leds
の定義を見てみましょう。
static struct platform_device minnow_gpio_leds = {
.name = "leds-gpio",
.id = -1,
.dev = {
.platform_data = &minnow_leds_platform_data,
},
};
重要なポイントは、name
とdev
メンバです。
このplatform_device
構造体には、どのようなデバイスが搭載されているか、というデータを定義することができます。
struct platform_device {
const char *name;
struct device dev;
}
name
は、leds-gpio
という名前のdriverを、このデバイスにbindするために使います。
Documentation/driver-model/platform.txt
* platform_device.name ... which is also used to for driver matching.
platform deviceであるminnow_gpio_leds
がkernelに登録されると、leds-gpio
という名前のdriverを探します。leds-gpio
driverは次のように、leds-gpio
という名前で登録されているため、無事、driverが見つかり、leds-gpio driverのprobe
関数を呼び出します。
static struct platform_driver gpio_led_driver = {
.probe = gpio_led_probe,
.driver = {
.name = "leds-gpio",
},
};
module_platform_driver(gpio_led_driver);
probe関数内でデバイスを初期化する際に参照するのが、dev
メンバに定義したデータになります。
dev
は、device
構造体で、いくつかのメンバが存在しますが、ここでは、platform_data
メンバにminnow_leds_platform_data
のポインタを代入しています。
.dev = {
.platform_data = &minnow_leds_platform_data,
},
device
構造体のplatform_data
メンバは、次のように定義されています。
/**
* struct device - The basic device structure
...
* @platform_data: Platform data specific to the device.
* Example: For devices on custom boards, as typical of embedded
* and SOC based hardware, Linux often uses platform_data to point
* to board-specific structures describing devices and how they
* are wired. That can include what ports are available, chip
* variants, which GPIO pins act in what additional roles, and so
* on. This shrinks the "Board Support Packages" (BSPs) and
* minimizes board-specific #ifdefs in drivers.
...
*/
struct device {
struct device *parent;
...
void *platform_data; /* Platform specific data, device
core doesn't touch it */
...
};
コメントにある通り、platform_data
には、デバイス固有のデータを記述します。
さて、platform_data
の型はvoid*
です。これは、好きな構造体を定義して、好きに使ってくれや、ということです。bindされるdriverで解釈可能なデータ構造になっていれば良いわけです。
leds-gpio
driverでは、gpio_led_platform_data
を使用します。
static struct gpio_led_platform_data minnow_leds_platform_data = {
.num_leds = ARRAY_SIZE(minnow_leds),
.leds = (void *) minnow_leds,
};
gpio_led_platform_data
では、複数のLEDを定義することができます(なので、leds
-gpioという名前なのだと思われます)。LEDの個数 (num_leds
)と、各LED情報の配列 (leds
)とをメンバとして登録することができます。
MinnowBoardでは、次のように2つのLEDを定義しています。
/* leds-gpio platform device structures */
static const struct gpio_led minnow_leds[] = {
{
.name = "minnow_led0",
.gpio = GPIO_LED0,
.active_low = 0,
.retain_state_suspended = 1,
.default_state = LEDS_GPIO_DEFSTATE_ON,
.default_trigger = "heartbeat"
},
{
.name = "minnow_led1",
.gpio = GPIO_LED1,
.active_low = 0,
.retain_state_suspended = 1,
.default_state = LEDS_GPIO_DEFSTATE_ON,
.default_trigger = "mmc0"
},
};
細かいところは少し置いておいて、gpio
メンバでGPIOのピン番号を指定しています。
GPIO_LED0/GPIO_LED1は、GPIOの10/11番に割り当てられているようです。
#define GPIO_LED0 10
#define GPIO_LED1 11
こういった何番ピンがどうなっているか、はハードウェアリファレンスマニュアルや、ボードの回路図を読み解いて使います。
ここまでのように、MinnowBoard固有のデバイス情報をdriverに定義し、デバイスを登録することで、leds-gpio
driverのprobe
関数が呼ばれます。
この時、上記で定義したデバイス情報が引数として渡されます。
少し、leds-gpio.cの実装を確認してみましょう。
static int gpio_led_probe(struct platform_device *pdev)
{
// `gpio_led_platform_data`を取り出す
struct gpio_led_platform_data *pdata = dev_get_platdata(&pdev->dev);
struct gpio_leds_priv *priv;
...
