この記事はTIS Engineer Advent Calendar 2015の12日目の記事です。
はじめに
私はいわゆるR&D部門に所属しているのですが、産学連携やリクルート活動で学生と話す際に、よく「大学の研究活動との違い」について質問されます。そこで、学生からよく聞かれる質問を元に、SIerのR&D部門ではどんなことをやっているのか紹介しようと思います。
※「大学の研究」については情報系の大学の研究を想定して書いています。
※この記事の内容は、あくまで私個人の意見であり、所属する組織を代表するものではありません。また、同業他社一般に当てはまることを保証するものではありません。
Q. 大学の研究とはどう違うの?
研究とは一般的に以下のように分類されます(wikipediaより引用)。
研究の分類は多種多様であり、厳密に区分することはできないが、大まかな分類には以下のようなものがある。
- 基礎研究
- 特別な応用や用途を考慮せず、新たな法則や定理などの「発見」を目的にして行われる研究。純粋研究とも呼ばれ、応用研究の核となる。
- 応用研究
- 基礎研究の成果を応用し、特定の目標を定め、実用化の可能性を確認する研究。すでに実用化されている方法に関して、新たな応用方法を探索する研究も含む。
- 開発研究
- 基礎研究および応用研究の成果を利用し、科学技術(装置、製品、システム、工程など)の創出を目指す研究。既存の科学技術の改良を目的とする研究も指す。
この中で、大学の研究で取り組むのは主に基礎研究と応用研究でしょう。それに対して、R&Dで対象となるのは応用研究から開発研究の範囲になります(下図参照)。
研究の範囲に加えて、R&Dと大学の研究では大きく違うことがあります。
師事する先生がいない
大学の研究室とは違って、その分野に精通した先生がいるわけではありません。
そのため、研究対象の理論や手法は、自分たちで勉強して自分たちで決定していきます。
そもそも、社内の誰も扱ったことがない技術を研究することになるので、たとえ若手エンジニアであろうと、その技術について社内で一番詳しい人であることが求められます。
もちろん、社外の有識者からアドバイスをもらうこともあります。
産学連携では、大学で研究中のツールを試させてもらったり、要素技術の検証をお願いしたりします。また、論文を紹介してもらったり先生からアドバイスをいただいたりすることもあります。
5年後のビジネスを考える
企業活動ですので、当然最終的には自社のビジネスに繋げなくてはなりません。そのため、研究の初期段階では、自社の中長期的な未来(5年後とか10年後とか)を予想して、その時に必要となるであろう技術を選択します。
研究対象についてツール化や体系化が進むと研究は後半戦です。
研究の後半では、お客様と実際に付き合いのある事業部と連携して、足りない機能をツールに追加したり、実証実験を行って効果を確認したりして、ビジネス利用に向けて動いていきます。
Q. 研究対象はどうやって決めるの?
前述した通り、研究は最終的に自社のビジネスに繋げる必要があります。そのため、研究の方向性は自社のビジネスや技術戦略を念頭に置いて決定します。そのうえで、以下のような過程で研究対象を決めています。
まずは未来を想像して1つの大きな仮説を立てます。
- 例えば、ウェアラブルデバイスを身につけるのが当たり前になるとか
その後、その仮説に基づいて研究テーマを決めていきます。
- 例えば、デバイスのデータを収集・分析するプラットフォームとか
- 例えば、デバイスの通信量を削減する技術とか
テーマを決めたら、実際に研究対象の技術を決定します。
- 例えば、莫大な量のデータを高速に分析するツールを開発するとか
- 例えば、新しい通信プロトコルを検証するとか
もちろん、業界動向や自社の状況によって、当初想定していた仮説が変わってくることがあります。その場合、新しい仮説に対して、今の研究で足りないものを追加検証したり、別の研究テーマに乗り換えたりしていきます。
※仮説やテーマは例示であり、実際の内容とは関係ありません。
Q. 研究成果は利用されているの?
私の知る限りでも、R&Dで開発したツールなどが利用されるようになり、事業部に管理を移管したり、開発チームがR&D部門から独立したりしている例があります。反対に、開発したものの利用されていないツールや、途中で止めてしまった研究テーマなども、もちろん存在します。
全ての研究成果が活用されることは難しいです。しかし、できる限り無駄にならないよう、以下のようなことにも力を入れています。
社内外に味方を作る
ただ待っているだけでは、仮説が実現する未来が本当にくるかどうかはわかりません。そこで、本当にその未来が実現されるように、周囲を巻き込み、同じ仮説に賛同する味方を増やしていきます。
具体的には、勉強会やセミナーで講演したり、Webに記事を投稿したりしています。また、コミュニティ活動に参加して、課題を共有したり、他の会社と協力して開発や検証を行ったりしています。
成果をオープンにする
前述の部分と重複しますが、社外に対して情報をオープンにすることにより、認知度が高まり、志を同じにする仲間を得られ、有益なフィードバックをもらうことができます。
また、「貢献の競争」という言葉があります。これは、技術を無償で提供してその分野に最も貢献した企業が、その分野において最も優位な立場を獲得できるというものです。最近では、Google、MicroSoft、Appleなど、次々にオープンソースのツールを公開しています。その分野におけるデファクトスタンダードを獲得することが、いかに重要視されているかが感じられます。
デファクトスタンダードを獲得するとまでいかなくとも、「この技術といえばあの会社が詳しい」というイメージを獲得するためにも、積極的に情報公開を行っています。
まとめ
あまり具体的な内容は言えませんでしたが、SIerのR&Dについて少しは知ってもらえたでしょうか。
研究の過程で検証した成果などは、勉強会や技術ブログでオープンにしていますので、興味上がれば覗いてみていただけると幸いです。
これを読んだ学生が興味を持ってR&Dを志してくれたら良いなと思います(笑)
また、より詳しく知りたい方は、wantedlyのページもご覧ください!
TIS Engineer Advent Calendar 2015、次回はrina0521さんによる記事です。