新卒で現在の会社に就職してはや3年目、会社の文化もそれとなく慣れてきて触れ合う人も多くなってきたところで、業界の違和感を一つ提唱しようと思う。それが「Yesです。」「Noです。」である。私のいる業界特有なのかもしれないが、周りのエンジニアからよくこの言葉を耳にする。
どの業界でもそうだと思うが、ある単語や文章が、その業界では一般的な語彙とは違った意味を持つ場合、独自の用語を生み出して会話することがよくある。例えば物理学者や物理の専門家を物理屋さんと呼ぶ場合は、自分と同じ業種のうち物理分野の人を指す。
それ以外の場合で一般語彙と異なる用語を使うときは、おそらく概ね裏の意味や意図を含有する場合か、単に言い換えた方が楽だからという場合であると思う。前者での代表例は、コンセンサス・エデュケーショナル・プライオリティなどで、後者の代表例は、アポ・リスケなどであろう。前者の言う裏の意味・意図とは案外些細なもので、ちょっと賢く見られたいとか、業界に染まっているプロを演じたいとかな気がする。どうもYes No問題は前者な気がしてならない。
まず確実に言えることは、はいやいいえの方が圧倒的に短く言いやすいので、言い換えた方が楽だと言うのはない。そして、これくらいの簡単な言葉だと、一般の意味と違う意味で使うことはなかろう。となると、何かしら裏の意味や意図を持った表現に違いない。
これは仮説なのだが、日本人が断定的に返答をしたがらない文化であり、それは技術者として困るので対比的に英語を持ち出して「YesかNoで答えろ」と誰かが言い出したのではないか。割とあり得る話だと思う。ここで言うYesかNoというのは断定的に答えよという意味であって、文字通りYesとNoを使えということではないのだが、履き違えたか何かで定着したのだろう。
とはいえ実際にどれくらいの人が日常的にこれを使うかというと、体感3割程度である。日々イラッとしながら観察していると、私のようなペーペーの質問に対してYes,Noを使うことは少なく、人数が多い会議や上司に向かって発することが多いことに気づいた。
あーこれでなんとなくわかってしまった。これは前に示した「ちょっと賢く見られたいとか、業界に染まっているプロを演じたい」に該当する。そうでなければ僕に対しても使うはずだ。単純に「はい」や「いいえ」を使ってしまうと、「自分は曖昧表現を避けるべきだと言う信念を持っていて回答には断定表現を使うべきだと思っている。自分はそういうところまで考えて一言一言発言している人間である。」と言う意図が伝わらないので、わざわざYesとNoを使っているのではないか。それ以外の理由があるならコメントしてほしい。これに気づいた時、私は金輪際「Yesです。Noです。」を使わないと決めた。
なんなら私は「はい」と「いいえ」の方が優れていると思う。英語と日本語では質問に対する肯定と否定の概念が異なるからだ。例えば、「あなたはこの資料持っていませんでしたよね?」と聞かれてすでに資料を持っている場合、英語で答えるならYesが正解である。日本語では「いいえ」と答えるわけなので、断定表現を主張するためだけにYes,Noを用いているのか、本当に英語感覚で言っているのか困惑する。
資料の送付くらいなら別にどっちでも支障ないのだが、これが技術的な話だった場合は本当に厄介である。言ってる本人と受け手で逆の解釈をしてしまって数日間無駄な努力をした挙句、後でそれじゃないって言ったよねと詰められかねない。本当に曖昧表現を避けるための表現をしたいなら、英語と日本語の意味の食い違いを把握した上で、相手に誤解のないようにあえて「はい」と「いいえ」を使うべきである。