// privにメモリ領域を割り当て
priv->num_leds = pdata->num_leds;
for (i = 0; i < priv->num_leds; i++) {
const struct gpio_led *template = &pdata->leds[i];
struct gpio_led_data *led_dat = &priv->leds[i];
// GPIOを1つ初期化
...
}
...
}
引数pdev
は、platform_device
のポインタ、という形で渡されます。
pdev->dev
を、自身のデータ構造体であるgpio_led_platform_data
型のポインタにキャストします。
再掲載しますが、下記のようなplatform deviceを定義していましたね。
static struct gpio_led_platform_data minnow_leds_platform_data = {
.num_leds = ARRAY_SIZE(minnow_leds),
.leds = (void *) minnow_leds,
};
ここから、num_leds
の回数分、leds
のデータを使って、デバイスを初期化します。
今回は、2つのLEDデバイスを定義しているので、2つのGPIOが初期化されます。
このように、ボードに固有のplatform deviceをdriverに定義して、デバイスを初期化しています。
これが、board fileのplatform device定義方法です。
マクロを利用したplatform driverの登録 (余談)
ここは、飛ばしても問題ありません。
MinnowBoardでは、module_init
とmodule_exit
を明示的に定義していましたが、マクロを利用する方法もあります。
module_platform_driver()
マクロを使います。
特定の用途に特化したマクロも定義されています。
module_spi_driver(struct spi_driver)
やmodule_i2c_driver(struct i2c_driver)
などが該当します。
これらのマクロは、platform driverを登録/登録解除するinit/exit関数を定義します。
マクロは次のように実装されています。
#define module_driver(__driver, __register, __unregister, ...) \
static int __init __driver##_init(void) \
{ \
return __register(&(__driver) , ##__VA_ARGS__); \
} \
module_init(__driver##_init); \
static void __exit __driver##_exit(void) \
{ \
__unregister(&(__driver) , ##__VA_ARGS__); \
} \
module_exit(__driver##_exit);
例えば、次のように呼び出すと、
static struct platform_driver my_platform_driver = {
...
}
module_platform_driver(my_platform_driver);
だいたい次のように展開されます。
static int __init my_platform_driver_init(void)
{
return platform_driver_register(&(my_platform_driver) , ##__VA_ARGS__);
}
module_init(my_platform_driver_init);
static void __exit my_platform_driver_exit(void)
{
platform_driver_unregister(&(my_platform_driver) , ##__VA_ARGS__);
}
module_exit(my_platform_driver_exit);
device tree
board fileの方法では、board-specific platform device driverを修正すると、kernelを再度ビルドする必要があります。
また、boardごとに新しいdriverが追加され、kernelソースコードを肥大化を招いていました。
arch/armを見ると、mach-
やplat-
から始まるディレクトリが大量に存在します。これらが、いわゆるboard fileと呼ばれるものです。
特定ボードの設定は、kernelに含まれるべきではない、という思想から、組込みLinuxではdevice tree が広く使われるようになりました。
device treeでは、platform deviceは、木構造に似た形式で記述します。
各デバイスは、ノードと呼ばれ、必要なパラメータやデータは、property
という形で表現します。device treeを修正した場合、device treeを再コンパイルするだけで済み、kernelは再ビルドする必要がありません。
現在、組込みLinuxで利用されるペリフェラルデバイス用driverの多くは、device treeに対応しています。
device treeについては、下記記事にとても良くまとめられています。
現在もまとまった日本語情報はないと思います。本記事では包括的、または、体系的な説明はしません(できません)。GPIOを例に、それがどのような意味なのか、を解説していきます。
英語では、Linux Device Drivers Developmentに解説があります。
私はこの本を購入してだいぶ救われました(なお、個人差があります)。
本記事を書く上でもかなり参考にしています。(誤植は多いですが)device treeに対応したdevice driverについて解説のある良い本ですので、device treeやdevice driver開発で悩まれている方は、購入を検討してみて下さい。
そうは言っても、最終的には、各driverのdevice tree bindingsを参照しながら、必要ならdriver自体のコードを解析しながら利用することになります。
bindings一覧は、Documentation/devicetree/bingins
にまとめられています。
各ベンダー固有のforkにしか存在しないbindingsドキュメントもあるため、注意が必要です。
device tree bindingsを覗いてみると、board
, gpio
, leds
, serial
, spi
などデバイス種別ごとのディレクトリが存在します。
試しに、leds/leds-gpio.txt
を見てみます。これは、上記MinnowBoardで解説したGPIOで制御可能なLEDデバイスのノードを記述するための説明です。
propertyには、必須(shold/required)なものと、optionalなものがあります。下記の例では、compatible
とgpios
が必須のpropertyで、default-state
はoptionalなpropertyです。
LEDs connected to GPIO lines
Required properties:
- compatible : should be "gpio-leds".
