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ソフトウェアエンジニアから経営者になって9年経った

Last updated at Posted at 2023-12-11

お久しぶりです!初めましての方は初めまして! @tnj です。

この文書は、MIXI社所属 だった 人達による ex-MIXI Advent Calendar 2023 の12月11日の記事になります。

今から遡ること6年前の今日、 ex-mixi Advent Calendar 2017 で「会社勤めのエンジニアが開発したサービスを買い取って独立した話」という記事を書かせていただきました。MIXI社に在籍していた7年弱とそこから3年弱の話はそちらに譲り、今回はその後長い時間を経て、最近どうなのよ?という続編的な話です。

ソフトウェアエンジニアから連続的に経営者になるという変わったキャリアに興味がある人への参考になると幸いです。

ちなみに12月11日は株式会社デプロイゲートの設立記念日です :birthday:

ざっくり要約

  • 6年前と同じサービスを提供しながら、今の自分はまったく違うことをしている
    • 前回はコード書くのが主な仕事だった
    • 今はコードを書くことは仕事ではなくなった
  • 最近「でも、それって楽しいの?君はエンジニアとしてもの作ってるのが楽しそうに見えたけど、今はそれと比べてどうなの?手を動かさないのはつまらなくない?」という質問をもらったので、ちょっと振り返ってみた
  • 結論から先にいくと
    • 現状特につまらないとは感じてなくて、この先が楽しみ
    • なんだかんだ自分の素質に合ったやりたいことをやっているよ
    • ただ、ここに至るまでたくさん失敗して発見があったよ

6年前から今日に至るまで

さて遡ること6年前の2017年12月。2014年12月に登記した会社としてはちょうど3期が終わったところです。当時は記事に「私は今もDeployGateの開発に携わっています」と書いていた通り、経営者といいつつ、AndroidからRuby on Rails、果てはインフラ全体を見るメインのエンジニアとして手を動かしていた状況でした。

そこから、なんだかんだで長いこと自分でコードを書く日々が続いていきました。日常ほとんど経営者としての役割を持つこともありませんでした。記事を書いた当時はまだ4人の会社で、組織について考える必要もなく、開発者として手を動かすことが一番成果が出せた時期です。

しかし、そこからメンバーが増えてチームを組成してもなお自身が手を動かす状況が続いていました。これは、今考えると避けるべき状況でした。実際には、それで目の前の物事は解決するんですが、それは個人としての成果であって組織のレバレッジはまったく効いていない状態です。そこに「気付けていなかった」ことが問題でした。

経営者としての成果が感じられない病

小学生の頃から長きにわたって慣れ親しんだソフトウェア開発と比べて、当時の自分にとっての経営は「知識も経験もないこと」でした。結果もインスタントに出ないし、なにをやっても自己効力感が下がることしかありません。あれこれ試行錯誤を続けても、DeployGateを10年続ける中でうまくいかなかった5つのこと という記事で書いたような感じで、なかなかうまくいかない状態が続いてしまいました。

「それってやっぱり手を動かしたいってことじゃない?やり方を変えて、ソフトウェアエンジニアに戻ればいいんじゃ?」

傍目に見るとそう思わずにいられないところですが、当時の私には、不思議とその選択肢は見えなかったんですよね。一つ一つ起きる問題は地道に対処を続けることで改善が見られたし、そもそも自分が苦手とすることに向き合い続けているという状況に気付けてもいなかったので、単純に「経営というのはこういうことも乗り越えないといけないのだな」と思っていました。

ストレングスファインダーをやったことがある人に分かりやすくいえば、長いこと、自身の持つ「適応性」と「責任感」という資質でカバーしていた状況でした。自身の中で考えが変わって忘れてしまうことがよくあり、それを言語化して共有することが十分にはできておらず、たびたびチームを混乱させてしまっていたなという反省があります。

引き出しがないという気づき

その後、メンバーが増え、タスクの委譲が進み、自分が直接手を動かすタスクが徐々に減って、より未来を描くことが自分に求められる仕事となっていきました。いざ手を動かすことがなくなって、時間ができたのは嬉しいことでありながら、同時に自分はいまどの立場で物事を捉えて、何をするのがベストなのか迷子になってしまいました。

会社の代表取締役をやると、あらゆる分野において自分の能力や資質が会社としての天井になります。「ITに弱い会社はそもそも経営者がITを理解していない」というとイメージがつく方は多いと思います。このときに、私自身がシンプルに「経営者が経営を理解していない」状態になっていたことに気付きました。いま、なにが一番の課題なのかを見いだすことができない状態になっていたのです。

