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PhysiKyu 2024Advent Calendar 2024

Day 21

宇宙論と重力波の話

Last updated at Posted at 2024-12-20

PhysiKyu2024アドベントカレンダー21日目です.B4のにしきが担当します.
この記事で何を書こうかと考えていたら,先日のアドカレの記事で宇宙論の歴史の話があったので軽く宇宙論の話を書こうと思います.ついでに,最近ニュートン祭の研究室紹介があって,重力波について聞かれることもあったので重力波についても書こうかなと思います.

この記事のスタンスとして, あまり時間がとれなかったので 数式の詳しい導出等は行わない代わりに,なるべくお気持ちを書こうと思うので,詳細が気になった場合は適当な文献で勉強する際の参考にしていただけると幸いです.

一般相対性理論

一般相対性理論についての気持ちを書いておきます.
一般相対性理論では,物質のまわりの重力場は時空の曲がりだと考えられます.
その定式化は 計量テンソル $g_{\mu\nu}$で与えられます.具体的には,空間の微小な2点間の距離を表す線素$ds^2$を

ds^2=g_{\mu\nu}(x)dx^\mu dx^\nu

のように与えます.ここで2回現れている添字$\mu,\nu$はアインシュタインの縮約で和をとっています.具体例を挙げると,三次元ユークリッド空間で線素は,

ds^2=dx^2+dy^2+dz^2

です.このとき計量は

g_{\mu\nu}=\rm{diag}(1,1,1)

です.この場合$g_{\mu\nu}$は$3\times3$の行列で,$\rm{diag}$は対角行列の意味で,その後ろの括弧は対角成分を表しています.$\mu,\nu$は$1,2,3$の値をとり,行列の成分を表します.

他の例では,特殊相対性理論の舞台の平坦な時空であるミンコフスキー時空は、線素が

ds^2=-c^2dt^2+dx^2+dy^2+dz^2

で与えらます.ここで$c$は光速です.この計量は ミンコフスキー計量 $\eta_{\mu\nu}$

g_{\mu\nu}=\eta_{\mu\nu}=\rm{diag}(-1,1,1,1)

のように与えられます.$4\times4$の行列です.$\mu,\nu$は$0,1,2,3$の4つの値をとります.しれっと書きましたが,相対論での線素は時間と空間が一緒になります.時間と空間を合わせて 時空 といいます.

3次元ユークリッド空間や特殊相対性理論では,計量$g_{\mu\nu}(x)$は空間の点に依存しないただの定数でした.一般相対性理論では計量$g_{\mu\nu}(x)$は,一般的に時空の点$x$に依存した量になります.この計量$g_{\mu\nu}(x)$が基本的な変数となります.

一般相対性理論の指導原理として,「すべての座標系で物理法則は等価である」というものがあります.
これは言い換えれば,物理法則を表す数式はすべて テンソル で記述されるということです.テンソルについての詳細な説明は省きますが,この指導原理のもとで一般相対性理論の基本的な方程式である アインシュタイン方程式

R_{\mu\nu}-\frac{1}{2}g_{\mu\nu}R=\frac{8\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}

が導かれます.$G$は重力定数,$R_{\mu\nu}$はリッチテンソル,$R$はリッチスカラー,$T_{\mu\nu}$はエネルギー運動量テンソルです.定義だけ書いておくと

R^\mu_{\ \ \nu\rho\sigma}:=\partial_\rho\Gamma^\mu_{\nu\sigma}-\partial_\sigma\Gamma^\mu_{\nu\rho}+\Gamma^\mu_{\lambda\rho}\Gamma^\lambda_{\nu\sigma}-\Gamma^\mu_{\lambda\sigma}\Gamma^\lambda_{\nu\rho}
R_{\mu\nu}:=R^\lambda_{\ \ \mu\lambda\nu},\ \ R:=R^\mu_\mu=g^{\mu\nu}R_{\mu\nu}
\Gamma^\lambda_{\mu\nu}:=\frac{1}{2}g^{\lambda\alpha}(\partial_\mu g_{\nu\alpha}+\partial_\nu g_{\mu\alpha}-\partial_\alpha g_{\mu\nu})

です.ここで$\partial_\mu=\partial/\partial x^\mu$です.ごちゃごちゃ書きましたが,アインシュタイン方程式が表すのは,左辺を見るとこれはすべて計量$g_{\mu\nu}$で書かれており,幾何学的な量です.$R^\mu_{\ \ \nu\rho\sigma}$はリーマンテンソルと呼ばれ,空間の曲がり具合を表しています.右辺のエネルギー運動量テンソルは物質の分布を表しています.つまり,物質の分布と時空の幾何学を結ぶ式になっています.