LED sub-node properties:
- gpios : Should specify the LED's GPIO, see "gpios property" in
Documentation/devicetree/bindings/gpio/gpio.txt. Active low LEDs should be
indicated using flags in the GPIO specifier.
- default-state: (optional) The initial state of the LED.
see Documentation/devicetree/bindings/leds/common.txt
Examples:
run-control {
compatible = "gpio-leds";
red {
gpios = <&mpc8572 6 GPIO_ACTIVE_HIGH>;
default-state = "off";
};
green {
gpios = <&mpc8572 7 GPIO_ACTIVE_HIGH>;
default-state = "on";
};
};
compatible
は、deviceとdriverをbindするためのpropertyです。leds-gpio
driverを見るとわかりやすいです。
leds-gpio
driverはplatform_driver
として登録され、compatibleにgpio-leds
という文字列が指定されたデバイスと紐付けされます。
(platform_device
構造体を使う時と異なり、name (driverの名前)ではなく、compatibleが一致するdriverとbindされます)
static const struct of_device_id of_gpio_leds_match[] = {
{ .compatible = "gpio-leds", },
{},
};
MODULE_DEVICE_TABLE(of, of_gpio_leds_match);
上記のデバイスツリーの例では、run-control
ノードに、redとgreenという2つのLEDを持つgpio-leds
compatibleなデバイスを定義しています。
結果として、2つのGPIOは、leds-gpio
driverで制御されます。
driverがbindされたあとは、board fileと同様となります。
leds-gpio
driverのprobe関数が呼ばれ、device treeで記述したpropertyが抽出できる形で、引数が渡されます。
ACPI DSDT
ACPI (Advanced Configuration and Power Interface)は、電源やデバイス構成などを統一的なインタフェースで扱えるようにする仕組みです。
ACPIは規格化されているので、仕様書を参照すると詳細が書いてあります。
本記事で対象とするのは、platform deviceを記述するためのDSDT (Differentiated System Description Table)です。
現状、組込み系の周辺ペリフェラルを記述するための実例は乏しい状況です。
Yocto (組込みLinuxを構築するために広く用いられているプロジェクト)のレイヤとして、meta-acpiが公開されています。
こちらにあるsampleを見ながら、理解を進めていきましょう。
recipes-bsp/acip-tables/samples/minnowboard
に、leds.asl
とbuttons.asl
というファイルがあります。
leds.asl
がGPIOを使ったLEDのようなので、これを見ていきましょう。
ちなみに、筆者自身もACPIでのdevice定義があまりわかっていません。解説されていない部分は、わかってないんだなぁ、と思ってスルーするか、むしろコメントなどで教えて下さい。
DefinitionBlock ("leds.aml", "SSDT", 5, "", "LEDS", 1)
{
External (_SB_.PCI0.LPC, DeviceObj)
Scope (\_SB.PCI0.LPC)
{
Device (LEDS)
{
Name (_HID, "PRP0001")
Name (_DDN, "GPIO LEDs device")
Name (_CRS, ResourceTemplate () {
GpioIo (
Exclusive, // Not shared
PullNone, // No need for pulls
0, // Debounce timeout
0, // Drive strength
IoRestrictionOutputOnly, // Only used as output
"\\_SB.PCI0.LPC", // GPIO controller
0) // Must be 0
{
10, // E6XX_GPIO_SUS5
11, // E6XX_GPIO_SUS6
}
})
Name (_DSD, Package () {
ToUUID("daffd814-6eba-4d8c-8a91-bc9bbf4aa301"),
Package () {
Package () {"compatible", "gpio-leds"},
},
ToUUID("dbb8e3e6-5886-4ba6-8795-1319f52a966b"),
Package () {
Package () {"led-0", "LED0"},
Package () {"led-1", "LED1"},
}
})
/*
* For more information about these bindings see:
* Documentation/devicetree/bindings/leds/leds-gpio.txt and
* Documentation/acpi/gpio-properties.txt.
