警告
記事の内容は私個人の見解であり,所属する学科組織またはサークルを代表するものではありません.
はじめに
AdventCalendar12日目です.物理学科3年の西木1が担当します.
書けって言われて何を書こうかなーと悩んでいたんですけど,数日前に電磁気の話もあり,みんな大好き不変性の話でもしようかなーと思います.よく分からん...ってなったら数式とかは読み飛ばしてお気持ちだけでも感じでくれたら嬉しいです.
マクスウェル方程式
マクスウェル方程式はこれです.知らないって人は眺めるだけで大丈夫です.
$$\mathrm{div}\boldsymbol{B}=0$$$$\mathrm{rot}\boldsymbol{E}+\frac{\partial\boldsymbol{B}}{\partial t}=0$$$$\mathrm{div}\boldsymbol{E}=\rho$$$$\mathrm{rot}\boldsymbol{B}-\frac{\partial\boldsymbol{E}}{\partial t}=\boldsymbol{j}$$
自然単位系をとっているので$c=1$です.このうち,上二つをマクスウェル方程式の第一の組,下二つを第二の組と呼ぶことにします.それぞれの式の意味はここでは触れませんが,なんで4つもあるのかよくわかりません.もう少し高度な視点からみると少しは気持ちが分かるかもしれないので,今回はその入り口まで紹介したいと思います.動画ではヨビノリさんの「マクスウェル方程式を1本にまとめてみた」2が参考になるかと思うので見てみるといいかもしれません.
ゲージ場
電場と磁場は,スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルを用いて次のように書けるのでした.
\boldsymbol{E}=-\mathrm{grad} A^0-\frac{\partial\boldsymbol{A}}{\partial t},\ \boldsymbol{B}=\mathrm{rot}\boldsymbol{A}
ここで$A^0$がスカラーポテンシャル,$\boldsymbol{A}$がベクトルポテンシャルです.このように書くことで,上述のマクスウェル方程式の第一の組は自動的に満たされます.なので第一の組の役割はこいつらに肩代わりしてもらいます.
ここで,4つの量$A^\mu=(A^0,\boldsymbol{A})$をまとめてゲージ場といいます.また,後の便利のために同じように微分演算子も4つまとめた記法を導入しておきましょう.すなわち$\partial^\mu=(\partial_t,-\partial_i)$です.
電場,磁場はゲージ対称性がありました.つまり,
\boldsymbol{A}\rightarrow\boldsymbol{A}-\mathrm{grad}\Lambda,\ A^0\rightarrow A^0+\frac{\partial\Lambda}{\partial t}
という変換のもとで不変です.この変換をゲージ変換といいます.先に導入した$A^\mu$で書けば,
A^\mu\rightarrow A^\mu+\partial^\mu\Lambda
とすっきり表せます.このゲージ対称性というのが,電磁場にとって大事です.なのでむしろゲージ対称性を原理にしちゃおう,というのがゲージ原理です.
第一の組
ゲージ原理の立場から考えるなら,方程式はゲージ不変になっているはずです.そこで大事になってくるのは,ゲージ不変な量です.うーーん,何があるかな〜と考えると,次のような量がゲージ不変であることがわかると思います.
F^{\mu\nu}:=\partial^\mu A^\nu-\partial^\nu A^\mu
こいつは大事そうです.場の強さ(field strength)と言ったりします.これは第一の組と等価です.実際に電場や磁場が出てくることを確認しましょう.また追加でいうと,$F^{\mu\nu}$は反対称($\mu$と$\nu$の添字を入れ替えると符号が変わる)の$4\times4$行列なので6つの独立な成分があります.この6つの自由度が電場・磁場の6成分に対応していることを考えると納得できるかもしれません.
さて,残りは第二の組を考えます.
第二の組
第二の組にはソースとなる$\rho$や$\boldsymbol{j}$があります.あれ,こいつらも4成分だな〜ということでまとめて$j^\mu=(\rho,\boldsymbol{j})$と書きます.役者は揃いました.$F^{\mu\nu}$や$j^\mu$を使って第二の組を表すことができればこの記事の目的は達成です.ソース$j^\mu$はいじりようがないので,こいつと等しくなる量を考えます.手持ちは$F^{\mu\nu}$とその微分のみです.すこ〜しだけ相対論の知識を使って,添え字の階数が両辺で同じようにすると3,
\partial_\mu F^{\mu\nu}=j^\nu
となることが期待されます.ちなみに$\partial_\mu=(\partial_t,\partial_i)$です4.実際,この式から第二の組が再現されます.例えば,$\nu=0$とすると,右辺は$\rho$であり,左辺は
\partial_\mu(\partial^\mu A^0-\partial^0A^\mu)=\partial_i(-\partial^iA^0-\partial^0A^i)=\mathrm{div}(-\mathrm{grad}A^0-\partial \boldsymbol{A}/\partial t)=\mathrm{div}\boldsymbol{E}
となり,同様に$\nu=1,2,3$も計算すれば第二の組が再現できます.
まとめると,マクスウェル方程式は
$$F^{\mu\nu}=\partial^\mu A^\nu-\partial^\nu A^\mu$$$$\partial_\mu F^{\mu\nu}=j^\nu$$
となります.さらに無理やり書けば
\partial_\mu(\partial^\mu A^\nu-\partial^\nu A^\mu)=j^\nu
というふうにまとめることもできます.簡単にですが,ゲージ不変性と相対論的不変性からマクスウェル方程式を見通しの良い形に書き直すことができました.見直してみると,$F^{\mu\nu}$というゲージ不変な量の定義と,その微分を用いて$j^\mu$と整合するような式の二つにまとまっています.少しはマクスウェル方程式に親しみが湧いたでしょうか.
不変性の観点から
上ではマクスウェル方程式の形をある程度参考にしながらまとまった形に書き直しました.最小作用の立場から考えると,作用に不変性(ここではゲージ不変性や相対論的不変性)を要求して,むしろ不変性から導かれるものがマクスウェル方程式であると考えることができます.
ゲージ不変な量として$F^{\mu\nu}$がありました.こいつにさらに,相対論的不変性を課してあげると
F^{\mu\nu}F_{\mu\nu}
という量が考えられます.なので,比例係数をいい感じに選んであげると,電磁場のラグランジアンは
\mathscr{L}=-\frac{1}{4}F^{\mu\nu}F_{\mu\nu}
となります.符号は時間微分の項が正になるように決めています.これをゲージ場で変分してやればソースのない($j^\mu=0$)場合のマクスウェル方程式を得ます.ソースがある場合のマクスウェル方程式はもう少し頑張ると出せます.
このようにマクスウェル方程式を不変性からの帰結として捉えると,自然なものに感じて来ないでしょうか.
おわりに
読む対象が一年生なのかもうちょっと上の層なのかよく分からなくなったので,記事の内容もよく分からないレベル感になってしましましたが,言いたいことは言えたと思います.ゲージ理論最高!
参考
坂本眞人.『場の量子論-不変性と自由場を中心にして-』.裳華房,2014.
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Twitter:https://x.com/tomkatsu_9?s=21&t=NrF7tglHKIuwxdCvNoBkRg ↩
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相対論的不変性を要求しています.知らない人は,両辺がベクトルになるように操作しているようなものだと考えてください.(ベクトル)=(行列)がダメなことと同じような感じです. ↩
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添字の上付き下付きが気になる人は参考文献等を見てみてください ↩