重力波

重力波はアインシュタイン方程式を線形化することで得られます.すなわち,計量$g_{\mu\nu}(x)$を

g_{\mu\nu}(x)=\eta_{\mu\nu}+h_{\mu\nu},\ \ |h_{\mu\nu}|\ll1

のように,平坦な時空のまわりで展開します.これを用いるとアインシュタイン方程式は

\Box\bar{h}_{\mu\nu}+\eta_{\mu\nu}\partial^\rho\partial^\sigma\bar{h}_{\rho\sigma}-\partial^\rho\partial_\nu\bar{h}_{\mu\rho}-\partial^\rho\partial_\mu\bar{h}_{\nu\rho}=-\frac{16\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}
h:=\eta^{\mu\nu}h_{\mu\nu},\ \ \bar{h}_{\mu\nu}:=h_{\mu\nu}-\frac{1}{2}\eta_{\mu\nu}h

となります.$\Box:=\partial_\mu\partial^\mu=-\partial_t^2+\triangle$(ダランベルシアン)です.
ここからさらに,一般座標変換の自由度を用いてローレンツゲージと言われる条件

\partial^\nu\bar{h}_{\mu\nu}=0

を課すと,

\Box\bar{h}_{\mu\nu}=-\frac{16\pi G}{c^4}T_{\mu\nu}

を得ます.すなわち波動方程式です.なのでこの解は光速で伝播する波動解になります.
さらに真空中$T_{\mu\nu}=0$のときはさらに TT(Transverse Traceless)ゲージ

h^{0\mu}=0,\ \ h^i_i=0,\ \ \partial^jh_{ij}=0

を取ることで,例えば伝播する方向を$z$軸に取ると,

h_{ij}(t,z)=
    \begin{pmatrix}
      h_+ & h_\times & 0 \\
      h_\times & -h_+ & 0 \\
      0 & 0 & 0\\
    \end{pmatrix}_{ij}
    \cos{(\omega(t-z/c))}

のように解を得ることができます.これが重力波です.$h_+,h_\times$は定数であり,重力波はこの二つの独立な偏極モードを持ちます.

一様当方宇宙

宇宙論では,大きいスケールで見ると宇宙は一様で当方であるという, 宇宙原理 のもとで理論が構成されます.このとき 計量は,FRW(Friedmann Rovertson Walker)計量

ds^2=-dt^2+a^2(t)\bigg(\frac{dr^2}{1-Kr^2}+r^2(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2)\bigg)

となります.ここで$K$は空間曲率と言われる定数です.$a(t)$は スケール因子 と言われ,宇宙の膨張,収縮の尺度となります.

このもとでアインシュタイン方程式を考えていきます.まず,エネルギー運動量テンソルについて完全流体

T^\mu_{\ \ \nu}=\mathrm{diag}(-\rho(t),p(t),p(t),p(t))

の場合を考えます.
このとき,アインシュタイン方程式は

H^2=\frac{8\pi G}{3}\rho-\frac{K}{a^2}
\dot{H}=-4\pi G(\rho+p)+\frac{K}{a^2}

という二つの方程式になります.$H:=\dot{a}/a$で, ハッブルパラメータ といいます.この一つ目の式を特に, フリードマン方程式 といいます.
さらにこれら2つの式からエネルギー保存則の式

\dot{\rho}+3H(\rho+p)=0

を得ます.(この式は一般相対性理論での恒等式$\nabla_\mu T^\mu_{\ \ \nu}=0$に対応しています.)これら3つの式のうち独立なのは2つです.今,変数は$a,\rho,p$の3つがあります.ここに状態方程式$p=p(\rho)$を考えます.ここでは,

p=w\rho

を考えます.$w$は状態方程式パラメーターです.例えば,通常の物質の場合は$w=0$,放射成分(相対論的なエネルギー成分)の場合は$w=1/3$です.$w$が定数のときに,エネルギー保存則の式に状態方程式を代入することで

\rho\propto a^{-3(1+w)}

この結果をフリードマン方程式に代入すると,$K=0$のとき,

a\propto t^{\frac{2}{3(1+w)}}

とスケール因子の時間依存性が求まります.
この結果から,例えば物質優勢$w=0$のとき,

a\propto t^{\frac{1}{2}}

であり,放射優勢$w=1/3$のとき,

a\propto t^{\frac{2}{3}}

です.これらはどちらも$\dot{a}(t)>0,\ddot{a}(t)<0$の減速膨張をしています.
宇宙の歴史には加速膨張が起こったと考えられています.この加速膨張が起こる条件は

w<-\frac{1}{3}

です.通常の物質や放射ではこの条件を満たすことができないため,加速膨張が起こった時期には何かしらの特殊な物質やエネルギーの存在が必要です.ここから 暗黒エネルギー だったり, インフレーション だったりといった話につながっていきます.

終わりに

さて,簡単にではありますが重力波と簡単な宇宙論の話について見てきました.
重力波は,2015年に直接観測され,2017年のノーベル物理学賞でも「LIGO検出器への決定的な貢献と重力波の観測」を与えられています.重力波の重要性はいくつもありますが,それは宇宙論にとっても重要です.宇宙開闢から38万年は電磁波が直進することができません.そのため,電磁波による観測で38万年以前の宇宙を直接観測することはできません.これに対し,重力波で宇宙創生直後の直接観測も可能であると考えられています.その他にもインフレーションの検証になったり,重力波の観測から理論に制限を課したりすることができます.

参考文献

松原隆彦 「宇宙論の物理 上」
辻川信二 「入門 現代の宇宙論 〜インフレーションから暗黒エネルギーまで〜」
川村静児 「重力波物理の最前線」

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