*/
Name (LED0, Package () {
ToUUID("daffd814-6eba-4d8c-8a91-bc9bbf4aa301"),
Package () {
Package () {"label", "heartbeat"},
Package () {"gpios", Package () {^LEDS, 0, 0, 0}},
Package () {"linux,default-state", "off"},
Package () {"linux,default-trigger", "heartbeat"},
Package () {"linux,retain-state-suspended", 1},
}
})
Name (LED1, Package () {
ToUUID("daffd814-6eba-4d8c-8a91-bc9bbf4aa301"),
Package () {
Package () {"label", "sd-card"},
Package () {"gpios", Package () {^LEDS, 0, 1, 0}},
Package () {"linux,default-state", "off"},
Package () {"linux,default-trigger", "mmc0"},
Package () {"linux,retain-state-suspended", 1},
}
})
}
}
}
device treeと比較すると、随分大げさに見えます。
これは 心 骨が折れそうですが、1つずつ見ていきましょう。
device treeと共通する点としては、deviceをツリー上に表現する、ということです。
Scope (\_SB.PCI0.LPC)
{
Device (LEDS)
{
_SB
はSystem Busを意味するようです。最も上位のバスだと認識しておけば良さそうです。
PCI0
はそのまま、PCIバスです。
LPC
はLow Pin Countでしょうか?自信がありません。
Accessing Intel ICH/PCH GPIOsを見ると、歴史的に、Intelは、LPC下にGPIOコントローラを置いているようです?Intelわからん。
いずれにしても、LPCの下に、LEDS
というラベルのデバイスを定義しています。
次に行きましょう。
Name (_HID, "PRP0001")
Name (_DDN, "GPIO LEDs device")
_HIDは、Hardware IDです。
どうやら、RPR0001
は特殊なIDであり、device tree compatibleなdevice識別子とのことです。
https://patchwork.kernel.org/patch/6593351/
結局、device treeの仕組みに頼るのかい!と思いながら先に進みます。
_DDNは、Dos Device Nameだそうです。関係なさそうなので飛ばしましょう。
さらに読み進めます。
GpioIo()
は、Operator
と呼ばれるもので、IO Resource Descriptor Macro、だそうです。マクロでdeviceのpropertyを設定している、という理解で良さそうです。
Name (_CRS, ResourceTemplate () {
GpioIo (
Exclusive, // Not shared
PullNone, // No need for pulls
0, // Debounce timeout
0, // Drive strength
IoRestrictionOutputOnly, // Only used as output
"\\_SB.PCI0.LPC", // GPIO controller
0) // Must be 0
{
10, // E6XX_GPIO_SUS5
11, // E6XX_GPIO_SUS6
}
})
GpioIo()マクロへの引数は、ACPI仕様書に次のように掲載されています。
GpioIo (Shared, PinConfig, DebounceTimeout, DriveStrength, IORestriction, ResourceSource,
ResourceSourceIndex, ResourceUsage, DescriptorName, VendorData) {PinList}
上の記述と照らし合わせます。
-
PinList
から、対象となるGPIOピンは10/11番のGPIO - 各ピンは専有される
- pull up/pull downはしない
- Outputポートとして利用する
となります。これらのポート設定は、GPIOコントローラによってなされるので、設定を依頼するGPIOコントローラが指定されているのだと考えられます。
GPIOピン、10/11にLEDのが接続されているようです。
そういえば、Minnowboardのplatform device driverでも、ヘッダファイルで次のようにマクロが定義されており、これらのGPIOをLEDとして制御していました。
#define GPIO_LED0 10
#define GPIO_LED1 11
続いて、_DSD
です。
Name (_DSD, Package () {
ToUUID("daffd814-6eba-4d8c-8a91-bc9bbf4aa301"),
Package () {
Package () {"compatible", "gpio-leds"},
},
ToUUID("dbb8e3e6-5886-4ba6-8795-1319f52a966b"),
Package () {
Package () {"led-0", "LED0"},
Package () {"led-1", "LED1"},
}
})
/*
* For more information about these bindings see:
* Documentation/devicetree/bindings/leds/leds-gpio.txt and
* Documentation/acpi/gpio-properties.txt.