目の前に課題がたくさんあるように見える。どこから手を付けていくべきか?全体像が見えず、いつも判断が自分の知識や経験に近いところに偏ってしまう。そもそも課題はこれだけなのか?もっと隠れた課題があるのではないか?できるだけ根本にあってボトルネックになっている課題を叩きたいが、どうしたらいいか分からない。そもそも自分の引き出しがなさ過ぎる。誰かに聞こうにも、誰に何を質問していいか分からない。

とにかく、日々目の前の出来事にリアクティブに対応することはできても、プロアクティブには動けていない。そんな日々が続いていました

マインドセットの変化

そういう現実と向き合う日々が続く中、英会話の勉強と思いながらたまたま受けることになったビジネスコーチングが、改善に繋がるきっかけとなりました。ここ2年ほど、現状に対する様々な問いや、教わった考え方、紹介された書籍などで、徐々に現代的な経営者として必要なマインドセットを身につけ、同時に自分自身の中で目指す経営者像の解像度を上げることに繋がりました。

実際の変化としては、まずもって失敗を許容することができるようになり、自分の認識も徐々に「シングルプレーヤーモード」から「チームプレーモード」に変化していきました。自分の考え、その背景にある意図を共有しないとチームは積極的に動けないということも学びました。自分自身がリーダーであるという自覚を持った動きをはじめ、総じて常に思考の向き先が自分だったところを、自分でその状況に気付いて脱することができるようになった感じです。

直近では、自分が得意としないことは人に任せる、を組織としてできるような環境を整え始めています。自分自身にとっては自分を変えること自体はそこまで苦ではないけど、機会費用が大きくなりがちなので不必要にはやらず、代わりに「適切なゴールを決めて任せる」をうまくできるようにして、自分の得意も活かせると多分相当面白いことになりそうだな、と結果が楽しみなチャレンジをいまはしています。

考察

こうして振り返ってみると、まずもって個人として持っている資質がここまでの経緯に大いに影響していたように思います。

適応性が強く環境の変化に対しての抵抗感が少ない上、多少状況が悪くなっても責任感の強さからそうそう諦めない性分のおかげで、苦手なことが出てきてもなんだかんだ乗り越えながら続けられてきたところは大きそうです。その反対にある課題として、長期的な計画をするのが苦手なことから、それによって問題に気付くのが遅れる傾向が見られます。一方「将来こうなっているはず」という長期的な計画への期待の低さもあり、期待通りに行かないことに対してはさほどストレスに感じなかったことも、続けられた要因かもしれません。

また、「経営者」という役割がなんだかんだ自分にとって「やってみたかったこと」だったというのも、経営者を続けている理由になりそうです。商売の仕方が分からずフリーソフトしか作れなかった自分にとって、作ったソフトウェアをしっかり成長させながらご飯を食べていける状況は学生の頃からの理想でした。思ってたのとは違うタイミングで違う形のスタートになり、山あり谷ありで見てきた世界でちょっと野望も大きくなっちゃったりして、コードも書いてない状況ではありながら、現状実現されていることだといってもいいのかなと思います。

客観的にマネジメントよりもプレーヤーの方が向いていそう、は正直おっしゃるとおり でした。マネジメントどころか、6年前はチームとして動くという観点自体が抜けていたし、2年ぐらい前までほとんど意識できていなかったと感じます。以前の記事に「人に助けを求められるようになった」と書いていたんですが、いま思うと全然でした。チームで物事を進める時は、すべての主語はIじゃなくてWeだ、ということもようやく今年できるようになったぐらいで、これはプレーヤーとしてもまずくて、いずれにせよ学ぶ必要があることだったと感じます。

でした と過去形で書いたのは、ここまでの経験を通じて、マネジメントもできないわけではなさそうなことが分かってきたからです。組織的な戦略構築や目標設定は不得手でありながら、人の能力を見いだして活かしたり伸ばしたりすること自体は無意識にやっていました。そういう得意な部分は活かしつつ、不得手なことはしっかり頼りながらカバーしていけたらいいなと思っています。

最終的に、大前提として基本黒字であり続けられたことは大きいなと思います。しかし現状本当にやりたいことに対して売上が十分とはいえないので、ここから変えていかないといけないチャレンジの一つです。

9年を掛けて得たもの

ということで前回からの6年間、どんな試行錯誤があったかを自分目線で振り返ってみました。

ここに至るまでに(登記から数えて)9年という時間が掛かりましたが、この経験をもっと効率的に得られなかっただろうか?と考えると、おそらく無理だったと思います。ここに書いたことのほとんどは、自分自身が無意識に持っていた考え方を変える話に近く、自らの体験を通じてしか理解できなかった考え方だと感じています。以前からいろんな本や体験記を読んできていたものの、それらを頭に入れるだけでは実際の行動の変化には大きく繋がりませんでした。特に、失敗したことや苦手なことと向き合うには時間が掛かり、日常にタスクを抱えたままではずっと向き合うことはできなかったと思います。