*/
Name (LED0, Package () {
ToUUID("daffd814-6eba-4d8c-8a91-bc9bbf4aa301"),
Package () {
Package () {"label", "heartbeat"},
Package () {"gpios", Package () {^LEDS, 0, 0, 0}},
Package () {"linux,default-state", "off"},
Package () {"linux,default-trigger", "heartbeat"},
Package () {"linux,retain-state-suspended", 1},
}
})
Name (LED1, Package () {
ToUUID("daffd814-6eba-4d8c-8a91-bc9bbf4aa301"),
Package () {
Package () {"label", "sd-card"},
Package () {"gpios", Package () {^LEDS, 0, 1, 0}},
Package () {"linux,default-state", "off"},
Package () {"linux,default-trigger", "mmc0"},
Package () {"linux,retain-state-suspended", 1},
}
})
Linux kernelのドキュメントに説明があるので、少し見てみます。
The _DSD (Device Specific Data) configuration object, introduced in ACPI 5.1, allows any type of device configuration data to be provided via the ACPI namespace.
おそらく、ACPI規格で網羅しきれない、deviceのpropertyを記述するためのものだと推測しています。DSDを使うことで、device treeと同様のproperty記述ができるようになるようです。
各DSDは、識別子としてUUIDを持つ必要があるため、各要素にUUIDが設定されています。
下の記述で、device treeと同様に、compatible
を設定しています。
Package () {
Package () {"compatible", "gpio-leds"},
},
gpio-ledsのデバイスを2つ定義しています。
Package () {"led-0", "LED0"},
Package () {"led-1", "LED1"},
それぞれの詳細なpropertyは、その下で記述されています。ここでは、LED0のみ掲載します。
Name (LED0, Package () {
ToUUID("daffd814-6eba-4d8c-8a91-bc9bbf4aa301"),
Package () {
Package () {"label", "heartbeat"},
Package () {"gpios", Package () {^LEDS, 0, 0, 0}},
Package () {"linux,default-state", "off"},
Package () {"linux,default-trigger", "heartbeat"},
Package () {"linux,retain-state-suspended", 1},
}
})
leds-gpio.txtを再び参照すると、各propertyがleds-gpioのpropertyとして存在していることがわかります。
LED sub-node properties:
- gpios : Should specify the LED's GPIO, see "gpios property" in
Documentation/devicetree/bindings/gpio/gpio.txt. Active low LEDs should be
indicated using flags in the GPIO specifier.
- label : (optional)
see Documentation/devicetree/bindings/leds/common.txt
- linux,default-trigger : (optional)
see Documentation/devicetree/bindings/leds/common.txt
- default-state: (optional) The initial state of the LED.
see Documentation/devicetree/bindings/leds/common.txt
- retain-state-suspended: (optional) The suspend state can be retained.Such
as charge-led gpio.
ただ、gpios
については、ぱっと見で、自明ではありません。
Package () {"gpios", Package () {^LEDS, 0, 0, 0}},
device treeの例では、下のようになっていため、これと同等の意味になっているはずです。
gpios = <&mpc8572 6 GPIO_ACTIVE_HIGH>;
gpio.txtによると、gpiosの1つ目の項目はGPIOコントローラ、2つ目はGPIOコントローラ内のローカルオフセット、3つ目はピンのフラグになっています。
In the above example, &gpio1 uses 2 cells to specify a gpio. The first cell is a local offset to the GPIO line and the second cell represent consumer flags, such as if the consumer desire the line to be active low (inverted) or open drain.
これに沿って解釈してみましょう。
Package () {"gpios", Package () {^LEDS, 0, 0, 0}},
はい、なんか項目が1つ多いですね。
一番後ろの0
は、GPIOピンのフラグでしょう。
GPIOピンのフラグは、次の通り定義されています。
/* Bit 0 express polarity */
#define GPIO_ACTIVE_HIGH 0
#define GPIO_ACTIVE_LOW 1
/* Bit 1 express single-endedness */
#define GPIO_PUSH_PULL 0
#define GPIO_SINGLE_ENDED 2
/*
* Open Drain/Collector is the combination of single-ended active low,
* Open Source/Emitter is the combination of single-ended active high.
*/
#define GPIO_OPEN_DRAIN (GPIO_SINGLE_ENDED | GPIO_ACTIVE_LOW)
#define GPIO_OPEN_SOURCE (GPIO_SINGLE_ENDED | GPIO_ACTIVE_HIGH)
0
ということは、GPIO_ACTIVE_HIGH
です。
残りの部分ですが、GPIOコントローラと、ローカルオフセットである10
を意味するはずです。
どうにかこじつけてこの対応を説明しないと記事の収まりが悪いです。
Device (LEDS)
{
...
Name (_CRS, ResourceTemplate () {
GpioIo (
...
"\\_SB.PCI0.LPC", // ←GPIOコントローラ
0)
{
10, // ←ローカルオフセット
11,
}
答えは、gpio-properties.txtにありました。
The format of the supported GPIO property is:
Package () { "name", Package () { ref, index, pin, active_low }}
ref - The device that has _CRS containing GpioIo()/GpioInt() resources, typically this is the device itself (BTH in our case).
index - Index of the GpioIo()/GpioInt() resource in _CRS starting from zero.
pin - Pin in the GpioIo()/GpioInt() resource. Typically this is zero.
active_low - If 1 the GPIO is marked as active_low.
つまり、デバイスの定義であるLEDS
からの相対位置で、GPIOピン番号を指定しています。
Package () {^LEDS, 0, 0, 0}
が意味するところは、次のようになります。
Device (LEDS) // ←`^LEDS`でここへの参照
{
...
Name (_CRS, ResourceTemplate () {
GpioIo ( // ←_CRSの`0`番目
...
"\\_SB.PCI0.LPC",
0)
{
10, // ←_CRS0番の、`0`番目のピン
11,
}
わかるか!こんなもん! 一通り理解できたので、すっきりしましたね!
ACPIでplatform deviceを定義するにあたり、辛いのは、具体例の少なさです。
慣れていないせいもあるかもしれませんが、device treeと比較すると、platform deviceの定義方法が複雑に感じます。私のような、具体例を足がかりに、体系へと学習を進めるタイプの人間にとって、具体例が少ないのは危機的状況です。
というわけで、少しでも情報が出まわるきっかけになれば、と思いACPIの具体例を取りあげて解説をしてみました。
おまけ
device treeとACPIの使い分け
device driver構造体は、device tree、ACPI両方に対応しています。
多く(?)の(組込み向け)driverは、device treeのみ対応していますが、device tree、ACPI両方に対応しているdriverも存在しています。
GPIOくらいプリミティブなdriverだと、device treeとACPI両方に対応しています。
例えば、下のような実装になっており、device treeを使う場合と、ACPIを使う場合とを、マクロレベルでラップしてくれています。
struct gpio_desc *__must_check gpiod_get_index(struct device *dev,
const char *con_id,
unsigned int idx,
enum gpiod_flags flags)
{
...
/* Using device tree? */
if (IS_ENABLED(CONFIG_OF) && dev->of_node) {
dev_dbg(dev, "using device tree for GPIO lookup\n");
desc = of_find_gpio(dev, con_id, idx, &lookupflags);
} else if (ACPI_COMPANION(dev)) {
dev_dbg(dev, "using ACPI for GPIO lookup\n");
desc = acpi_find_gpio(dev, con_id, idx, &flags, &lookupflags);
}
...
まとめ
Linuxでplatform device (non-discoverableなdevice)の構造を記述する方法は3つありました。
- board file
- device tree
- ACPI(のDSDT)
各方法の概要は次の通りです。
-
board file
は、過去に用いられていた方法で、現在は非推奨の方法です。この方法では、platform deviceの構造を、board-specific platform device driverに記述し、kernelの一部に情報を埋め込みます。 -
device tree
は、組込みLinux構築において、現在広く利用されている方法です。この方法では、platform deviceの構造を、device treeファイルに記述し、kernelとは別に、firmware
としてblobを形成します。 -
ACPI DSDT
は、デスクトップPCで広く利用されている方法です。この方法では、platform deviceの構造を、ACPIテーブルとして、ASLを使って記述します。kernelはACPIのお作法に乗っ取り、ACPIテーブルにアクセスします。
それぞれのplatform device記述方法を、GPIOで制御するLEDを例に解説しました。
それぞれの方法でplatform deviceを記述したあとは、下記の流れでデバイス初期化が行われます。
- platform driverをkernelに登録する
- platform deviceに対し、対応するdriverがbindされる
- bindされたdriverのprobe関数が呼ばれ、デバイスの初期化を行う
こちらの流れは、board fileの項目で簡単に説明しました。
このような仕組みを利用して、組込みLinux屋さんは、カスタムボード上のdeviceが利用できるようにしているわけですね。
苦労も多々ありますが、デバイスが動いたときの喜びはひとしおです。
ぜひ、軽い気持ちでラズパイあたりにデバイスをくっつけて、組込みLinuxを楽しんでみて下さい!