振り返ったとき、実務を徐々に手放して、時間ができて、振り返り、経営として解決しなければならない課題を見つけられるようになったのは大事な機会だったと思います。見つけた課題は解決することができます。そこで作るものがソフトウェアではなかったとしても、私自身は課題解決がそもそも好きなので、その問題に新しいアプローチで取り組んでみること、そこからどんな発見が得られるかは自分にとっては楽しみなことです。

「うまくいった、ということにしたいのですね?」

と、ここまで自分の主観で書いてきたのですが、これらは完全にバイアスが掛かっていると思います。そんな私自身がいま持っている感覚としては「結果的に上手く行っているぞ!やったね!」というよりは、「自分の資質がこうだったから、その結果こうだったんだな」という理解が深まった印象です。

一貫してやっていることは「その時々で、自分が後悔しないような選択をしている」ということです。「自分が後悔するかどうかなんか関係ない、とにかく大きな成果を求めるんだ」という考え方とは異なる生き方をしています。ただし、これはリスクを取らないということとではありません。リスクを取りたくないのであればそもそも上場企業からの独立なんて選ばないですよね。

なので、現状はすなわち、純粋に自分の中で納得がいく選択を続けてきた結果に過ぎません。いま考えると、もっと早く気付いていれば違う成果を得られていた、と思うこともあるけど、どのみちその時にはその解にたどり着けていないので、それはその頃の自分にとって必要な時間だったと考えています。

たくさん反省もありつつ、どんな失敗であっても、最終的にはベターな形で回収されているので、現時点での失敗も最終的に失敗で終わらないと認識しています。「失敗」はあくまで主観的なものであって客観的なものではないって話も昨年読んだFailing Forwardという本を通じて得られた気づきです。

振り返ってみたよ

そんな感じで、前回から6年を振り返ってみました。エンジニアから経営者の肩書きが付いて9年終わって、引き続き学びが色々あって、やりがいはあるのでよかったな!

もし、いまエンジニアとしてプレーヤーをされている方が経営者になったとして、果たして自分が求めたものが得られるのか?は、一概には答えられなさそうです。どんな役割が期待されるかは、会社のステージや方針でまったく異なるし、さらにその状況が自分の資質に合うかどうかという要素にも大きく影響されるかと思います。例えばエンジニアにとって比較的身近と思われるCTOも、各社全然違う責務を全然違う資質の方がされていますね。CEOもそうです。

私の場合は、シンプルにやりたいと思って選択してきたことが、いまに繋がっています。何が正解かとかはないと思うけど、後悔したくないと思うなら、その時々で自分がベストだと思う選択を続けるのがいいとは思います。でも、後悔してもいいから賭けに出るという選択を否定もしないです。Your mileage may varyです。

これからも、自分の得意を活かしつつ、自分の中にある勘違いをちょっとずつ補正しながら、成長を続けていきたいなと思います。

ということで、本日12月11日、株式会社デプロイゲートとしての10年目が始まりました。mixiのサービスを提供している株式会社ミクシィは、いつの間にか株式会社MIXIになってしまいましたが、DeployGateは引き続き株式会社デプロイゲートがお届けします。(実は、サービス名はアルファベットだけど社名はカタカナっていう伝統を引き継いでました)

今後ともよろしくお願いします。

Next

さて、明日のex-MIXI Advent Calendar 2023は…埋まってなかった…!誰か埋めて!!

なおここまでの皆さんの記事も、めちゃくちゃ面白いエンジニアキャリアの話が読めるので是非読んでいってください。

追記 (2023/12/12)

もしこれが早くできてればなあ、というのを1つ思いついたので追記です。

もし、あなたが考えてることの言語化や人と話すことが苦手でなければ、チームの中でも外でも、様々な人にどんどん相談するといいと思います。理由は主に2つ。

  1. 相談することで応援してくれる仲間が増える
  2. 自分のことは何年掛けても分からないけど人から見たら5秒でわかる

この 2. の効果は絶大で、特に自身が持つ課題を見つけるまでの時間を大幅に短縮できます。

私の場合は、人と話をするという行動が気合が必要になるものだったため重くて避けがちで気付くのに時間が掛かっちゃいました。苦手意識が強く、しっかり先に話題を考えてないと人と話せないと思い込んでたんですよね。が、最近ほぼ初対面のストレングスコーチの方に「それ、適応性という強みでカバーできるやつでは」って言われて、それは確かにそう、なんならやってる場面も多いわ、と膝を打ちました。言われるまで本当に気づけないんですよねえ。

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